おじさんの映画三昧

旧作を含めほぼ毎日映画を見ております。
それらの映画評(ほとんど感想文ですが)を掲載していきます。

薄桜記

2019-12-31 13:44:17 | 映画
今年最後の投稿です。
「は」の途中で終わることになりました。

「薄桜記」 1959年 日本


監督 森一生
出演 市川雷蔵 勝新太郎 三田登喜子
   大和七海路 北原義郎 島田竜三
   千葉敏郎 舟木洋一 伊沢一郎
   須賀不二男 清水元

ストーリー
中山安兵衛が高田の馬場へ伯父の決闘の助勢に駆けつける途中、すれちがった旗本丹下典膳が安兵衛の襷の結び目が解けかけているのに気づいた。
注意すべく駆けつけたが、安兵衛の決闘の相手が同門知心流であることを知ると、典膳はその場を離れた。
通りがかった堀部弥兵衛親娘の助けを得た安兵衛は仇を倒した。
一方、同門を見棄てた典膳は安兵衛への決闘を迫られたが、拒絶した典膳を師匠の知心斎は破門した。
源太左衛門の紹介で上杉家江戸家老千坂兵部の名代長尾竜之進が安兵衛に仕官の口を持って来た。
安兵衛はその妹千春に心をひかれた。
谷中へ墓参の途中、野犬に襲われた千春は典膳に救われたが、生類殺害の罪で役人にとがめられそうになった二人を救ったのは安兵衛だった。
千春が典膳と恋仲であり祝言も近いことを知った安兵衛は上杉家への仕官を断り、堀部弥兵衛の娘お幸の婿になって播州浅野家に仕える運命になった。
典膳が公用で旅立った後の一夜、典膳に恨みをもつ知心流の門弟五人が丹下邸に乱入し、思うさま千春を凌辱して引揚げた。
間もなく千春が安兵衛と密通しているという噂が伝えられ、旅先より戻った典膳は浪人となって五人組に復讐する決意をし、長尾家を訪れて千春を離別する旨を伝えた。
怒った竜之進は抜討に典膳の片腕を斬り落したが、しかしこれは典膳の意図するところだった。
同じ日、安兵衛の主人浅野内匠頭は吉良上野介を松の廊下で刃傷に及んだが、その日を限りに典膳は消息を絶った。
安兵衛は、或る日、吉良の茶の相手をつとめる女を尾行して、それが千春であることを知って驚く・・・。


寸評
赤穂浪士異聞と言える内容で、映画全体は吉良家討入直前の堀部安兵衛の回想で縁取られている。
高田の馬場の駆けつけ、運命の剣士丹下典膳との出会い、高田の馬場の決闘とスピーディな滑り出しから、この二人の運命が、二転、三転、四転と、絡み合いつつ、この主人公たちを皮肉な立場へ追い込んで行く構成の面白さは魅力的で、ストーリー的に観客を飽きさせない。
当時の大映にあって、時代劇の若き世代を狙っていた市川雷蔵と勝新太郎が、剣豪丹下典膳、赤穂義士随一の剣客堀部安兵衛となって顔を合わせ火花を散らす競演をしているのも、今となっては貴重と思わせる作品だ。

時代劇ではあるがむしろチャンバラ映画と呼んだ方がいいような作品だが、その格調は高い。
主人公の典膳は片腕を失っており、しかも直前で敵役の一人から鉄砲で足を撃ち抜かれており、立ち上がることもできない満身創痍の状態である。
白い雪が降りしきる境内で、戸板に乗せられた典膳は立上ることもできぬまま、刀を抜き放って多勢の敵と斬り結ぶのだが、これが凄惨ながらも美しくもあり、これがチャンバラ映画の醍醐味シーンなのだと見せつけてくれる。
瀕死の典膳に安兵衛の助太刀が入り、敵どもをすべて討ち果たすが、その時典膳は雪の中に横たわり息たえていて、その死体に虫の息の妻千春が這いながらにじり寄って行き手を固く結び合う。
月並み映画のヒーロー、ヒロインではない結末に胸打たれる。
心打たれるのはそのシーンが本当の愛の情熱の姿を浮彫りさせているからだ。
この一連のシーンの存在で「薄桜記」は市川雷蔵の代表作の一つに数えられているのだと思う。

千春は典膳を心から慕っており、典膳もまた心の底から千春を愛している。
同じように思いを寄せる安兵衛の気持ちを千春は知らない。
いわば男二人に女一人の三角関係だが、それを巡る争いはなく、ひとり安兵衛だけが悶々としている。
典膳と安兵衛には友情めいたものが湧いているから、男同士の友情との相剋によって、三人の関係がもう少し微妙に描かれていれば、愛情物語としてのパートにもっと面白味が出ていただろう。

