Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

姉の本音

2015-11-25 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)
駅から家へ帰る道すがら、雪は悩みながら歩いていた。

このまま家に‥う~ん‥



帰ってしまえば楽だが、店のことが気がかりだ。



なんとなく胸が騒いだので、雪はやはり店へと向かうことにした。

店内へ入ってみると、案の定多くのお客さんで賑わっている。

「すいませーん」「はい!今すぐ」



「さっきから呼んでるんだけど」

「あ‥申し訳ありません」

 

やっぱりな、 と思いながら、雪はすぐにエプロンを手に取った。

「あなた!こっち!」「はい!」「お?雪、来たのか」「私やるよ」

 

雪はそう言うと、すぐに料理を運んだ。

そして髪を結いながら、カウンターに居る母に話し掛ける。

「今日って河村氏来る日じゃなかった?」

「そうなんだけど‥連絡つかないのよ。何かあったのかしらね」



河村氏は連絡無しに欠勤‥。人出は明らかに足りていない。

「じゃあ蓮は?他のバイトさん‥は今日出勤日じゃないか

「蓮も今日は帰らせたのよ。毎日働かせるのもねぇ。

もうちょっとで閉店だし、もうお客さんも増えないでしょ」




母はそう言って厨房へと戻って行くが、あまりの客の多さに閉店を一時間延長した先日の例もある。

雪はポケットから携帯を取り出して、”河村氏”の発信ボタンを押そうと指を伸ばした。







けれど雪は、結局そのボタンを押せなかった。

暫く画面をじっと見た後、やがてそれをポケットに仕舞い直す。



すると近くで働いていた父が、腰を押さえながら低く声を出した。

「いてて‥」



雪は思わず駆け寄る。

「大丈夫?」「ずっと立ちっぱなしだからな」



そう言って父はゆっくりと歩いて行った。

ふとした時に感じる、両親の老い。

雪の心はずっとソワソワと落ち着かないまま、亮の姿を探して外を窺っている‥。








その頃河村亮は、麺屋赤山に向かって全力疾走中だった。



「あー!くそったれッ!」



頭の中に、先程受けた志村教授のレッスンの模様が思い浮かぶ。

「指、完全に戻ったな?それじゃ最初から最後まで通して弾いてみなさい!」



その結果こんな時間だ。

亮は後悔のあまり、頭を押さえながら走る。

「テンション上がって仕事のこと忘れてたじゃねーか!ガッデム!!」



客沢山いるんじゃねーだろーな‥



店のことを心配しながら駆ける亮。

すると突然、後方から聞き慣れた声が掛かった。

「あー!My bro~!」



亮は思わず目を丸くし、立ち止まった。



声のする方へと身体を向け、二三歩後退る。

「何だ?静香か?」



「ちぃーす



すると暗い路地の方から、静香がフラフラと歩き出て来た。

「今帰りィ~?」「は?」「どこ行ってたんだよぉ~店には居ないしぃ~」「またやんのか?コラ」

 

顔を掴んで来た姉に、また喧嘩をふっかけられているのかと一瞬亮は思ったが、すぐにそれは違うと思い直した。

静香は笑いながらフラフラしている。どう見てもただの酔っ払いだ‥。



静香は上機嫌で亮に話し掛けた。

「ピアノ弾いて来たのぉ~?あ~よく出来た弟だことぉ」

「完全に酔っ払ってんな。おい!



亮はグニャグニャと身体を揺らす静香の姿勢を正そうと、姉の肩に手を伸ばした。

その、希望の左手を。

「しっかり‥」



すると静香は、その左手に自身の指をグッと絡ませ、こう聞いた。

「治ったわけ?」



赤く鋭い爪が手に食い込む。

見開いた目に気圧されるように、亮はその場から動けない。



酔っぱらっているとは思えない程の強い力が、手に込められていた。

「なんなんだよ?離せって!」

「全部治ったらぁ‥」



「また逃げるんでしょ?」



「あたしを捨てて‥」



グググ、と指に力が加えられる。

静香は恨むような目つきで亮を見据えながら、呂律の回らない舌でこう続けた。

「アンタ一人で暮らして‥最初から存在すらしなかった人間みたいに‥あたし一人残してぇ‥」



吐露される姉の本音。

しかしそれは亮にとっては、心外以外の何者でも無かった。

「んだよ!」



亮はバッと手を振りほどくと、静香の肩を掴みながら声を荒げる。

「連絡入れようと思って電話しても、一度も取んなかったじゃねーかよ!

