「やってやろーじゃねーか!!」
威圧的な淳の物言いに、とうとう亮がキレた。
「?!」
突然大声を上げた亮に、雪は驚き、淳は目を見開く。
亮は力強く拳を握ったまま、二人に向かってニヤリと笑った。そのテンションのまま淳と雪を指差す。
「言われなくてもやってやらぁ!ってかてめーらの醜態は何だ?!
これはオレの問題だろーがよ?!えぇ?!」
亮は長らく自分が蚊帳の外だったことにも腹を立てているようだった。
怒り心頭の亮を前にして、二人は二の句を継げずに呆然としている。
亮はピアノを弾く仕草をしながら、ニヤリと口角を上げた表情のまま淳に近付いた。
「オレピアノ弾くし~!リハビリもするし~!
だけど~オレがそれをどこでするかって~と~」
小憎たらしい顔をしながら、亮は淳の目の前で言葉を続けた。
そして勢い良く、目の前のピアノを指して大声を出す。
「ここでするんだっつーの!!」
亮は地面に向けていた人差し指を淳に向け、更に顔を近づけた。
「分かったかぁ~?」
亮のテンションを前にして、淳は白けた表情をしながら顔を横に背けた。
三人の間にある空気が、だんだんと淀んでいく‥。
雪は白目になりながら、結局いつもの雰囲気になった二人を前に固まっていた。
掛けるべき言葉が見当たらない‥。
やがて淳は小さく息を吐き、ポケットに両手を突っ込んだ格好のまま少し斜に構えて言った。
「そうか、頑張ってくれ。ここで好きなようにやればいいさ」
しかしそう言った後、ニヤリと笑ってこう口にした。
「まぁ‥忘れてるのかもしれないが、懸念要素があるんじゃないかと思うけどね‥」
そんな意味深な言葉を、淳は言葉尻を濁して口にした。
そしてそれはある特定の人物の存在を言及したものだったのだが、
亮はただ悔し紛れに淳が口にした戯言としてしか受け取らなかった。
「はぁ~??お前がオレを追い払いたくてヤキモキするのは分かっけどぉ~」
亮は淳を見つめる内に、とある考えが蘇ってくるのを感じた。
チラ、と隣で頭を抱えている雪に視線を流す。
‥そうだ。お陰で思い出したぜ。忘れていたことを‥
亮は雪に近付いた本来の目的を思い出していた。
数ヶ月前、淳からされた警告が鼓膜の裏で響く。
お前、これ以上俺の周りの人間に付きまとうなよ
自分が雪の傍に居ることは、淳にプレッシャーを与えることになる。
自分の居たい場所と、淳への嫌がらせ‥。
自らが選択した結果が一挙両得の結論になっていることに気付き、亮は不敵な笑みを漏らした。
しかし淳にも切り札がある。
先日父親と電話で話した、静香への援助終了の話。もう手続きの終了した、彼女の住むマンションの売買契約‥。
それがもたらす結末は容易に予測できる。
そしてまだそれに気がついていない亮を前にして、淳も不敵な笑みを漏らす。
「‥‥‥‥」
不気味な笑い声が響くその空間の中で、険悪な二人の間で、雪は頭を抱えていた。
色々な感情と考えが渦巻いて、頭の奥で鈍痛がする‥。
私は今、ここで一体何をやってるんだったっけ‥?
今自分がここに居る意味が、雪には全く分からなくなっていた。
振り回されて疲弊するいつもの感覚だけが、雪を苛んでいた‥。
「ああ~!オレのバカ!亮のコンコンチキ!これからどうすりゃいいんだぁ?!」
そして倉庫からの帰り道、亮も頭を抱えてのたうち回っていた。
売り言葉に買い言葉で、重大な決意をしてしまったのだ。しかも二人の前で、宣言するように堂々と。
「何であんなこと言っちゃったんだ?オレピアノ弾くの?ホントに弾くの??」
しかし亮は未だ動揺していた。心の整理もままならないまま、またピアノへの道を選択したということに。
亮は自分を叱咤しながら帰路を歩いていた。すると目の前に、一人の女性が立っているのが見える。
亮が立ち止まるのと同時に、彼女はこちらを向いた。
サングラスを掛け、ガムを膨らませている。
河村静香だった。
突然現れた姉を前に、亮は驚愕の叫びを上げる。
「いいいいきなり何だ?!何でお前がここに?!今日オレ厄日?!」ルルッル~♪
思わずのけぞる亮を見て、歓迎ありがとうとばかりに静香は笑顔で弟に近寄った。
サングラスを外し、気安い表情で口を開く。
「あんたここで暮らしてるんだって?なーんで電話に出ないのよぉ!
