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書評「乳と卵(川上未映子)」

2016-09-19 16:44:55 | 書評(文学)


私の誕生日は8月29日である。同じ誕生日の有名人にはどんな人がいるのか調べてみた。まず出てくるのが、マイケル・ジャクソン。たしかにビッグスターだが、音楽的にはあまり趣味じゃないし、なにより精神を病んだ人だった。そして、タレントのYOU。彼女は生年月日までいっしょだ。だけど、うーんちょっとね、という感じである。もっと調べて出てきたのが、エリザベス・フレイザー。元コクトーツインズのボーカリストで好きなバンドであり、むかし来日コンサートに見に行ったこともある。私はイギリスの歌姫の一人だと思っている。これはうれしい。次に見つけたのが、川上未映子。芥川賞受賞作家で、どうやら新時代の日本文学を作っているらしい。こりゃあ、どんな小説を書いているのか読んでみなきゃならないと思って読んだのが、この「乳と卵」である。

この本には、芥川賞受賞作の「乳と卵」と近い時期に発表された「あなたたちの恋愛は瀕死」の短編2編が収められている。文庫版で133ページなので、あっという間に読めてしまう。よく、文体が読みにくいという評があるが、私にはそんなことはなかった。関西弁と、読点で区切られて長く続く文章の形態は、慣れれば小気味よく読めるし、独特の味わいもある。「乳と卵」にはまともに男性が出てこない。もはや女性だけで世界が描かれている、そこが新しい文学だと言われている理由の一つかもしれない。いちおう姉の娘には父親がいるのだが、自分勝手な利己的な人間のように描かれている。この小説の主題は、母と娘の間の心の葛藤、いいようのない親子愛だと思うので、それをこの短い小説の中で浮き上がらせようとすると男性が出てくる余地はなかったのかもしれない。

「あなたたちの恋愛は瀕死」では、主人公の女性は、男性を恋愛の対象というより、1回限りの性交の相手としてのみ夢想する。そして、見つけた男性に声をかけたあと、衝撃の結末が訪れる。どうやら生物学的には、目の前に現れた異性に対しては、求愛するか攻撃するかという両極端な反応をするようであり、ショウジョウバエの研究では、ある1種類の脳細胞のスイッチがオンになるかオフになるかだけで、相手を求愛するか攻撃するかが決まるそうである。

2編とも男性は生物学的オスとして描かれており、それはそれでおもしろいのだが寒々とした世界観である。


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