「竜馬暗殺」 1974年 日本
監督 黒木和雄
出演 原田芳雄 石橋蓮司 中川梨絵
松田優作 桃井かおり 粟津號
野呂圭介 田村亮 外波山文明
山谷初男 田中春男 川村真樹
ストーリー
慶応3年11月13日。氷雨の下、京の街並を走り抜けていく男がいた。
海援隊の常宿“酢屋”から“近江屋”の土蔵へ身を移す、坂本竜馬(原田芳雄)である。
佐幕派はもちろん、大政奉還後の権力のせめぎあいから、勤皇派からもさえ竜馬は“危険な思想家”として狙われていたが、近江屋へ移った竜馬は意外なほど悠然とかまえていた。
竜馬はすぐ隣の質屋に囲われている幡(中川梨絵)と知り合い、急速に接近した。
だが、幡の許に通っている男が、新撰組隊士・富田三郎(粟津號)であることは知る由もなかった。
竜馬を狙わざるを得ない立場に追い込まれたのは、友人でもある陸援隊々長・中岡慎太郎(石橋蓮司)である。
竜馬への友情を棄てきれない慎太郎は、竜馬を自分以外の男の手にはかけさせない、と決心していた。
その慎太郎には近江屋の娘・妙(桃井かおり)という恋人がいたが、妙は竜馬のかつての恋人である。
一方、竜馬を狙う薩摩藩士・中村半次郎(外波山文明)配下のテロリストに右太(松田優作)という瀬戸内の漁村から出奔した少年がいたのだが、右太は幡の弟であった。
11月14日。集団舞踏“ええじゃないか”を待つ町人や百姓たちをよそに、竜馬を狙う右太、慎太郎、そして幕府の密偵たちがいたが、狙われていることを知りながら慎太郎への友情を棄てきれない竜馬は、慎太郎に会うために女装して“ええじゃないか”の群にまぎれ込んだ。
一方、幡は痴話喧嘩のはずみで富田を殺害していた。
その頃、“権力”は慎太郎をも抹殺することを決意していた。
11月15日。この日、土蔵から近江屋の二階に移った竜馬と慎太郎は、何者かの手にかかって暗殺された。
竜馬と慎太郎を殺し、右太をも葬り去ったのは、一体何者だったのか。
“竜馬暗殺”を目撃した唯一の証人、幡は、折から叶屋になだれこんだ“ええじゃないか”にまぎれ込んで、二度と姿を現わすことがなかった……。
寸評
僕はこの映画を公開時にATGの専門映画館だった北野シネマで見たのだが、僕と黒木和雄の初めての出会いでもあり非常に衝撃を受けたことを覚えている。
坂本龍馬(作品では竜馬と表記)の暗殺については全貌が明らかになっておらず、犯人も特定されていなくて謎が多い暗殺事件である。
それだけに幕末の人気者の最後に対して自由な解釈ができる題材でもある。
黒木和雄は彼なりの解釈で薩摩暗躍説をとっている。
薩長勢力が竜馬の政治力に脅威を感じ、竜馬を生かしておくと維新を遂行した薩長勢力が追い落とされてしまうという危惧が、大久保ら薩摩の指導者に竜馬の暗殺を決意させたという推察である。
冒頭近くで薩摩藩邸が出て来て、そこで大久保ら薩摩の連中が坂本竜馬を殺す計画をたてるところが描かれる。
そこには中村半次郎もいて、自分の息のかかったものに暗殺の実行を命じているのである。
映画は1867年11月13日に殺されるまでの三日間における坂本竜馬と中岡慎太郎の行動に焦点を当て、これに想像上の人物である竜馬を狙う薩摩藩の下っ端と、その姉という女をからませ話を面白くしている。
竜馬を狙うもう一人の男として中岡慎太郎が登場する。
中岡は竜馬の盟友としてのイメージが強いが、ここでは路線の違いから敵対関係にあるとしている。
中岡は薩長に協力して武力討幕を目指しているが、竜馬は侍の権力を奪うことが目的で、薩長も倒して侍とは別の権力をたてなければならないと思っている。
公開された時期が時期だけに、僕はどうしても当時の世相と照らし合わせて見ていた。
