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「ゆるちょ・インサウスティ!」の「海の上の入道雲」

楽しいおしゃべりと、真実の追求をテーマに、楽しく歩いていきます。

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「月夜野純愛物語」(ラブ・クリスマス2)(1)

2013年12月02日 | 今の物語
このお話の舞台となる「月夜野」という街は、以前群馬県にあった、実際の町の名前になります。

今は合併で消滅してしまいました。素敵な町名なのにね・・・。


というわけで、このお話は架空の街、「月夜野」を舞台にしたお話になります・・・。



「だから、俺はあの時言ったんだ。それを・・・」

と、中年の男の声が響く・・・。

「まあ、いい・・・」

と、諦めに近い抑揚の声が聞こえ、やがて、その声は、聞こえなくなった。


まだまだ、残暑の厳しい、9月の中旬の深夜二時過ぎ、介護ヘルパーの姫島ミウ(32)は、自分のアパートの布団で目覚めていた。

悪い夢を見ていた。自分の身体が汗でびっしょり濡れているのがわかる。

「ふう・・・」

と、ミウをため息をつき、置き時計を眺める。二時を少し回ったところ。

「明日も早いけど・・・きっと、飲まないと寝付けないし・・・」

と、ミウは台所でウィスキーの水割りを作る。

台所の椅子に座り、その水割りを口に含む・・・。

「眠っている間だけが、しあわせなんだわ。起きている時のわたしは、不幸そのもの・・・」

と、ミウはため息をつく。

「ずっと眠っていたい・・・朝なんか、永久に来なければいいのに・・・」

と、ミウは言葉にする。

「どこで、間違えちゃったんだろ、あたし・・・」

暗い顔で、ミウは、いつまでも、台所に座っていた。


朝7時、ミウは朝食もとらずに介護ヘルパーの制服を着込んで、アパートを出てくる。

ママチャリに乗ったミウは、ぼうっとした表情で、自転車で10分程の場所にある「朝日ヘルパー」の事務所に赴く。

「おう、姫ちゃんか。なんだか、冴えない表情をしているぞ。まあ、いつものことだけど」

と、所長の竹島(48)がミウに声をかける。

「おっと、そう言えば、姫ちゃんには、渡さなければいけないモノがあったな」

と、竹島は上着の内ポケットから茶色の封筒を出す。

「これ、この間、頼まれていた前借りのお金。実家のお母さんの容態、そんなに悪いのかね・・・まあ、急用の金なら仕方ないけど、結構借金溜まってるからさ」

と、竹島は親切そうな表情で言う。

「返せなくなると、お互い困るだろ。まあ、今回は特別だけど、返済のことも、そろそろ考えておいて、くれよな」

と、竹島は人の良さそうな表情で・・・でも、言うべきはびしっと言うのだった。

「すいません、いつも・・・所長さん」

と、ミウはぺこりと頭を下げる。

「いや、いいんだ。うちもこんな辺鄙な場所で事務所構えているから、あまり給料をあげられてないのも事実だからなー」

と、頭を掻きながら竹島は、ひとの良さそうな表情を見せる。

「じゃ、今日もがんばってな。姫ちゃんは、人一倍身体が小さいから、大変だろうけどな・・・」

と、竹島は言いながら、所長室に消えていく。

「すいません、所長さん・・・嘘を言って・・・」

と、少し悲しそうな表情のミウは口の中でつぶやく。

「でも、今を乗り切れれば・・・返す当てはなんとか・・・」

ミウは何かを期すような表情で、所長室の入り口を見つめていた。


「山田さん、おはようございます。朝日ヘルパーの姫島です」

と、ミウは一軒家の玄関先で大声を出す。

「おお、姫島さん。いつもすまないねえ、ほら、おとうちゃん、病院に行くよ」

と、山田さん(76)の奥さんが玄関を開けてくれる。

「おとうちゃん、早く・・・おとうちゃんのお気に入りの姫島さんが来てくれてるんだから」

と、山田さんの奥さんは山田さんをせかすように言う。

「おお・・・ちょっとトイレに行っとったもんだから・・・と、待ってくれよ」

と、腰を悪くしている山田さんはゆっくりと玄関に近寄ってくる。

「あせらないでいいですから。まだ、時間はたっぷりありますから」

と、ミウは車椅子を持ちながら、笑顔で山田さんに言う。

「姫島さんはいつもいい笑顔で・・・べっぴんさんだし、こちらまで気分がよくなるねえ」

と、山田さんの奥さんが言ってくれる。

「いいえ・・・はい、山田さん、気をつけて・・・」

と山田さんを車椅子に乗せたミウは、車椅子を車椅子送迎用ワゴンの後ろにつける。


ミウがワゴンの後ろの扉を開けると、ワゴンからガイド板を出し、地面に設置させ、車椅子をワゴンに乗せるガイドとする。

そして、今度はワゴンの中から車椅子回収用の2本のベルトを伸ばし、車椅子にセットし、ミウが回収スイッチを押すと、

車椅子は山田さんを乗せたまま、静かにゆっくりとワゴンの内部に回収されていく。

車椅子がワゴン内部に回収されたら、車椅子を固定器具で車内にしっかり固定し、扉を閉めて、ミウの運転する車椅子送迎車は、病院に出発する準備が出来たのだった。

「じゃ、行きましょうか」

と、ミウが助手席に座る山田さんの奥さんに確認すると、

「はい。よろしくお願いします」

と頭を下げる山田さんの奥さんだった。

ミウは、さらに真剣な表情で車を病院に向け発進させるのだった。


「ただ今、戻りました・・・」

と、午後9時頃「朝日ヘルパー」の事務所に戻ってくると、何人かの同僚が待機所に座り、タバコを吸いながら談笑していた。

「姫ちゃん、今帰り?遅かったなあ?今日は早番だったんだべ?」

と、同僚の柴田アキ(55)が言ってくれる。

「姫ちゃんは、美人だから、ごひいきがおおいんだんべ。なあ、姫ちゃん」

と、同僚の村田ヒロコ(58)が気さくに声をかける。

「そうだが。姫ちゃんにひたむきに介護されたら、やめらんねえべ。ほれ、身体もくっつけてくれるんだから、あそこも何十年ブリにビンビンだが」

と、豊島テルコ(60)が少し下品に笑う。

「そりゃ、そうだがな。はっはっはっは」

と、3人は笑っている。

「姫ちゃん、明日も早番だべ?今おらたち話してたんだけど、明日もし時間があったら、一緒に飲みにいかねーか?美味いもん食って、酒でストレス解消だが」

と、豊島テルコが声をかけてくれる。

「あ、明日ですか・・・明日はちょっと別の用事があって・・・ごめんなさい・・・」

と、ミウは元気なさそうにそう答える。

「そうか・・・まあ、それなら、仕方ねーけど・・・姫ちゃん最近顔色悪いから、心配で・・・」

と、豊島テルコは、心底心配そうな顔をする。

「いや、大丈夫です。今日、少し疲れたのかも・・・」

と、ミウは力なく笑う。

「そうか・・・なんか、心配ごとがある時は、遠慮なく相談してくれていいんだど。ま、出来ることと出来ないことはあっけどよ」

と、豊島テルコはそう話す。

「はい、ありがとうございます・・・今日はお風呂入ってすぐ寝ることにします。明日も早いし・・・」

と、ミウは言うと、

「じゃ、お先です。失礼します!」

と、力の無い笑顔で、ミウはお辞儀をして事務所を出て行く。


「口ではあんな事言ってるけど、要は俺たちのこと、見下してるんじゃねーの?」

と、裏の扉を開けて入ってくるのは、同じく同僚の咲田ヨウコ(30)だった。

「なんか、最初から気に入らなかったんだよ、あいつ。色白の綺麗な顔して、わたしひたむきにがんばりますみたいな風情で・・・」

と、自らも色白の美人なヨウコは言った。

「ああいう女がけっこうすごい事、裏でやったりしているんだよな。嫌いなんだよ。性にあわねー」

と、ヨウコはテルコの横に座るとタバコをぷかぷか吸い始める。

「そんな見た目だけで人を判断してはいけないって、あれほど言ってるだが」

と、テルコはヨウコをたしなめる。

「見た目にこそ、その人間の本質が隠されているもんさ。俺は若い時にそれを知った。だから、俺の勘は当たるぜー」

と、汚いものを見るような目でミウの消えた扉を見つめるヨウコだった。


「あの善良なひとたちに話せることなんて・・・わたしには、ひとつも無いわ・・・」

と、アパートに帰ったミウはウィスキーの水割りをひとり飲みながら、寂しそうに話している。

「重い・・・重くて死にそう・・・ああ、早く酔って、すべてを忘れたい・・・そうしなければ、眠りにさえ、つけやしない・・・」

と、ミウはつぶやいている。

「死にたい・・・でも、死ねない・・・でも、生きる希望もない・・・」

と、ミウは水割りを飲みながらつぶやいている。

「なんで、わたしは、こんなところにいるの・・・なんでわたしは、ひとりぼっちなの・・・」

と、ミウはのたうちまわっている。

「なんで、わたしは、こんな場所に追い詰められてしまったの・・・」

と、ミウはつぶやきながら、少しずつ酩酊していくのだった。

「あの時、あんな事さえ、なければ・・・手を出さなければ、よかったのに・・・」

と、ミウは、酔った頭で、コロリと眠りにつく前に、そんな風につぶやいていた。


32歳の姫島ミウは、パジャマ姿で、布団の中に潜り込み、気持ちよさそうな表情で眠っていた。

その表情は普段見せることがないくらい、しあわせそうな表情だった。


つづく


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「月夜野純愛物語」主要登場人物

2013年12月02日 | 今の物語



       姫島ミウ(32) 主人公

      豊島テルコ(60) 朝日ヘルパー同僚

      村田ヒロコ(58)

       柴田アキ(55)

    
      咲田ヨウコ(30)


       竹島大造(52) 朝日ヘルパー所長 


      鈴木サトル(28) 八津菱電機社員  

      沢島カズキ(30) 八津菱電機社員及び同じ自転車チームの先輩

「ラブ・クリスマス!」(ボクとワタシのイブまでの一週間戦争!)主要登場人物。

2013年11月23日 | 今の物語
八津菱電機鎌倉華厳寮203号室。

主人公 鈴木タケル 27歳 東京農工科大学卒

沢村イズミ 24歳 中王大学理学部数学科卒

元ルームメイト 田島ガオ 28歳 東大卒


東堂アイリ 29歳 タケルの婚約者。女性雑誌「Joie」の編集者。

父 賢一 61歳。東堂弁護士事務所社長にして、弁護士。

母 愛美 56歳。


東堂エイイチ 30歳、東堂弁護士事務所所属の弁護士。東堂賢一の甥。

東堂リョウコ 26歳、公安勤務。東堂エイイチの妹。東堂賢一の姪。


片桐ショウコ 37歳 25~30代向け女性雑誌の「Joie」の女性編集長。東堂アイリの上司。

佐和田マキ 29歳 女性雑誌「Joie」の編集者。東堂アイリの同僚。

嶋田アミ 28歳 女性雑誌「Joie」の編集者。東堂アイリの同僚。


須賀田イチロウ 35歳 タケルの所属するプロジェクトチームのリーダー。


重富リサ 30歳 リョウコのチームのエース。

田中美緒 22歳 中王大学数学科の4年生。


鈴木優 17歳 タケルのいとこ。清華女子高校2年生

滝田祐 17歳 京王高校2年生

「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)(8)(最終回)

2013年11月22日 | 今の物語
「しかし、ショウコさんって、すごいなあ」

と、タケルは、アイリの横で、そんな風につぶやいている。

4月上旬の日曜日の朝・・・アイリのベッドの中でタケルは、裸のまま、そんな風につぶやいていた。

アイリはタケルの肩にもたれ・・・満足感に浸っていた・・・。


「僕、思ったんだけどさ・・・このところのショウコさんとイズミのやりとり・・・これ、ショウコさんとイズミの代理戦争だったんじゃないかなーって」

と、タケルは言う。

「まあ、結局、最後はイズミのやり方に憤慨したショウコさんが、イズミの恋愛を子供の恋と決め付け、「そんな子供は相手にならないわ」って切り捨てたからね」

と、タケル。

「そうね・・・ショウコさんは、社内でも、誰も敵に回さない、ある意味怖いひとだから・・・社長だって、一目も二目も置いている、すごいひとよ・・・」

と、アイリ。

「僕は普段イズミに接していて、「こいつは、どれだけ女性のことを知っているんだ?」と舌を巻いていたんだけど・・・その上を行ったからね、ショウコさんは」

と、タケルは、普通にショウコの手腕に驚いている。

「あのイズミが、赤子の手をひねるように、あっけなくやられて・・・驚くね、ほんとに」

と、タケルは、素直に言っている。

「ショウコさんは、余程、イズミさんのやり口に憤慨したのね・・・ま、女性はオバサン!と言われるのが、一番いやだから・・・」

と、アイリ。

「まあ、そのあたりは、イズミも確かに子供だよ・・・ショウコさんは、美しいし、何より話していて、話しがいのある、大人の美しい女性だもの・・・」

と、タケル。

「そのショウコさんの価値のわからないイズミは・・・女性にしろ、男性にしろ、年齢じゃなく、あり方だってことに、気づいているのが、大人の男性であり、女性だよ」

と、タケル。

「そうね・・・ショウコさんは、本当に美しくなったもの・・・あれなら、すぐにでも、パートナーを見つけそうね」

と、アイリ。

「そうかな・・・まあ、僕はヒデさんのことは、全然知らないけれど・・・相当ポテンシャルの高いひとだったんじゃないかな・・・そういうひとって、なかなかいないじゃない」

