福井太一は、授業が始まると真面目にノートを取り始めた。
隣に雪や聡美の姿はない。太一は一人で座っていた。

最近の彼はというと、あまり二人と一緒に居ることをしなくなった。
先ほど聡美から近況を探るメールが来たけれど、それも後回しにして太一は授業に集中する。
「よぉ?」

すると隣の席に、横山翔が突然座ってきた。
太一は目を見開きつつ、真顔で彼のことを見つめる。

横山は太一に話しかけてくる。
遅刻しちゃったよ、とか、隣座ってもいい?とか。

太一はそれに応えることなく、再び前を向いてノートを取り始めた。
しかし横山は太一の態度を気に留めず、尚も彼に話しかけ続けた。
「‥最近よそよそしいのな? 今もバスケやってんのか?」

横山の口にするチクリと刺す嫌味にも、太一は反応せず彼を無視した。
しかしそれも想定内だと言わんばかりに、横山は言葉を続ける。
「ところでよぉ、お前姐さん達と離れて退屈じゃねーの?
俺は姐さんじゃなくて兄貴だけど、時々こうして一緒に座ろうぜ。なぁ?」

自分が先輩であるということの誇示と、いつも雪と聡美と一緒にいることへの誹謗。
親切の仮面を被りながらも、その本心が透けて見える。太一は尚も無視し続けた。

横山はそんな太一を見て、大げさに頭を横に振って溜息を吐いてみせた。
「おいおい和解しようぜ~? 仲良くなって悪いことなんてないだろ?
器が小さいのは止めてくれな!」

そして再び癖のある声でベラベラと、彼の話は続く。
「無視すんなよな~。‥は~ぁ‥俺最近ツイてなくてさぁ。彼女と別れることになっちって。
そんでお前に相談したいことがあんだけど」

そう言って横山は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
太一の方をチラと窺い見る。

彼の企みが一歩一歩、その結末に向かって歩みを進めていた。横山は軽い調子で彼に話しかける。
「お前みたいにさぁ、女二人はべらせる方法教えてくれよ。
お前オタクだと思ってたけど結構やるよな~?秘訣って何? お前が俺より優れてるとこって‥何だ?背か?」

ケラケラと笑いながら、横山は太一に向かって失礼なことを言い続けた。
その癇に障る声を聞き流しながらも、遂に太一が彼に向かって口を開く。
「あの、教授の声が聞こえないんですが」

太一はノートを取りながら、横山の方を窺うこと無くそうピシャリと言った。
横山は顔を顰めながら適当に相槌を打つと、呟くようにこう口にする。
「ふ~ん‥。伊吹聡美の話があるんだけどな~‥」

伊吹聡美、その名が彼の陰謀のキーワードだった。
そして案の定、太一の中のアンテナがピクリと反応する。

横山はそんな太一の様子を見過ごさなかった。
軽い調子で笑いながら、からかうように声を掛ける。
「おっまえまだアイツのこと好きなの?てか見てっと分かんだろ?
お前なんてアイツの好みじゃねぇっての!分かんねぇの?」

横山は厳しい言葉を次々と口にした。
伊吹聡美は遊び慣れた年上の男が好みなのだ、同い年の自分でさえ厳しい、と。
「おっしいよなぁ。可愛いもんアイツ。だろ?」

太一はニタニタと笑う横山の方を一向に見なかったが、いつの間にかノートを取る手が止まっていた。
黙り込む太一に、尚も横山の言葉が浴びせられる。
「てか、お前何年アイツのこと追っかけてんのよ?入学した時からぁ?クックック‥」

バカにしたように嗤う横山の声が、太一の心に溜まっていく。
それは澱のようにネットリと絡みつき、太一の思考を停止させていく。

横山は太一の方に身を乗り出し、クックックと嗤った。
「お前って、俺よりはるかにネチッコイ奴だよな~?は~‥マジ哀れな後輩だぜ!」

そう言って横山は、ポケットから携帯を取り出した。
「その代わりといっちゃなんだけど、イイモノやんよ。ほら」

横山は声をひそめ携帯をかざすと、いやらしい嗤いを口にしながら話し出した。
ニタニタした笑い顔と、ベタベタした話し方で。
「前こっそり撮った聡美の写真があんだよ。
無闇に他人に見せられないようなのもあんだぜ?クックック‥」

それを聞く太一の手は、今や完全に停止していた。
心の容器に溜まった澱が、ドロドロと溢れ出す。
「お前には特別に‥」

横山がそう口にした時だった。
ついに限界を迎えた太一と、目が合ったのは。

バキッ!!