待ってる間ここらへん見て回ったけど、都心からは離れるけど悪くないじゃん!」
そして亮は、静香が持っている荷物に目を留めた。
トランクだ‥。大きな荷物‥。いきなり訪ねてきた姉‥。
「まさか‥」
亮は、嫌な予感が胸の中いっぱいに広がるのを感じた。
そしてこういった予感は、大抵の場合当たっている‥。
「あーたし追い出されちゃってー」
ぎゃあああ!と亮は胸の内で絶叫した。
静香は茫然自失の亮を揺さぶりながら、哀願するように話を続ける。
「ここ安いの? あ、とりあえずカプセルホテルの代金を払ってくれる?
生活費には手をつけないからさぁ~!狭い下宿は止めにして、お金出し合ってワンルームでも借りましょ?
この辺家賃安いみたいよ!」
亮は今の姉の状況を見て、ようやく先程淳の言っていた意味が理解出来た。
まぁ‥忘れてるのかもしれないが、懸念要素があるんじゃないかと思うけどね‥
‥そうだった。
亮は文字通り忘れていた。一番の問題児の存在を。
お姉ちゃんだよ?ほらスマイルスマイル!
静香が、この姉が、自分の家に転がり込んでくる‥。
”懸念要素”どころではない。彼女は”要注意”がつくほどの問題児だ‥。
もうすでにお先真っ暗、亮はイライラMAXで夕焼け空に叫んだ。
「チックショ~~!!ブッコロス!!」
「その言い方はちょっとヒドイんじゃな~い?」
「てめぇは黙ってろ!!」
亮の怒号が街に響いた。
雪が住み、亮が住み、そして今日から静香も住む、この街に‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼らの意図(3)>でした。
淳と亮の思惑が交錯しましたが、静香の存在で淳に軍配が上がりましたね。
それでも亮が雪の傍にいることでスッキリしないでしょうが(^^;)
そして細かいクラブとしては、雪ちゃんの服の襟首についてるピンクの淵がついたり消えたりするのが気になる‥汗
次回は<余白に漏れた本音>です。
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威圧的な淳の物言いに、とうとう亮がキレた。
「?!」
突然大声を上げた亮に、雪は驚き、淳は目を見開く。
亮は力強く拳を握ったまま、二人に向かってニヤリと笑った。そのテンションのまま淳と雪を指差す。
「言われなくてもやってやらぁ!ってかてめーらの醜態は何だ?!
これはオレの問題だろーがよ?!えぇ?!」
亮は長らく自分が蚊帳の外だったことにも腹を立てているようだった。
怒り心頭の亮を前にして、二人は二の句を継げずに呆然としている。
亮はピアノを弾く仕草をしながら、ニヤリと口角を上げた表情のまま淳に近付いた。
「オレピアノ弾くし~!リハビリもするし~!
だけど~オレがそれをどこでするかって~と~」
小憎たらしい顔をしながら、亮は淳の目の前で言葉を続けた。
そして勢い良く、目の前のピアノを指して大声を出す。
「ここでするんだっつーの!!」
亮は地面に向けていた人差し指を淳に向け、更に顔を近づけた。
「分かったかぁ~?」
亮のテンションを前にして、淳は白けた表情をしながら顔を横に背けた。
三人の間にある空気が、だんだんと淀んでいく‥。
雪は白目になりながら、結局いつもの雰囲気になった二人を前に固まっていた。
掛けるべき言葉が見当たらない‥。
やがて淳は小さく息を吐き、ポケットに両手を突っ込んだ格好のまま少し斜に構えて言った。
「そうか、頑張ってくれ。ここで好きなようにやればいいさ」
しかしそう言った後、ニヤリと笑ってこう口にした。
「まぁ‥忘れてるのかもしれないが、懸念要素があるんじゃないかと思うけどね‥」
そんな意味深な言葉を、淳は言葉尻を濁して口にした。
そしてそれはある特定の人物の存在を言及したものだったのだが、
亮はただ悔し紛れに淳が口にした戯言としてしか受け取らなかった。
「はぁ~??お前がオレを追い払いたくてヤキモキするのは分かっけどぉ~」
亮は淳を見つめる内に、とある考えが蘇ってくるのを感じた。
チラ、と隣で頭を抱えている雪に視線を流す。
‥そうだ。お陰で思い出したぜ。忘れていたことを‥
亮は雪に近付いた本来の目的を思い出していた。
数ヶ月前、淳からされた警告が鼓膜の裏で響く。
お前、これ以上俺の周りの人間に付きまとうなよ
自分が雪の傍に居ることは、淳にプレッシャーを与えることになる。
自分の居たい場所と、淳への嫌がらせ‥。
自らが選択した結果が一挙両得の結論になっていることに気付き、亮は不敵な笑みを漏らした。
しかし淳にも切り札がある。
先日父親と電話で話した、静香への援助終了の話。もう手続きの終了した、彼女の住むマンションの売買契約‥。
それがもたらす結末は容易に予測できる。
そしてまだそれに気がついていない亮を前にして、淳も不敵な笑みを漏らす。
「‥‥‥‥」
不気味な笑い声が響くその空間の中で、険悪な二人の間で、雪は頭を抱えていた。
色々な感情と考えが渦巻いて、頭の奥で鈍痛がする‥。
私は今、ここで一体何をやってるんだったっけ‥?
