Don't Let Me Down

日々の雑感、引用。
言葉とイメージと音から喚起されるもの。

増税

2011-08-16 08:41:17 | 日記

<富裕層に増税を=米著名投資家>
時事通信 8月16日(火)5時21分配信

 【ニューヨーク時事】米著名投資家ウォーレン・バフェット氏は、15日付の米紙ニューヨーク・タイムズに寄稿し、「私や私の友人たちは、億万長者を優遇する議会に長期間甘やかされてきた」とした上で、年収が100万ドル(約7700万円)を超える富裕層に対し、即刻増税すべきだと述べた。米国の財政問題が世界的に注目を集める中、同氏の意見は論議を呼びそうだ。
 バフェット氏は、財政赤字削減のために誰もが犠牲を強いられようとしているのに、同氏を含め超富裕層は減税措置により、犠牲を免れたままだと強調。「政府は『犠牲の分かち合い』を真剣に検討すべきだ」と指摘した。 









血のめぐり

2011-08-16 00:48:56 | 日記


2011/8/15に読んだ本3冊から引用;

★ ひとり分の夕食の材料を大学脇のスーパーで買いととのえ、自転車で帰って来る。カシやナラの実がしきりに降る前庭の斜面で、5,6歳の栗色の髪の女の子が車遊びをしていた。いつもは多様なお国柄の子供たちの先頭に立っている子だが、いまはひとりで、小さすぎる車に背をまるめて片足をのせ、勢いよくこぎくだって来る。紅潮して汗ばんだ口もとが動いているのは、自分だけの遊びに物語をあたえているのだろう。

★ そうだ、戦中の森のなかの子供だった私も、物語を想像しては身体の動きを励ましたものだ。想像の展開が、たとえば遊び仲間の陣地にしのびよるというような動きにメリハリをあたえた。いまもやはり想像力と、現実に生きる自分の全体とを文章に共振させて、仕事をしている。小説家の暮らしには、子どもの遊びとつながっているところが残っている。

<大江健三郎“プリンストン通信”― 『言い難き嘆きもて』(講談社文庫2004)>





無防備の空がついに撓み
正午の弓となる位置で
君は呼吸し
かつ挨拶せよ
君の位置からの それが
最もすぐれた姿勢である

<石原吉郎“位置”『サンチョ・パンサの帰郷』― 松浦寿輝『クロニクル』より>




★ 老いると総じてふきげんになるわけがこのごろわかってきた。風景を若いときのようにまっさらなものに感じなくなるからだ。おどろきと発見が減ればへるほど老いは深まる。現前することどもを既知の景色、あらかた経験ずみのこと、あるいはそのバリエーションとしかおもえなくなるとき、ひとは肉体の実質を問わず、廃船のように芯から老いて、心が錆びつき、ふきげんになる。

★ 閲覧室のあの風景は私にとってどうだったろうか。泣きたがるじぶんをか細い指二本でしいて笑わせた彼女のふるまいには、ほんとうのことをいうと、既視感があった。けれども私はふきげんにはならず、それどころか、若者のように心をうごかし何年ぶりかで胸がときめいた。いったいどこでそんなしぐさをおぼえたのか、追いかけて訊きただしたいとさえおもった。そうなったじぶんにめずらしく血のめぐりを感じた。

★ 個の内面と身体行為がひとすじの直線のように曲折も途切れもなくつながることは実際上はありえない。悲しいから泣く、おかしいから笑う、理不尽だから怒る……といった直線的表現は、わかりやすいけれども、複雑な多層矛盾体としてのひとの内面と行動を表わすには単純にすぎ、それゆえ微妙な嘘をはらむ。
(2010年10月)

<辺見庸『水の透視画法』>