太一の懇親の一撃が、横山の頬にクリーンヒットした。
横山は衝撃で椅子から転げ落ち、太一は肩で息をしながら彼を見下ろす。

心の中で、憎しみが燃えていた。
太一は何も考えられぬまま、その感情に任せて拳を振るったのだ。

見下ろした横山は、顔面を押さえながら細かく震えていた。
頬は早くも赤く腫れ、それは痛々しい程だった。

辺りは騒然とした。
教授が立ち上がり太一に退室を言い渡し、横山を助けるよう周りの学生を促す。

ガヤガヤと騒がしい教室内で、未だ太一は高ぶる感情を持て余していた。
肩で細かく息をしながら、周りで囁かれる人々の声が耳を通って消えていく。

立ち尽くす太一を残して、横山は学生達に連れられ医務室へと向かって行った。
周りの学生達は太一のことを、異物を見るような目つきで眺めていく。

太一は横山に視線を流した。
そして目に入って来たのは、彼に見せつけるように嗤った横顔‥。

太一はその歪んだ笑みから、視線を外すことが出来なかった。
心の中で溢れた澱が、流れ出して全身を濡らしていくようだった。

周りの声など気にならなかった。
それよりもこの胸を騒がす気持ち悪い感情を、太一は持て余して立ち尽くしていた‥。
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
<太一への陰謀(1)>でした。
こうして見ると横山ちっちゃいですね~。太一が大きいのか?
そして韓国にも「オタク」という言葉があるんですね!ハングル読みでそのまま「オタク」なのでビックリしました。
ヲタは世界を超える‥!
本編では横山×太一のエピソードと、雪×香織のエピソードが混ぜこぜで描かれているのですが、
記事ではそれぞれまとめて書いていくつもりですので、あしからず‥。
ということで次回もこの二人‥。
<太一への陰謀(2)>です。
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隣に雪や聡美の姿はない。太一は一人で座っていた。

最近の彼はというと、あまり二人と一緒に居ることをしなくなった。
先ほど聡美から近況を探るメールが来たけれど、それも後回しにして太一は授業に集中する。
「よぉ?」

すると隣の席に、横山翔が突然座ってきた。
太一は目を見開きつつ、真顔で彼のことを見つめる。

横山は太一に話しかけてくる。
遅刻しちゃったよ、とか、隣座ってもいい?とか。

太一はそれに応えることなく、再び前を向いてノートを取り始めた。
しかし横山は太一の態度を気に留めず、尚も彼に話しかけ続けた。
「‥最近よそよそしいのな? 今もバスケやってんのか?」

横山の口にするチクリと刺す嫌味にも、太一は反応せず彼を無視した。
しかしそれも想定内だと言わんばかりに、横山は言葉を続ける。
「ところでよぉ、お前姐さん達と離れて退屈じゃねーの?
俺は姐さんじゃなくて兄貴だけど、時々こうして一緒に座ろうぜ。なぁ?」

自分が先輩であるということの誇示と、いつも雪と聡美と一緒にいることへの誹謗。
親切の仮面を被りながらも、その本心が透けて見える。太一は尚も無視し続けた。

横山はそんな太一を見て、大げさに頭を横に振って溜息を吐いてみせた。
「おいおい和解しようぜ~? 仲良くなって悪いことなんてないだろ?
器が小さいのは止めてくれな!」

そして再び癖のある声でベラベラと、彼の話は続く。
「無視すんなよな~。‥は~ぁ‥俺最近ツイてなくてさぁ。彼女と別れることになっちって。
そんでお前に相談したいことがあんだけど」

そう言って横山は、ニヤリと意地の悪い笑みを浮かべた。
太一の方をチラと窺い見る。

彼の企みが一歩一歩、その結末に向かって歩みを進めていた。横山は軽い調子で彼に話しかける。
「お前みたいにさぁ、女二人はべらせる方法教えてくれよ。
お前オタクだと思ってたけど結構やるよな~?秘訣って何? お前が俺より優れてるとこって‥何だ?背か?」

