次の授業へ向かっている途中、雪の携帯に聡美からメールが届いた。
あたし15分程遅れて行くから。
このままじゃダメ。こんがらがりんちょ!
「こんがらがりんちょ‥?って何‥?」
若干意味不明なそのメールに首を傾げつつ、雪はため息を吐きながら廊下を歩く。
てかまた一人か‥ふぅ‥
過去問問題のこともあって、聡美と一緒に居る方が色々気楽なのだが‥。
しかし遅れると言うなら仕方がない。雪は授業に向かうべく、教室に向かって歩いて行く。
すると教室の前まで来たところで、
そこから出てきた糸井直美とバッタリ出くわした。
一瞬固まる両者。
雪は目を丸くして彼女のことを見ていたが、次の瞬間ニッコリと笑った。
「おはようございます、直美さん」
雪からの挨拶を受けて、直美は一瞬表情を曇らせた。
上辺だけのその笑顔を、皮肉るような顔をして。
それでも直美は一応笑顔を浮かべ、雪に挨拶を返す。
「うん、オハヨー。ちょっとどいてくれる?トイレ行くから」
「はい」
雪がそう答えるや否や、直美はプイと背を向けて廊下を歩いて行った。
こちらを一度も振り返らずに。
雪はじっと見つめていた。
その女、糸井直美の後ろ姿を。
プライドが‥高くて、頓着しないフリして‥欲張り
彼女の観察眼が鋭く光る。
雪は”糸井直美”という人間をこう分析していた。
初めは親しかったけど、前のグループワーク以降関係性は歪んでいる。
それまでは知らなかったあの人の利己主義を、目の当たりにしたからだ。
私が鬱陶しくて清水香織の味方になったという気もする。
けど実際のところ、本当に二人は仲が良かったのだろうか?
あの人が形成する人間関係の本質を、雪は見極めようとしていた。
てか、他の子達は?
この閉ざされたドアの向こうに、様々な人間関係が広がっている。
彼女の意図は、思った通りに展開して行くだろうか‥?
雪はドアを開け、中へと入って行った。
そこには沢山の学生達が、授業が始まるまでの時をそれぞれに過ごしている。
雪は空いている席へと歩を進めながら、談笑している女子学生に視線を流した。
直美さんがいつもつるんでる子達
彼女らは何か問題が持ち上がった時は、すぐに直美の後ろにつく子達だ。
雪は特に彼女らに声を掛けずに、席の合間を進んで行く。
直美さんとも私とも話す間柄の子達
ここのカテゴリに属する子が一番多い。
雪はその子達に向かって、笑顔で挨拶を口にする。
「おはよ」
その反応は様々だ。
雪サイドに属する子。
「良い天気だねー」
中間に属する子。
「おはよう」
直美サイドに属する子。
「ん?うん」
彼女達の反応を観察しながら、雪は静かに決意を固めて行く。
もうこの先は、私の行動次第だ
すると後ろから声が掛かった。
「おはよー!」
三年になって直美さんから離れた子達
雪はおはようと返しながら、彼女達の立ち位置を確認した。
変なゴタゴタがあったって聞いたような‥。
性格も私との方が合うみたいだし
辺りを見回し、改めて今回の件を客観視してみる。
そして今回のことに興味が無い子達も勿論大勢居る。
今自分が置かれている状況と、周りの状況、そして人間関係。
雪は全てを見極めた上で、ある意図を展開させようとしていた。
「私ちょっと聡美探しに‥」「雪ちゃん、おはよ」
雪が席から立ち上がると同時に、前方から声が掛かった。
目の前に、あの子が立っている。
同期の吉田海。
「おはよう」
海は「これ‥」と言いながら、鞄の中を探り始めた。
雪はそんな彼女を凝視しながら、改めて彼女を分析する。
口数が少なくて、あちこち首を突っ込むこともあまりない。
自分の利得をキッチリと見極めるタイプだ。彼女の方から先に近付いて来てくれてありがたいくらい。
そして‥
雪の目に、厳しい光が灯り始めた。
自分の考えが正しければ、この後彼女が取り出すのは‥。
「あたしの方の過去問、コピーしてきたよ」
海は鞄から、自分が手に入れたという過去問を取り出し、雪に渡した。
そしてその様子を、今教室に入って来た糸井直美は目にしている。
明らかに過去問と思われるものを、受け渡ししている二人。
思わず直美の顔が歪む。
「は?」
そんな直美を視線の端でとらえながら、雪は「わぁ」と小さく声を上げた。
頭の中では、海ちゃんの分析が続いている。
そして、約束をきちんと守る。
彼女の組み敷いた意図が、ゆっくりと展開して行く。
「ありがとう。見せてもらうね」
直美は口をあんぐりと開けながら、その展開を一人見ていた。
二人は親しげに会話を続ける。
「今日の朝忙しくてうっかり忘れちゃったけど、明日は私のも持ってくるから」
「うん」
そう言ったきり、雪は直美の方を振り向くこと無く出口へと向かった。
直美は堪らず海に話し掛ける。
「ねぇちょっと!あたしがアレを‥」
「はい?何ですか?」
しかし海はそう言って首を傾げるだけだ。
直美はモゴモゴと「別に‥」と返した。
苦々しい表情の直美、飄々とした海と雪。
三人はそれぞれの意図や思いを抱えたまま、互いに背を向けて歩いて行った‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女の意図(1)>でした。
ゆゆゆ雪ちゃんの先輩化が止まらない‥
いつの間にか学科内では雪と直美が敵対関係と見なされているようですね。
しかしこの女子の派閥の感じ、リアルですね‥。思わず凹みそう‥。
次回は<希望の左手>です。
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あたし15分程遅れて行くから。
このままじゃダメ。こんがらがりんちょ!