今自分がここに居る意味が、雪には全く分からなくなっていた。
振り回されて疲弊するいつもの感覚だけが、雪を苛んでいた‥。
「ああ~!オレのバカ!亮のコンコンチキ!これからどうすりゃいいんだぁ?!」
そして倉庫からの帰り道、亮も頭を抱えてのたうち回っていた。
売り言葉に買い言葉で、重大な決意をしてしまったのだ。しかも二人の前で、宣言するように堂々と。
「何であんなこと言っちゃったんだ?オレピアノ弾くの?ホントに弾くの??」
しかし亮は未だ動揺していた。心の整理もままならないまま、またピアノへの道を選択したということに。
亮は自分を叱咤しながら帰路を歩いていた。すると目の前に、一人の女性が立っているのが見える。
亮が立ち止まるのと同時に、彼女はこちらを向いた。
サングラスを掛け、ガムを膨らませている。
河村静香だった。
突然現れた姉を前に、亮は驚愕の叫びを上げる。
「いいいいきなり何だ?!何でお前がここに?!今日オレ厄日?!」ルルッル~♪
思わずのけぞる亮を見て、歓迎ありがとうとばかりに静香は笑顔で弟に近寄った。
サングラスを外し、気安い表情で口を開く。
「あんたここで暮らしてるんだって?なーんで電話に出ないのよぉ!
待ってる間ここらへん見て回ったけど、都心からは離れるけど悪くないじゃん!」
そして亮は、静香が持っている荷物に目を留めた。
トランクだ‥。大きな荷物‥。いきなり訪ねてきた姉‥。
「まさか‥」
亮は、嫌な予感が胸の中いっぱいに広がるのを感じた。
そしてこういった予感は、大抵の場合当たっている‥。
「あーたし追い出されちゃってー」
ぎゃあああ!と亮は胸の内で絶叫した。
静香は茫然自失の亮を揺さぶりながら、哀願するように話を続ける。
「ここ安いの? あ、とりあえずカプセルホテルの代金を払ってくれる?
生活費には手をつけないからさぁ~!狭い下宿は止めにして、お金出し合ってワンルームでも借りましょ?
この辺家賃安いみたいよ!」
亮は今の姉の状況を見て、ようやく先程淳の言っていた意味が理解出来た。
まぁ‥忘れてるのかもしれないが、懸念要素があるんじゃないかと思うけどね‥
‥そうだった。
亮は文字通り忘れていた。一番の問題児の存在を。
お姉ちゃんだよ?ほらスマイルスマイル!
