
とっくに日は沈み、暗い空は街灯やネオンを反射して鈍く光っていた。
人通りの多い緑道で、雪は携帯と睨めっこをしながら座っている。

何度確認しても、先輩からの返信も着信も無かった。
時間だけが過ぎていく現状に、雪は焦っていた。
メールも着信も、見てるよね‥?
ひとまず待ってみよう‥明らかに誤解があるよ‥。会って話を‥

しかし彼を信じるという思いの傍らで、不安の種が芽を出し、心の中にその蔓を伸ばす。
あたしは淳の彼女だけど?

鼓膜の奥で響いた、河村静香の声。
彼女を目の前にした時に感じた、自分に対する嫌悪感。
狂気を孕んだ、あの恐ろしい瞳‥。

雪は意識的に、脳内の静香をシャットダウンした。自らに言い聞かせるように、強く心の中で思う。
待つんだ‥。今はただひたすら‥。

不安の蔓はするすると伸び、だんだんと雪の心を覆って行く。心臓がドクドクと痛いくらいに拍動する。
雪は漠然とした不安を持て余しながら、そこに座り続けていた。

時刻は夜の九時。雪はただ待つことしか出来ない。
彼が心の扉を開けてくれるのを、雪はその場でただ待つしか。

九時半になった。相変わらず携帯は沈黙している。
ぼんやりと落とした視線の先に、人々が楽しそうに通り過ぎて行くのが見える。

十時を回った。もう地下鉄に乗らないと、家に帰れなくなる。
雪はフラフラと立ち上がり、駅に向かった。もうそこには、誰も居なくなった‥。


真夜中過ぎ、雪は家に帰ってシャワーを浴びると、ベッドに横になった。
長い間地面に座っていたせいで、身体がギシギシと軋むようだ。

長い一日だった。
昼頃先輩からメールを受け取って、胸を弾ませながら走ったのがもう何日も前のようだった。
私に会いに‥?

わざわざ自分に会うために、彼は大学まで出向いてくれたんだと思っていた。
けれど実際のところ、彼は誰に会いに来たのだろう‥?

彼の腕に絡みつくように組んだ静香の腕。
雪の心の中にも、不安の蔓の先がヒタヒタと広がって行く。

雪は携帯を取り出し、もう一度横山から添付された写真を眺めてみた。
メッセージには”もっとあるから送ってやろうか?”と書かれている。

雪は写真を眺めながら、心の中で一人悶々と考えた。
どう見てもプルム館の近くだ‥。だから今日二人が大学で会ってたのは間違いない‥。
‥いやいや、ただの知り合いって言ってたじゃん。そんな関係なら、会って軽く腕組むくらい‥(‥

けど特別な関係じゃないなら、なんで”あたしは淳の彼女”なんて言ってからかってくるんだ?
そしてどうしてわざわざ大学で会うのか‥。



心の中に広がった不安の蔓は、切っても切っても伸びてくる。
そして雪の頭の中にふと蘇ったのは、去年偶然耳にした、彼と(おそらく)静香の通話だ。
夜ご飯抜かずに、ちゃんと食べろよ

あの時の彼の口調は、まるで彼女に対するもののように優しかった。
そして一年後、映画を観た後で静香から電話が掛かって来た後は、
彼はそっけなく「知り合い」とだけ口にした‥。

気の知れたような彼と静香の関係とそのやり取りに、やはりただならぬ仲なのではと雪は疑心を抱いた。
イライラする思いを抱えながら、思わず布団から飛び起きる。
てかやっぱり付き合ってたんじゃないの?!そしてその元カノとコッソリ密会ってか?!

しかし雪は頭を抱えると、冷静になろうと己を戒めた。
つい考えが悪い方悪い方へと向かってしまう。
違うって信じる‥。少なくともこういうことで嘘をつく人じゃない‥。

そして雪は開き直るように、両手を広げて独り言ちた。
「いや、てかそもそも私と河村氏だってそんな関係じゃないじゃん?
そんなに怒って出て行くことかぁ?!”俺は良くてお前はダメ”ってか?!」

そう口に出しつつも、雪は再び携帯に目を落としてあの写真を見る。
親しげに腕を組んだ、淳と静香の二人の姿を‥。


違うと言い聞かせてみても、開き直ってみても、結局心は晴れなかった。
不安の蔓は心の方方に向かって伸び、広がり続けている。

雪は再びベッドに横になった。
うつ伏せになりながら、今の自分の気持ちを客観視する。
何らかの誤解があるってことは分かるけど‥。それでも、傷つくな‥。


雪の手が、ぶらりと垂れ下がっていた。
あの時掴んだ彼の腕から、振り払われてしまった手‥。

彼が去り際に口にした、あの言葉が鼓膜の奥で響いた。
明日も来るから

今自分に出来ることは、待つことしか出来ない。
彼のその言葉を信じて、その背中が振り向くのを待つことしか‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<不安の蔓>でした。
亮の片思い自覚ムービーまで作った身としては、この台詞が‥↓
「てかそもそも私と河村氏だってそんな関係じゃないじゃん?」