と、タケル。

「だからこそ、あんなに美しいショウコさんでさえ・・・10年もの間、漂流してたんだろ?」

と、タケル。

「そうか・・・そうよね・・・ちょっとわたしも安易に言い過ぎたかな」

と、少し苦笑するアイリ。

「でも、アイリの気持ちはわかるよ。早く・・・長いことアンハッピーだったショウコさんにしあわせになって貰いたい・・・そういう気持ちだからでしょ?」

と、タケル。

「うん。そうよ・・・タケルも、わたしの心を見抜けるようになったわね」

と、嬉しそうにするアイリ。

「ショウコさんと対決して・・・相当勉強になったからね・・・それにアイリはいつもそばにいてくれるから・・・その気持ちもわかるようになってきたのさ」

と、嬉しそうにタケルも話す。

「ありがとう・・・タケルにそう言ってもらうと、ほんとに、嬉しいの・・・尽くしているかいがあるわ」

と、アイリ。

「尽くしがいのある大人の男に・・・早くならなっくちゃね、僕も」

と、素直に言う、タケル。

「タケル、相当、おとなの男になっていると思うけど・・・でも、少年な部分も残しておいてね」

と、アイリ。

「ああ・・・アイリを抱く時は、少年に戻るよ」

と、タケルは言いながら、アイリを抱き始める。

「うれしい・・・」

アイリはそんなタケルの愛撫を受けながら、しあわせそうに、言った。


「でも・・・わたし気になっているのは、イズミさんのことかな・・・」

と、音楽を流しながら、ベッドの上で、のんびりと裸で過ごしているアイリは言った。

「イズミのこと?」

と、タケルも、アイリの横に寝ながら、言う。

「うん・・・こう言うとあれだけど・・・ショウコさんは、余程イズミさんのやり口に憤慨していたんだと思うの・・・」

と、アイリ。

「まあ、そうだね・・・切り捨て方が、すごかった」

と、タケル。

「わたしも、イズミさんのやり口は・・・前から気になっていたけど・・・正直言うけど、女性を上から目線で見下している姿勢が、女性にわかっちゃうのよね」

と、アイリ。

「だから、大人の女性は、いくらイズミさんが、イケメンでも・・・普通に嫌うのよ・・・子供じみているから」

と、アイリ。

「彼は大人として女性に無償の愛を与えられない・・・その欠点が露わになるから・・・彼の元から、女性が次々と去っていく・・・そういう状況なんじゃないかしら」

と、アイリは、大人の女性として、鋭く見抜く。

「ほう、なるほど・・・たまには、女性の意見も聞いてみるもんだな・・・いや、俺はいつもイズミの口から別れの理由を聞いていたから・・・そういうことか」

と、タケル。

「え、イズミさんは、別れの理由をどう説明していたの?」

と、アイリ。

「ん?ああ・・・「俺がやさしくしなくなるから・・・女どもは結婚だの子供がほしいだの言い出して・・・面倒くさいから切る」・・・あくまで、イズミ主導の話だった」

と、タケル。

「まあ、相手にも依るとは思うけれど・・・イズミさんは思っている程、モテないと思う・・・大人の女性は敬遠するし・・・」

と、アイリ。

「その説明も・・・あくまで、イズミさんの主張だから・・・」

と、アイリ。

「なるほど・・・裏をとったわけではないから・・・裏の取ってない話として扱うべき・・・そう言いたいんだな、アイリ」

と、タケル。

「うん・・・まあ、イズミさんを信じないわけではないけど・・・ショウコさんの話を信じるなら・・・イズミさんは、今のままでは、本当の愛は見つけられないわ」

と、アイリ。

「13歳の子供のままでは・・・ね」

と、アイリ。

「そうだな・・・というか、イズミは、最初からショウコさんの怖さを知っていて・・・それで逃げたのかもしれないな・・・オバサンはパス!とか言って」

と、タケル。

「どう考えても、ショウコさんとイズミじゃあ・・・喧嘩になるしか、なさそうだからな・・・相性は最悪って、感じがしない?アイリ」

と、少し笑ってしまうタケル。

「そうね・・・確かに、そうなりそうね・・・イズミさんとショウコさんじゃあ」

と、アイリも少し笑う。

「イズミは、そうやって、いつも逃げてるのかもしれないな・・・自分の正体を女性に知られたくないのかもしれない・・・だから、長続きしないんじゃないか?女性と」

と、タケルは言う。

「自分の正体を隠そうと逃げる男性・・・自分に自信がないから、逃げるのかしら、そういう男性って・・・」

と、アイリは、素直に疑問。

「あいつ・・・どうも、説明と実際が、違うような気がするな・・・」

と、タケルは言う。

「どういうこと?」

と、アイリ。

「あいつは、自分のわがままを聞いてくれる、大らかな女性を探していると言ってるんだけど・・・だったら、自分をさらけ出すだろ、普通」

と、タケル。

「自分をさらけ出して、相手に見せて、それを受け入れてくれる女性を彼女にするはずだろ・・・だけど、イズミのやってることは、正反対だ」

と、タケル。

「自分に自信がなくて、女性から逃げ回っている・・・だったら、女性はどう思う?アイリ」

と、タケル。

「余程好きなら別だけど・・・普通、諦めるんじゃない・・・だって、女性は、かまってくれるから、愛しくなるんだもん。そして、そういう男性を支えたいと思うの」

と、アイリ。

「そして、強い大人の男性になろうと努力している男性を、応援していくの・・・最初から逃げているような男は・・・正直駄目ね」

と、アイリは結論付ける。

「うーん、だいたいわかってきた・・・つまり、イズミはイケメンだからこそ、最初はモテる。彼女も出来る・・・だけど、自分に自信がないから、逃げまわる・・・」

と、タケルは説明する。

「逃げるイズミに気がついた彼女は・・・そこで、自分に自信のないイズミの本当の姿に気がついて・・・愛想を尽かして、別れる・・・これの繰り返しだったんだよ。イズミは」

と、タケルは説明する。

「だから、ショウコさんの存在を知った時・・・ショウコさんなら、イズミの正体を見ぬいてしまうことを知っていたイズミは、逃げを打った・・・そういうことだ」

と、タケルは説明し、自分の説明に驚く。

「あいつ、そんな自分を隠していたんだ・・・さも、モテるイケメンという物語を作って・・・そういうことだったのか・・・」

と、タケルは悲しく結論を言う・・・。

「ある意味、悲しい話だ・・・ま、でも、強い大人な自分を作れない悲劇だろうな・・・それは」

と、タケルは言う。

「イズミ自身がそれに気づいて、乗り越えて行かなければいけない壁・・・それは俺たちにも、どうすることも出来ない・・・そういうことだろうな」

と、タケルは言う。

「それって、ショウコさんの目がいかに正しいかってことの証明よね?」

と、アイリ。

「だって、ショウコさんは、激しくイズミさんを嫌い、タケルを恩人のように愛している」

と、アイリ。

「って言ったって、あのシナリオの多くの部分はイズミが書いたんだぜ」

と、タケル。

「でも・・・大切なのはシナリオじゃないと思う・・・ショウコさんの前で、プレゼンしたタケルにこそ、意味があったんだと思う」

と、アイリ。

「タケルの人間性が・・・ショウコさんを信じさせ、説得したから、ショウコさんは、10年の不幸から、抜け出られたんだもの」

と、アイリ。

「あの時、タケルでなくて、イズミさんが、プレゼンしたら、どういう結果になったか、タケルだって、想像出来るでしょ?」

と、アイリ。

「まあ、そーだな・・・ショウコさんは、イズミのことを激しく嫌うだろうから・・・事態は最悪な結果になってただろうな」

と、タケル。

「大事なのは、他人を信じさせる、説得出来る、プレゼンターの人間性なのよ・・・タケルの人間性にこそ、価値があったの・・・それは認めてくれても、いいでしょ?」

と、アイリ。

「ちょっとこそばゆいけどね・・・まあ、そうかもしれないな・・・以前ガオにも似たようなことを言われたよ「パパは皆に好かれてるから何も心配しないで大丈夫」ってね」

と、頭を掻きながら、タケル。

「私としては、ショウコさんが、価値を認める男・・・鈴木タケルを支える仕事が出来て・・・こんなに誇らしい仕事はないって、思ってるわ」

と、アイリ。

「確かに・・・ショウコさんの洞察力は、半端無いからな・・・僕の周りを見回しても・・・ね」

と、タケル。

「わたしは、タケルの洞察力もすごいと思うけどな・・・でも、ショウコさんは、その上をいくもん・・・信じないわけにはいかないわ」

と、アイリ。

「ショウコさんに、タケルとわたしの写真をはじめて見せた時・・・それだけで、わたしたちを認めてくれた・・・あの瞬間から、すべては始まっていたのねー」

と、アイリは感慨深そうに言う。

「いや、いい知り合いが出来たよ・・・ショウコさん・・・なにかと二人の力になって貰おう・・・激闘の日々をこれから進んでいくためにも、ね」

と、タケル。

「心強い味方でしょ?ショウコさん」

と、アイリはうれしそう。

「ああ・・・いいひとを紹介してくれたよ・・・と言って、イズミもガオも、俺の評価は変わらないけどね」

と、タケル。

「うん。二人共個性的で、いいひとだと、わたしも思うわ」

と、アイリ。

「まあ、でも、楽しいよ・・・アイリといると、いろいろな冒険が出来るから」

と、タケル。

「わたしも、タケルといると、いろいろな冒険が楽しめて、ほんとに、楽しい」

と、アイリ。

「さ、そろそろ起きるか・・・お腹すいちゃった」

と、タケル。

「そうね。今日はブランチって感じかしらね・・・ワインでも飲む?」

と、笑顔のアイリ。

「ああ・・・今日はここに泊まれるからな・・・楽しい時間を過ごそう」

と、笑顔のタケル。

「うん・・・じゃ、タケル、キスして」

と、笑顔で、頬を出すアイリ。

「チュ!」

という音が響いて、楽しい日曜日が始まっていった。


(ショウコ編終り)


ということで、明日11月23日からは、昨年アップしていた「ラブ・クリスマス」が始まります。

まあ、一部手を入れたりして、新しくなっていますので、そのあたりも楽しんでもらえたらと思います。

ま、世界観一緒なので、楽しんでもらえると幸いです。





「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)(7)