「こんがらがりんちょ‥?って何‥?」
若干意味不明なそのメールに首を傾げつつ、雪はため息を吐きながら廊下を歩く。
てかまた一人か‥ふぅ‥
過去問問題のこともあって、聡美と一緒に居る方が色々気楽なのだが‥。
しかし遅れると言うなら仕方がない。雪は授業に向かうべく、教室に向かって歩いて行く。
すると教室の前まで来たところで、
そこから出てきた糸井直美とバッタリ出くわした。
一瞬固まる両者。
雪は目を丸くして彼女のことを見ていたが、次の瞬間ニッコリと笑った。
「おはようございます、直美さん」
雪からの挨拶を受けて、直美は一瞬表情を曇らせた。
上辺だけのその笑顔を、皮肉るような顔をして。
それでも直美は一応笑顔を浮かべ、雪に挨拶を返す。
「うん、オハヨー。ちょっとどいてくれる?トイレ行くから」
「はい」
雪がそう答えるや否や、直美はプイと背を向けて廊下を歩いて行った。
こちらを一度も振り返らずに。
雪はじっと見つめていた。
その女、糸井直美の後ろ姿を。
プライドが‥高くて、頓着しないフリして‥欲張り
彼女の観察眼が鋭く光る。
雪は”糸井直美”という人間をこう分析していた。
初めは親しかったけど、前のグループワーク以降関係性は歪んでいる。
それまでは知らなかったあの人の利己主義を、目の当たりにしたからだ。
私が鬱陶しくて清水香織の味方になったという気もする。
けど実際のところ、本当に二人は仲が良かったのだろうか?
あの人が形成する人間関係の本質を、雪は見極めようとしていた。
てか、他の子達は?
この閉ざされたドアの向こうに、様々な人間関係が広がっている。
彼女の意図は、思った通りに展開して行くだろうか‥?
雪はドアを開け、中へと入って行った。
そこには沢山の学生達が、授業が始まるまでの時をそれぞれに過ごしている。
雪は空いている席へと歩を進めながら、談笑している女子学生に視線を流した。
直美さんがいつもつるんでる子達
彼女らは何か問題が持ち上がった時は、すぐに直美の後ろにつく子達だ。
雪は特に彼女らに声を掛けずに、席の合間を進んで行く。
直美さんとも私とも話す間柄の子達
ここのカテゴリに属する子が一番多い。
雪はその子達に向かって、笑顔で挨拶を口にする。
「おはよ」
その反応は様々だ。
雪サイドに属する子。
「良い天気だねー」
中間に属する子。
「おはよう」
直美サイドに属する子。
「ん?うん」
彼女達の反応を観察しながら、雪は静かに決意を固めて行く。
もうこの先は、私の行動次第だ
すると後ろから声が掛かった。
「おはよー!」
三年になって直美さんから離れた子達
雪はおはようと返しながら、彼女達の立ち位置を確認した。
変なゴタゴタがあったって聞いたような‥。
性格も私との方が合うみたいだし
辺りを見回し、改めて今回の件を客観視してみる。
そして今回のことに興味が無い子達も勿論大勢居る。
今自分が置かれている状況と、周りの状況、そして人間関係。
雪は全てを見極めた上で、ある意図を展開させようとしていた。
「私ちょっと聡美探しに‥」「雪ちゃん、おはよ」
雪が席から立ち上がると同時に、前方から声が掛かった。
目の前に、あの子が立っている。
同期の吉田海。
「おはよう」
海は「これ‥」と言いながら、鞄の中を探り始めた。
雪はそんな彼女を凝視しながら、改めて彼女を分析する。
口数が少なくて、あちこち首を突っ込むこともあまりない。
自分の利得をキッチリと見極めるタイプだ。彼女の方から先に近付いて来てくれてありがたいくらい。
そして‥
雪の目に、厳しい光が灯り始めた。
自分の考えが正しければ、この後彼女が取り出すのは‥。
「あたしの方の過去問、コピーしてきたよ」
海は鞄から、自分が手に入れたという過去問を取り出し、雪に渡した。
そしてその様子を、今教室に入って来た糸井直美は目にしている。
明らかに過去問と思われるものを、受け渡ししている二人。
