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Trapped in me.

韓国漫画「Cheese in the trap」の解釈ブログです。
*ネタバレ含みます&二次使用と転載禁止*

追跡

2014-01-27 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
ようやく雪が少し回復して来た頃、聡美と太一が家の前に戻って来た。

淳は雪の隣に寄り添い、男を見失った亮と蓮もまたこの場に留まっていた。

「うわああん!ゆきぃ、大丈夫?!」



痛々しい雪を見て聡美が号泣する。

雪は「うん、ただぶつかった時少しの間息が出来なくて」と弱々しく答えた。

そんな姉を見て、蓮が「119番する?」と声を掛ける。



雪は首を横に振り、警察から呼ぼうと言って蓮に110番するよう促した。蓮が頷いて電話を掛ける。

痣や擦り傷の付いた雪を見て、再び聡美が声を上げて泣いた。



しかし雪は傷ついた身体以上に、気がかりでどうしようもなく落胆していることがあった。

「お父さんからもらった‥お金が‥」



弱った心にまかせて、つい気持ちを戸惑わせているものが口を突いて出た。

それは小さな呟きだったが、心から漏れたその声を、淳の耳は拾ったのだった。


「あたし薬買いに行ってくる!」



「ダメっすよ。女子供は警察が来るまでここにいなさい」

泣きながら歩いて行こうとする聡美のパーカーを、太一が掴んで冷静に言葉を掛けた。

そして先ほど付近を見回った亮が、皆に向かって意見を述べ始めた。

「しっかしここいらは建物がひしめき合って建ってる上に、窓には鉄格子が嵌めてあんだよ。

あの男の足音も聞こえなかったし‥」




だから自分達が知らない隠れ場所があるはずだと言って亮は辺りを見回した。

皆が思案する中、蓮が考えていた推測を口に出す。

「だとしたら、可能性が高い場所は二つしかないっすよ」



そう言って蓮は雪の方を向いて背を屈め、姉に確認するように言葉を続けた。

「姉ちゃん、あの男がお隣と姉ちゃん家の窓を直したって言ってたよね?

何で敢えて孫のフリまでして窓を直して、頻繁に出入りしたんだと思う?」




雪は思い当たるフシがあった。

「‥それじゃあこの前隣から物音がしたってのももしかして‥」



そう口にすると、蓮が物々しく頷いた。

つまり男が潜んでいる可能性の高い二つの場所とは、秀樹の元住んでいた部屋と雪の部屋ということになる。

男は大家の孫のフリをして、その二つの部屋に出入り出来る下準備を予めしていたというわけだ。

蓮は尚も話を続ける。

「この周辺をウロチョロしてたってのもそーゆーこと。

俺らがソッコーであの男を追っかけてこの建物の後ろに回ったのに、突然居なくなったっしょ?

