一人の髪の毛の長い背の高い細身の女性が机に座り、ノートパソコンを叩いています。
彼女の名はレイカ(31)・・・とある雑誌の取材記者です。
「えー、それでは、タケルさん、夜の日本学「戦国武将考察編」・・・お願いします。今日は誰について語ってくれるんですか?」
と、レイカはノートパソコンを叩きながら、赤縁のメガネを手で直し、こちらを見つめます。
「うん。そうだな・・・今回は久しぶりに「織田信長さん」を考察したいんだ。ネタが見つかってね」
と、タケルは話し始めます・・・。
さて、今日の「夜の日本学」はじまり、はじまりー・・・・。
「まあ、織田信長さんと言えば「軍師官兵衛」でも描かれていたけど・・・裏切られる事が多い武将だった・・・それこそ、いろいろなタイプの」
「裏切りを受けた・・・この「裏切り」という現象・・・日本文化を検証する時に良い題材になると考えてね・・・ちょっと検証したいと思うんだ」
と、タケルは言葉にする。
「「裏切り」の裏には、日本文化独特の事情があると・・・そういうことですか?タケルさん」
と、レイカ。
「そういうこと!」
と、タケルは機嫌良さそうに言葉にする。
「「和を以て貴しとなす」を最高正義とするこの日本では・・・国民の大部分が「現在目に見えているモノは一切変えてはならない・・・それが和を保つ秘訣だ」と」
「考えがちなんだね。まあ、「守旧派の頑固者」・・・まあ、今ホットな話題で言えば、憲法の集団的自衛権の論議なんかで未だに「護憲!」なんて言葉にしている」
「そういう人達がその「守旧派」に当たる人たちになるし、国民へのアンケート結果でも、6割の人間が集団的自衛権を認めていなかった」
「・・・日本国民の守旧派化・・・この現象はどんな時代にもあった話なんだ・・・」
と、タケル。
「なるほど・・・そういう文脈で見ると、今の政治現象も非常にわかりやすいですね・・・」
と、レイカ。
「まあ、守旧派の人間は見えるモノからしか、モノを考えない人たちだ・・・その多くは「逃げ込み者」状態・・・そこに理論武装を与えるのが」
「「知識者」の「俺偉い病」・・・まあ、日本では「知識人」などと言われているが・・・要は「知識」という名の牢獄に囚われた人々だ」
「決してその言うことに乗ってはいけないんだ・・・なぜなら、自分が勉強した一定の「知識」からしか話せないし、現行の体制を守るためにのみ」
「話をしてくるから、結論ありきの議論だから、意味が無いんだね」
と、タケル。
「まあ、だから、わかりやすい例として江戸時代をあげよう・・・江戸の人たちはのんびり暮らしていた・・・260年のミラクルピースを楽しんだんだね」
と、タケル。
「ここで僕が持ってくる言葉は僕の心の師「池波正太郎大先生」の言葉だ・・・前にも引いたことがあるけどね・・・」
「「いいことってのは、結構すぐに明らかになるから、これはいいんだよ。だけど、悪い事ってのは、最後の最後、もうどうしようも無いって時に」」
「「明らかになるから・・・明らかになった時には手遅れ・・・だからこそ、怖いんだよ。悪い事ってのは、ね」」
「・・・という言葉を出してくれた・・・僕はこれを「日本における悪い事は肝臓癌的末路になる」という言葉にしているんだね」
と、タケル。
「「日本における悪い事は肝臓癌的末路になる」ですか・・・肝臓は「沈黙の臓器」と言われていますから・・・なるほど、癌と自覚した時には手遅れ・・・」
と、レイカ。
「そういうことだ・・・これは政治でも言えることで・・・徳川幕府はそうだったじゃないか・・・」
「結局、守旧派が「何事も平らに平らに・・・」なんてやっていくから、問題点の先送りがされて・・・結果、人材が払底するんだね」