公開日は学生運動が路線の違いから対立、内ゲバを繰り返して力をなくし衰退していっていた時期と重なる。
作中で交わされる会話も世相を感じさせるものである。
そしてモノトーンの荒い画質と無声時代劇の呼吸を字幕のリズムに重ねる手法が効果的で、近眼、革靴履きの竜馬像も新鮮である。
原田芳雄の飄々とした演技は、本物の竜馬はこうだったのではないかと思わせる。
中岡を演じた石橋蓮司は、中岡の神経質そうな雰囲気を上手く出していて、この映画は二人の演技によるところが大きい。
冒頭でフンドシ姿の原田・竜馬が桃井かおりの妙の手助けにより近江屋へと隠れ場所を移す場面が描かれるが、このワンシーンを見ただけでこれから描かれる竜馬像が推測される演出でこの映画の虜になれる。
妙を巡る竜馬と中岡との三角関係も面白い。
竜馬に乙女という竜馬が慕っていた姉さんがいたことは有名な話だが、右太は妙と近親相姦の関係にあるような描き方で、竜馬と右太の対比になっているのかもしれない。
竜馬は拳銃を修理しながら 野呂圭介の藤吉にこれからの世の中を語り、中岡慎太郎にも自分が目指す維新を語っているが、一方、屋根上では右太と「おまはんは無口じゃのう」と言いながら姉さん談義をしている。
天下国家を論じ、くだらない話もしている若者の姿は、維新の頃も公開当時の若者たちも同じだと思わせる。
竜馬暗殺の真犯人を見た妙は「ええじゃないか」で踊り狂う大衆の中に身を投げ消え去る。
かくして竜馬暗殺犯を知る人物はいなくなってしまったということだ。
ATG作品が描く友情映画の傑作でもあり、黒木の最高傑作とも言える一本だと思う。
監督 黒木和雄
出演 原田芳雄 石橋蓮司 中川梨絵
松田優作 桃井かおり 粟津號
野呂圭介 田村亮 外波山文明
山谷初男 田中春男 川村真樹
ストーリー
慶応3年11月13日。氷雨の下、京の街並を走り抜けていく男がいた。
海援隊の常宿“酢屋”から“近江屋”の土蔵へ身を移す、坂本竜馬(原田芳雄)である。
佐幕派はもちろん、大政奉還後の権力のせめぎあいから、勤皇派からもさえ竜馬は“危険な思想家”として狙われていたが、近江屋へ移った竜馬は意外なほど悠然とかまえていた。
竜馬はすぐ隣の質屋に囲われている幡(中川梨絵)と知り合い、急速に接近した。
だが、幡の許に通っている男が、新撰組隊士・富田三郎(粟津號)であることは知る由もなかった。
竜馬を狙わざるを得ない立場に追い込まれたのは、友人でもある陸援隊々長・中岡慎太郎(石橋蓮司)である。
竜馬への友情を棄てきれない慎太郎は、竜馬を自分以外の男の手にはかけさせない、と決心していた。
その慎太郎には近江屋の娘・妙(桃井かおり)という恋人がいたが、妙は竜馬のかつての恋人である。
一方、竜馬を狙う薩摩藩士・中村半次郎(外波山文明)配下のテロリストに右太(松田優作)という瀬戸内の漁村から出奔した少年がいたのだが、右太は幡の弟であった。
11月14日。集団舞踏“ええじゃないか”を待つ町人や百姓たちをよそに、竜馬を狙う右太、慎太郎、そして幕府の密偵たちがいたが、狙われていることを知りながら慎太郎への友情を棄てきれない竜馬は、慎太郎に会うために女装して“ええじゃないか”の群にまぎれ込んだ。
一方、幡は痴話喧嘩のはずみで富田を殺害していた。
その頃、“権力”は慎太郎をも抹殺することを決意していた。
11月15日。この日、土蔵から近江屋の二階に移った竜馬と慎太郎は、何者かの手にかかって暗殺された。
竜馬と慎太郎を殺し、右太をも葬り去ったのは、一体何者だったのか。