つーことは、男はそれまで隠れてて、俺らが別の場所へ行ったのを見てから上に上がったんだと考えると辻褄が合う」




「あの男が大家の孫だろうがそうでなかろうが、お隣が空室ってことは確実に知ってるだろ。

ここは完全に奴のテリトリーってわけだよ」


雪は蓮の推理に自分の考えを続けた。

「ってことは、また私が家に入ることを見越して‥」



じっと息を潜めている男の息遣いが、聞こえてくるような気がした。

六人はそれぞれの思いを抱えて二階を見上げる‥。












そして雪の隣の部屋、秀樹が元住んでいた部屋の前に、淳、亮、蓮の三人が立った。

息を飲んでノックをする。応答は無い。

「突撃ぃ!!!」



亮が切り込み隊長となって、そのドアを蹴破った。

下で待っている雪と聡美と太一の元に、騒々しい声と音が聞こえて来る。

「捕まえろ捕まえろ!」



ドタバタと足音が階段付近に幾つも響く。

「こんの野郎ーーー!!」



すごいスピードで逃げる男のパーカーを、亮の手が捕らえた。

そのまま力の限り地面に叩きつける。聡美が思わず悲鳴を上げた。



男は這いつくばるような格好で地面にうつ伏した。

亮はマウントポジションを取ると、男の頬を張った。

「この変態野郎!他にすることねーのかよ?!てめぇなんて生きてる価値ねーよ!」



亮が男を殴る音が何度も響く。

雪は目を逸らし聡美は恐れおののいていた。太一が二人を守るように彼女らを庇っている。

すると男は殴られた頬を腫らしながら、ニヤッと笑った。聡美の方を見ている。

「あ‥思い出したぁ。あの子は高い下着ばかり着けてる子だぁ」



男は気味の悪い目つきで聡美のことを見ていた。上から下まで、舐めるようにジロジロと視線を落としていく。

「あんな高級なもの着けてるわりに本人は大したことないなぁ。まぁあの下着は俺が持ってるんだけど」



ザワッと聡美の全身に怖気が立った。

そしてそれを聞いた太一が、思わずカッときて男に向かう。

「黙れ!こいつ完全に狂ってやがる‥!」



後ろから出てきた太一に、亮が気を取られて後方を向いた。

男はその隙を見逃さず、地面に爪を立て砂を掴むと、亮の目をめがけてそれを放った。

「うわっ!?」



「オレの目が!オレの目が!」と言いながら亮は目を押さえてジタバタした。

太一は突然の出来事に驚き、腰を抜かしている。男は起き上がると、再び全速力で逃げ出した。



蓮は男を追って全力で駆けようとしたものの、不意にシャツの襟首を高い所から掴まれた。

「弟君、ちょっと待って」



蓮はその指示に不満を漏らそうと口を開くが、淳の表情を見て沈黙した。

発せられる無言の威圧感が、その場の誰もを黙らせた。

「ここでお姉さんと警察を待っていてくれ。俺が行く」



泣きながら悔しがる聡美を胸に抱えながら、

「先輩、」と雪が声を掛けた。



傷だらけの彼女を見ながら、淳は「必ず病院へ行って」と一言発した。

そして男の走って行った方向を見据え、沈黙した。



彼はここにいる誰よりも冷静だったが、誰よりも怒っていた。

その暗い瞳の中に揺れる炎が、何よりそれを物語っていた。

「気、気をつけて下さいね‥!」



男を追って走り去る彼の後ろ姿に、雪はそう声を掛けるしかなかった。

騒然としていく町内に、未だあの男は潜んでいる‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<追跡>でした。

今回は見どころいっぱいですね~!蓮くんの推理もさることながら、目に砂を掛けられた亮‥orz

目が!目が!



蓮にジュース投げられて鼻が!鼻が!ってなってたの思い出しますね‥。



どんまい亮‥


次回は<被害者>です。

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警鐘

2014-01-26 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
突然の出来事に、雪は咄嗟に事態が把握出来なかった。