2013年11月22日 | 今の物語
4月の上旬の土曜日の午前11時半・・・タケルとアイリは、ショウコと、青山の、とあるビルの前で待ち合わせた。

その日は、晴天で、気分のいい春の日だった。

気持ちのいい陽光が差していた。


タケルとアイリが、連れ立って、そのビルに近づくと、クリーム色のレースのワンピースを着て、うれしそうに手を振る、ショウコがいた。

すらりとしたショウコが満面の笑顔で手を振ると、タケルとアイリの周りの男達がざわついた・・・それくらい、ショウコは美しかった。

「ショウコさん・・・すごいでしょうー」

と、アイリはショウコに近づいていきながら、自慢するように、タケルに言った。

「ああ・・・化粧と服装を変えただけで、あんなに、女性って、美しくなるんだな」

と、タケルは笑顔で言っている。

「ショウコさんは、中身から変わったから、さらに美しくなったのよ・・・さ、走りましょう」

と、アイリはタケルの背中を押しながら、走りだす。

満面の笑みのショウコとの距離が縮まっていく・・・。


「いやあ、すみませんねー。お休みの日にお呼び出てしちゃってー」

と、タケルは笑顔でショウコに言う。

3人はビルの8Fにある、フレンチレストラン「relation delicieuse」で、早速サングリアを飲んでいた。

「最近タケルは仕事が忙しくて・・・金曜日は、本社で会議の後、また、鎌倉に戻って深夜まで仕事だったんです」

と、アイリが説明している。

「だから、土曜日の午前中はタケルには、休んで欲しくて・・・それで、こんな時間にショウコさんに会うことに・・・」

と、アイリが説明している。

「システムエンジニアの仕事は忙しいって言うものね・・・知り合いにシステムエンジニアを夫にしている女性がいるけど・・・まあ、愚痴ばかり聞かされるわ」

と、ショウコは苦笑している。

「アイリは大丈夫?タケルくんの仕事は、そういう仕事らしいわよ」

と、ショウコはいたずらっぽくアイリに聞いている。

「全然?・・・わたしはタケルを支えるために存在しているんだし・・・望むところです」

と、アイリは笑顔。

「それにしても・・・ショウコさんは、大人の美しい女性そのものですね・・・お美しい・・・特に今日のファッションは、春の日の大人の妖精って感じです」

と、タケルは笑顔でショウコのファッションを褒める。

「タケルは、背の高いすらりとした、美人の女性が大好きなんですよ」

と、アイリは、ショウコに、少し笑顔になりながら、言う。

「それを知っていて、白いワンピースを着て僕を落としに来た、美しいすらりとした女性を僕は知っていますけどね」

と、タケルもいたずらっ子のような表情で言う。

「あらあ・・・アイリはそうやって、タケルくんを落としたの・・・初耳ね」

と、洞察力の高い、ショウコは、それだけで、わかってしまう。

「もう・・・タケルったら・・・」

と、アイリは口をつぐむが・・・すぐに笑い出してしまう。

タケルも笑顔、ショウコも笑顔だ。

気持ちのいい陽光の中、皆、サングリアで、楽しそうに前菜をつまんでいる。


「沢村イズミが、この間のことで、お礼を言ってました。ショウコさんのおかげで、母親の呪縛から解かれた、と言って・・・」

と、タケルがショウコに言っている。

「まあ、あいつが、ここに来て直接言えばよかったんですけど・・・まあ、彼も週末はなにかと忙しい身で・・・」

と、タケルが言うと、

「まあ、「ところで、ショウコさんって、何歳?」「36歳だったかな」「あ、それなら、俺、パス」・・・的な会話が交わされたんじゃないの?」

と、ショウコは、洞察力の高いところを見せる。

「ま、多分、見破られるとは、思ってましたけどね・・・彼はおんなとデートしてます。今の時間・・・」

と、タケルは、素直に話している。

「そのイズミくんって、どんな恋愛をする子なの?」

と、女性の恋愛には、一家言あるショウコが、興味を示している。

「そうですねー。彼は自分の恋愛を「猫」と表現していますね。機嫌のいい時はやさしくするけれど、やばくなるとすぐ逃げる・・・そういう恋愛だそうです」

と、タケルは説明する。

「まあ、彼は子供が嫌いなんですけど・・・友人の見立てによると、それは好きな女性を独占したいから、で・・・子供すらライバル視する、強い独占欲を持っているとか」

と、タケルは説明する。

「まあ、彼の場合、あの母親が中1で男と逃げていますから・・・恋愛もものすごく短期で終わる・・・彼に言わせると、母親の代わりに、女に復讐しているんだそうです」

と、タケルは説明する。

「実際会うと、やさしい・・・少し線の細い、傷つきやすそうなところもある、イケメンって感じなんですよ。イズミさんは」

と、アイリはフォローする。

「まあ、タケルの説明だと、すごい感じですけど、実際会うと、いいひとでしたけどね」

と、アイリは言う。

「まあ、僕自身も一緒に住んでるわけですけど・・・まあ、いい奴です。はい」

と、タケル。

「なるほどね・・・猫とは、言い得て妙、というところかしら」

と、すべての情報を聞き終わったショウコは、口をナフキンで拭きながら、赤ワインを飲む。

「そのイズミくんは・・・そのイズミくんの恋愛年齢は母親に捨てられた年・・・つまり中1で止まっているということね」

と、ショウコさんは言う。

「え?恋愛年齢・・・それが中1、つまり、13歳で止まっているってことですか?イズミの場合」

と、タケルはびっくりして聞く。

「ええ・・・今の話を総合すると、そういう結論にならない?」

と、今度は、ショウコの方が、少しびっくりした表情で、話す。

「わたしは、女性のしあわせについて、ずっと考えてきたの・・・もちろん、自分がしあわせになるためにだけど・・・ずっとああいう状態だったからね」

と、ショウコは説明する。

「それは、アイリから僕も聞いてます。男女がお互い自然に笑顔になる関係が最高だと・・・そういうお話だったんですよね」

と、タケルは確認する。

「そう・・・だから、タケルくんとアイリは、今、最高の関係なの・・・だって、最高にしあわせでしょ?二人共」

と、ショウコは二人に言う。

「はい」「はい」

と、二人は頷く。

「「大人の愛、子供の恋」っていう言葉、知ってる?」

と、ショウコが言う。

「いや・・・僕は初耳です」「わたしも・・・」

と、タケルとアイリが言う。

「まあ、いいわ・・・恋というのは、基本、相手から奪うモノなの・・・だから、十代の恋は・・・相手に求めるの。特に女性は、男性になにかしてもらうことが喜びよね?」

と、ショウコ。

「はい・・・男性から誘われたり、キスされたり、思い切り抱きしめられたり・・・それが十代の頃の喜びでしたね」

と、アイリ。

「それは逆も同じよね。男性だって、女性に好きになってもらいたいから、誘うわけだし、・・・まあ、男性的に言うと奪う恋と言った方がいいかしら」

と、ショウコ。

「心を奪う、唇を奪う、処女を奪う・・・男性の十代の恋は、奪う恋・・・いずれにしろ、相手に求めるのが恋なの・・・それは子供の恋なのよ」

と、ショウコ。

「それに引換え・・・愛は与えるモノなの・・・父親は小さい娘に無償の愛を与える。母親は、男の子に無償の愛を与える・・・それが大人の愛」

と、ショウコ。

「つまり、私が言いたいのは、その人がやっている恋愛行為が、与えているのか、求めているのかで、大人か子供か、わかる、ということを言いたいのよ」

と、ショウコ。

「だから、「大人の愛・・・与えるモノ」「子供の恋・・・求めるモノ」というくくりなんですね」

と、タケル。

「そう。だから、イズミくんの恋愛年齢は、13で止まっているから、子供の恋なのよ・・・相手に求めてばかりいて、自分からは与えられないの」

と、ショウコ。

「だから、機嫌のいい時はやさしくする・・・駄目な時は逃げる・・・猫じゃないの・・・子供の恋なのよ」

と、ショウコ。

「だから・・・母親に捨てられた腹いせに、つきあっている女たちに復讐しているって、言ったけれど、それ、要は捨てた母親に責任をとらせようとしているだけなのよ」

と、説明するショウコ。

「母親に一度捨てられたから・・・その責任を母親が取るまで許さないと決意している・・・だから、母親がやさしく謝ってくるまで、わがままし放題で許されると思っている」

と、説明するショウコ。

「だから、女を冷たく捨てても、オバサンをパスしても、女性には何をやっても許されると勘違いしている・・・そういう子供なのよ・・・そのイズミくんは」

と、説明するショウコ。

「イズミくんが、その悲しい勘違いに気づくまで・・・その行為は止まないし・・・母親の呪縛から逃げられないと思うわ、わたし」

と、説明するショウコ。

「だって・・・もし、わたしだったら、そんな幼い子供を相手にしないもの・・・そういうイズミくんを相手にするのは、幼い「子供の恋」しか出来ない女性だけよ」

と、説明するショウコ。

「そう思わない?大人のおんなとして・・・どう?」

と、ショウコは、アイリに聞く。

「うーん、確かに、恋の仕方が拙いというか・・・確かに子供っぽいですよねー・・・わたしは、タケルに大人になることを求めているし・・・」

と、アイリ。

「タケルも、私の為に、大人になろうと日々努力してくれるし・・・そういう二人から見れば、確かに、イズミさんの恋の仕方は、ちょっと拙く感じますね」

と、アイリ。

「でしょ?タケルくんは、アイリの為に大人になることが、今の人生のテーマになっているんでしょ?」

と、ショウコは今度はタケルに振る。

「ええ・・・女性をリード出来る大人の男性になる・・・これが、僕の今の生きるテーマですから・・・ということは、大人になることって・・・」

と、タケルは少し口ごもる。

「大人になることって、大人の女性に、愛を与えられるようになる・・・そういうことになりますよね?」

と、タケルはショウコに聞く。

「そう。男性の、大人の愛は、無償の愛を、女性にも子供たちにも与えられるようになることよ。女性の大人の愛も、無償の愛を、男性にも子供にも与えられることよ」

と、ショウコは、話す。

「そういう意味じゃ、アイリは無償の愛を僕にくれてます。僕も出来るだけ早く、無償の愛をアイリに与えられるようにしなくっちゃ・・・」

と、タケル。

「タケルも、無償の愛を私にくれているじゃない・・・大人になってる証拠じゃない?それ」

と、アイリ。

「それが本当だったら、二人共大人!ってことになるけど・・・でも、二人だけの時は、甘えまくってるんじゃないのー?」

と、ショウコは笑う。

「え、まあ、それは当然・・・」「まあ、それは、ねー」

と、笑顔のタケルとアイリ。

「しかし・・・そうかー・・・イズミはまだまだ、母親の呪縛に囚われているのか・・・恋愛年齢は、13歳のまま止まってるのか・・・」

と、タケル。

「子供はいつか大人にならなくては、いけないの・・・イズミくんも子供のままだと、回りに置いていかれちゃうと思うけどな」

と、ショウコは、静かに言う。

「「大人の愛、子供の恋」か・・・だから、イズミさんの恋は相手に求めてばかりなのね・・・与えることが出来ないから、うまくいかなくなるのね・・・」

と、アイリも赤ワインを飲みながら、考えている。

「ま、それとなく、本人に知らせておきますよ・・・あいつ、もう、母の呪縛から抜け出せたと勘違いしてるから・・・」

と、タケル。

「でも・・・ショウコさんって、すごいですね・・・あのイズミの上を行く人がいるとは・・・」

と、タケルは素直に驚いている。

「私も長く苦しんできたから・・・経験がいつしか知恵になるのよ・・・」

と、ショウコは素直に言う。

「タケルくん、どうやら、借りの10分の1くらいは、返せたようね」

と、笑顔のショウコ。

「ええ。10分の1なんて・・・けっこうな割合で返してもらいましたよ」

と、タケル。

「ううん・・・わたしはあなたに本当に感謝しているの・・・こんなのことでは、まだまだ、返せないくらいにね」

と、笑顔のショウコは、美しい。

「さ、話題を変えようか・・・そういえば、二人は将来、どんな場所に住みたい?ロンドン?パリ?ニューヨーク?」

と、ショウコは、話題を変え、さらに楽しい時間を過ごそうとしていた。


土曜日の午後は、楽しい時間だけが過ぎていった。


(つづく)


というわけで、ショウコさんも綺麗になってよかったです。

さて、というわけで、「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(8)(ショウコ編最終回)

ですが、11月22日 10時にアップしますので、よろしくお願いします。


ではでは。

「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)(6)

2013年11月21日 | 今の物語
4月頭の火曜日の夜、八津菱電機鎌倉華厳寮の203号室では、沢村イズミ(24)が、鈴木タケル(27)を前に激昂していた。

「糞!こんな事件が起こっていながら、俺に隠し立て出来ると思っていたのか!オヤジも、叔父さんも!」

と、イズミは、肉親に対して怒っていた。

「まあ、立場というのが、あるんだろ・・・むしろ、いつバレるかとビクビクしていたんじゃないか。二人共・・・」

と、タケルが言うと、イズミは、その言葉に鉾を収める風情を見せる。

「イズミが知らないのであれば・・・一生知らせたくない・・・そういう親心じゃないか・・・それは」

と、タケルが言うと、イズミも少し考える。

「そうだな・・・パパの言うとおりだ・・・肉親のやさしさって奴か・・・自分にリスクを負ってでも・・・俺がかわいかったのかな」

と、イズミもそのあたりは、大人だ。


「大島で、殺人未遂!捨てられた腹いせに、女性を逆恨み!女性は10年のうちに、6人の男を取っ替え引っ替え・・・女性の規範意識低下?これでいいのか、日本!」


という見出しで、大島新聞の記事がスクラップされていた。

記事は、女性がそれまでつきあっていた男性を捨て、新しい男性に乗り換えたことに腹を立てた、前の男が、女性を殺そうとした事実を伝えていた。

「女性に、処女性までは求めないが、女性の規範意識のあまりの低下が、男性の殺意を呼んだ、現代のある種の女性を、象徴的に現した事件である」

と、記事の最後にはあったが・・・この事件の主人公が、沢村イズミの実の母親、千草果穂(42)だった。

「女性は、42歳という年齢に似合わず若々しく美貌で・・・それが女性の本性を現す結果につながったと思われ・・・」

などの記事まである・・・これは、当時の男性誌の記事の切り抜きだ。

「女性は、それまで、嫁いでいた長野市内の男性(53)と離婚すると、取っ替え引っ替え男性とつきあったようで・・・」

と、記事にある。もちろん、この長野市内の男性こそが、イズミの父親だ。

「現在の女性の写真を見せると、長野市内に住む、幼馴染の男性は、「若い頃より、むしろ綺麗になってる」と証言した」

と、記事にある。

「女性は、男性と取っ替え引っ替え付き合ううちに、さらに美しくなっていったと思われる。男性に愛されるうちに、女性は、自分というものを見失い、本能のまま行動したのだろう」