“竜馬暗殺”を目撃した唯一の証人、幡は、折から叶屋になだれこんだ“ええじゃないか”にまぎれ込んで、二度と姿を現わすことがなかった……。
寸評
僕はこの映画を公開時にATGの専門映画館だった北野シネマで見たのだが、僕と黒木和雄の初めての出会いでもあり非常に衝撃を受けたことを覚えている。
坂本龍馬(作品では竜馬と表記)の暗殺については全貌が明らかになっておらず、犯人も特定されていなくて謎が多い暗殺事件である。
それだけに幕末の人気者の最後に対して自由な解釈ができる題材でもある。
黒木和雄は彼なりの解釈で薩摩暗躍説をとっている。
薩長勢力が竜馬の政治力に脅威を感じ、竜馬を生かしておくと維新を遂行した薩長勢力が追い落とされてしまうという危惧が、大久保ら薩摩の指導者に竜馬の暗殺を決意させたという推察である。
冒頭近くで薩摩藩邸が出て来て、そこで大久保ら薩摩の連中が坂本竜馬を殺す計画をたてるところが描かれる。
そこには中村半次郎もいて、自分の息のかかったものに暗殺の実行を命じているのである。
映画は1867年11月13日に殺されるまでの三日間における坂本竜馬と中岡慎太郎の行動に焦点を当て、これに想像上の人物である竜馬を狙う薩摩藩の下っ端と、その姉という女をからませ話を面白くしている。
竜馬を狙うもう一人の男として中岡慎太郎が登場する。
中岡は竜馬の盟友としてのイメージが強いが、ここでは路線の違いから敵対関係にあるとしている。
中岡は薩長に協力して武力討幕を目指しているが、竜馬は侍の権力を奪うことが目的で、薩長も倒して侍とは別の権力をたてなければならないと思っている。
公開された時期が時期だけに、僕はどうしても当時の世相と照らし合わせて見ていた。
公開日は学生運動が路線の違いから対立、内ゲバを繰り返して力をなくし衰退していっていた時期と重なる。
作中で交わされる会話も世相を感じさせるものである。
そしてモノトーンの荒い画質と無声時代劇の呼吸を字幕のリズムに重ねる手法が効果的で、近眼、革靴履きの竜馬像も新鮮である。
原田芳雄の飄々とした演技は、本物の竜馬はこうだったのではないかと思わせる。
中岡を演じた石橋蓮司は、中岡の神経質そうな雰囲気を上手く出していて、この映画は二人の演技によるところが大きい。
冒頭でフンドシ姿の原田・竜馬が桃井かおりの妙の手助けにより近江屋へと隠れ場所を移す場面が描かれるが、このワンシーンを見ただけでこれから描かれる竜馬像が推測される演出でこの映画の虜になれる。
妙を巡る竜馬と中岡との三角関係も面白い。
竜馬に乙女という竜馬が慕っていた姉さんがいたことは有名な話だが、右太は妙と近親相姦の関係にあるような描き方で、竜馬と右太の対比になっているのかもしれない。
竜馬は拳銃を修理しながら 野呂圭介の藤吉にこれからの世の中を語り、中岡慎太郎にも自分が目指す維新を語っているが、一方、屋根上では右太と「おまはんは無口じゃのう」と言いながら姉さん談義をしている。
天下国家を論じ、くだらない話もしている若者の姿は、維新の頃も公開当時の若者たちも同じだと思わせる。
竜馬暗殺の真犯人を見た妙は「ええじゃないか」で踊り狂う大衆の中に身を投げ消え去る。
かくして竜馬暗殺犯を知る人物はいなくなってしまったということだ。
ATG作品が描く友情映画の傑作でもあり、黒木の最高傑作とも言える一本だと思う。
予算がなくて、鳥目になった俳優がいたとか、翌日の撮影を、監督抜きでゴールデン街の酒場で決まってしまったと言われていました。でも、まぎれもなく黒木和雄映画でしたね。でも、まぎれもなく黒木和雄映画でしたね。
撮影は、当時世田谷にあった元味噌蔵で行なっわれたそうです。
私はこれが黒木和雄の最高傑作だと思っています。