この男が誰で、なぜ自分の部屋から出てきたのか。

その恐ろしい事実を認識するまで雪は、ただその場で立ち竦む。

「え‥?」



染められた髪とマスクがいつもと違っているものの、男はあの”大家の孫”だった。

「大家さんの‥孫の‥」そう呟きながら視線を下に移すと、

男が雪のノートPCと白い封筒を持っているのが目に入った。



だんだんと意識が覚醒してくる。その封筒が何なのか、雪はぼんやりと頭の中で反芻する。

私のノートPCと‥お父さんから貰った‥



宝物のように取ってあった、父から貰ったお小遣い。

白い封筒に入れて本に挟んだ。貰ったその夜は枕元に置いて共に眠った。



それが今男の手にあるということ。

どういうことなのか、どうしてこうなったのか。

ジワジワと事態を把握出来てくると、ガクガクと足が震え始めた。



そんな雪の前でも男はまるで動じず、間延びした声でこう言った。

「あー‥何でこんなに遅かったんですか?」



待っていた‥と男は言いかけたのだが、

雪はそのままバッと男に背を向けた。早くこの場から逃げなければと、雪の中の警鐘が鳴る。



しかしそれがいけなかった。

男は逃げようとする雪の背中を、そのまま掌でトンと押した。



雪はバランスを失い、そのままスローモーションのような感覚で落下していった。

ドサッと彼女が落ちた時外では、淳と蓮と亮が談話中だった。



淳と亮に、姉を含む三人は一体どういう知り合いなのかと聞いている中、

遠くで聞こえた物音に、淳が顔を上げる‥。






落下した雪は、階段に寝そべるような形で倒れていた。

段差部でみぞおちの辺りを強打し、上手く息が出来なかった。

「ゴホッ‥ゴホゴホッ」



腹部に走る鈍痛は勿論、顎は擦り剥き、足が痛くて動かない。

弱々しく震える雪の元に、男はゆっくりと近づいて来て口を開いた。

「考えてみれば‥汚らわしい災い全部、あんたから始まってたんだよね。

かつてのお隣さんもあんたの弟も、変態ばかり囲って。いつも男とチャラチャラして‥」




男は雪を見下ろし、侮蔑を孕んだ視線を彼女に送った。

「人を苛つかせる」



男はその細い目を見開きながら、高く足を振り上げた。

必死に起き上がろうと顔を上げかけた雪に向け、その足を振り下ろす。




「何してんだ」




不意に投げかけられた言葉に、男はその足を止めて顔を上げた。

階段の下、外へと繋がる入り口の所に彼が立っていた。



たじろぐ男に向かって、淳は厳しい視線を投げた。

瞳の中から光が消え、その激しい怒りが燃えていく。



淳はゆっくりと階段を上った。低い声で警告する。

「すぐに彼女から離れろ」



男はうつ伏せに倒れている雪を横目で見た後、足で軽く彼女を蹴った。彼の方に寄越すように。

「ほら。持ってけよ」



淳が彼女に駆け寄り、雪の名を呼ぶ。

男はその横をすり抜けるように、小走りで外へ出た。



雪を抱き止めた淳が男の方へと振り返ると、男は嗤っていた。

ククククと不気味な嗤い声が、その場に反響する。



淳の瞼の裏に、その顔と声が焼き付いた。

衝撃に近い、まだ名前の付けられない感情と共に、それは刻印のように彼の中に焼き付いたのだ。



うずくまった雪が、苦しそうに何度も咳をする。

息を吸う度に喘鳴も聞こえる。



淳の瞳に映る、弱々しく震える彼女。

信じられないものでも見るかのように、彼は瞳を見開いていた。

「しっかりして‥」



淳は咳を続ける彼女を、堪らずぎゅっと抱き締めた。

真っ白になった頭の中で、呟くように彼女の名を口にした。

「雪ちゃん」










外に出た男は、そのまま全速力で走り去ろうとした。

しかしその後ろ姿を見た蓮が、軽い調子で声を掛ける。

「あ、ちわっす!髪染められたんすね‥」



そう言いかけた所に、淳の大声が響いた。

「あいつ捕まえろ!」



蓮は淳が何を言っているのか理解出来ず、淳の居る方向と走り去る男の後ろ姿を交互に見ながら疑問符を飛ばした。

しかしただならぬ様子の淳の怒声を受けた亮は、第六感がピクリと反応する。



亮は男の後ろ姿、その紫のパーカー姿に、いつかの変態の姿が重なった。

 

彼の中のシグナルが、激しく警鐘を鳴らし始める。

「待ちやがれぇぇ!!コラァ!!」



肩を怒らせて男を追いかける亮の後ろを、蓮も追って走った。

しかし男が曲がった角に差し掛かった時、二人共男を見失った。



確かにここを曲がったはずなのに、男は忽然と姿を消したのだ‥。

「‥‥‥‥」  「あれぇ?」



この辺りは細い路地が入り組んでいて複雑な地形をしている。

亮も以前何度も迷子になったのだ。



亮はそれを利用して隠れているはずだと言って、蓮にあの男を見つけろと言って駆け出した。

といっても蓮もこの辺りに詳しいわけではないので、二人は近辺の建物の構造に注意して男を探した。



晩夏に浮かぶ満月が、薄い雲に覆われる。

男はその影に隠れるように、暗い抜け道を歩いていた‥。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<警鐘>でした。