思わず直美の顔が歪む。
「は?」
そんな直美を視線の端でとらえながら、雪は「わぁ」と小さく声を上げた。
頭の中では、海ちゃんの分析が続いている。
そして、約束をきちんと守る。
彼女の組み敷いた意図が、ゆっくりと展開して行く。
「ありがとう。見せてもらうね」
直美は口をあんぐりと開けながら、その展開を一人見ていた。
二人は親しげに会話を続ける。
「今日の朝忙しくてうっかり忘れちゃったけど、明日は私のも持ってくるから」
「うん」
そう言ったきり、雪は直美の方を振り向くこと無く出口へと向かった。
直美は堪らず海に話し掛ける。
「ねぇちょっと!あたしがアレを‥」
「はい?何ですか?」
しかし海はそう言って首を傾げるだけだ。
直美はモゴモゴと「別に‥」と返した。
苦々しい表情の直美、飄々とした海と雪。
三人はそれぞれの意図や思いを抱えたまま、互いに背を向けて歩いて行った‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<彼女の意図(1)>でした。
ゆゆゆ雪ちゃんの先輩化が止まらない‥
いつの間にか学科内では雪と直美が敵対関係と見なされているようですね。
しかしこの女子の派閥の感じ、リアルですね‥。思わず凹みそう‥。
次回は<希望の左手>です。
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引き続きキャラ人気投票も行っています~!
雪が淳のコピー化しないことを望むばかりなり、ですね~(´・д・`)
良いとこ取りになれたら一番良いですね。
このまま進んだら何処かで私は違う、になりそうな気もするけど、、。それはそれでまだ先が良いですねえ(-_-;)
波乱は河村姉が起こしてきそうだし、それまでは平和にしてあげてほしいですね。
周りに翻弄されながらもストレス抱えながらも、真正面から相手とぶつかっていた雪が好きだったんだけどなぁ…。
真正面からぶつかる前に相手を見定めて、流す知恵。
とか、
刺すべき釘は外さない。
とか。
彼女の無理のかからないところに落とし込めたらいいけど、そこに先輩は要るのかな?と勝手に切なくなってます。
と思うと
冷静に人を見て、分析する姿。先輩を見ているような気分になりました…(゜_゜;)(゜_゜;)
先輩といるときの雪ちゃんはいいように操作されているというか…なんだか違和感があります
最近の先輩は垢抜けたようになって可愛らしいんですけど、本心が未だに分からなくてやっぱり怖いです^^;
先輩と同じように考え行動し先輩の理解者になるのか、
先輩から離れるか、
雪ちゃんなりの解決策を見つけるのか、注目したい所ですね。。
最後の選択肢がいちばん先輩の救いになる気がするんですけどねー…
本当、雪ちゃんにはぜひとも良いとこ取りで人生を渡って行って欲しいと願うばかりです。頑張れ~~!
まかろんさん
分かります、その気持ち!
なんとなく今の雪を見てると「器用に生きる」という仮面を被っているように見えますよね。やがて無理が来そうな気がするんですが‥。
papurikaさん
今は雪自身が落とし所を見つけるお試しの段階‥ほほう!それは賢い!
先輩がそれを見てまた刺激を受けてくれたら良いですよね‥。
nossyさん
あの目つきというか冷静に観察してる感じ、先輩ですよね!!知らず知らずの内に、似た者同士になっている恐怖‥!
unknownさん
最近の雪ちゃんはとにかく先輩と揉めたくない、という気持ちが強いですよね。
プライベートが超多忙だからそこに時間を割けないとは言っても、気になりますね‥。
くうがさん
Unknownの名乗りを上げて下さってありがとうございました^^お気にされずに!
先輩にとって、自分と似たような境遇に居る雪ちゃんがその局面をどう乗り越えていくのか、ワクワクしてるところはあるのかもしれませんね‥^^;