と、記事にある。

「本能のまま行動し始めた彼女は、やがて、自分が愛してあげているんだ、と、男性より高い意識に到達し、男性を見下すようになり、あげく、相手の男性に殺意まで抱かせた」

と、記事にある。

「彼女は、今は、傷を受けて病院に入院しているが、やがて、退院する。その時が、彼女にとって、悪夢の始まりにならないことを祈る」

と、記事は結んでいる・・・最後の記事は、一昨年の5月だ・・・イズミらは、まだ、長い研修期間にいる頃だった。

別の男性誌の記事には・・・イズミの父の名前まであった・・・そして、果穂の子である、イズミの名も・・・ショウコは、そのイズミの名前を覚えていたのだった。


「皮肉なもんだ・・・今の俺の行動と・・・この母親の行動は、シンクロしている・・・俺はまだ、女に殺意を抱かせるところまでは行ってないけどね」

と、座って、再度資料を読み込んだイズミは、冷静にそう言葉にする。

「俺の今の行動は、血だったんだ・・・しかも、母親の・・・」

と、イズミは、顔面蒼白になって、そう話す。

「だとしたら・・・俺が母親に会って、文句を言ったくらいじゃ、治らない・・・そういうことにならないか?パパ」

と、イズミは瞳に涙を浮かべながら、タケルに語りかける。


「そうは、絶対にならないよ。イズミ」


と、部屋の扉を開けて入ってきたガオが、言う。

「ガオ・・・なぜ、ここに・・・」

と、イズミはびっくりしてガオに聞く。

「難しい話は、いつも、3人で考えて来たじゃないか。3人で乗り越えて来たじゃないか・・・」

と、タケルが、言う。

「だから、ガオには、あらかじめ資料も見せて・・・この時間にここへ来るよう言ってあったんだ」

と、タケルが、言う。

「イズミ、お前が女性を取っ替え引っ替えしているのと、イズミの母親が男性を取っ替え引っ替えするのとでは、求めているモノが最初から違うぞ」

と、ガオが言う。


ガオはそう言いながら、イズミとタケルの前にどっかりと座る。


「まず、イズミの母親・・・果穂さんだっけか・・・その果穂さんは、自分が真に愛せる・・・自分が安心して、尽くせる相手を探しているんだ」

と、ガオは言う。

「そして、イズミ、お前は、お前に安心して尽くしてくれる女性を探しているんだろ?まあ、美しくなくちゃダメ!とか、ハードルは高いけれど、な」

と、ガオは言う。

「お前が、子供を嫌うのは、女性がお前一人に尽くしてくれるのを心の底で望んでいるからだ・・・家族の中にライバルはいらない・・・そう思っているからだよ」

と、ガオが言う。

「そういう意味では、お前と果穂さんは、徹底的に追求していく性格という点では同じだ。だが、決定的に違うのは、お前は男で、果穂さんは女だと言うことだ」

と、ガオは言う。

「お前は徹底して、尽くしてくれる女性を探しているだけだ・・・仕事が終わった後、徹底して甘えさせてくれる女性を探しているだけだ・・・違うか?」

と、ガオは言う。

「そうだ・・・ガオの言うとおりだ・・・俺はガキさえライバル視しているくらい、尽くす女を独占したい・・・今わかった・・・それが俺の本音だったんだ」

と、イズミは、自分の本音に驚きながら話している。

「独占したい気持ちが強いんだ・・・それだけ、お前は、女を深く愛しているし、逆に深く愛して欲しいんだよ・・・それがお前の本音だ」

と、ガオ。

「一方、果穂さんだが・・・これは、パパの方が説明出来るだろ・・・俺は女性心理は、さっぱりだからな・・・というか、パパに対する、イズミの教育がよかったんだな」

と、笑顔になるガオ。


「俺の見る所・・・この資料を読み込んで・・・まあ、会社でも調べてみたんだが・・・果穂さんは自分とバランスの取れる相手を探していたらしいことがわかる」

と、タケルは言う。

「ただ、果穂さんは、できるだけ辺鄙なところに逃げ込んでいたようだから・・・いい男性に会えなかったんだよ・・・妥協出来なかったんだな・・・一度きりの人生だものな」

と、タケルは言う。


「私は妥協って言葉が嫌いなの・・・自分とバランスのとれる男性を探したい・・・これは全女性の願いでしょ?だから、妥協なんてしないわ」

と、片桐ショウコは、アイリと会っていた、イタリアンレストラン「グラッチェグラッチェ」で、そう話した。

「女性のしあわせとは、何かと考えた時、わたしの頭にあるのは、自分に素直に笑顔が出せるってことなの・・・妥協して相手を選んだら、そんなこと自然に出来ない・・・」

と、ショウコは言った。

「目の前の男性に素直に笑顔を出せること・・・心から自然に笑顔が出るようでなければ、そのカップルは本当にしあわせになれるカップルじゃない・・・」

と、ショウコは言った。

「だから、私がアイリとタケルくんのしあわせそうな写真を初めて見た時、「あなたたちはしあわせになるわ」って言ったのよ。そういう思いがあるから、言ったのよ」

と、ショウコは言った。

「あなたとタケルくんの写真・・・それはそれは、自然なしあわせそうな笑顔同志だったもの・・・それが本当のしあわせを掴めるカップルだとすぐわかったわ」

と、ショウコは言った。

「それに対して、この千草果穂っていう女性・・・一生懸命そういう男性を探していたんだと思うわ・・・でも、出会えなかった・・・見つけに行く場を間違えていたのよ・・・」

と、やさしい笑顔で、ショウコは言う。

「だから、不幸になった・・・見つける場所が問題だったの・・・その違いが、こんなにも差を生むの・・・アイリ、私が言っていること、わかるわね?」

と、ショウコは、アイリに訊く。

「え、どういうことですか?」

と、アイリはポカンとした表情で、ショウコに言う。

「この千草果穂という女性の反対側にいるのが、あなただってことよ・・・タケルくんという本物の相手を見つけた・・・あなたが、正反対の場所にいるってこと」

と、ショウコは強い口調でアイリに言う。

「タケルくんも、あなたも・・・自然な笑顔で、しあわせを感じられる同志でしょ!」

と、ショウコは指摘する。

「はい。そうです。わたしたち、しあわせになるんです!」

と、アイリはしあわせそうな笑顔で、言う。

「もう、2度目よ、そのセリフ・・・」

と、苦笑するショウコ。

「いずれにしても、女性のしあわせって、本物の相手を探せるかどうかにかかってる・・・探す場所も大事ってことよ・・・この女性は探し方を間違えただけなのよ」

と、ショウコ。

「この女性は、どこにでもいる・・・青い鳥を探している、かわいい少女なのよ・・・」

と、ショウコは結論付けている。


「ショウコさんは、そう言ってる・・・お前が助けたショウコさんは、お前の為に、果穂さんのことをそう分析してくれた・・・」

と、タケルはそういう話し方をした。

「俺もアイリも、そのショウコさんの意見に同感だ・・・まあ、女性心理に長けたお前ならとっくにわかっていただろうがな」

と、タケルがニヤリとしながら、言う。

その言葉を聞いたイズミは・・・ニヤリと笑う。ガオもそれを聞きながらニヤリと笑う。

「相変わらず、いい落とし所に落とすのが、うまいな、パパは・・・」

と、ガオが唸るように言う。

「そう言われちゃあ・・・女性心理の師である、俺は何も言えんよ・・・パパ・・・いや、ショウコさんの言う通りだ・・・俺のおふくろは・・・」

と、イズミ。


「ということは、イズミは女性を独占したいから、子供が嫌いと言っているだけで、女性がそこらへんうまくやってくれれば・・・子供もオッケーってことになるじゃん?」

と、タケル。

「ん?まあ、そういうことになるかな」

と、イズミ。

「だったら、そういうあたり、相手の女性に匂わせるようにしていけば・・・うまくプレゼンできれば・・・お前の女探しの旅も早く終わるんじゃん?」

と、タケル。

「ほう、長年の宿痾が、とれそうだな。イズミ」

と、ガオ。

「そうだな・・・俺は母親とは、違う理由で、女探しをしていたんだから・・・その処方箋さえ、わかれば・・・すぐにでも・・・」

と、イズミ。

「だとしたら、もう、母親を探す必要もないってことになるけど?」

と、タケル。

「そうだな・・・そうか、母親の呪縛なんて、最初から、無かったんだ・・・俺・・・」

と、イズミは、そのことに気がついて感激している。

「もう、俺、自由なんだ・・・俺は自由に恋を出来る男になったんだー」

と、イズミは、叫び、思わず立ち上がる。

「よかったな、イズミ」「うん、ほんとに、よかった」

と、タケルもガオも、うれしそうにする。

「よし・・・せっかく、うれしいことがあったんだ・・・飲もうぜ、楽しく」

と、ガオがうれしそうに誘う。

「ああ、イズミも新しい道を見つけた・・・目出度いよ」

と、タケル。

「俺もうれしい・・・なにか、霧がパーーーっと晴れたような気持ちだよ」

と、イズミ。

「イズミが、ショウコさんを助けたから、回りまわって・・・イズミを成長させてくれたんだ」

と、タケルが言う。

「「情けは人の為ならず」って、奴か・・・目の当たりにすると、ほんとだなって、素直に、思えるな」

と、ガオ。

「ショウコさんって女性に、シナリオ作っておいて、良かった・・・俺、そのショウコさんって、人にお礼を言わなきゃ・・・是非!」

と、イズミは感激している。

「わかったよ。ま、とりあえず、今日は飲もう」

と、タケルがイズミの肩を叩きながら、言うと、

「そだな」「そうそう・・・飲もう飲もう」

と、イズミとガオが賛成している。


イズミの顔が晴れやかに輝いていた。

タケルもガオも、そんなイズミを見て、うれしそうにしていた。


鎌倉の夜は、やさしく、しあわせそうに更けていった。


(つづく)


えー、「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)は、あと2回ありますので、

明日の午前6時頃と、午前10時頃にでも、アップしたいと思います。

で、11月23日から、「ラブ・クリスマス」が始まりますので、よろしくお願いします。

まあ、同じ世界感ですので、もちろん、ショウコさんも大事な役回りで出てきますし、

僕の大好きなキャラ、イズミくんも出てきますので、よろしくです!