雪ちゃんが‥(T T)

階段から突き落とされるという最悪の事態‥。背を向けたのがいけなかったんですかね‥。

でも男と鉢合わせした時叫んでいたら殴られていたかもしれないし‥。

しかし男が雪を見て言った「何でこんなに遅かったんですか?待っていたのに」という台詞が怖すぎます。。

ものを盗るだけでなく雪を待っていたというのが‥鳥肌立ちます。。

さて次回も変態事件つづきます。


<追跡>です。

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鉢合わせ

2014-01-25 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
「三次会♪三次会♪三じっか~い♪」



ビールとチキンを食したのは、味趣連金にとっては一次会だったが、蓮と亮にとっては二次会であった。

そのため、次の飲み会は三次会となるようだ。六人は足並みを揃えて夜道を歩いていた。

聡美の発案で、三次会は雪の家の荷造りを手伝いつつまったり飲む、という方向らしい。



「さっき思いっきり食べたから、今度はあたしたちが買ってくる!」

「スーパーのお菓子を全部さらって来るッス!」



聡美と太一の提案に、雪は「えっ!いいよいいよ」と言うが、実は黒い思惑でいっぱいだ。

その分徹夜で荷造りを手伝ってもらうから‥と腹の底で思いつつ、そのまま雪は聡美と太一を見送った。



残ったメンバーは、雪、淳、亮、蓮の四人だ。何となく気まずい空気の中、軽い調子で蓮が発言した。

「荷物持ち要員が要るだろーから、俺も行ってこ‥」



そう言って聡美と太一の後を着いていこうとした蓮の、首根っこをガッツリ掴んで雪が言う。

「どこへ行くつもり



その思惑を見破られた蓮は、チェッと舌打ちしてそのまま姉に引き寄せられた。

雪は囁き声で怒鳴るという器用な芸当をする。

「ここに居ろっつの少しは貢献しなさいよ!」



耳を引っ張られた蓮は痛い痛いと白目である。蓮も雪と同じく、この状況に残されるのが気まずいのだ。

そんな赤山姉弟のやり取りに淳が「どうかした?」と声を掛けるが、

何でも無いですと言って雪は笑顔を浮かべた。「行きましょ行きましょ!」



ようやく解放された蓮が「死ぬかと思った‥」と言ってヨロヨロすると、

それを見た亮が「お前の気持ち分かるわ~」と同じ姉を持つ弟としてコメントした。

そしてそんな亮に向かって、淳は顔を顰めて声を掛ける。

「それでお前はどこまでついてくるつもりなんだ?」



淳の質問に、亮はあっけらかんとした態度で理由を述べた。

「オーナーの娘さんの引っ越しだぜ?当然オレも手伝わねーと!

しかも無料の三次会を断る理由なんてねーだろ?」




雪との新たな繋がりを早速振りかざす亮を見て、淳は不満そうな視線を持って彼を射る。

そして亮は、更に淳の心をかき乱す言葉を続けた。

「心配ねぇよ、問題なんて起こさねぇから。かえってオレが居た方が助けになんだろ?

またあのちっせぇ野郎が店まで来たら、オレがお前の代わりにケツ蹴っ飛ばしてやっからよ!」




亮は前々から飛ばしている皮肉をまたしても淳に投げた。

雪がピンチの時、彼氏の淳よりも自分の方が活躍している、という点だ。

「お前な‥」



いい加減にしろ、と続けようとした淳と亮の間に、オーバーアクションの雪が割って入った。

「はいストップー!喧嘩しなーい!!」



そして雪は二人の顔を交互に見ながら続けた。

「とにかく今日は皆が集まってくれた日ですから!

