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水持先生の顧問日誌

我が部の顧問、水持先生による日誌です。

成瀬は天下を取りにいく

2023年05月06日 | 学年だよりなど
3学年だより「成瀬は天下を取りにいく」




 成績をあげたい、目標大学に合格したい、希望の職種につきたい、いい暮らしをしたい……、さまざまな欲望を抱き、その実現のために私たちはたぶん生きているし、目標があるからこそ毎日を生きていけると言えるが、はたしてその目標とやらは、どれほど価値があるものなのだろう。
 その「目標」も、誰もが納得するようなもの、思わずガンバレと声をかけたくなるもの、逆に首をかしげるようなものや、それ何の意味があるの? と聞きたくなるものなど様々ある。




~ 「島(しま)崎(ざき)、わたしはこの夏を西武に捧げようと思う」
 一学期の最終日である七月三十一日、下校中に成(なる)瀬(せ)がまた変なことを言い出した。いつだって成瀬は変だ。十四年にわたる成瀬あかり史の大部分を間近で見てきたわたしが言うのだから間違いない。
 わたしは成瀬と同じマンションに生まれついた凡人、島崎みゆきである。私立あけび幼稚園に通っている頃から、成瀬は他の園児と一線を画していた。走るのは誰より速く、絵を描くのも歌を歌うのも上手で、ひらがなもカタカナも正確に書けた。誰もが「あかりちゃんはすごい」と持て囃(はや)した。本人はそれを鼻にかけることなく飄(ひよう)々(ひよう)としていた。わたしは成瀬と同じマンションに住んでいることが誇らしかった。
 しかし学年が上がるにつれ、成瀬はどんどん孤立していく。一人でなんでもできてしまうため、他人を寄せ付けないのだ。意図的にそうしているわけではないのに、周囲からは感じが悪いと受け取られてしまう。
 小学五年生にもなると、成瀬は女子から明確に無視されるようになる。わたしは同じクラスだったにもかかわらず、我が身かわいさに成瀬を守ることはしなかった。 (宮島未奈『成瀬は天下を取りにいく』新潮社)~




 小五の成瀬あかりは、「シャボン玉を極めようと思うんだ」と島崎みゆきに声をかけ、その数日後には、天才シャボン玉少女として夕方のローカル番組「ぐるりんワイド」に出演した。
 翌日の教室では、無視していた女子も含めみんなが成瀬を取り囲み、シャボン玉のレクチャーを受けていた。
 中学では別々のクラスになったが、登下校は一緒だったので、相変わらず他人の目を気にせずマイペースで生きる成瀬を、みゆきは間近で見ていた。
 中二の成瀬は、「夏休みの間中、毎日西武に通う」と言いだす。
 大津市内唯一のデパート、西武大津店が八月いっぱいで営業を終了する。
 44年の歴史に終止符をうつ地元デパートの最後の一ヶ月を、「ぐるりんワイド」は毎夕放送することにしていた。
 そこに毎日映り込むから、テレビを見てチェックしてほしいと成瀬は言った。


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