一緒に逃げようっつっても、はぐらかし続けてたのはどこのどいつだよ?!」


「あ~‥そういうさぁ~しょぼいのはマジ勘弁なんだって‥」



鬼のような形相の亮を前にしても、静香はニヤニヤ笑うのを止めなかった。

揺れながら、亮のキャップへと手を伸ばす。

「しょっぼ」



続けて着古したジャンパーにも。

「しょっぼ~い」



「アンタが行ってた所も、アンタが今居る場所も全部‥しょぼいんだよぉ」



ヒック、としゃっくりをしながら、静香は亮へとしなだれかかった。

「それでもさぁ‥」



「あたしン所にぃ‥残ってんのはアンタだけみたいだよ‥」



「アンタだけ‥」「あ?おい!」



静香はそう言ったきり、

亮の腕の中で眠り込んでしまった。



いつもは毒しか吐かない姉の漏らした、心の声。

その気弱な側面を、亮は困惑の淵で受け止めている。







顔を上げると数メートル先に、雪の姿が見えた。

店から出てきた彼女は軽く身体を伸ばした後、眠たそうにアクビをしている。







亮は暫し彼女の姿を見ていたが、やがて大きく一息吐いた。

腕の中でぐったりしている静香が、言葉にならない声を出している。

「おい、しっかりしろよ」



「帰んぞ、家に‥」



そして亮は静香を引き摺ったまま、家へと歩いて行った。

一歩一歩進むごとに、だんだんと雪が遠くなる。








雪は寒そうに身を縮めながら、未だ現れない亮のことを気に掛けていた。

しかし二人は出会うことなく、背中と背中がだんだんと離れて行く‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<姉の本音>でした。

いつもは強気の静香の本音‥ですかね。亮に対しての気持ちが少し知ることが出来たような。

静香にとって亮は、愛憎相半ばする存在という感じでしょうか。

そして最後の亮さんのセリフ↓

「帰んぞ、家に‥」



は、2部50話のこのセリフと繋がっていますね。

 

形ある家は無いけれど、結局戻って行くのは家族の元というか‥。

亮も静香も自分からは認めようとしなかったそんな意識が、浮き彫りになって来たような感じがします。


次回は<自信の裏付け>です。



☆ご注意☆
コメント欄は、><←これを使った顔文字は化けてしまうor文章が途中で切れてしまうので、
極力使われないようお願いします!

人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!


希望の左手

2015-11-23 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)


その日、河村亮は練習室でいつものようにピアノを弾いていた。

コンクールは目前に迫っている。



亮の視線が指先を追って走った。

この先、いつもつまづく箇所があるのだ。



しかし、今日は違った。

指はまるで過去の傷など無かったかのように滑らかに滑る。



鍵盤が弾かれる度、音が踊った。

昔頻繁に感じていたあの感覚が、久しぶりに亮の身体を駆け巡る。











突然、瞼の裏にフラッシュが散った。

それはあの頃よく目にした、大舞台を照らす眩しい光。



有名なコンクールの最終ステージ。

緊張などしなかった。

弾けるのが当たり前だったから。

亮はまるで呼吸をするように自然に、流れるようにピアノを弾く。



嫌々ながらのボウタイも、結局は締めざるを得なかった。

けれど誰よりもそれが似合っているのは、とうに自覚していた。







ステージに立った時に感じるのは、全ての感覚が鋭くなるということだ。

視覚も触覚も聴覚も全てが、自分が紡ぐ音に包まれて反応する。



観客の吐く感嘆の吐息や高鳴っていく鼓動まで、手に取るように分かる気がした。

音は振動となって空気を揺らし、その全てが亮に肯定を与える。



最後の一音が止むその時まで、亮は鍵盤から指を離さなかった。

そして音の余韻が途切れるその一瞬、ようやく彼は息を吸う。



それと同時に聴こえるのは、割れるような拍手の音だった。

人々は立ち上がり、口々に彼を賞賛して笑顔を向ける。



全身の血が沸くような高揚感。

けれどそれを顔に出さず、亮は椅子から立ち上がる。



そこで見えたあの光が、今も亮を囚えて離さない。

指が動かなくなってからは忌々しいだけだったそれが、今新たな意味を持って亮を照らすーー‥。













亮は目を見開きながら、鍵盤から指を離した。

音の余韻が、あの頃と同じ振動で耳に残る。








亮は自身の左手を、改めてマジマジと眺めてみた。

希望から絶望まで、全てを知ったこの左手ーーー‥。







口元に、思わず笑みが浮かんでいた。

あれきり掴み損ねていた希望を、再びこの手で掴むことが出来るかもしれないと‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<希望の左手>でした。

短めの記事で失礼しました。しかもセリフ無し‥地の文ばかりですいません

しかし亮さん‥!ようやく左手の感覚が戻ったんですね‥!良かったーー

この先の展開が楽しみですね。


次回は<姉の本音>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!

彼女の意図(1)

2015-11-21 01:00:00 | 雪3年4部(彼女の意図~彼の願い)
次の授業へ向かっている途中、雪の携帯に聡美からメールが届いた。

あたし15分程遅れて行くから。

このままじゃダメ。こんがらがりんちょ!




「こんがらがりんちょ‥?って何‥?



