「どうする、どうなる」9月28日
『教員「時間外」月45時間』という見出しの記事が掲載されました。教員の働き方改革を議論する中教審の特別部会が、指針案を大筋で了承したことを報じる記事です。記事によると、『時間外勤務の上限を、政府主導で6月に成立した働き方改革関連法に準じて「月45時間、年間360時間」と設定』『時間外勤務を校長らの指示で業務に当たる修学旅行や災害対応など4項目としているが、指針案では部活動や授業の準備などの業務も含むとした』『勤務時間を年単位で管理する「変形時間労働制」についての議論も始まり~』ということのようです。
「変形時間労働制」については、以前にも触れ、疑問点を指摘したのでここでは触れません。そのことを除いても、疑問の多い内容です。まず、現行の規程に基づいて考えた場合、「時間外勤務」という用語の概念が混乱しています。給特法で「時間外勤務」とされているのは、実習、職員会議、修学旅行、災害対応などの業務についてであり、校長らの職務命令が必要です。つまり、教員が自らの判断で行っても「時間外勤務」という用語が示す概念には相当しないのです。ですから、実態調査で公立学校教員の時間外勤務が月59時間(小学校)、81時間(中学校)ということはあり得ないのです。正確に言うならば、勤務時間以外に学校に残って職務している時間(校長の命令によるものと自己判断で行っているものの計)、ということでなければなりません。
また、今後部活動や授業準備も「時間外勤務」に含むということですが、ここでも給特法の項目を増やすという考え方であるならば、教員が自己判断で行う授業準備や部活は含まれないことになります。そうであれば、教員の多忙は全く変わらないことになります。45時間とは別に自己判断で授業準備をするというだけのことなのですから。何の意味もない改革です。
もし、教員が自己判断で行う授業準備も給特法に規定する「時間外勤務」とするのであれば、教員の、法的に認められた「時間外勤務」は大幅に増え、教員の人件費は大幅に増加することになります。法的制度的に認められた「時間外勤務」をしているにもかかわらず、労働の対価である給与を支払わないということは明確な違法行為になってしまうからです。現在は、教職調整額として、実際の「時間外勤務」時間に関わらず、給与の4%相当額が支給されています。つまり、いわゆる残業代は、給与の4%と想定されているということです。教員の1カ月の勤務時間は170時間ほどですから、「時間外勤務」として想定されているのは月7時間ということになります。今回の指針案にある45時間とは38時間の差があることになります。
教員の給与を時間給として計算すると、平均で時給2000円以上になります。単純計算でも、教員一人当たり月7~8万円ほど人件費が増えるはずです。その額は、東京都の場合年間500億円となります。これは毎年続いていくのですから、10年で5000億円、納税者の納得を得られるのでしょうか。特別部会の議論が、こうした点に触れていないのが不思議でなりません。
一方、指針案で使われている「時間外勤務」が、校長の命令によらない教員の自己判断に基づく従来の「時間外勤務」であるとすれば、財政的な新たな負担は生じません。それは教員に実質的なただ働きを強要するということで問題なのですが、現状通りということなのですから、改めて取り上げることはやめます。現在、小学校でさえ59時間となっている「時間外勤務」を14時間減らすというのですから、そのこと自体は前進なのですから、せめてそれだけでも実現してほしいからです。
しかし、そのためには、月45時間という上限に実効性をもたせる具体的な措置が必要になります。最低限、管理職が各教員のその月の「時間外勤務」の時間を把握していること、上限を超しそうになったときに強制的に退勤させるようにすること、持ち帰り残業とならないために職務に必要な書類やデータの持ち帰りを禁じ、持ち帰っていないことを確認できる体制をつくること、です。
最初の点については、副校長等がタイムカード(これの導入が前提)の記録により、累積時間を算出把握し、このままでは月末には上限を超えそうだと判断したら警告を発し、上限まで3時間となった時点で、突発事故や緊急事態の発生に備え「時間外勤務」を禁ずるという仕組みを作ることになるでしょう。
2番目の点については、退勤させた後、タイムカードを押さずに戻ってくることがないよう、一度校外に出たら戻れないような物理的なシステムが必要になります。最後の点については、手荷物検査を行うことになります。現在では記録媒体は、ポケットに入れた持ち出せますから、データの持ち出しに敏感なIT企業並みのセキュリティーが必要になるわけです。
正直なところ、文科省にここまでやる気はないでしょう。また、ここまできちんとやられたら、困るのは教員であり、学校です。今までのような教育活動は不可能になってしまいますから。教員の仕事は、ここまでやればOKというものではなく、子供のためを思えば、いくら時間を費やしても足りないという性格のものなのです。特別部会には、この特殊性を理解した上で、乱麻を断つ快刀を期待します。
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