「それは徳川慶喜が「徳川に坂本龍馬はいるか?大久保や西郷などがいるか?誰もおらんではないか!」と怒りをぶちまけたエピでもわかるように」
「人材がいなくなる・・・つまり、「守旧派」という「逃げ込み者」オンリーになり、結局、コミュニティの長は徳川慶喜という「知識者」の「俺偉い病」」
「がやる羽目になり・・・そのコミュニティは消え去るという結果になるのが、日本文化のお約束なんだ・・・」
と、タケル。
「「守旧派」って日本をダメにする癌なんですね。要は?」
と、レイカ。
「うーん、この場合、「癌」というより「沈黙の臓器」側だろうね。誰も声をあげない・・・だから、どんどん「悪い事」いわゆる癌が進行する・・・そう捉えるべきだ」
と、タケル。
「・・・となると「人材の払底」こそ、癌そのもの・・・そういう話になりますか?」
と、レイカ。
「そういうことになるね」
と、タケルは笑顔になる。
「さて・・・だから、「俺偉い病」の「知識者」に率いられたコミュニティは、若干の「俺偉い病」の「知識者」に理論武装された「守旧派」という「逃げ込み者」」
「によって、構成される・・・一番大きな問題点は「人材払底」だが・・・政治体制にも問題点が山積する・・・だからこそ、日本の歴史は政治体制の」
「刷新・・・その時代に合わせた・・・の歴史なんだね。遠くは神武東征から始まる・・・近くは民主党政権の破綻と自民党の与党復活に至るまで・・・」
「民主党政権なんて、それこそ、「人材の払底」によって、政権が滅んだじゃん・・・」
と、タケル。
「確かに・・・タケルさんの、まさにご指摘の通りですね」
と、レイカ。
「だから、日本においては「守旧派」が「沈黙の臓器」を作っちゃうからこそ、悪い事は取り返しのつかない時点まで、温存されてしまって」
「露見するのは「人材払底」した時にこそ・・・ということになるわけだ・・・。つまり、「守旧派」は使えないお馬鹿さん達なんだよね・・・」
と、タケル。
「さて、そういう「普段の時代」があるのに対して・・・「体制刷新」の時代には「現行体制の問題点を指摘し、その改革方法論を実現させようとする」
「「絶対の知恵者」が生まれてくるんだ・・・それが「天正」の元号を掲げ、日本の問題点をすべて改めようとした織田信長さんという「絶対の知恵者」の例」
「になるんだね・・・」
と、タケル。
「だから、「体制刷新」の時代は、そういう「絶対の知恵者」の価値を理解し、それを助ける「刷新側」につく人間と、「守旧派」の戦いになるんだ」
「そういう構図で「織田信長」物語は見なければいけないんだね・・・」
と、タケル。
「うーん、今回は、日本文化の背景の説明だけで終わりそうだ。まあ、各論は次回から、みっちりやっていけばいいか。これも面白くなりそうだからね」
と、タケル。
「ええ。背景の説明がしっかりやってあれば、各論の説明も理解しやすいですから・・・慌てることは、ひとつもありませんよ」
と、レイカ。
「で、だ・・・そういう「守旧派」と「絶対の知恵者」との戦いとなるとどうなるか・・・この話をしておきたいんだが、まず、守旧派は何を好み、何を嫌うか」
「・・・それを説明しておかないといけないね・・・」
と、タケル。
「はい。それが一番大事な事のように思えます」
と、レイカ。
「「守旧派」は、何より「変革」を嫌う・・・要は「変革」の過程で「和」を破壊しちゃう「対立」が起こるのが明確だからだ・・・」
「「変革者」の足をどこまでも引っ張ろうとするんだな。特にそれが「知識者」の「俺偉い病」だったりすると、自分の方が「知識」を持っているから正しいし」