亮さん‥


しかし上記の台詞もそうですが、
先輩が”なぜあそこまで取り乱したか”に、雪ちゃんがまるで思い至らない所に愕然としました。。
横山からの横槍や静香の思惑に惑わされすぎて、雪ちゃんは先輩のことを全然理解しようとしてるように見えず‥。
(おまけに静香との浮気を疑う始末)
まぁ彼が背を向けてる以上しょうがないのかもしれませんが、読者としてはもう本当にもどかしい‥!
どうにか二人が一対一で向き合える時が来ますように‥。
次回は<見えない敵>です。
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雪ちゃんも先輩同様(いやもしかすると先輩よりも筋金入りかも・・・)、揺るぎない価値観を持った自分が正しい人(良くも悪くも)なんですね。
一昨日のコメ欄でYukkanen師匠が仰っていた、「雪ちゃんはなかなかそこに共感や同類を感じる性質ではないというか‥」まさにそうだと思いました。
何というか、仮に先輩と話し合って真相を知っても、歩み寄るつもりもないんですよね・・・。自分の誤解を解きたいだけ、のように感じました。
やっぱり先輩、可哀想・・・。(T_T) せめて雪ちゃんが「今、先輩は怒っている」んじゃない、と思ってくれたらいいのにと、もどかしく感じています。
師匠が雪ちゃんについて「先輩が”なぜあそこまで取り乱したか”に、雪ちゃんがまるで思い至らない」と解説していらっしゃいましたが、それも致し方ない?とも思います。
私たち読者は登場人物達の裏の行動や思い、それぞれの過去などを理解しながら読み進めてますが、雪ちゃんにしたら自分が見ている部分でしか判断できないですもの。亮と先輩の間の詳しい過去もわからないままですし(まあここに関しては私たちもですが)、そもそも先輩が雪ちゃんを意識し出した理由(同類うんぬん)もわからないでしょうし。それにもともと自分に自信が持てない雪ちゃんなんで、先輩がどれほど自分を思っているかという点においても自信がないんじゃないかな?先輩には亮との過去のあれこれがあってこそのあの落ち込みだったんでしょうし、たぶん雪ちゃんが思っているよりずっと彼女を大切に思ってる気がします。
でも、私も雪ちゃんに同情的になったのは、本家最新版を見て(読めないので(^^ゞ)、ほんの少し翻訳機で訳したからです。たぶん、おそらくですが、少し先輩に寄り添うようなセリフがあった気がします。
なにより最後の方のカットで、先輩の微笑んでいる顔だけでなく、怒ったり落ち込んだりしている負の顔の彼も思い浮かべて、先輩の元に必死に走っていく雪ちゃんを見たからです。このカットを見たとき、じ~んとなって、涙が出ちゃいました。やっと、やっと雪ちゃんが先輩に寄り添おうとしてくれてる気がして・・・。
先週までは混沌としていて、絶対に夏の終わりに終わらないでしょって思っていましたが、今週の最新版を読んで、やっぱり近々終わるのかも!?と思いました・・・。さみしいですが。
まあそんなわけで、ここのところの先輩のことを考えてもやもやする雪ちゃんはいい傾向だと思います。(無理やり閉めます!)
更新が週一で待てずこちらのサイトを見つけて、
毎日購読させて頂いています!!!
作者の方はチーズインザトラップ以外の作品も
書いていますか?
ー
皆が日本マンガのbl同人誌しか出さない時、
スンキさんは韓国戦争を背景にした反戦映画の同人誌を作って、
ソウルコミックワールド(コミケっぽいもんですが大きさは100分の1くらい)の優秀誌に選ばれたらしいです。
まぁ勿論日本マンガの同人誌も出しましたが。
そして韓国男性アイドル、アメリカ医学ドラマの同人誌も。
そもそもprofileから見るとマンガの専門的な勉強をしてないって感じ?
アニメ科の卒業者ですが、日本アニメは韓国に下仕事を任す事が多いです。
つまりアニメ科=描で就職できる一番危なげない道です。
絵も「同人界で一人練習したとすぐ分かる絵」という評。
なんで最初からマンガの勉強をしなかったんでしょうかね、この人。
マンガで生活できる確信がないから無難な道を進んだけど、
結局マンガに戻ってしまったのでしょうかね。
本人の話はあまり公開しない方ですから、分かれない事です。
スンキさんのイラストは作者本人のブログと
http://blog.naver.com/soonkki