「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)(5)

2013年11月20日 | 今の物語
「おはよう!」

と、朝、社に現れた片桐ショウコ(36)は、白に近い薄いベージュのフリルスカートのスーツを着ていた。

すっぴんに近い、ナチュラルメイクのやわらかい笑顔は、同じフロアの男性編集者のハートを虜にするのに十分だった。

4月頭の月曜日、ショウコは、雑誌「Joie」の美人編集長に変身していた。


季節は春に変わっていた。


「ショウコさん・・・すごい変わりようというか・・・いきなり、さわやか系の美人に変わりましたねー」

と、夕方、イタリアンレストラン「グラッチェグラッチェ」で、ショウコと待ち合わせたアイリは素直に感想を述べる。

「まあ、わたしだって、これくらいのおしゃれは出来るのよ・・・今までは単に男を避けてたから・・・そういうおしゃれにしていただけで・・・」

と、ショウコはやわらかな笑顔で話している。

「タケルも、今のショウコさんに会ったら・・・正直驚くと思います・・・タケル、美人が大好きですから・・・」

と、アイリは苦笑する。

「それくらい、わかるわ・・・だって、社で一番美人な、アイリの彼氏ですもの・・・」

と、ショウコはやわらかく笑う。

「ショウコさん・・・話し方まで、全然変わってしまって・・・まあ、私もうれしいですけど・・・ショウコさんが素敵になって」

と、アイリはうれしそうに白ワインを飲みながら、話す。

「ありがとう。これも、すべて、あなたとタケルくんのおかげよ」

と、白ワインを飲みながら、やわらかく笑うショウコは、美しい。


と、一転、ショウコは、厳しい表情に変わる。

「私は、女性とは、どう生きて行ったら、しあわせを掴めるのか・・・あるいは、しあわせを投げ出す生き方は何か・・・これまで、ライフワークとして、ずっと調べてきたの・・・」

と、ショウコは、人生の求道者と言った風な表情で話をする。

「私自身、少し厳しい時代を過ごしていたから、余計、女性のしあわせに対して、光を求めていたり、あるいは、他人のふり見て我がふり直せ的なモデルケースを探していたの」

と、ショウコは話す。

「だから、それに関する資料をごく個人的に集めていたのね・・・まあ、一部は、社に保管していたんだけど・・・」

と、ショウコは話す。

「そういう資料の一部に・・・アイリが言ってた、沢村イズミさん絡みの話・・・今朝、社で調べていろいろわかったの・・・」

と、プラスチックファイルに入った紙の資料をショウコは、カバンから、出してくる・・・。

「かなり、ワケありじゃない?そのイズミって子・・・」

と、ショウコは真面目な顔で言いながら、そのプラスチックファイルをアイリの目の前に置く。

「もちろん、彼のお母さんの話なんだけど・・・」

と、ショウコは、アイリの目を、ゆっくりと見つめて言った。


4月頭の金曜日の夜11頃・・・タケルはアイリのマンションのダイニングにいた。

会社から直接アイリのマンションに来たタケルは、風呂に入り、気持ちよく身体を洗い流すと、体を拭き、部屋着に着替えていた。

アイリはビヤジョッキをキンキンに凍らせて、そこに冷たいビールを注いだ・・・タケルは、風呂あがりの冷たいビールを心の底から楽しんだ。

「うわあ・・・金曜日の夜のビールは、仕事モードからリラックスモードへのスイッチ切り替えになるねー」

と、タケルは喜んでいる。

「季節は春だし・・・この週末は、上野にでも、花見に行こうかー」

と、タケルはキンキンの冷たいビールに上機嫌である。

「ふふ・・・上野に花見ね・・・デパ地下で、お弁当買って、ワインも買って・・・もちろん、ビールも買って・・・思う存分、桜を楽しむ?タケル」

と、アイリもタケルの案にノリノリである。

「まあ、その前に・・・今日はドイツ製のソーセージをたくさん買ってきたから、それでビールを楽しんでね・・・ほら、ホットドックも、もうすぐ出来るから」

と、ピンク色のエプロンでうれしそうなアイリは、ノリノリだ。

プリっと音をさせながら、ソーセージを頬張るタケルは、

「これ、うめー・・・ビールによく合う・・・」

と、嬉しさを爆発させている。

「たくさん食べてね」

と、やさしく微笑むアイリに、

「もちろん・・・ほんと、週末は天国だね、アイリ」

と、ほほえむタケル。

「そう言ってくれると、うれしい、タケル」

と、上機嫌で話すアイリだった。


土曜日の朝、二人は一緒にウォーキングをしていた。

薄いブルーのウォーキングウェアに身を包み、同系色のキャップを被ったタケルは、白いランニングシューツで、

ピンク色でウェアを統一したアイリの横を一緒に歩いている。

二人共リラックスした表情で、いかにも楽しそうだ。

「ウォーキングって、気持ちいいね。自転車でも、サイクリストハイになるけど、ウォーキングでも、ウォーキングハイになるんだね」

と、タケル。

「そう・・・わたしはいつもジョギングしているから、運動強度は落ちるけど、でも、週末はウォーキングで、身体の疲れを積極的に取ろうとしているの」

と、アイリ。

「積極的にって、どういうこと?」

と、タケル。

「足に溜まった、乳酸と言う、疲労物質を排出してるのよ」

と、やわらかい笑顔で言うアイリ。

「アイリは、ほんとに、いろいろ詳しいよね・・・おかげで、いろいろ勉強になるよ。僕も」

と、タケルはアイリのスポーツの知識に脱帽している。

「でも、こうして、タケルと一緒にウォーキングできるのが、わたしは、一番、嬉しい」

と、やわらかい表情のアイリ。

「一緒に気持ちよくなれるし・・・たくさん、お話も出来るから・・・」

と、少し赤くなるアイリ。

「なに、アイリ、赤くなっているの?」

と、不思議そうにするタケル。

「ううん、何でもないの・・・それより、ショウコさんが言ってた・・・イズミさんの話で、後で話があるから・・・」

と、真面目な顔をして、話すアイリ。

「ショウコさんから、情報を貰ったんだな、アイリ」

と、タケルの顔は、それまでの少年のようなリラックス顔から、真面目な大人の表情に変貌する。

「ええ・・・」

と、アイリも、真面目な大人の女性の表情に戻る。

「それは、楽しみだな・・・というか・・・怖いもの見たさだけどね・・・」

と、タケルはつぶやくと、二人は真剣な表情で、ウォーキングを続けるのだった。


「これが、そのショウコさんから、貰ったプラスチックファイル・・・」

と、アイリは、朝食後、タケルの座るダイニングテーブルの上に、ショウコに貰ったプラスチックファイルを置く。

タケルはファイルを開けると、中の資料を出して、目を通す・・・。


タケルはひと通り資料に目を通すと、深くため息をつき、資料をテーブルの上に戻す。


「アイリも見たんだよな、この内容・・・」

と、タケルが確認すると、アイリは首を振る。

「タケルが判断して・・・わたしが見ていい内容かどうかを・・・わたしはその決定に従うから」

と、アイリは真面目な表情でタケルを見る。

「なるほど・・・そういうことか・・・」

と、タケルは少しニヤリとするが、

「是非見ておいた方がいい・・・と言って、これはイズミの母親の問題であって、直接、イズミに関係ない・・・むしろ」

と、タケルは言いかける。

「むしろ?」

と、アイリが聞く。

「むしろ、イズミは被害者だよ・・・あいつの性格がああなった原因は、彼女にあった・・・だからこんなことに・・・」

と、悲しそうな表情のタケルは言いながら、プラスチックファイルを、アイリに渡す。


資料をひと通り読んだアイリは・・・同じように悲しげな表情で・・・タケルを見る。


「ショウコさんのことで、イズミには、相当世話になった・・・ショウコさんから、ヒデさんの呪縛を取り除いたのは、イズミの力に依るところが大きい」

と、タケルは冷静に話す。

「そのショウコさんから、イズミの母親についての、こういう情報が出てくるとは・・・なんという皮肉なんだろうな」

と、タケルは話す。

「ううん・・・皮肉じゃない・・・イズミさんが尽力したからこそ、本当のことが・・・お母さんの本当のことが、わかった・・・そういうことなんじゃないかしら?」

と、アイリ。

「なるほど・・・情けは人の為ならず・・・そういうことか」

と、厳しい目でタケルは言う。

「他人の為にいいことをしてあげれば・・・結局、自分に回り回って帰ってくる・・・しあわせ理論のひとつだな、これは」

と、タケルはそう話す。

「大切なことだよ・・・生きていく上では、大事なことだと、僕は思うな」

と、タケルが話すと、

「わたしも、そう思う・・・わたしもそういう思いで、これから、生きていきたいわ」

と、アイリも真面目な顔をして、タケルへの共感を訴えている。


「問題は、この話を、どうイズミに伝えるか、だ・・・」

と、タケルは少し考えこむ。

「まあ、イズミはショックを受けるだろう・・・普通にね・・・」

と、タケルは真面目な表情で話している。

「アイリは女性だ・・・女性として、そのお母さんの行動、共感出来るか?」

と、タケルは真面目な表情で、アイリに聞いている。

「共感は出来ないけど・・・そういう女性はいるだろうな、とは思うわ・・・」

と、アイリ。

「まあ、女性心理には、長けた男だ。イズミは・・・そこに賭けるしかないな・・・」

と、タケル。

「つらいお仕事、させちゃうわね・・・タケル」

と、アイリは、タケルの手を握る。

「いや、これくらい・・・一番つらいのは、現実を知るイズミだ」

と、タケルはアイリの手を握り返していた。


4月上旬の火曜日、夜9時の八津菱電機鎌倉華厳寮の203号室には、タケルとイズミが戻っていた。

田島ガオ(28)は、3月の下旬に自分のアパートに引越し、この部屋は2人部屋になっていた。

「パパの言うとおり、9時前に帰ってきたぜ。まあ、4月のこの時期は、前期の頭だし、まだ、仕事が緩やかだから、問題ないけどね」

と、沢村イズミ(24)は、話している。パパと呼ばれた鈴木タケル(27)は、部屋着に着替えると、アイリにもらったプラスチックファイルをカバンから出してくる。

「イズミには、この間、ショウコさんの問題に関してシナリオ作りを手伝って貰って・・・その御礼じゃないんだけど・・・イズミが知りたがってたお母さんの消息がわかったよ」

と、タケルは静かに言う。

「まあ、正確に言うと、今現在の消息じゃない・・・少し前のお母さんの消息・・・と言ったところか・・・」

と、タケルは、プラスチックファイルを手に持ちながら、イズミに言う。

「このプラスチックファイルに、お母さんが起こした・・・というより、起こされた事件についての資料が全て揃っている。事件は、一昨年の4月に起きている・・・」

と、タケルは言う。

「ちょうど僕らが、この華厳寮で、外の情報を完全に遮断されて新人研修を受けていた時期だ・・・だから、イズミも気が付かなかったんだろう」

と、タケルは言いながら、プラスチックファイルを、イズミに渡す。


イズミは、貪るように、プラスチックファイルの中身を見ている。


「というか・・・なぜ、お父さんや叔父さんがこの事件の内容をイズミに教えなかったか、だ・・・」

と、タケルは言う。

「ま、多分、母親の本性をイズミに知られたくなくて・・・そんな母親を愛したイズミのお父さんも、親戚の叔父さんも立場上・・・隠すことに決めたんだろう・・・」

と、タケルは言う。


タケルの、その言葉を聞きながら、イズミは、中の資料を、凄まじい勢いで、読み込んでいる。


タケルは静かにイズミの様子を見守っている。

イズミは、資料をあらかた読み終えると、ため息をついて、顔をあげる。

「ふ、そういうことだったのか・・・皮肉だよな・・・なあ、パパ」

と、血を吐くような表情で、イズミは、タケルを見る。

「これで、すべてのパズルが解けた・・・違うか、イズミ」

と、タケルは言う。

「ああ、そういうことだ・・・そういうことだよ!」

と、イズミは激昂し、資料を畳に叩きつけた。


タケルは、悲しくその様子を見ていた。


(つづく)

「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)(4)

2013年11月19日 | 今の物語
3月下旬の金曜日の夕方、アイリとショウコは、行きつけのイタリアンレストラン「グラッチェグラッチェ」に来ていた。

「タケルも、そのショウコさんの赤いバングルに興味を持っていました・・・そのバングルに隠された謎の男の話・・・そんな表現をしていました。タケル」

と、アイリは話す。

「タケルくんは、わたしが、していたこのバングルに気づいてすぐに評価してくれた・・・女性が相手の男性に何を一番に伝えたいか・・・それをまっ先にわかる男・・・」

と、ショウコは話す。

「それがわかるのが、タケルくんね・・・女性の心を一瞬にして、丸裸にする男・・・でもあるわ、彼」

と、ショウコは、赤ワインを飲みながら、話している。

「彼・・・わたしと出会った頃は、女性の気持ちなんて、正直全然わからなかったんですよ・・・少年そのものだったのに・・・」

と、アイリも、赤ワインを飲みながら、なんとなく甘い記憶を思い出している。

「それが彼・・・わたしの気持ちを読み取れるようになりたいって・・・わたしをしあわせにするために、女心を勉強したんです。必死になって」

と、アイリは説明する。

「へー・・・でも、どうやって?」

と、ショウコは今日は煙草を吸っていない。

「彼のルームメイトに女性心理を操る天才がいるんです。沢村イズミさんっていうんですけど・・・タケルは、その彼について、勉強しているみたいです」

と、アイリは説明する。

「沢村イズミ・・・その名前どこかで・・・あれ、どこで聞いたんだろう・・・」

と、ショウコは必死になって思い出そうとしている。

「え、ショウコさん、イズミさんを知っているんですか?」

と、アイリはびっくりして言う。

「ううん・・・知っているのではないわ・・・正確に言うと、その名前に触れたことがある・・・という程度だけど、何か大事な話絡みだったような・・・」

と、ショウコは思い出そうとしている。

「だめ・・・完全に記憶が欠落してる。でも、社に帰れば多分わかるわ・・・それはあとにしよう・・・そう。女心を必死に勉強したんだ、タケルくん」

と、ショウコはワインを飲みながら話す。

「彼が言ってました・・・赤いバングル絡みの男と、タケルが比較されたんだろうって・・・それ、合ってますか?」

と、アイリはタケルの推理の結論部分をショウコに話してしまう。

「はははは・・・なるほど、そこまで、読まれてたの・・・そうね。ある意味、正解かしら・・・」

と、ショウコは苦笑する。

「そのバングルをくれた男は、ある広告代理店のキレる男だった・・・わたしが、まだ、20代の頃・・・もう、10年近く前ね・・・」

と、ショウコは話す。

「仕事が出来る割に、どことなく少年の面影のある、綺麗な男だったわ・・・私たちはすぐに恋に落ちた・・・私も美人だったのよ、当時は」

と、ショウコは苦笑しながら話す。

「ショウコさんは、今でも美人ですよ。ちょっと男っぽくしてるけど・・・」

と、アイリ。

「ふ。それ訂正しなさい・・・オヤジっぽく、でしょ」

と、笑うショウコ。

「わたしには、ショウコさん、わざとオヤジっぽくしているように見えますけど・・・」

と、アイリは引き下がらない。

「ふ。まあ、いいわ・・・その彼、ヒデユキっていう名前だったから、私は、ヒデって呼んでたんだけど・・・大きな仕事を任されて大成功してね・・・」

と、ショウコ。

「私も、もちろん、大感激して、祝福した・・・当時は、週末同棲みたいな状況だったから、それを機に結婚しようって、話になったの・・・」

と、ショウコ。

「その夜、彼はわたしを連れだして・・・近くのアクセサリーショップで・・・その頃は、その時間に開いている店はそこしかなかったの・・・」

と、ショウコ。

「その時、買ってくれたのが、この赤いバングル・・・「赤は、俺のお前に対する熱い情熱だって」・・・彼、そう言ってたわ・・・」

と、ショウコ。

「お酒の力を使わないと、そういう甘い言葉の言えない・・・根は真面目なひとだったの・・・私は大感激して・・・これがエンゲージリングの代わりだったのよ、彼にとっては」