「目の前の「変革者」は、その「知識」が無いから、「変革」をしようとしているんだと勘違いし、上から目線で、「変革者」を諌めようとして」
「「変革者」に激怒され・・・結局、「知識」のある自分こそが、「変革者」を諌めなければいけないんだと思い極めてしまう構図があるんだね」
と、タケル。
「「守旧派」は、その「理論武装」に乗るから・・・「絶対の知恵者」にして「変革者」の正面の敵は、上から目線の「知識者」の「俺偉い病」になるわけなんだね」
と、タケル。
「例えば、この構図は日本の歴史にたくさん現れている・・・「乙巳の変」で活躍した「中大兄皇子」や「中臣鎌足」は、その後の「大化の改新」政治での」
「「変革者」役になった・・・この場合、「蘇我入鹿」「蘇我蝦夷」は「守旧派」を率いた「知識者」の「俺偉い病」ということになるし」
「蘇我氏の人材も払底していた・・・」
と、タケル。
「平安時代に武家の価値を大きく変えた「平清盛」も「変革者」役だね。この場合、その敵となった藤原家や他の公家達が「守旧派」を率いた「知識者」の「俺偉い病」役」
「・・・ということになる。もちろん、公家側に人材が払底していたからこそ、「平清盛」の台頭・・・及び「平家」の躍進があったんだね」
と、タケル。
「その後、「源頼朝」が立ち・・・「平家」は西海に消えるけれど、この時は「源頼朝」が変革者で、「平家」が「知識者」の「俺偉い病」」
「に成り下がっていたし、「平家」に人材も払底していた・・・」
と、タケル。
「・・・ね?皆同じ構図なんだよ・・・まず、政権を取っているコミュニティのメンバーに人材が払底するから、「変革者」がその問題点に気づき」
「立ち上がるんだ・・・「絶対の知恵者」がその事実に気づいた時、「この国は俺にしか改革出来ない・・・」と、自覚出来るから・・・その絶対の自信があるから」
「立ち上がれるんだ・・・そして、その「絶対の知恵者」の価値に気づいている大人の第三者が多くいるから・・・その「絶対の知恵者」を支援する」
「「変革派」の人間が大挙集まり、「俺偉い病」の「知識者」に率いられた「守旧派」VS「絶対の知恵者」の「変革者」に率いられた「変革派」の戦いになるんだ」
と、タケル。
「そして、必ず、「絶対の知恵者」に率いられた「変革派」が勝つ・・・それが日本文化のお約束という事になるんだね・・・」
と、タケル。
「その後、起こった「承久の乱」においても、そのお約束通り推移していますね。「俺偉い病」の「知識者」である「後鳥羽上皇」が上皇方に見方する「守旧派」を率い」
「・・・それに対して、「絶対の知恵者」北条泰時に率いられた「変革派」の鎌倉恩顧の武将達の構図ですからね。無論、京側の大敗北に終わるわけですけど」
「・・・公家側には、もはや「平家」台頭時に人材が払底していたんですから・・・そうなるのは当たり前だったんですね」
と、レイカ。
「まあ、その変革期の共通性がわかれば・・・あとは説明しやすいだろう・・・それが日本の変革期のお約束になるんだね」
と、タケル。
「今日は面白かったです。確かに政権側の「人材払底」から、世の変革は始まっていくんですね」
と、レイカ。
「今日は楽しく仕事が出来たので・・・早く楽しくお酒が飲みたいです、タケルさん」
と、レイカは赤縁のメガネを外し、髪を解いた。
「レイカちゃん、本気だね。じゃ、気合いれて飲もうか!」
と、笑顔のタケルは机を片付けだすのでした。
(おしまい)
日本の変革期に、そういうお約束があったんですね。
「守旧派」が多くなりすぎて、「人材」が払底するところから、変革期は始まっていく・・・。
いい勉強になりました。
いい仕事が出来たし、さあ、今日も楽しく飲みましょう!
ではでは。