私がギターを始めたのは1975年6月2日。中学3年生の時でした。
年月日を明確に記憶しているのは何故かというと、6月2日は横浜の開港記念日で市内の公立学校は休校なんです。その休日にギターを買いに出かけたので、よく覚えているんです。
記念日で賑わう伊勢崎町にある楽器店「ハマヤ」の店頭で、かねてよりカタログを眺めて目星をつけておいた機種である、ヤマハFG-200Fが欲しい、と告げました。なんだか役人風の威厳をもった中年の店員はウム、と一つうなづいて、大きな段ボール箱をガラスケースの上に出してくれました。
箱のふたを開けると、新鮮な木製楽器の匂いがしました。
FG-200Fは他の多くのFGモデルが持つドレッドノート・タイプに比較して、かなり細身のボディが特徴的でした。当時の私が何故わざわざ小さめのボディを選んだのか? きっと、いかにも「FG」的なシルエットではなく、少し違う形のものが欲しかったんだろうと思います。
しかし、いま考えても初心者用としてはとても良い選択だったと思います。
小ぶりのボディは抱えやすく、また出音も容易にコントロールできる感じでした。そしてアフリカン・マホガニーの丸く柔らかい響きは歌の伴奏にはちょうど良い音色だったのです(あくまで「いま考えるとそう思える」だけで、当時の私にはそんな知識はありません)。
定価19000円。当時、自分で購入した物の中では確実に最も高価なアイテムとなりました。
財布の中に収めてあったお金は、交通費を除けばカッキリ19000円で、ギターの代金を支払ったらソフトケースも買えない。しかたなく新しいギターを段ボール箱に入れたまま担いで、電車に乗って帰宅したのでした。
帰宅して早速チューニング。ギター雑誌「ガッツ」に載っていたコード表を見ながら左手の指三本でAのコードを押さえ、右手で弦を弾くと、自分が抱えている楽器から見事な和音が出て来ました。
すげえ!
ちゃんとチューニングして、マニュアル通りにコードを押さえて弦を弾いたのですから、その通りの音が出て当たり前だったわけですが、そんな単純なことにも新鮮にビックリしてしまう、我ながらかわいい少年でありました。
それにそれまで楽器と言えば学校の音楽の授業で使用したリコーダー(縦笛)ぐらいしか経験したことが無かったので、楽器で和音を出すということは私にとってとても画期的な出来事だったのです。
その感動から今日で丸40年。
大して上達していないにもかかわらず息の長い趣味として楽しんでいられるのは、やはりギターが持つ和音の響きに私が未だに新鮮な心地良さを感じているからだろうと思います。
和音の誘惑に負けてギターばかり弾いてしまい、受験勉強に集中できないので弦を外して我慢したんでした。
私は、翌年モーリスの15000円のウエスタンを買ったなぁ。