言い争いもカッとするのもナシ!分かりましたね?!」




ね?!と雪は二人に喧嘩をしないよう念を押すと、

亮は小さく舌打ちをし、淳は両手をグーにしながら黙り込んだ。



それでも雪は淳に対して、最初の予定とまるで違う状況にしてしまったことへ詫びを入れる。

「‥すいません。何せ状況が状況なもんで‥」



そんな雪に、淳は「雪ちゃんが謝る必要はないよ」と返した。

「それより‥この間少し聞いたけど、思ったより横山が酷かったようだね。

次はちゃんと俺に言って」




雪は頷きながらも、横山の罵詈雑言が先輩に対してのものも含んでいたことを思って、微妙な気分になった。

話してもいいものだろうか‥、と眉を寄せてしばし思案する‥。



という内に、四人は雪の家の前に到着した。

そのまま進もうとする淳、亮、蓮の三人を制して、雪が彼らに声を掛ける。

「あ‥ちょっ、ちょっと待って下さい!皆さんは後からゆっくり来て下さい!

おもてなしの準備をちょっと‥」




雪の脳裏に、今の家の状態が思い浮かんだ。床下に散らばる髪の毛やホコリがありありと浮かぶ。

淳は「どうせ荷造りの最中なんだし気にしないよ」と言うが、今の雪の部屋はきっと彼が想像しているより遥かに汚い‥。

「とにかく私は先行きますから、後からゆっくり来て下さい!

聡美と太一を待ってから一緒に来て下さいよ!絶対ですよ?!」




ひたすらに念を押す雪。

そしてもう一点、淳と亮に向かって念を押した。

「それと‥喧嘩しないで下さいよ?!喧嘩禁止ですからね?!」

 

くどいほど”喧嘩禁止”を言い渡された淳と亮は白目である。

雪が走り去った後、蓮を挟みつつ淳と亮は、そっぽを向いてその場に佇んだ。



そして雪は家に向かって全速力である。

何とか五分以内に掃除機と拭き掃除を‥とそのことで頭がいっぱいだ。



息を切らしながら部屋へ続く階段を上って、あと少しでドアに手が届くといったところまで来た雪。

その時彼女は、自分の部屋から出てきた男と鉢合わせした。




突然のことに、雪は目を見開いたまま固まった。





男はマスクをし、髪を染めていたものの、一目であの大家の孫だと見て取れた。

肉の間から細く切れたような目が、雪を見て不気味に光る。




これまで様々な遭遇を果たして来た雪だが、これは史上最悪の鉢合わせだった。


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<鉢合わせ>でした。

雪ちゃんピンチ!

そしてこのピンチを誰が救うのか‥夏休み最後の大事件の始まりです。

次回は<警鐘>です。

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六人で円卓を(2)

2014-01-24 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)


酒もすすんで、皆だんだんと打ち解けてきた。

初対面だった面々も徐々に心を開き始める。そんな中亮が、今の現状を嘆き出した。

「しっかし何で近頃はどんなバイトしようにもまずスペック聞かれんのかね~?

休学生だけバイトしろって言ってるよーなもんよ」




既に亮は新しいバイト先を何件かあたってみたらしいが、高校中退で身元の保証もない亮は履歴書の時点ではじかれたようだ。

亮が現実の厳しさを嘆いていると、”バイト”に反応して太一が口を開いた。(口は相変わらずモグモグしているが)