丹下典膳という架空の人物に中山安兵衛改め堀部安兵衛を絡ませているので、赤穂浪士の仇討物語が背景で描かれることになり、その事も興味をそそる設定として上手くストーリー立てされていた。
高田の馬場の決闘で浅野家の堀部弥兵衛の婿養子になるのは良く描かれているが、吉良家の千坂兵部への仕官話とその娘千春への恋を絡ませているのがミソとなっている。
もちろん大石蔵之助たち浪士が、吉良上野介が茶会を開く日を知ることに苦心する話も挿入されていて、それを千草によって安兵衛に告げられる設定も、話の流れからは納得できる結末として処理されていた。
伊藤大輔の脚本はよくできている。

冒頭のタイトルバックの映像にかぶさるように、最後に赤穂浪士の討ち入り場面が描かれるが、カメラを引いた遠景でとらえたそのシーンは「終」の一文字を出すにふさわしく、映画を見たという満足感を与えてくれた。
SKDから大映銀幕にデビューする真城千都世(まき・ちとせ)が新人とタイトルされるのも懐かしい表示の仕方だ。


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4 コメント

コメント日が  古い順  |   新しい順
大好きな映画です (指田 文夫)
2023-07-07 09:23:55
森一生監督で最高作だと思います。青春の哀しみがありますね。

これと『ある殺し屋』かな。
『ある殺し屋』は、2本しかありませんが、テレビの「必殺シリーズ」として長く作られました。
返信する
私も・・・ (館長)
2023-07-08 09:15:10
私もこの作品は大好きです。
市川雷蔵の代表作の一本だと思います。
返信する
「薄桜記」について (風早真希)
2023-10-18 22:36:01
この映画「薄桜記」を初めて観てびっくりしました。
どうしてかと言うと、映画としての基礎デッサン力が凄いからです。

監督・森一生、主演・市川雷蔵、共演・勝新太郎。
原作・五味康祐の小説を伊藤大輔が脚色していますね。

忠臣蔵の高田馬場の決闘や赤穂浪士による吉良邸討ち入りを背景に、二人の剣士・丹下典膳と堀部安兵衛の友情や、丹下典膳の妻・千春をめぐる悲恋が描かれています。

実は、撮影・音声は経年劣化がありますし、ストーリーにも「嫁しては二夫に交えず」なんて事が、悲恋に繋がっていたりします。
なにせ63年も前の映画です。そこはご愛嬌でしょう。

それで、この基礎デッサン力の件ですが、監督の演出、俳優の演技、脚本、職人技の安定感が凄いです。

照明、絵作りの美しさは、タメ息が出るほどです。
例えば、映像を静止画として観た時、日本画の構図になっていて、ハッとするほど綺麗なんですね。

ヒロイン・千春役の女優・真城千都世さんは、この映画がデビューの様ですが、場面の中で、自分の役割や必要な情報を過不足なく伝え、なおかつ情感もあり、しっかりとした演技をされています。

そして、この殺陣の凄さは、もー何としたことでしょう!!
アクション自体の華やかさに加え、動きの中に情念の炎がゆらめいています。
そして、ラストの殺陣の凄さに思わず笑ってしまうほどでした。
 
この映画が公開当時、どういう評価だったのか判りませんが、映画賞を獲ったという事も無いようですし、ザックリ中の上という作品でしょうか?

それでも、このクォリティの高さです。 
かつての日本映画は、実に恐るべしと言わせていただきます。
 
これは昭和34年の作品です。
この年は、平成天皇、皇后様の御成婚の年でした。
これを期にTVが、飛躍的に家庭に普及したという年です。
逆に言えば、この当時はTVはあってないような物で、娯楽は映画が主役の座だったのです。

やはり、映画館の暗い中で、大きなスクリーンで観るためには、しっかりした画作りと、安定した演技、画面いっぱいを持たせる殺陣が必要とされたのでしょう。

そのために積み上げられてきた、日本映画界の基礎的な力の大きさに、改めて驚嘆したのでした。

なんとこの年は、約500本の映画を撮っていたんですね。
年間数百本の映画を作っていれば、多少気を抜いた所で、一定の品質が維持されるでしょう。
それが職人の腕というものです。

正直、黒澤だ溝口だというものの、この「薄桜記」を圧倒するほどのクオリティーかと問われれば、そこまで差がないように感じられます。

だとすれば、黒澤や溝口の映画は、この日本映画界の基礎力が在って、その上にほんのちょっと監督の個性を乗せただけとすら思えるのです。

やはり、基礎がしっかりしたモノは、崩しようが無い骨格、厳然としてあるように思います。

その基礎力を強くするためには、例えば、絵のデッサンは大きな紙で描けと言います。
大きく描けばデッサンの狂いが否応なくさらけ出てしまい、ゴマカシがきかないので--------。

振り返って、今の日本映画界はどうでしょう?
TVドラマの映画化が多い現状は、小さなデッサンを大きな画面に引き伸ばすようなものでしょう。

日本映画の基礎力が衰えていくのは、イタシカタナイのかも知れません--------。
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職人たちが作った映画 (館長)
2023-10-19 08:29:40
これはそれぞれの職人たちが作った映画という気がします。
名作中の名作だと思うのですが映画賞には無縁でした。
その事がかえって当時の日本映画界の実力を髣髴させます。
昨今は職人を感じる作品が少なくなりました。
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