と、ショウコ。

「その後、程なくして、彼はある仕事でハワイに行った・・・帰ったら、二人は、挙式をする予定だったの」

と、ショウコ。

ショウコは、そこで、ふと、アイリを見つめる・・・少し言葉を出すのをためらっているよう。

アイリは真剣な眼差しでショウコを見ている。

「彼は現地で死んだ・・・最初は交通事故だって、言われたけど・・・誰かに刺されて亡くなっていたそうよ・・・」

と、ショウコは、ゆっくりと話した。

「それを聞いた瞬間・・・わたしは死んだの・・・美しかったショウコは死んで・・・あとに残されたのは、ただの抜け殻になった片桐ショウコ」

と、ショウコは話した。

「それ以来、私は男を近づけなくなった・・・仕事に徹した・・・仕事に徹することで、その記憶から逃れてきたの・・・その記憶が私を呼び続けるから」

と、ショウコは話す。

「怖いのよ・・・ヒデが未だに私を暗闇の中に引きずり込もうとするの・・・だから、わたしは女っ気を一切消して・・・オヤジでいるのよ」

と、ショウコ。

「それが私のすべて・・・これまでの人生のハイライトよ」

と、ショウコは話す。

アイリは、初めて知った事実に、たじろぐことも出来ずにただただショウコの目を見つめるだけ。

「ごめんね・・・重い話しちゃって」

と、ショウコは、少しくつろぐ。

「ヒデは浮気してるって、聞いてたの・・・当時から、わたし・・・」

と、ショウコ。

「その浮気相手が、婚約をしたヒデの後にこっそり付いてハワイまで行って・・・現地で殺したらしい・・・そんな噂を聞いたわ・・・」

と、ショウコ。

「もちろん、真相は闇の中・・・でも、時折、夢のなかでヒデが叫ぶのよ、「俺は悪くない!」って」

と、ショウコ。

「だから、早く、その闇から、抜け出したかった・・・」

と、ショウコ。

「アイリが、はじめて、タケルくんの写真を見せてくれた時・・・私言ったでしょ・・・10年若かったら、手を出してるかもって」

と、ショウコ。

「確かに・・・そうでしたね」

と、アイリ。

「あれは、本音だったのよ・・・タケルくんの写真を見た時・・・ヒデと同じような匂いを感じたわ・・・女性が自然と愛してしまう・・・そんな匂い・・・」

と、ショウコは真面目顔で話す。

「ヒデと初めて出会った時のような・・・そんな気分だった・・・」

と、ショウコは遠くを見るように話す。

「だから、タケルくんなら・・・ヒデのこと、忘れさせてくれるんじゃないかと、思ったのよ」

と、ショウコはアイリの目を強く見ながら話す。

「タケルくんに会うことで、ヒデとのことを、すべて払拭できるんじゃないかって、その瞬間、思ったのよ・・・」

と、ショウコは、真面目な顔をして、アイリに話す。

「その時が、ついに来たかもって、わたし思って・・・それで、あの日、ここに到着してから、ヒデに貰った、赤いバングルをこっそり、はめたの・・・賭けだったわ」

と、ショウコ。

「わたしの人生を賭けた・・・10年という長い年月をかけた・・・賭けそのものだった・・・」

と、ショウコ。

「そしたら・・・タケルくんは、わたしの思いを全部すくい取るように・・・「その太めのバングルがいいですね」って、言ってくれた・・・」

と、ショウコ。

「そしたら、わたし・・・わたしだけでなく、ヒデのことも、許された・・・そんな気分になって・・・すべての思いが消えたの」

と、ショウコ。

「昇華された・・・わたしの過去も、ヒデの思いも、すべてが・・・タケルくんのたった一言によって・・・そう思えたから、気分がよくなって、上機嫌になれたのよ」

と、ショウコは、全てを説明する。

「そういうことだったんですか・・・」

と、いつの間にか後ろの席に座っていたタケルが、静かに、立ち上がる。

「タケルくん・・・今の全部聞いてたの?」

と、ショウコは少し驚きながら・・・それでも、冷静にタケルに聞く。

「ええ・・・ショウコさんが、向こうを向いて座っていたんで・・・店のひとに頼んで、後ろの席にいさせて貰いました」

と、タケル。

「僕が居ない方が・・・アイリだけの方が、ショウコさんも、素直に話せるかなって、思って・・・」

と、ニヤリとするタケルは、アイリ達の方に、歩いてくる。

「まあ、このアイデアはアイリと朝、打ち合わせしていた時に、「でも、ショウコさんって、男子がいると、壁を作る時があるのよねー」って、聞いたんで・・・」

と、タケルは頭を掻いている。

「じゃあ、それなら、アイリに最初から、ショウコさんには、壁側を向く席に座らせろ、と僕が指示を出しまして・・・店にもあらかじめ随分要求を飲んで貰って・・・」

と、ショウコの目の前に、立って、説明するタケル。

「まあ、アイリのアイデアですよ、これは」

と、笑いながら、タケルは、アイリの横に座る。

「なるほど、そういうバングルだったんですか・・・そのヒデさんの気持ち・・・僕にもよくわかります・・・」

と、タケル。

「なにせ、プロポーズの時に、お金が無くて、アイリに、エンゲージリングを渡せず、銀の指輪を渡した人間ですから」

と、しれっと言うタケル。

「結婚はしたいけど、まず、その気持ちを形にして、相手に渡したい・・・相手の喜ぶ顔が見てみたい・・・なにより、しあわせ感を感じさせたい・・・」

と、タケル。

「ヒデさんは、きっと、僕と同じことを考えて、そのバングルを送ったんです。都内を探しまわって、やっと一軒だけ開いている店を見つけた・・・そんな所じゃないですか?」

と、タケル。

「そ、そうよ」

と、ショウコ。

「気持ちを形にしたくて・・・ショウコさんの笑顔が早く見たかった・・・そんなひとが、浮気なんかするはずありませんよ」

と、タケル。

「きっと、ショウコさんとの結婚が現実になるのが、うれしくて、不用意に交差点を渡ってしまったんですよ。ヒデさんは・・・」

と、タケル。

「そのバングルの赤い色が示すように・・・情熱がありすぎて・・・南の国で、不用意に、亡くなってしまった・・・それが真実でしょう。僕が見るところでは、ね」

と、タケル。

「それが絶対的な真実です。それ以外、あり得ない」

と、タケルは真面目な顔をして、10年前の真実を証明してしまう。

「まあ、謎の話には、尾ひれが着くもんです。でも、同じタイプの人間の僕からすれば、よーくわかるんですよ。だって、浮かれてたでしょ、そのヒデさん」

と、タケルはショウコに聞く。

「ええ・・・浮かれすぎて、飛行機に、乗りそびれそうになるくらいだったわ」

と、ショウコは真面目に話す。

「そんなにショウコさんに浮かれた人間が、浮気してるはずないし、もし、浮気相手がついて行ったとしても・・・本当に彼を愛しているなら、そんなところで殺せませんよ」

と、タケルは説明する。

「だから、その話はすべて、意味のない尾ひれ・・・ヒデさんは浮かれた状態で、南の島で、交通事故で死んだんです・・・それ以上でもそれ以下でもない」

と、タケルは説明する。

「その証拠が、ヒデさんの叫びですよ。「俺は悪くない」って言ってるんでしょ・・・そうなんですよ。ヒデさんは何も悪くない・・・」

と、タケルは説明する。

「だから、許してやってくださいよ・・・10年前のヒデさんと、10年前の自分を・・・誰も悪くないんだ、もう・・・」

と、タケルは言いながら、ショウコを真正面から見つめる。


と、その瞬間・・・。

「タケルくん・・・」

と、タケルを見つめていた、ショウコの目から、一筋の涙が流れる・・・それは止めどもなく流れ・・・ショウコは、両手で顔を覆いながら声を殺して泣いた。


タケルとアイリは、静かにその様子を見守った・・・少しの時間が3人の間に流れた・・・。

ショウコは、泣き終り、気持ちが落ち着くと、ハンカチで顔を拭いた・・・化粧がすべてとれた・・・すっぴんのショウコは、美しかった。

タケルとアイリは、そのすっぴんのショウコを見て、驚いたように、顔を見合わせた。

「ショウコさん・・・すっごく、美しいじゃないですか!」

と、タケルは言う。

「ショウコさんは・・・そんなに美しいんだから、もう、男性を受け入れていいはずです。すべての誤解は解けたんだから・・・新しい美しさを追求するショウコさんに戻ってくださいよ」

と、タケル。

「ヒデさんの呪縛を解いたんだから・・・それくらい、僕らに、サービスしてくれても、いいんじゃありませんか?」

と、笑顔のタケル。

「私からもお願いします・・・ショウコさんは、すっぴんでも、こんなに美貌なんだし・・・普通に美しいショウコさんに、美しい編集長に、なってください」

と、アイリ。

「そうね・・・アイリとタケルくんから、お願いされては、ね・・・」

と、クスリと笑うショウコ。

「タケルくん・・・あなたは、わたしが見込んだ通りの男だった・・・ヒデの呪縛を解いてくれた・・・そして、私を解き放ってくれたわ・・・」

と、ショウコはやさしい目でタケルを見つめる。

「ありがとう・・・あなたは、いい目をしているのね」

と、微笑む目でタケルを見つめるショウコ。

「さて・・・今日はわたしがおじゃま虫ね・・・二人はゆっくりとしていくといいわ・・・わたしは、ひとりで飲みたい・・・」

と、立ち上がるショウコ。

「ショウコさん」「ショウコさん」

と、アイリとタケルが口にするが・・・。

「ヒデの呪縛から、ようやく、開放されたから・・・静かにいろいろなことを考えながら、ひとりで飲んでみる・・・そして今後のこと、考えてみるわ」

と、美しくて、やさしい笑顔のショウコ。

「タケルくん・・・」

と、ショウコはタケルの手を静かに握る。

「ありがとう・・・あなたに会えてよかった・・・」

と、やさしい笑顔を見せると、ショウコは、カードで払って、店を出ていく・・・。


「はー・・・」「ふー・・・」

と、アイリとタケルは力を使い尽くしたように、椅子に座り込む・・・。

「ショウコさんって、あんなに美人だったんだ・・・」

と、タケルは素直につぶやく。

「私も知らなかった・・・美人だとは思っていたけど・・・」

と、アイリも素直につぶやいている。

「でも、それより・・・タケル、すごかったわ・・・すべて予想通りの展開だったじゃない・・・」

と、アイリ。

「シナリオ渡しておいて、よかったな・・・アイリの家にファックスがあってよかった」

と、タケル。

「まさか、早朝にファックスしてくるなんて思ってもみなかったから・・・でも、すべてシナリオ通り・・・すごいわね、タケル」

と、アイリ。

「いや、実は、あれ・・・イズミに相当、推理を手伝ってもらったんだ・・・二人で考えたシナリオだよ・・・今回のことは、イズミに相当お世話になった・・・」

と、タケル。

「あれっ?でも、そういえば、ショウコさん、イズミの名前知ってたけど・・・どういうつながりなんだろ?」

と、タケル。

「そういえば、そうよね・・・また、新たな謎ってこと?」

と、アイリ。

「また、おもしろくなってきたな・・・ショウコさんって、いろいろな謎を持ってるな・・・」

と、苦笑するタケル。


「でも・・・一件落着してよかったわ・・・タケル」

と、アイリ。目がトロンとしている。

「そうだな・・・これ飲んだら、アイリの家に行こうぜ・・・ご褒美くれるんだろ?アイリ」

と、タケル。

「うん・・・わたしで、よかったら・・・いくらでも、ご褒美あげる」

と、アイリ。

「うわーい・・・今日は寝かさないかも」

と、タケル。

「大好き、タケル」

と、アイリは、しあわせそうな、いい笑顔。


都会の夜は、静かに更けていった。


(つづく)