「バイトっすか?俺もそろそろ見つけないとヤバイんすよね~。なかなかムズいっすよネ」



太一の発言に、聡美が「休みの時にやれ休みの時にとツッコミを入れる。

太一の話によると、都心でも郊外でも時給の高いバイトをしようと思ったら学歴などが重視され、

雇用されるのもなかなか難しいという話だった。

そんな話を聞きながら、雪は思うところあって様子を窺う。



するとその話の中に突如蓮が入ってきた。ニコニコ笑顔を浮かべながら、一つ提案をする。

「バイトっすか?家の店バイト募集中っすけど」



良かったらバイトします? と蓮がみなまで言い終わらない内に、若干二名が挙手して蓮に詰め寄った。

「俺ッ!」「オレやる!」



幾分太一の方が亮よりも早く手を上げたのだが、亮は凄まじい眼力を太一に送った。

睨まれた太一は思わず白目である。



太一はそのままボソボソと「あ‥止めます‥雪さんの家超遠いから‥だから‥」と呟いて目を逸らした。

亮はそんな太一にお構いなしに、「どんなバイト?!店ってどこにあんの?!」と言って興味津々だ。



雪がふと先輩を窺うと、微動だにしないまま事態の展開を眺めていた。

マズイ、と思った雪は蓮に向かって話掛ける。

「あ‥あのその話はまた今度‥」



何とか話を逸そうとする雪だが、そんな姉の思惑に気づかぬ弟は亮に向かって続けた。

「ちょっと遠いけど、交通アクセス良いから楽勝っすよ。亮さんバイトします?

