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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『透きとおった糸をのばして』 草野たき

2007年09月09日 | Book
草野たきさんが2000年に出された文学作品『透きとおった糸をのばして』を読みました。主人公は14歳の女の子の作品です。

まず、中学生を扱った作品にもかかわらず、その年代の子供たちをへんに美化もせず、かといって悪魔のようにも描かれていません。大人から見て「いい子」というような道徳的なロボットでもないし、「悪い子」というようなステレオタイプでもありません。

主人公の千里は14歳なので、世の中の仕組みについては何も分からず、ただ目の前にある問題で精一杯の生活を送っています。でも同時に、人の感情の機微については、敏感にその動きを察知します。

主人公をそのような人物として描けているのは、作者がそれだけ自分の内面を正直に見つめているからです。

読んでいて、江国香織さんにも通じるような、日常と心の動きについての冷静な描写が続いていきます。しかし江国さんほど極端な状況設定は(この本には)なく、起こる出来事は私たちの日常に近いものです(中学生の子供を置いて両親が揃って海外に行くということは、ありふれていないけど)。

この小説のいいところは、起きる出来事はなんだかありふれているのに、読者が主人公に共感できるところだと思う。そして、なぜ読者が共感できるのかというと、登場人物(作者)が、できるだけ自分に対して正直でいようとして、そこに嘘がないからです。

それだけで文学を書けるのかどうかはわかりませんが、それがなければ読者がその小説に思い入れを抱くことはできません。

この一点だけをとっても、これはいい小説なのだと思います。



透きとおった糸をのばして (講談社文庫)
草野 たき
講談社

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