「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)(3)

2013年11月18日 | 今の物語
3月下旬の木曜日の夜、タケルは、いつもよりは、少し早い時間、午後10時頃に華厳寮に戻っていた。

「お、パパか・・・ちょうどよかった。少し寝酒でも飲もうと思っていたんだ」

と、イズミが話す。

ガオは、ここのところ、出張がちだった。

イズミは、500ml入りの缶ビールを4本買ってくる。それぞれ2本ずつだ。

「えーと、2本で400円ね・・・寮は他より、安くビールを売っているから、いいな」

と、イズミにお金を渡しながら、タケルは喜んでいる。

「ガオ、31日に引っ越すそうだ・・・アパートはここから、100メートルくらい研究所に近い所・・・たまに顔を出すって言ってた」

と、ビールを飲みながらイズミ。

「まあ、当分は、イズミと二人部屋か・・・まあ、慣れた二人だから、気も楽だよ」

と、タケル。

「パパの結婚プロジェクトは、どこまで進んでいるの?2月の終りにプロポースして・・・それから進展あった?」

と、イズミは聞いてくる。

「まあ、アイリは両親に報告して・・・喜ばれたそうだ・・・「タケルくんやるじゃないか」って、両親に評価されたらしい・・・今度正式に報告に行く予定」

と、タケル。

「へえ・・・順調に進んでいるみたいだね」

と、イズミ。

「ああ・・・それとアイリの職場の上司・・・女性編集長に、お目通りしてさ・・・これが、なかなかの女性だったんだけど・・・」

と、タケル。

「イズミにいろいろアドバイス受けていたおかげで、女性を見抜く力もついて・・・なんとか、僕を認めさせることが出来た。イズミのおかげだ、礼を言うよ」

と、イズミに握手を求めるタケル。

と、握手するイズミは、

「まあ、パパもがんばったよ・・・見る見るうちに、女性を見抜く力を身に着けていったから・・・俺も、教育のしがいがあった・・・そういうことかな」

と、イズミは缶ビールを美味そうに飲みながら言う。

「女性は常に自分より格上だと考えろ・・・自分より一枚上だと考えて、次々に手を打っていく事。しかも矢継ぎ早に・・・この教えが役に立ったよ」

と、タケル。

「女性は攻勢に出ている時は、強い。特に能力の高い女性は、常に攻勢に出る。そういう女性を叩く時はこちらが相手の隙を見て、攻勢に反転すること」

と、イズミ。

「女性は受け身になると弱い。元々女性は受け身になる方が得意だから、そうなると感情に流されやすくなる・・・男にいい感情を持ちやすくなるから」

と、イズミ。

「目の前の男にいい感情を持ってしまったら・・・あとはいい方向に流されるだけだ・・・女性とは、そういう生き物だから」

と、イズミは説明する。

「まさに、今回は、イズミの言うとおりだったよ・・・こっちのサプライズをどうやら見抜いたようでさ・・・その編集長・・・ショウコさんって言うんだけど」

と、タケルは説明する。

「30分遅く会場に着くと見せかけて、すぐそばの公衆電話から電話して、すぐに登場・・・そういうサプライズは簡単に見抜かれてた」

と、タケルが笑うと、

「まあ、初歩の初歩だから、それ・・・まあ、それくらいは、見抜かれる覚悟はしてたんだろ?パパ」

と、イズミ。

「そうだね・・・まあ、相手がどれくらいの女性か、それで判断しようとしたんだけど・・・案の定見抜いてきたから・・・イズミの言うとおり、反転攻勢をかけた」

と、タケル。

「女性への攻撃の初歩の初歩は、相手の最もプレゼンしたいものを褒めること・・・しかも、相手の意図を見抜き、それを最高の形で褒めれば、相手は気持ちよくなる・・・」

と、イズミは言う。

「今回、それをやったのさ・・・イズミの言うとおり・・・相手はそれであっけなく落ちたよ。ちょっと予想外に早かったけどね」

と、タケル。

「へえー・・・その・・・ショウコさんだっけ?どんなファッションだったの?」

と、興味を持つイズミ。

「黒のパンツスーツ姿・・・それはビジネスシーン用らしかったけど、髪を解いてたし・・・なにより、左腕に不似合いな真紅の大きなバングルをしていた・・・」

と、タケル。

「どう見ても、普段のビジネスシーンで使っているようには、見えなかった・・・だから、僕にプレゼンするためにはめてたって、わかったのさ」

と、タケル。

「その女性は、どういう雰囲気を持った女性?・・・少し露悪趣味というか、がさつな男性系をプレゼンする、中身は少女系の女性じゃなかった?」

と、鋭い指摘をするイズミ。

「ビンゴだよ・・・さすがだな、イケメン・イズミくん・・・どうしてわかったの、ショウコさんが、そういう女性だって」

と、僕はさすがに舌を巻く。

「おしゃれを良くする、美人系の女性なら、真っ赤なバングルを黒のパンツスーツには合わせない・・・ちょっとちぐはぐになるんだよ・・・全体のおしゃれとしてね」

と、缶ビールを美味そうに飲みながら、イズミの解答が始まる。

「だから、アイリさんみたいな、おしゃれな女性ではないことがわかる・・・さらに、パパの基本形のサプライズを見ぬいたというから・・・ここからが大事なんだけど・・・」

と、イズミ。

「女性としてわかっている人間なら、というか、大きな女性なら、そのパパのサプライズに乗ってやるのが、人の上に立つ人間だよ」

と、イズミ。

「「ほら、今からパパが来るけど、皆、気付かない振りして驚いてあげなよ」って、イタズラを仕掛ける方が場が盛り上がるし、パパのメンツだって潰さないで済む」

と、イズミ。

「一旦サプライズが成功したと見せて、パパが最初から気づかれていたと知ったら・・・その時こそ、パパはその・・・ショウコさんだっけ・・・を、尊敬するだろ?」

と、イズミ。

「パパのメンツを守りながら、最終的に自分を尊敬させることが出来る・・・本来、そうやるべきなんだ、その場合は。これはデッカイ女性の場合・・・」

と、イズミ。

「だけど、パパのサプライズを見抜いたショウコさんは、自分の手柄を仲間に誇っただけになった・・・これはその女性が小さい女性だということさ・・・」

と、イズミ。

「であれば、小さい女性は、自分が少女であることを隠すために、ガサツ系な露悪趣味の外見ファッションに走るだろうと、簡単に想像出来るのさ・・・違う?」

と、涼しい顔で言うイズミ。

「だから、黒いパンツスーツに赤いバングルなんか合わせちゃう・・・そういうちぐはぐなファッションでもへーきな神経になっちゃう・・・そういうことさ」

と、イズミは、すべての関係性を説明しきってしまう。

「さすがだな・・・イズミ・・・こと、女性のことになると、お前は、大学教授以上のキレを発揮するな・・・」

と、タケルは舌を巻いている。

「で、パパはその赤いバングルの意味・・・どう見たの?」

と、2本めのビールを飲み干しそうなイズミ。

「僕もショウコさんは、実は少女・・・というところまでは見抜いていた・・・で、彼女は過去の男と僕を見比べる為にあえて、その過去の男になんらか関係ある赤いバングルを・・・」

と、タケルは、話す。

「その赤いバングルを僕に見せて反応を見た・・・そう思った。だから、赤いバングルは彼女の過去の男に強烈に関係のあるアイテム・・・そう見たけどね」

と、タケルもビールを飲みながら話す。

「うん・・・パパもなかなかいい推理をするようになったよ・・・ほぼ正解だけどね・・・でも、彼女は小さい少女のまま、ということを考えないといけない」

と、イズミはしれっと駄目だし。

「え、どういうこと?」

と、タケル。

「少女は、見てもらいたかったんだよ、その真紅のバングルを・・・そして、多分・・・パパに相談に乗って欲しいんだ・・・そのメッセージだよ。その真紅のバングルは」

と、しれっとそう言うイズミ。

「パパは、アイリさんに、そのショウコさんの真紅のバングルと過去の男の関係を探らせなかった?」

と、いつものように、キレのあるイズミ。

「う、うん。探らせたよ・・・今週中には答えが出るはずだけど・・・」

と、タケルが答えると、

「答えは見えているよ・・・ショウコさんは、きっとパパに会いたがる・・・最初からそのつもりだったんだ・・・ショウコさんは・・・」

と、イズミは答える。

「え、どういうこと?」

と、タケルが答えると、

「アイリさんは、きっとこう言う・・・ショウコさんがパパに会いたがっているから、時間を取って欲しい・・・そして、ショウコさんの相談に乗って欲しい・・・ってね」

と、イズミは涼しい顔をして、タケルに話す。

「真紅のバングルには、そういうメッセージがしかけられていたんだよ。パパに向けた、ね」

と、イズミは涼しい顔をして、そう結論づけてしまう。


と、そこで、タケルの電話が測ったように鳴り出す・・・。

「え!・・・まさか、アイリか?」

と、タケルは受話器を取る・・・。

「もしもし、鈴木ですが・・・」

と、タケルが言うと、

「アイリです・・・タケル、今いい?」

と、アイリは出先から電話をかけているよう・・・がやがやしているので、どこかの居酒屋か、焼肉屋と言ったところ。

「ああ・・・ちょうど今、イズミとショウコさんの話をしていたところなんだ・・・」

と、タケルが言うと、

「偶然ね・・・わたしはそのショウコさんと、焼肉「みの一」に来ていて・・・そう、ショウコさんの行きつけの焼肉屋さん・・・で、ね、タケルに頼みがあるの」

と、アイリは話す。

「うん、なにかな?」

と、タケルが聞くと、

「ショウコさんが、明日一緒に飲めないかって・・・タケルに相談に乗ってほしいって、言ってるのよ・・・突然だけど、どうかしら?」

と、アイリ。

「ほーーーーーー・・・イズミの予想が当たったよ・・・すげーーーー・・・さすが俺の師だけある・・・いや、それはいい・・・いいよ。明日、本社で会議があるから・・・」

と、タケルは明日の会議終了後に、ショウコに会うことを約束する。

「じゃ、明日ね・・・タケル愛してるわ・・・明日その後、うちに泊まれる?」

と、アイリは聞いてくる。

「ああ、何か別件が入らなければ、極力そうしたい・・・多分大丈夫だと思うから・・・明日会えるのを、僕も楽しみにしてる。アイリ」

と、タケル。

「うん。じゃあ、ショウコさんが待ってるから、切るね・・・タケル、愛してるから」

と、アイリ。

「ああ、僕も愛してるよ。アイリ」

とタケルが言ったところで、電話は切れる。


「イズミ・・・すごいな、お前・・・お前の言った通り、ショウコさんから、お声がかかった。明日会ってくる」

と、タケル。

「まあ、そのショウコさんが、露悪趣味になった、原因の男の話だろうから・・・少しハードな話になるかもしれないなー」

と、イズミ。

「まあ、聞いてくるだけ聞いてくるよ・・・しかし、俺、イズミへのネタサプライヤーになってるな」

と、タケルは苦笑する。

「いいじゃないか・・・女性を見抜く勉強のいい資料になる・・・パパの目はさらに鍛えられるんだから・・・」

と、イズミは新たに買ってきたビールを僕に渡す。

「お代はいいよ・・・おもしろい話を聞かせてくれたから・・・そのお礼」

と、イズミはしれっと言う。

「とっても楽しめたよ・・・久しぶりにね」

と、イズミは笑う。

タケルはイズミの女性を見抜く力のすごさに、さらに舌を巻くのだった。


焼肉「みの一」は、最も混む時間で、大盛況だった。

その一角で肉を焼きビールを飲む、黒いパンツスーツ姿のショウコがいた。

そこへ、薄いグレーの少し春らしいパンツスーツ姿のアイリが戻ってくる。

「タケルはオーケーです。明日も本社で会議らしいですから、その後、「グラッチェグラッチェ」で会うことにしました」

と、アイリは報告。

「タケルくん、何か言ってた?」

と、ショウコは聞く。

「えーと・・・何かショウコさんから誘われるの、わかってたみたい・・・でしたね」

と、アイリもなんとなくな感じで、そう話す。

「そう・・・やっぱりね・・・」

と、ショウコ。

「それ・・・ショウコさんも、わかってたんですか?あらかじめ」

と、アイリは不思議そうに話す。

「いや、もしかしたら、と思って・・・そう、わたしの行動、見ぬかれてたんだ・・・」

と、ショウコは、ビールを飲み干しながら、心持ち、胸が高鳴っているよう。

少し頬が紅くなり・・・視線がやわらかくなる・・・。

「ショウコ・・・さん?」

と、アイリはそのショウコの変化に少し驚く。

「なにか、いつものショウコさんじゃありませんよ・・・急に弱くなっちゃったみたいで・・・」

と、アイリが言うと、

「いや、なんでもないの・・・そう、明日会えるんだ、タケルくんに・・・」

と、話を変えるショウコ。

アイリはそんなショウコを不思議そうに見ているのだった。

ショウコは、ほんの少し、うれしそうにするのだった。


(つづく)