若干意味不明なそのメールに首を傾げつつ、雪はため息を吐きながら廊下を歩く。

てかまた一人か‥ふぅ‥



過去問問題のこともあって、聡美と一緒に居る方が色々気楽なのだが‥。

しかし遅れると言うなら仕方がない。雪は授業に向かうべく、教室に向かって歩いて行く。



すると教室の前まで来たところで、

そこから出てきた糸井直美とバッタリ出くわした。



一瞬固まる両者。






雪は目を丸くして彼女のことを見ていたが、次の瞬間ニッコリと笑った。

「おはようございます、直美さん」



雪からの挨拶を受けて、直美は一瞬表情を曇らせた。

上辺だけのその笑顔を、皮肉るような顔をして。



それでも直美は一応笑顔を浮かべ、雪に挨拶を返す。

「うん、オハヨー。ちょっとどいてくれる?トイレ行くから



「はい」



雪がそう答えるや否や、直美はプイと背を向けて廊下を歩いて行った。

こちらを一度も振り返らずに。






雪はじっと見つめていた。

その女、糸井直美の後ろ姿を。



プライドが‥高くて、頓着しないフリして‥欲張り



彼女の観察眼が鋭く光る。

雪は”糸井直美”という人間をこう分析していた。

初めは親しかったけど、前のグループワーク以降関係性は歪んでいる。

それまでは知らなかったあの人の利己主義を、目の当たりにしたからだ。




私が鬱陶しくて清水香織の味方になったという気もする。

けど実際のところ、本当に二人は仲が良かったのだろうか?




あの人が形成する人間関係の本質を、雪は見極めようとしていた。

てか、他の子達は?







この閉ざされたドアの向こうに、様々な人間関係が広がっている。

彼女の意図は、思った通りに展開して行くだろうか‥?







雪はドアを開け、中へと入って行った。

そこには沢山の学生達が、授業が始まるまでの時をそれぞれに過ごしている。



雪は空いている席へと歩を進めながら、談笑している女子学生に視線を流した。

直美さんがいつもつるんでる子達



彼女らは何か問題が持ち上がった時は、すぐに直美の後ろにつく子達だ。

雪は特に彼女らに声を掛けずに、席の合間を進んで行く。



直美さんとも私とも話す間柄の子達



ここのカテゴリに属する子が一番多い。

雪はその子達に向かって、笑顔で挨拶を口にする。

「おはよ」



その反応は様々だ。

雪サイドに属する子。

「良い天気だねー」



中間に属する子。

「おはよう」



直美サイドに属する子。

「ん?うん」



彼女達の反応を観察しながら、雪は静かに決意を固めて行く。

もうこの先は、私の行動次第だ



すると後ろから声が掛かった。

「おはよー!」



三年になって直美さんから離れた子達



雪はおはようと返しながら、彼女達の立ち位置を確認した。

変なゴタゴタがあったって聞いたような‥。

性格も私との方が合うみたいだし




辺りを見回し、改めて今回の件を客観視してみる。

そして今回のことに興味が無い子達も勿論大勢居る。



今自分が置かれている状況と、周りの状況、そして人間関係。

雪は全てを見極めた上で、ある意図を展開させようとしていた。

「私ちょっと聡美探しに‥」「雪ちゃん、おはよ」



雪が席から立ち上がると同時に、前方から声が掛かった。

目の前に、あの子が立っている。



同期の吉田海。

「おはよう」



海は「これ‥」と言いながら、鞄の中を探り始めた。

雪はそんな彼女を凝視しながら、改めて彼女を分析する。

口数が少なくて、あちこち首を突っ込むこともあまりない。

自分の利得をキッチリと見極めるタイプだ。彼女の方から先に近付いて来てくれてありがたいくらい。




そして‥



雪の目に、厳しい光が灯り始めた。

自分の考えが正しければ、この後彼女が取り出すのは‥。

「あたしの方の過去問、コピーしてきたよ」



海は鞄から、自分が手に入れたという過去問を取り出し、雪に渡した。

そしてその様子を、今教室に入って来た糸井直美は目にしている。






明らかに過去問と思われるものを、受け渡ししている二人。

思わず直美の顔が歪む。

「は?」



そんな直美を視線の端でとらえながら、雪は「わぁ」と小さく声を上げた。

頭の中では、海ちゃんの分析が続いている。

そして、約束をきちんと守る。



彼女の組み敷いた意図が、ゆっくりと展開して行く。

「ありがとう。見せてもらうね」



直美は口をあんぐりと開けながら、その展開を一人見ていた。

二人は親しげに会話を続ける。

「今日の朝忙しくてうっかり忘れちゃったけど、明日は私のも持ってくるから」

「うん」






そう言ったきり、雪は直美の方を振り向くこと無く出口へと向かった。

直美は堪らず海に話し掛ける。

「ねぇちょっと!あたしがアレを‥」



「はい?何ですか?」



しかし海はそう言って首を傾げるだけだ。

直美はモゴモゴと「別に‥」と返した。






苦々しい表情の直美、飄々とした海と雪。

三人はそれぞれの意図や思いを抱えたまま、互いに背を向けて歩いて行った‥。


・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<彼女の意図(1)>でした。

ゆゆゆ雪ちゃんの先輩化が止まらない‥

いつの間にか学科内では雪と直美が敵対関係と見なされているようですね。

しかしこの女子の派閥の感じ、リアルですね‥。思わず凹みそう‥。

次回は<希望の左手>です。


人気ブログランキングに参加しました
人気ブログランキングへ

引き続きキャラ人気投票も行っています~!