ヒマローグ

毎日の新聞記事からわが国の教育にまつわる思いを綴る。

~のために、思いは同じでも

2020-07-07 08:05:49 | 我が国の教育行政と学校の抱える問題

「良かれ、のイメージ」6月29日
 一面トップに『「NHKの大問題」前会長抗議 かんぽ報道厳重注意覆らず』という見出しの記事が掲載されました。関連記事が、3面、8面にも大きなスペースを取って報じられ、この日のトップニュースという扱いです。
 事件は2年前、問題発覚は昨年、国会でも取り上げられ大問題になった事案の続報です。事件の内容は周知のことで、今更なぞる意味はありません。ただ、3つの面に記述された当事者の発言から、組織の在り方について考えさせられたのです。
 記事によると、かんぽ側の苦情に対し、当時の石原会長は『「番組編集の自由」が侵されることへの危惧も示し、「番組の編集過程を(会長が)しっかりと見ていけといったことになる。個別の番組に絡む形での対応は難しい」とも語った』とされています。つまり、公共放送機関として最も大切である、編集権への侵害だけは防がなければならないという思いを抱いていたことが察せられるのです。
 一方、経営委員会の委員長石原氏と代行の森下氏は、今後も何か苦情が来るたびに『対応しなければならないという、きっかけになる』と悪しき前例となることを懸念する声を押し返し、『「きっかけになってもいい」と強弁』し、『「相手の社会的立場によって対応を取るのか」と郵政側を特別扱いすることになる』という指摘にも自説を曲げません。
 記事ではこうした『森下氏と石原氏の強硬姿勢について「郵政グループは放送行政を所管する総務省と関係が深いので、配慮したのではないか」と指摘』する声があることを紹介しています。
 引用が長くなりました。私は石原氏と森下氏の「不当な介入」を批判する立場ですが、そのこととは別に、3者の主張の違いの原因について考えました。経歴を見ても、3人とも、組織のトップとして豊富な経験と能力をお持ちの方だと推察します。人脈や情報も豊富にもっておられたはずです。さらに、NHKという巨大且つ重要な組織を牽引する立場に誇りをもち、NHKという組織を発展させ守っていきたいとも願っていたはずです。
 もちろん、個人の名誉や権力といったものについて無関心であったとは思いませんが、いずれもすでに功成り名を挙げられた方で、高齢でもあり、いわゆるここで功績をあげもう一段上を目指すという個人の出世欲のような感情は乏しかったと考えます。
 つまり、3人とも保身や私的な利益を考慮したのではなく、NHKのためを思っての発言であり行動であるということです。しかし、思いは同じでも出した結論は180度違ったのです。それは、NHKという組織の存在意義、目的、最も大切にすべきことなどについてんの認識がずれていたからなのではないでしょうか。
 上田氏は、放送の自由、番組編集権の独立などを守ることがNHKを守りその使命を全うすることができるために最も大切と考え、石原、森下両氏は、放送行政を司る総務省とそれに大きな影響力をもつ日本郵政との円滑な関係維持こそがNHKにとって重要だと考えたのでしょう。この食い違いが、NHKという組織のことを考える善意の、そして有能な3人の意見が対立する不幸を生んだのだと思うのです。
 ある組織やシステムに悪意を抱き、それを破壊しようとする者に対しては、組織の構成員が一丸となって対抗するということは難しいことではありません。しかし、良かれと思って行動する善意の構成員同士が対立するとき、組織は機能不全に陥りやすくなります。それは、NHKに様な巨大組織でも、学校や小さな区や市の教委レベルでも同じです。
 例えば、学校でいじめがあり子供が自殺を試みるといった事件が起きたとします。市民の教委や学校、教員に対する信用を守り、子供が教員を信頼し、保護者が安心して子供を学校に通わせることができるようにしなければ、という思いは関係者に共通します。しかし、そのためには隠蔽を許さず、何もかもすべて公表し、事実を明らかにしたうえで謝罪することが不可欠と考える者と、小さな問題点はどんな組織にもあるのが当然で、何もかも公にすることはかえって不信感を不必要に高め、今後の教育活動に支障をきたすと考える者とがいて、両者の力関係で対応が歪められていく、という結果に陥ってしまうのです。
 学校の目的は何か、使命は何か、学校というシステムにとって最も大切なことは何か、学校が存在する意義は何か、こうした根本的なことについて常に全関係者で共通理解を図っておくことが大切です。それは、定款のような1枚の紙っぺらを読むことで済むようなことではなく、いくつもの事例を想定し、事例研修を積み重ねることで骨身に染み込ませるくらいの覚悟で行わなくてはならないのです。

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