学年だより「神様メール」
最近知ったのだが、神様のお住まいは、ベルギーのブリュッセルにあるそうだ。
市内のあるアパートの一室に籠もり、神は自分のパソコンで世界を作り出し、街をつくった。
それだけでは寂しいので動物を作り、人間を作りたもうた。
それでもまだ面白くないので、人間に不幸や不安を与えることにした。
神は、綿密に不幸・不快のの法則を作り出す。
「1429条:最初に好きになった人といっしょにはなれない」「1550条:悪いことは必ず続けて起きる」「1726条:パンは必ずジャムを塗った側が下になって落ちる」「2011条:スーパーの列は自分が並んだのと違う列が早く進む」 … 。
こういう法則を、神様は嬉々として作り、エンターキーを押し続ける。
執務室には、世界のジオラマもある。その上からじょうろで雨を降らしたり、火を点けて燃やしてみたり、飛行機を落としてみたり、バスを転落させてみたり … 。
レールの上を快調に走る列車が、狙ったポイントで「見事に」脱線すると「もう職人芸だな」とほくそえむ。つまり、これが人間界に起きる自然の大災害や大事故、大惨事なのだ。
そして「おお神よ」と嘆く人間たちをパソコンの画面で確認し、大笑いをする。
そんな悪趣味な神の所業を、娘のエマは見つけてしまった。
日頃から母親や自分に対して横暴な「父」を、エマは嫌っていた。ただでさえ嫌いなうえに、父が何をやっているのかを知ったエマは我慢できない。
夕飯のテーブルにつくものの、父親を憎々しげににらんでしまう。
「何か、言いたいことがあるのか。おれをにらむな!」 「最低!」
「なんだと!」 「ああやって、みんなを不幸にして楽しいの?」
「おまえ書斎に入ったな。許さん!」
逃げる娘をおいかけ、捕まえてお仕置きをする神。エマは家を出ることを決意する。
人間界への行き方は亡くなった兄のJC(イエス・キリスト)に教えてもらった。
洗濯機を40度のやわらか洗いにセットしてドラムに入り、数時間這っていけば人間界のコインランドリーに出られると。
パソコンがなければ神は何もできないことを、エマは知っていた。
その夜も、神はいつもどおりビールを飲んで泥酔し、眠りこけている。
エアは、神の腰にぶらさがっている鍵を抜き取り、書斎に入る。
パソコンの前に座ると、人間たち全員のスマホに向けて、それぞれの「余命情報」を発信する。
再起動できないようにしてパソコンを閉じると、お風呂場の洗濯機に入る。
驚いたのは人間たちだった。
突然差出人不明のメールが届く。そこには「あなたの余命は残り5年二ヶ月です」「22年と8ヶ月です」「84時間です」と書いてある。
表示された数字は、そのままカウントダウンを開始し、余命を表示し続ける。
いったい誰がこんな悪質ないたずらを行ったのか。
世界中で問題になり、犯人捜しも行われるが解明できない。
送られたメールがすべて現実であることを人々が気づくのに、時間はかからなかった。