「僕がサイクリストになった、いくつかの理由」(ショウコ編)(2)

2013年11月16日 | 今の物語
「昨日は楽しかったわね」

3月中旬の土曜日のお昼、アイリとタケルは、目黒にある、天ぷら「一清」に来ていた。

天ぷらに白ワインのシャブリを合わせるのが、アイリの提案だったが、もちろん、アイリは二人きりだと昼間はアルコールを飲まなかった。

「タケルは楽しんで・・・今日はわたしは夜楽しみたいから」

と、やさしい笑顔で、タケルを見守るアイリだった。

「そうだね・・・まあ、僕もそんなにすごさないようにするから」

と、言いながら、すでにシャブリはグラスで2杯目だ。

「いやあ、だって、シャブリって、美味しいんだもん」

と、天ぷらも絶品なだけに、シャブリも美味しく感じられるタケルだった。


「でも、昨日はショウコさん、割りと早く陥落していたように、感じるけど・・・どうしてだったのかしら」

と、アイリ。

「そうだね・・・僕もイズミに女性心理を教わってから・・・よーく、アイリで勉強させてもらってきたけど・・・」

と、タケルは慎重なモノ言い。

「え?わたしで、女性心理を勉強?」

と、アイリは不思議そうにタケルを見つめる。

「ああ・・・ある時、イズミに女性心理について、教えて貰ったんだ。そしたら、「アイリを研究して、自分の中にアイリがいるくらいにしろ」って、言われてね」

と、タケルは正直に話している。

「ねえ・・・それって、タケルが、「グラッチェグラッチェ」で、司会役をやった、あの時の話じゃない?」

と、鋭いツッコミを入れるアイリ。

「え?ああ、そうだね」

と、タケル。

「そうか・・・あの時から、どうもタケルが急に成長を始めたと思ったら・・・そういう話だったのね」

と、アイリ。

「まあ、それはいいんだけど・・・昨日のショウコさんについてなんだけど、ショウコさんって、普段は男っぽいひとじゃない?」

と、タケル。

「そうね・・・男勝りというか、そうね、オトコっぽい感じかな、女性的というより・・・」

と、アイリ。

「それと・・・ショウコさん、昨日、赤いバングルしていたじゃない・・・あれ、昼間つけてた?」

と、タケルは質問する。

「え?あー・・・夜つけてたあの赤いバングルでしょ・・・わたしも珍しいなって、思ったの。ショウコさん、ああいうアクセサリーを普段身につける人じゃないから」

と、アイリ。

「やっぱりね・・・あのバングルは僕と会う為に、特別に・・・つまり、何らかの思いを持って、用意したバングルだったんだよ」

と、タケル。

「それを僕が最初から評価したから・・・彼女は自分の想いを評価してくれたと感じて・・・早めに陥落したんじゃないかな」

と、タケル。

「想像だけど・・・ショウコさんが、普段男勝りにしているのは、彼女の本性はとっても弱い女の子だからじゃないのかな・・・」

と、タケル。

「そして、あの赤いバングルは、なにか過去に因縁のあるバングル・・・それをわざとチョイスして、昨日、仕事が終わってから、はめた・・・僕に見せる為に」

と、タケル。

「それを僕がまず、評価したもんだから・・・だから、彼女、すぐにいい気分になって、気分は上々になっちゃったんじゃないかな」

と、タケル。

「そういえば、ショウコさん・・・」

「「女性は、好きな男に理解されたいもの・・・そして、目の前の素敵な男に理解されたとわかったら、うれしいもの・・・」」

「「その笑顔が、満足そうなら、そうなるほど、うれしいもの」って、言ってた・・・それって、タケルにバングルの意味を理解されて、うれしかったってこと?」

と、アイリ。

「ショウコさんは、こうも言ってた・・・「もしかして、君の中には、女性がいるのじゃなくて?女性の立場に立って考えるのが、旨すぎるもの」ま、僕的には、ビンゴさ」

と、タケル。

「すべて、イズミに教えられた通り特訓してきたから・・・僕の中には、女性がいるんだ・・・アイリをよく理解して、しあわせにするためにね」

と、ニヤリとするタケル。

「その能力が、今回、ショウコさんにも発揮された・・・そういうことじゃないかな」

と、タケル。

「ショウコさんが、普段男っぽく振る舞うのは・・・男性にひどいことをされた経験があるからじゃないかな・・・そして、あの赤いバングルはその恋しい男に関係がある」

と、タケルは確信を持って言う。

「その赤いバングルに隠された謎の男を知りたいな」

と、タケルは笑う。

「まあ、僕はその男と比較されたんだろうな・・・あの赤いバングルがキーになっていたんだよ。だが、僕はすぐに解答を出せた・・・多分その男を上回ったんだろう・・・」

と、タケル。

「だから、ショウコさんは、いわゆる、落ちた状態になったんだ・・・きっとね」

と、タケルは、どこぞの私立探偵のように、すらすらと推理をしてみせるのだった。

「タケル・・・いつの間に、そんなに女性心理に詳しくなったの・・・なんか、すごい成長ぶり・・・」

と、アイリは目の前のタケルの成長ぶりに驚いている。

「今度、ショウコさんと飲んだ時に聞いてご覧よ・・・ショウコさんが、男っぽく振る舞うようになったキッカケと、そのキッカケになった男と赤いバングルの関係を・・・」

と、タケルは、大人な表情で、話している。

「密接な関係があると思うよ・・・」

と、言うと、シャブリを飲んでいい表情をするタケルだった。

「なんか、タケル・・・鮮やかに推理を駆使する、探偵さんみたい・・・」

と、アイリはなんだか、うれしそう。

「え?そうか?」

と、タケルは大人な表情で、アイリを見つめる。

「タケルって、最近、大人な表情をすることが、多くなったわ・・・どんどん成長している・・・そんな感じで、わたしとしては、とてもうれしいわ」

と、アイリは言う。

「SEの仕事は普通に忙しいし・・・会社ではガンガン鍛えられてるし・・・」

と、タケルは椎茸の天ぷらを美味しそうに食べながら言う。

「それに女性心理についても、アイリを見ながら、アイリが何を考えているか、ある程度わかるようになってきたし・・・おかげで女性の想いを、推理する力もついた」

と、タケルは、シャブリを喉に流し込みながら話す。

「自分の中におんながいるから・・・その目でショウコさんを見れたから・・・過去のストーリーを感じることも出来た・・・」

と、タケルは、シャブリから、熱燗にチェンジを申し出ている。

「きっとそれらが、僕を大人へと成長させているんだ・・・自分の中の男性の部分と、女性の部分が、一緒に成長していってるんだ、きっと」

と、タケルは、ふきのとうの天ぷらをはふはふ食べながら言う。

「おとなな僕も、悪くないだろ」

と、タケルはにこりとしながらアイリに確認する。

「うん・・・だーい好き」

と、アイリはタケルの左の肩の上に頭を乗せてくる。

「なんか、推理している時のタケルって、すっごく大人っぽくて、かっこいい・・・ショウコさんに、今度聞いてみるね、赤いバングルと彼女を変えた男の話」

と、アイリはうれしそうにタケルに話す。

「ああ、そうしてくれ・・・僕も結果が聞きたいから・・・ま、全然合ってないかも、しれないけどね・・・でも、僕の中の羅針盤はそういうストーリーを組み上げた」

と、タケルは真面目に言う。

「なんか、かっこいい、タケル・・・大人な男って、感じで、かっこいいわ」

と、アイリは喜んでいる。

「そうか・・・普通に思い浮かんだ事をただ言ってるだけだぜ」

と、タケルが言うと、

「ううん・・・タケルも、大人の魅力も出せるようになってきたってことよ」

と、うれしそうにアイリが説明する。

「ふーん、そんなもんかな」

と、タケルはエビの天ぷらを美味しそうにパクついている。


「いやあ、天ぷらもシャブリも熱燗も美味しかった・・・」

と、タケルはてくてく歩いている。

「この先に目黒公園があるから・・・そこで、酔い覚まし、した方がいい?」

と、歩くアイリが提案してくる。

「うん、そうしよ・・・少し身体が火照ってる」

と、タケルが言うと、アイリは近くの自動販売機で、スポーツドリンクを買ってくれる。

「はい・・・酔い覚ましに」

と、スポーツドリンクを渡すアイリ。

「ほんと、アイリは気が効くよなー」

と、喜ぶ、タケル。


目黒公園は、少し大きめの公園で、静かな場所にベンチがあった。

二人はそのベンチに座り、のんびりと話していた。

「「君の最終兵器は、その満足そうなやさしい笑顔ね・・・違う、アイリ?」って、ショウコさん、すぐにタケルのいいところを、見抜いていたわね」

と、アイリがなんとなく話す。

「ああ・・・アイリも頷いていたじゃん・・・僕は普通に笑っていただけなんだけどね・・・」

と、タケル。

「そのなにげない笑顔に、魅了されるのよ、女性は・・・それだけ魅力的なのよ、タケルの笑顔は」

と、アイリが説明する。

「そういうもんかな・・・今度は、女性の目で、自分の笑顔を見てみる必要があるな・・・そこが納得出来ないと、俺の中の女性が女性になってないってことだし」

と、タケルはつぶやく。

「じゃあ、今度、わたしの服選びに一緒についていく?・・・タケルの中の女の子のセンスがどれくらいか、わたしが判定してあげる」

と、アイリが笑顔になりながら、挑戦的に話す。

「え、それはまだ無理だよ。そのあたりは、まだまだ、全然勉強してないもの・・・むしろ教えて欲しいくらいだ」

と、タケル。

「そっか・・・じゃあ、今日の服装は、どう?タケル的には?」

と、アイリ。

アイリは、今日は、冬物の、クリーム色のコートの下に、淡いクリーム色のニットのワンピース姿だ。同系色のパンプスを合わせている。

「そうだねー、間違ってたらごめんね。ニットのワンピースって、こう、女性の華奢感がプレゼンされて、男性的には、なんか守ってやらなきゃって、感じになるかな」

「背が高くて、スタイルのいいアイリには、すごく似合っているよ。僕は割りと好き」

と、タケルは言う。

「アイリは平日は、かっちりした、大人っぽい服装だけど、週末は割りとラフな感じで・・・どっちも似合っていると思うな。僕は」

「今日も週末感があって、こっちもとってもリラックスできる感じ」

と、タケルは素直に言う。

「ふふ・・・ありがとう。確かに、ショウコさんの言うとおりだわ・・・タケルは私のおしゃれの意図をしっかり見抜いている・・・」

と、アイリは言う。

「タケルに週末はリラックスしてほしくって・・・だから、わたし、週末には、週末のリラックス感を感じさせる、おしゃれを選んでいるの」

と、アイリ。

「ショウコさんの言った言葉「女性は、好きな男に理解されたいもの・・・そして、目の前の素敵な男に理解されたとわかったら、うれしいもの・・・」」

「今、この言葉の意味が、わたしには、よくわかるわ・・・」

と、アイリ。

「タケル・・・確実に成長してる・・・それも、素敵な大人の男に!」

と、アイリはうれしさを爆発させる。

「アイリ・・・」

と、驚いたように言葉を出すタケルに、

「さ、デートを続けましょ。私の素敵な大人の男性さん」

と、アイリは立ち上がると、タケルと手をつないで、歩き出すのだった。

「おい、スポーツドリンクが、あ!」

と、もたもたするタケルを引っ張りながら、さらにうれしそうにするアイリだった。

「楽しい!」

と、アイリは満面の笑顔でタケルを引っ張っていくのだった。


(つづく)