ケラケラと笑いながら、横山は太一に向かって失礼なことを言い続けた。
その癇に障る声を聞き流しながらも、遂に太一が彼に向かって口を開く。
「あの、教授の声が聞こえないんですが」

太一はノートを取りながら、横山の方を窺うこと無くそうピシャリと言った。
横山は顔を顰めながら適当に相槌を打つと、呟くようにこう口にする。
「ふ~ん‥。伊吹聡美の話があるんだけどな~‥」

伊吹聡美、その名が彼の陰謀のキーワードだった。
そして案の定、太一の中のアンテナがピクリと反応する。

横山はそんな太一の様子を見過ごさなかった。
軽い調子で笑いながら、からかうように声を掛ける。
「おっまえまだアイツのこと好きなの?てか見てっと分かんだろ?
お前なんてアイツの好みじゃねぇっての!分かんねぇの?」

横山は厳しい言葉を次々と口にした。
伊吹聡美は遊び慣れた年上の男が好みなのだ、同い年の自分でさえ厳しい、と。
「おっしいよなぁ。可愛いもんアイツ。だろ?」

太一はニタニタと笑う横山の方を一向に見なかったが、いつの間にかノートを取る手が止まっていた。
黙り込む太一に、尚も横山の言葉が浴びせられる。
「てか、お前何年アイツのこと追っかけてんのよ?入学した時からぁ?クックック‥」

バカにしたように嗤う横山の声が、太一の心に溜まっていく。
それは澱のようにネットリと絡みつき、太一の思考を停止させていく。

横山は太一の方に身を乗り出し、クックックと嗤った。
「お前って、俺よりはるかにネチッコイ奴だよな~?は~‥マジ哀れな後輩だぜ!」

そう言って横山は、ポケットから携帯を取り出した。
「その代わりといっちゃなんだけど、イイモノやんよ。ほら」

横山は声をひそめ携帯をかざすと、いやらしい嗤いを口にしながら話し出した。
ニタニタした笑い顔と、ベタベタした話し方で。
「前こっそり撮った聡美の写真があんだよ。
無闇に他人に見せられないようなのもあんだぜ?クックック‥」

それを聞く太一の手は、今や完全に停止していた。
心の容器に溜まった澱が、ドロドロと溢れ出す。
「お前には特別に‥」

横山がそう口にした時だった。
ついに限界を迎えた太一と、目が合ったのは。

バキッ!!

太一の懇親の一撃が、横山の頬にクリーンヒットした。
横山は衝撃で椅子から転げ落ち、太一は肩で息をしながら彼を見下ろす。

心の中で、憎しみが燃えていた。
太一は何も考えられぬまま、その感情に任せて拳を振るったのだ。

見下ろした横山は、顔面を押さえながら細かく震えていた。
頬は早くも赤く腫れ、それは痛々しい程だった。

辺りは騒然とした。
教授が立ち上がり太一に退室を言い渡し、横山を助けるよう周りの学生を促す。

ガヤガヤと騒がしい教室内で、未だ太一は高ぶる感情を持て余していた。
肩で細かく息をしながら、周りで囁かれる人々の声が耳を通って消えていく。

立ち尽くす太一を残して、横山は学生達に連れられ医務室へと向かって行った。
周りの学生達は太一のことを、異物を見るような目つきで眺めていく。

太一は横山に視線を流した。
そして目に入って来たのは、彼に見せつけるように嗤った横顔‥。

太一はその歪んだ笑みから、視線を外すことが出来なかった。
心の中で溢れた澱が、流れ出して全身を濡らしていくようだった。

周りの声など気にならなかった。
それよりもこの胸を騒がす気持ち悪い感情を、太一は持て余して立ち尽くしていた‥。
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<太一への陰謀(1)>でした。
こうして見ると横山ちっちゃいですね~。太一が大きいのか?
そして韓国にも「オタク」という言葉があるんですね!ハングル読みでそのまま「オタク」なのでビックリしました。
ヲタは世界を超える‥!
本編では横山×太一のエピソードと、雪×香織のエピソードが混ぜこぜで描かれているのですが、
記事ではそれぞれまとめて書いていくつもりですので、あしからず‥。
ということで次回もこの二人‥。
<太一への陰謀(2)>です。
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