静香が、この姉が、自分の家に転がり込んでくる‥。
”懸念要素”どころではない。彼女は”要注意”がつくほどの問題児だ‥。
もうすでにお先真っ暗、亮はイライラMAXで夕焼け空に叫んだ。
「チックショ~~!!ブッコロス!!」
「その言い方はちょっとヒドイんじゃな~い?」
「てめぇは黙ってろ!!」
亮の怒号が街に響いた。
雪が住み、亮が住み、そして今日から静香も住む、この街に‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼らの意図(3)>でした。
淳と亮の思惑が交錯しましたが、静香の存在で淳に軍配が上がりましたね。
それでも亮が雪の傍にいることでスッキリしないでしょうが(^^;)
そして細かいクラブとしては、雪ちゃんの服の襟首についてるピンクの淵がついたり消えたりするのが気になる‥汗
次回は<余白に漏れた本音>です。
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
言おうか言わまいか迷ってましたが、襟のピンクが気になって気になって…。河村ピアノ、ブラ淳、可哀想な雪…とみなさんのコメも盛り上がってましたので遠慮してました…笑
河村氏いつもその場の勢いで発言して後悔してますけど、『亮のコンコンチキ!』とは~!かわいいっすね~。
あ~、揚羽も自分を揚羽さんと呼んで、それ結構好きでして~。(只今バサラにお熱でして…。遅っ)
さておき、
最新話で雪母、雪のことフルネームで読んでましたよね?驚いたんですが!ちがうかな~。
「(これから)どうすればいいんだ!」です。
そして姉を見た亮の「今日、何かの日?!」
何で今日は次々と厄介な出来事に巻き込まれるか、の意味です。
日本語の「厄日」みたいな感じ?
だからこのセリフの右の手書きで「(お前と淳たちは)示し合わせたのかよ?」と言ってます。
そして姉の答えは「まずカプセルホテルの宿賃、代わりに払って頂戴。生活費までは世話にならないから!」
さすが細かいクラブ会長!遠慮せずにバンバンご指摘おねがいしますよ!!
そしてバサラはまり中ですか~!もう全部読まれたのかな?熱いですよね~~!朱里派ですか?揚羽派ですか?
CitTさん
ありがとうございます!
微妙なニュアンス、難しいですな~!
そして静香‥カプセルホテルの代金を亮に払ってもらおうとしていたのか‥。翻訳機だと「出して」と出たので「ホテルから出して」だと思っていました。「お金を出して」だったのですね~!は~勉強になります!
ふふふお亮さん可愛いのう
そうそうあなたみたいなタイプはいきおいがないとピアノ弾くなんて言えないから結果オーライでしょう
それに雪の近くにもいながっていえたしね
それにしても静香カプセルホテル代金まで奪おうとしてたのか
お亮さんが田舎から戻って来たときにはあっさり自宅解放拒否したくせに自分はちゃっかりおしかけ
姉とは思えない奔放ぶり
そしてお亮さんはなぜかいつも押し切られてしまう
細かいクラブ本当に毎度スルーですわ
神経細かくないらしい^_^;
ホンソルの実家で働き、挑発に乗せられたとはいえピアノを再開し、謀略の結果とは言え姉と肩寄せ合って暮らすペクインホは、何だかんだ言いながら再生への道を歩みだしているとも言えるような。
要するに言いたいのはまあ、「で、お前はどうなんだポイポイ王子?」ってことです。
自分の根回しにより亮への切り札としたつもりの静香が、今後自分に波乱をもたらすとは考えてなかったんでしょかー。
横山へのソソノカシ事件もバレるし、その後もまだ分からないけど、雪との関係に大きく影響しそうな静香を、侮り過ぎてたんじゃ。
て、今更なんですけどね。今頃気づいちゃった~。ハズ(笑)
>最新話で雪母、雪のことフルネームで読んでましたよね?
呼んでました!よくドラマなんかを見てると、名前をフルネームで呼ぶときはその人のことを強調する時が多いような‥?日本語で改まって名前を口にする時と同じ感じだと思います‥。多分‥。ネイティブの方、お願いします!(結局丸投げ)
むくげさん
本当姉とはいえこんな肉親私だったら絶対嫌だ‥。
自分勝手すぎますよね‥さんざんバカにしておいて、困ったことになったら金の無心‥。は~ぁ
青さん
その通りですね!今に亮に軍配が上がる時が来る気がします。静香とも向き合えるのかどうなのか‥。姉弟近くにいすぎると反発してしまう気もするけれど‥う~ん。。先が楽しみです!
姉様
おお!「策士策に溺れる」!溺れるナイフ!(むりくり)
淳先輩は雪に出会わなければ、マジで計画通り想定通りの人生だったと思います。けれど予測のつかない出来事が起こって、予測の出来ない人物(雪)に出会ってしまった。。そこから色々なほころびが出てきてますよね。だから雪が絡んでくる以上、やはり全てが綻び出すんじゃないですかね。静香のことにしても、雪を通じて淳の予想のつかない方向に物事が進んでいく気がしてます。