大学から帰路を辿る雪は、今大あくびをしていた。
体にも心にも、疲労が溜まっている。

雪はトボトボと夜道を歩きながら、一人肩を落として息を吐いた。
あー‥超疲れた‥。授業に集中しなきゃって変に力が入っちゃった‥死ぬかと思った‥。
てか結局私だけ消耗されていく気が‥。中間が微妙だった分、期末で取り返さなくちゃだし‥。

雪が一人考えに耽りながら歩いていると、不意に壁に貼られたとあるチラシが目に入った。
そこには、”閉店セール”と大きく書かれ、肩マッサージ機や足マッサージ機が破格の値段で売り出し中だった。
「おおっ!」

雪は店のガラスドアにベタッと張り付き、この広告を食い入るように見つめる。
こんなとこにこんなものが‥ネットで見るより安いんじゃない?

今赤山家にあるマッサージ機は調子が悪く、いつも父や母が凝った肩に頭を悩ませていた。
お父さんとお母さんに買ってあげようかな‥

そう思いながら、広告を見つめていた時だった。
ガラスに反射して、夜道の向こうに人影が見えたのは。

雪は恐る恐る振り返って見た。
しかしそこには誰も居ない。暗い夜道はしんと静まり返っているだけだ。

けれど、彼女が元来持つ鋭敏さと培ってきた経験で、雪はそこに人が居ることを察知していた。
ポケットに入れてある、レコーダーの録音スイッチを押す。

そして雪は携帯を手に持つと、いつでも証拠写真が撮れるようそれを高く掲げた。
準備が整った後、雪はよく通る声で隠れている人物に向かって声を掛ける。
「出て来て」


しかし通りの向こうはしんとしている。
雪は隠れている人物によく聞こえるよう、大きな声で続けた。
「出てこなければ警察に通報するし、このまま逃げてもいいんだけど?」


すると今まで動きの無かった路地に、人影がゆらりと揺れた。
路地の隙間から決まり悪そうな顔をして、横山翔がオズオズと出て来る。

横山は雪に向かって手を伸ばしながら、ヨロヨロと近付いて来た。
「ゆ、ゆきぃ‥」

突然呼び捨てにされた雪は顔を顰め、「そんな風に呼ばないで」と嫌悪感を込めて言う。
横山は小さな声で、雪に向かってこう言った。
「お前‥なんでLINE見ねーんだよ?」

雪は顔に青筋を立てつつ、横山に言葉を返す。
「はぁ?アンタのLINEなんてずっと前からブロックしてるけど?」

雪の返事を聞いて、横山はぐっと歯を食い縛った。
そのままよろめきながら、雪の方へ近づいてくる。

横山は何も言わない。雪は身を固くしながら、携帯を掲げ声を上げた。
「な‥何よアンタ‥それ以上近寄ったら大声出すわよ?!」

「ここは店だって多いし、人も沢山‥!」

しかし雪は、それ以上言葉を続けることが出来なくなった。
次の瞬間、横山がその場で土下座し始めたのだ。
「雪っ‥!」

横山は這いつくばって雪の名を呼んだ。
雪は顔面蒼白だ。何が何やらサッパリ分からない。
「ゆきぃぃぃぃ!!」 「????」

すると、困惑する雪の前で横山は、手を両膝の傍らに置き頭を下げて、雪に謝罪を始めた。
「俺が悪かった‥!」

横山は人目も憚らず、道の真ん中で頭を下げた。通行人はジロジロと自分達を見て通り過ぎて行く。
雪は困惑しながら言葉を返した。
「な‥何なのアンタ!おかしいんじゃないの?!」

しかし横山は大きな声で謝罪を続けた。必死になって言葉を紡ぐ。
「俺が‥俺が全部悪かった‥!今までお前を困らせたこと全部、俺が悪かったよ‥!
もう二度と困らせないから、今回だけ許してくれ‥!頼むよ‥!」