やっぱ見ず知らずの人雇うより信頼出来ますからね。ウエルカムっすよ!」




蓮の言葉に、亮は二つ返事で了承した。続けて蓮は家の店について亮に説明し始める。

店は麺屋で、そんなに広くはないけれどお客さんは多いこと、町内は静かで綺麗で、一人暮らし向けの物件も多いこと‥。

亮は都内でなければ問題ないと言い、時給のことなど蓮に尋ね始めた。アレヨアレヨという間に物事が決まっていく。



チラッと窺った先輩の表情は固かった。その表情がどんな意味を持つのか察した雪は、

弁解するように彼に向かって話し掛ける。

「こ‥こんなことに‥あの‥」



タジタジする雪を見て、淳は先ほどの彼女の表情を真似るようにして息を吐いた。

「いいんじゃない。しょうがないでしょ」



太一から秋から通学が大変ですねと言われたこの彼女と、台詞も同じだ。

しょうがないでしょ



雪は気まずい思いが胸を過るのを感じながら、頭を抱えた。

そんなに気を遣わないでと言う先輩の言葉に、返事をすることなく俯く。



そんな雪に、聡美が思いついたように話しかけて来た。話題は町内を騒がせている変態の話だ。

「ねぇ雪、あのキモイ変態野郎、まだ捕まらないんだって?」



雪が頷くと、聡美は最悪、と言って顔を顰めた。夏休みの始まりの頃、大学の裏門側にあった聡美のアパートも侵入され、

下着をしこたま盗まれた‥。



結局変態は夏休みが終わる今も捕まることなく、逆に大学の正門側にまで被害を及ぼしている。

大学周辺を騒がした変態の話題は、この六人全員が知っているホットニュースだ。皆思い思いのことを口に出す。

「常習犯!」 「下着泥棒?」 「怪盗下着マン?」 「何すかそれウケるww」 



そして皆が会話している最中、亮は一人ニヤリと笑いながらとある細工をしていた。

運ばれて来た生中に、卓上に置かれていた塩を入れているのだ。

そんなことにはお構いなしに、続けて先輩が口を開く。

「だけど一番危険なのは、段々と被害の程度がエスカレートしてるってことだよ。

最近は女性に対して直接被害を与えているだろう?」




先輩の言葉に聡美が同意した。

「その通りですよ!雪の家の前の女性も不幸中の幸いよ!何もなくて。今度は何しでかすか!」



熱弁する聡美に皆が気を取られている隙に、亮は塩入りビールを気づかれないよう淳の前に置いた。

クックックと可笑しそうに笑いを噛み殺す亮に構わず、先輩は続ける。

「歯向かうと男には容赦無いみたいだよ。遠藤さん以外にも殴られた人がいるらしい。

だから男女関係なく、皆が気をつけないと」




背を丸めて笑う亮に気づかれないよう、淳は塩入りビールをスッと亮の前に戻した。

変態の噂を聞いて身を縮こまらせていた面々だが、やがて蓮がニッコリ笑ってこう言った。

「ま、もう大丈夫っすよ。だって引っ越しますしね!」



その蓮の一言が契機になって、六人はもう一度乾杯しようと各々杯を手に持った。

立ち上がった聡美が、威勢よく音頭を取る。

「雪の引っ越し祝いに!」 「えっ?!何で?!」



目の飛び出た雪に構わず、それぞれが乾杯と口に出した。通学3時間半に乾杯!と誰かがおどけて言うと、

雪がまた「だから何でって!とツッコんだり。



そんな中、知らぬ内に戻って来た塩入りビールに口を付けた亮が盛大に吹いていた。

何だこりゃといきなり叫び出す亮に疑問符を浮かべる皆と、ニヤリと笑う淳‥。


飲み会はなんだかんだと賑やかに進行していた。



笑い声や怒鳴り声が、居酒屋の喧噪に溶けていく。







その頃雪の家では、以前大家の孫が直してくれた網戸が破られ、男に侵入されていた。

荷造りの済んだ段ボールは棒でめった打ちにされ、四方八方に中身が飛び出る。



ドン、ドン、と棒で荷物を破壊していく音が外にも響いていた。

しかし町内には誰もおらず、その音に気づく人間もいない。



やがて男はマスク越しに息を吐くと、ガッカリしたようにポツリと言った。

「あーあ‥収穫なしかぁ‥」



髪を染めたその男は、不気味な細い目を更に細めて嘆いていた。


色々あった夏の終わりに、史上最悪な出来事が待ち構えていた。

・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<六人で円卓を(2)>でした。

先輩なぜ塩入りビールに気付いた‥?!やはりエスパーなのでしょうか(^^;)

どこまでもやられっぱなしの亮が気の毒‥

そして最後は変態が‥!あんな小さなトイレの窓からどうやって入ったんでしょう‥エ◯パー伊藤なみの伸縮率?!

次回は<鉢合わせ>です。

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六人で円卓を(1)

2014-01-23 01:00:00 | 雪3年2部(大家の孫~了)
「かんぱーーい!!」



ガシャン!とジョッキ同士をぶつけ合って、彼らは生中に口を付けた。

ご機嫌なメンバー達の中で、淳と雪だけが浮かない顔だ。

わ‥私達は今一体何に乾杯してるんだろう‥。



げんなりとする雪の横では先輩が、「雪ちゃん、一杯だけにしておきな」と言い、

亮は「また吐いたらコロスと雪を脅した。



最初は先輩と雪だけで夕食をとるつもりが、結局六人で円卓を囲むことになったのだ。雪は突然の展開に未だ当惑していた。

すると聡美が、眉を寄せて雪に話しかけてきた。

「あ、雪!太一の奴ようやく最近ゲーム熱が下火になったみたい!

