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水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

フリーター、家を買う。

2009年08月29日 | おすすめの本・CD
 有川浩はどんだけ抽斗があるのだろうと感心し、そのうまさと、あたたかさに、思わず感涙にむせびないた、新作『フリーター、家を買う。』(幻冬舎)。
 夏の終わりに、ちょっと元気を出したい方にぜひともおすすめしたい。
 とにかく、ページをめくった瞬間から、登場人物のキャラが立っている。
 主人公だけではなく、端役の一人一人みんなが。
 有川浩の作品ほど、映画化やドラマ化がたやすいものはないのではないか。
 『空の中』シリーズとか、ほんと映画にしてほしい。
 今回は自衛隊員ではなく、図書館司書でもなく、あるフリーターとその家族。
 そこそこの高校から、そこそこの私大に行き、そこそこの会社に入るものの、自己啓発セミナーか宗教の修行かと思われるような新人研修を受けてから、会社に対する気持ちが一気にさめ、「ここは俺の居場所じゃない」と三ヶ月で退社してしまった青年が主人公である。
 「居心地の悪くなった会社にしがみつくには誠治の自尊心は高すぎた」という1行を読んだとき、現代版「山月記」かと思ってしまった。
 すぐに別の働き口がみつかるという思いが甘いものであることに気づきながら、バイトに行って気に入らないことがあれば、すぐやめてしまう。
 仕事命で、家庭では酒乱気味の父親とは疎遠になるばかり。
 しかし、誠治は虎にはなれなかった。
 母親がうつ病にかかっていたことに気づいたからだ。
 嫁ぎ先の名古屋から、母親のようすがおかしいことを電話で察した姉がもどってくる。
 あんたもお父さんも、お母さんがこんな状態なのに何も気づかなかったのかと問いつめられるところから物語ははじまっていく。
 このお父さんもお姉さんも、濃ゆいキャラになっている。
 誠治が、肉体労働のバイトが続き出すあたりから、だんだんと成長していく様子が、いろんなエピソードの積み重ねで描かれる。
 うまくいきそうかなと思うと、事件が起きるという展開で、ほんとに読み出すとやめられない小説だった。
 バイトでの実績を買われ就職できた会社に、新入社員が入ってくる。
 東工大卒の女子でありながら、現場監督志望という変わり種だ。
 男女共用のトイレも平気だといい、華奢な身体ながら、面接スーツで40㎏のセメント袋をかつぎあげてしまう女の子。
 先輩の誠治へは、体育会系部活の後輩のように接しているのだが、ふと女の子にもどるシーンがある。
 誠治よりもさきに、読んでる方がきゅんとしてしまう瞬間。

 
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