横山は懇願した。窮地に追い込まれたイタチが、膝をついて命乞いをする。
雪は目を剥いて、「な‥何なのいきなり‥」と不愉快な思いを抱えながらたじろいだ。

何度も許しを乞う横山であったが、不意に彼は周りをギョロッと見回した。
自分は周りにどう映っているか、そして下手に出ることで雪がどういった行動に出るかを、
不安定なその視線は捉えようとしている。

それは横山が刹那に見せた視線の揺らぎだったが、雪はその鋭敏な性分でそこに彼の本心を見た。
今謝罪しているのは見せかけのそれであり、保身の為にこうしているだけだということを。

横山を見下ろす雪の視線が、冷たく彼を射る。
窮地に追い込まれたイタチは自分が助かる方法を、膝を付きながら必死に考え続けている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<窮地と逆上(1)>でした。
さて始まりました、雪と横山の一騎打ち!
窮地に追い込まれたイタチと立ちはだかるライオンとの決闘、ですね。
横山が口では謝罪をしつつも、実は自分の保身の為だという描写‥。
雪ちゃんが見せた冷めた表情と、以前淳が見せたあの表情がかぶります。

(去年、球技大会のことの謝罪をしながらも、横山は皆の目をチラチラ気にしてますね。↑)
人の本心を見抜く術に関しては、雪も淳も本当に長けていますね。
だからこそこの二人は、色々と見てみぬフリをしなければ付き合っていけないのかも‥。
次回<窮地と逆上(2)>へと続きます。
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
体にも心にも、疲労が溜まっている。

雪はトボトボと夜道を歩きながら、一人肩を落として息を吐いた。
あー‥超疲れた‥。授業に集中しなきゃって変に力が入っちゃった‥死ぬかと思った‥。
てか結局私だけ消耗されていく気が‥。中間が微妙だった分、期末で取り返さなくちゃだし‥。

雪が一人考えに耽りながら歩いていると、不意に壁に貼られたとあるチラシが目に入った。
そこには、”閉店セール”と大きく書かれ、肩マッサージ機や足マッサージ機が破格の値段で売り出し中だった。
「おおっ!」

雪は店のガラスドアにベタッと張り付き、この広告を食い入るように見つめる。
こんなとこにこんなものが‥ネットで見るより安いんじゃない?

今赤山家にあるマッサージ機は調子が悪く、いつも父や母が凝った肩に頭を悩ませていた。
お父さんとお母さんに買ってあげようかな‥

そう思いながら、広告を見つめていた時だった。
ガラスに反射して、夜道の向こうに人影が見えたのは。

雪は恐る恐る振り返って見た。
しかしそこには誰も居ない。暗い夜道はしんと静まり返っているだけだ。

けれど、彼女が元来持つ鋭敏さと培ってきた経験で、雪はそこに人が居ることを察知していた。
ポケットに入れてある、レコーダーの録音スイッチを押す。

そして雪は携帯を手に持つと、いつでも証拠写真が撮れるようそれを高く掲げた。
準備が整った後、雪はよく通る声で隠れている人物に向かって声を掛ける。
「出て来て」


しかし通りの向こうはしんとしている。
雪は隠れている人物によく聞こえるよう、大きな声で続けた。
「出てこなければ警察に通報するし、このまま逃げてもいいんだけど?」


すると今まで動きの無かった路地に、人影がゆらりと揺れた。
路地の隙間から決まり悪そうな顔をして、横山翔がオズオズと出て来る。

横山は雪に向かって手を伸ばしながら、ヨロヨロと近付いて来た。
「ゆ、ゆきぃ‥」

突然呼び捨てにされた雪は顔を顰め、「そんな風に呼ばないで」と嫌悪感を込めて言う。
横山は小さな声で、雪に向かってこう言った。
「お前‥なんでLINE見ねーんだよ?」