私のサイトからどうぞ。
https://sites.google.com/site/cheesetrapenglish
そして、雪ちゃんいつもは必要以上に敏感なのに最近の先輩には鈍感な件。きっと、そんな余裕ないくらい今嫉妬だったり焦燥感にさらされているのではないかなーと思いました。誤解を解きたいのも会って話したいのも嫌われたくないからかなーと。恋愛初心者の彼女にとっては、いっぱいいっぱいで相手の心に寄り添うところまでいかないのでしょうなぁ。まぁ、それにしてもですけど!
そしてめぷさんに便乗して…本家…!絵だけですが、来週が気になりすぎて気になりすぎて嘔吐しそうです。笑
今、自分がどれだけ先輩のことを必要としているかはっきりと自覚したのではないでしょうか…。
ここで雪ちゃんが行動に出し、一皮むけ成長するんじゃないかなぁと、少しハッピーエンドが見えたのですが。早いでしょうか。笑
自分と先輩が同質という見方をしたことがないから、先輩に共感や同類を感じない。
だからといって、歩み寄るつもりがないわけではない。
と書きたかったです。
ごめんなさ~い。
自分が逆の立場なら分かるだろ?!ってなコトなんだけど、雪ちゃんは、そもそも先輩と自分に格差を感じてて、
例えば、ポイポイ王子の異名をとる先輩と比べて、あまりに乏しい自分の恋愛経験だったり、
殿方からチヤホヤされる経験もなく、周りにいる男性は太一を始め友人以上の感情は全くないと本人も疑わないところだし、
合コンの時も、スネてる理由がまさか自分が他の男に会いに行ったからなんて到底想像もつかず(険悪な関係からの~、だったからという理由があるにしても、まさか先輩が自分なんかにヤキモチやくなんて思いも至らなかったご様子)
自惚れるコトに慣れてない、まだ女としての自分を意識出来ないお年頃の純朴な女の子って、なんなら私ゃむしろ好意的にみてます。
なんせ相手はポイポイ王子だし。←ひつこい
蓮に対する自分の在り方で悩む雪ちゃんなんだから、先輩が実は亮に対してある種の劣等感や焦燥感を持ってるコトくらい気づいてやれよ、とも思わないでもないけど、まーさかあの先輩が…と思っちゃうんじゃないかな~。
亮の現状を見れば、品行方正、眉目秀麗、将来有望で、自分の親(特に雪母)の覚えもめでたく、なにひとつ不足してない淳が、亮に対して、その生活態度や、左手に関する過去の因縁以外で、敵対心持つ理由も分からない。
つか、今は亮さん自立して仕事もピアノも頑張ってるし。まして自分の前で泣いちゃったし。それをそばで見て知ってる雪が、貸せる手を惜しむ方が私はヤダな~。淳(彼氏)が嫌ってる人だから、その人の良いトコロも目を閉じてしまうよーな子だったら、うあはんは残念じゃよ。
そもそも例の過去の左手の因縁だって、ハッキリしてない。淳のせいだと言う亮の言い分も、根拠なくまるきり信じたりしない雪ちゃんも好きだ。←俺物語
確たるモノがない限り物事を決めつけないし、問い質したいコトも山ほどあってもギャースカ言わずに、淳が自ら話してくれるのを待てる、そういう意味では、私は、雪ちゃんは意外と柔軟だなと思いました。
どんちゃんたちと真逆なコト言ってるかな?ケンカ売ってるワケでは勿論ございませぬ(笑)どんちゃん達の意見を読んでると、正直で誠実な人柄を感じて、その時次第で人間関係の波にプカプカ浮きっぱなしの自分が恥ずかしく思えたりしますが(笑)、性質以外にも年齢やそれに伴う経験もあると思うんですわ、うあはんは。
だいたい最初っから淳が胡散臭すぎるんだよー、人間としても彼氏としても。ヤツの良いように振る舞おうとしてたら、雪ちゃんのせっかくの人間性が崩れちゃう~。手を差し伸べるコトが出来る人にそうしなかった自分を悔いるのもイヤ~。
トンチンカンなコト書いてたらすんまそん。ちなみにまだ淳派継続中です。
そうなんですよね‥雪ちゃんは先輩の闇を感じ取ってはいても、それがどういう背景で起こりえているかをまるで知らないんですものね‥。
清水香織との一悶着の後で、「先輩もこんな思いを小さな頃からしてきたのだな」という気付きはあっても、父親の愛情を亮に取られて云々‥は全く知らない‥。そのことを雪ちゃんが知った時が、この二人の分岐点かなとも思います。
本家の展開、気になりますね!
早く読者が知ってる分だけ、雪ちゃんが淳のことを知ることが出来ますように‥!