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日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

『看護のための精神医学』中井久夫・山口直彦(著)

2006年09月11日 | Book


『看護のための精神医学』という本を読みました。著者は精神科医の中井久夫さんと山口直彦さん。すでに第2版が出ていますが、私が読んだのは1版です。

看護のために書かれた精神医学のガイドブックという趣の本です。教科書的でしょうか。でも、文章に微妙なウィットと、著者たちが臨床の経験から得られた多くの知見が散りばめられています。

私は標準的な精神医学の体系について何も知らないので、この本の正確な位置づけは分かりませんが、必ずしも看護士の人だけに書かれたわけではなく、お医者さんやカウンセラーの先生、看護士の方々など、“看護”にあたる人のために書かれたのだと思います。

A4版の大き目の本で約300頁。教科書的な本ですから、様々な症状について簡単な説明と、患者の人の気持ち、病気の進行と回復の経過が述べられ、その経過の中で治療者が覚えておくべきポイントが述べられます。

だから、理論や知識を学ぶための本ではなく、実際に患者さんと相対するときに、患者さんを傷つけないために、あるいは患者さんの回復をサポートするために、「これだけは覚えておきましょう」ということを述べられているのだと思います。

精神医学の本ですから、“病気”についての説明が多いので、明るく楽しいことが述べられているわけではありません。しかし、本全体には微妙な軽さが漂っています。患者の症状というものが、色にたとえれば暗めの状態だとしても、それが回復に至る道筋だとしたら、その暗さの根底には軽さと明るさがあるのかもしれません。著者たちはそのことを信じているようにも思えます。

一気に読むような本ではないと思います。私は図書館で借りて何回か延長して最後まで読みました。理想的には、患者さんに接する人であれば、手元において、気になったことがあるときにパラパラめくる、そういう本だと思います。

“病気”で敏感な傷つきやすさを患者は抱えているということに、とても自覚的になって書かれています。その患者さんたちに対して、過剰なお節介をやくわけでもなく、無理やり“告白”させたりするわけでもなく、見放すわけでもなく、常識人の観点から叱咤するわけでもなく、軽い距離を保ち、暖かくしかし静かに患者さんを見つめていく、そんなスタンスだと思います。

精神科の治療とは、繊細な人付き合いだよと、著者たちが言っているわけではありませんが、そういう風にも聞こえます。普段の人付き合いでも、人をコントロールしようとして上手くいくことはありませんものね。

「やさしさ」は、押しつけがましさなく相手を包むものであり、求め求められる関係を超えたものであって、求めて得られるものではなく、求めてさずけられるものではない(169頁)。

「患者が変わる」のであって、医療者が患者を変えるのではない。医療者は「患者が変わる際の変化を円滑にし方向の発見を助ける触媒」、できるならばあまり害のない「よき触媒」であろうと願うのが、ゆるされる限度であると筆者は思う(225頁)。

多岐にわたる症状についての説明以上に、素人の私には、上記のような言葉が印象に残りました。