ったく信じらんない!休みの間中ゲーム三昧なんて‥マジありえないっつーの!」




太一はモグモグと口を動かしながら、夏休み中取り組んだゲームの素晴らしさを語った。

「けどあのゲームは人生で一度はやってみるべきっすよ。あ~俺は良い人生を送ってるんだな~と実感出来るっす」

すると蓮がその話題に食いついた。「えっそれって◯◯すか?!一緒にやりたいッス!」と言って身を乗り出す。

「コロス!」 「太一!死にたいの?!」



そんな彼らに鉄槌がくだされる。蓮には雪が、太一には聡美が喝を飛ばした。

「あたしならゲームする時間があればビリヤードするわ」と言って、

聡美はプリプリ口を尖らせている。雪はそんな三人を眺めながら、呆れたように溜息を吐いた。

「ったくこの子らってば本当に‥」



そんな雪を見て、先輩が「はは」と笑う。そして気にかかっていたことを口に出した。

「俺が遅れたせいで、雪ちゃん一人で荷造りしてたんだろう?」



そう言って気にする先輩に、雪はとんでもないとばかりに首を横に振った。

「大丈夫です!先輩も忙しいだろうし、荷物もそんな多いわけでもないので‥」

すると太一が口を開いた。

「前に雪さんの実家行きましたけど遠かったっすよね~。あそこから通学大変っすね」



太一は去年の夏、雪の実家の近くまで行った時のことを話した。

大学にほど近い太一の家から、雪の実家までは電車で2時間もかかったのだ。



雪は溜息を吐きながら、

「しょうがないでしょ」と観念したように言う。



するとそれを聞いた先輩が太一に質問した。

「実家に行ったことあるの?」



太一は「一度だけ行きました」と答えた。そして一緒にハンバーガーを食べたのだと。

するとそれを聞いた聡美が、怒りながら太一の髪の毛に掴みかかった。

「ちょっと何それ!あたし知らないんだけど!味趣連は三人で活動するんじゃなかったのかぁ?!」



ビックリした太一が頭を庇いながら、聡美に弁解する。

「あの時は聡美さんいなかったじゃないすか!前話したはずっすよ?

横山先輩が雪さんにつきまとってる時で‥」




それを聞いて聡美は以前聞いたことを思い出し、そっかと言って頷いた。

突然言及された横山の話題に雪は幾分気まずい表情をし、そして淳は何か引っかかったようにその名を口に出した。

「‥横山?」



彼は何か思うことがあるように一人何かを思案した表情をし、それを窺う雪は微妙な気分になった。

去年起こった横山の事件が、二人の間に横たわっていた‥。




すると”横山”に反応したもう一人の男がいた。胡散臭さそうな表情で口を開く。

「なぁそれってこの間のあのちっせぇ男のことか?」



亮の脳裏に、路地裏で雪に絡んでいた横山の姿が思い浮かぶ。



そして呆れたように雪に向かって言った。

「つーか何でお前の周りには家にしろ塾にしろ変な奴がつきまとうんだ?」



昨日も喧嘩したじゃんか、と言って亮は溜息を吐いた。雪は返す言葉も無く微妙な表情をして聞いている。

「あ~お前ってマジ哀れだな~。彼氏は助けもせずに何してたわけ?」



亮は首を左右に振りながら、聞えよがしに嘆いてみせた。それを聞く淳の表情は硬い。

「おかげでいっつもオレが駆けずり回ってんだよね。知ってっか?」



亮が投げた皮肉が円卓を覆い、空気がピリッと緊張した。

六人は口を噤んで気まずさを共有する。



空気を変えようと、聡美が「こっち!生一丁追加!」と大声で店員を呼んだ。

雪はタジタジしながら「何でそんなこと‥止めて下さい」と亮に向かって言う。



亮はクックックと面白そうに笑っている。

それを見る先輩の目つきは冷ややかで、雪は誤魔化すように掌で彼の目元を覆った。

「あっちじゃなくてこっち見て下さい~!ほらおいしいおいしい~!」



雪と聡美の機転(?)でなんとか場は持ち直し、六人はまた円卓を囲んで思い思いに楽しんだ。

料理をつつく箸と酒はすすむ。ガヤガヤと騒がしい居酒屋の雰囲気に、六人の会話が溶けていく‥。



・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・

<六人で円卓を(1)>でした。

ビールとチキン!



韓国ではビールとチキンはまとめて「チメク」と言うそうです。詳しく書いてあるリンク貼ります。

http://ameblo.jp/rollingkorea/entry-11304777209.html

http://www.kpedia.jp/w/19

おいしそう~!

*チメクに関して「味趣連金」のコメント欄にて青さんが詳しく書いて下さいました!ありがとうです~!!

次回は<六人で円卓を(2)>です。

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