雪は顔に青筋を立てつつ、横山に言葉を返す。
「はぁ?アンタのLINEなんてずっと前からブロックしてるけど?」

雪の返事を聞いて、横山はぐっと歯を食い縛った。
そのままよろめきながら、雪の方へ近づいてくる。

横山は何も言わない。雪は身を固くしながら、携帯を掲げ声を上げた。
「な‥何よアンタ‥それ以上近寄ったら大声出すわよ?!」

「ここは店だって多いし、人も沢山‥!」

しかし雪は、それ以上言葉を続けることが出来なくなった。
次の瞬間、横山がその場で土下座し始めたのだ。
「雪っ‥!」

横山は這いつくばって雪の名を呼んだ。
雪は顔面蒼白だ。何が何やらサッパリ分からない。
「ゆきぃぃぃぃ!!」 「????」

すると、困惑する雪の前で横山は、手を両膝の傍らに置き頭を下げて、雪に謝罪を始めた。
「俺が悪かった‥!」

横山は人目も憚らず、道の真ん中で頭を下げた。通行人はジロジロと自分達を見て通り過ぎて行く。
雪は困惑しながら言葉を返した。
「な‥何なのアンタ!おかしいんじゃないの?!」

しかし横山は大きな声で謝罪を続けた。必死になって言葉を紡ぐ。
「俺が‥俺が全部悪かった‥!今までお前を困らせたこと全部、俺が悪かったよ‥!
もう二度と困らせないから、今回だけ許してくれ‥!頼むよ‥!」

横山は懇願した。窮地に追い込まれたイタチが、膝をついて命乞いをする。
雪は目を剥いて、「な‥何なのいきなり‥」と不愉快な思いを抱えながらたじろいだ。

何度も許しを乞う横山であったが、不意に彼は周りをギョロッと見回した。
自分は周りにどう映っているか、そして下手に出ることで雪がどういった行動に出るかを、
不安定なその視線は捉えようとしている。

それは横山が刹那に見せた視線の揺らぎだったが、雪はその鋭敏な性分でそこに彼の本心を見た。
今謝罪しているのは見せかけのそれであり、保身の為にこうしているだけだということを。

横山を見下ろす雪の視線が、冷たく彼を射る。
窮地に追い込まれたイタチは自分が助かる方法を、膝を付きながら必死に考え続けている‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<窮地と逆上(1)>でした。
さて始まりました、雪と横山の一騎打ち!
窮地に追い込まれたイタチと立ちはだかるライオンとの決闘、ですね。
横山が口では謝罪をしつつも、実は自分の保身の為だという描写‥。
雪ちゃんが見せた冷めた表情と、以前淳が見せたあの表情がかぶります。


(去年、球技大会のことの謝罪をしながらも、横山は皆の目をチラチラ気にしてますね。↑)
人の本心を見抜く術に関しては、雪も淳も本当に長けていますね。
だからこそこの二人は、色々と見てみぬフリをしなければ付き合っていけないのかも‥。
次回<窮地と逆上(2)>へと続きます。
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しかも連呼…まったく理解できません…
ほんとに何も変わらないですね横山は
久々コメがまさか愚痴になってしまうとは(^_^;)
すみません!
?と思いました。ほんとどこまでもゲスのKIWAMI (´-ω-`)
ここ最近の雪ちゃん、対処の仕方や表情がまんま先輩ですねぇ。よっ似た者夫婦!何て茶化せるような展開ではないにしても、できればお互い歩み寄ってわかりあえた上で結論に至って欲しいです´`
何だか静香といい横山といい皆様自由奔放過ぎますな
横山死亡までカウントダウン
しかし雪の淳てば対応とか視線の投げ方とかにてるのな
うまく話噛み合えばうまく行きそうだけれど
拗れるとダメになりそうな
お久しぶりです^^新学期シーズンですねぇ。
学生さんは忙しくなる時期ですかね~
ここで呼び捨てにしていいことなんて何もないのに、とことんその辺の計算が出来ない男、横山‥。
残念‥!
ゆっけ丼さん
>ゲスのKIWAMI (´-ω-`)
これ良いですね‥ぷはは!
人の本音を見抜く鋭敏さにかけては、二人は「よっ首席と次席!」(by柳)ですよね。
ただ本心で謝罪してたとしてもお構いなしであろう淳と、本心で謝罪していたなら許すだろう雪は、過程は似ていても結論は違うのだろうな、と思います。。
むくげさん
この自由奔放な動線がやがて一つの線になって、物語が動いてくのですよ‥!その辺がスンキさんの凄い所だと思います。