joy - a day of my life -

日々の体験や思ったことを綴ります(by 涼風)。

いちばん基本的なこと 『2004年超円高大好況!』増田俊男(著)

2005年03月10日 | Book
2週間借りていていた『2004年超円高大好況!』
を明日図書館に返すので、多くの人にとって既知のことですが、基本的な点をまとめておきたいと思います。

もし高校生や大学に入りたての若者に国際政治経済の入門書を推薦するとしたら、この本がいいのではと僕は思います。現代の政治経済の一番基本的な部分が押さえられているのではないでしょうか。この本で足りるということはありませんが、この本を読めば多くの人は世界を視るということに大きな好奇心を持ち始めるのではと思います。

まず世界の貿易取引の方法が根本的に不平等であること。つまり、金の裏付けも何もないアメリカ・ドルが基軸通貨であること。これにより、アメリカは無限に世界中から買い物ができます。アメリカの貿易赤字がどうだとかよくマスコミで言われますが、根本的にはそれはアメリカにとって痛くも痒くもないこと。なぜなら、基軸通貨が自国通貨である以上、世界中の国がドルを買う必要に迫られ、それによってドルの価値は労せずして維持され続けられる。アメリカはただ輪転機を回してドル紙幣を印刷すればよい。つまり、アメリカという国単位でみれば、売る努力をしなくても、アメリカは物を買えるという立場にある。

また他国は、もしドルの価値が低下すると、自分たちが保有するドルが低下していくので、つねにドルを買い続ける圧力にさらされている。

普通は貿易赤字になると、通貨価値の低下→インフレ→為替差損の恐れ→海外からの資金引き上げ→株価低下、景気後退、失業率上昇、消費停滞という悪循環に陥ります。

この悪循環を避けるため、普通の国は、たとえ経済が好調でも、貿易赤字なら金利を引き締め、投資・消費を抑制し、増税をし、景気にブレーキをかけます。

しかしアメリカ・ドルは通貨価値の低下が起こらないので、こうした政策を採らずに、どれだけ貿易赤字が増えようと国民の消費を抑制しません。

よくアメリカはカード社会だといわれます。日本もすでにそうです。ただアメリカの場合は80年代からすでにそうなっています。それにともない、消費を止めることができず、自己破産していく人の数が多いことでも有名です。アメリカ人の貯蓄率の極端の少なさも、この消費に抑制をかけないアメリカ政府の政策と関係しているのかもしれません。

このようにアメリカの経済がどういう状況であろうと、自国通貨が基軸通貨であるうちは、たとえ80年代を通じて製造業が衰退し、貿易赤字がどれだけ膨らもうとも、アメリカに商品を輸出する国がドルを買っていき、経済破綻を免れることができました。また90年代にはIT構想を掲げることで世界中のお金を集めることができました。

IT自体は持続的に価値を生み出すことができません。ただ連絡が迅速になり、取引の無駄はなくなるので、ネット・オークションなどの形態が広まりますが、その恩恵は一時的なものです。一端ITが完全に整えられると、そこからは価値は増大しません。つまり、市場が飽和しやすいということです。

日本のIT長者たちも、ITだけではビジネス・チャンスはもう数年すれば広がらないことを知っているからこそ、ITを利用して流すコンテンツ(スポーツ、エンターテイメント)の獲得に必死なのだと思います。

ただITという幻想自体は広まったので、アメリカは90年代に世界中からお金を集めることができました。


これほど旨味のある基軸通貨という立場ですが、アメリカがそれを守れたのも、冷戦状態でアメリカの軍事力が西側諸国に影響力をもっていたからでした。

逆に言えば、自国の経済活動自体は瀕死だと言われているアメリカにとっては、ドルが基軸通貨でなくなることは、国の崩壊を意味します。

ユーロ通貨の誕生はその点で大きな脅威です。イラク、イランをはじめとする石油産出国は2000年前後から軒並み石油取引をユーロ建てにしようとしました。またよく知られているように、イラクは自国の石油産出についてフランス、ロシアと取引をしていました。

これは、自国の石油だけでは石油消費量を賄えず、かつ基軸通貨としての立場を脅かされるアメリカにとって死活問題でした。すでに多くの所で報道されているように、アメリカがイラクを攻撃した背景には、ドルの立場を脅かすイラクとヨーロッパとの取引を中止させる狙いがありました。

またアメリカの軍事力を改めて世界に認識させることで、冷戦後も世界がアメリカに従う必要があることを教育しました。

これは同時に、冷戦時と同じように世界がアメリカに頼る構造を維持するには、つねにアメリカ以外の国では手に負えない戦争が世界各地で起きている必要があります。そのアメリカにとっては、北朝鮮の脅威やイスラエルの紛争は、無くしてはならないものとなります。

したがって、アメリカには最初から北朝鮮に核を廃棄させる狙いはないこと。アメリカにとっては、攻撃すればいつでも勝てる相手です。しかし北朝鮮が脅威であることで、アジアはアメリカの軍事力に頼らざるを得ず、その影響力を保持し、同時にドルの位置を保つ政策を日本などに押し付けることが可能となります。

大量破壊兵器をもたない国を攻撃し、核兵器の製造を宣言する国に手を出さない理由はここにあります。

この本にはもちろん他にもさまざまな問題が取り上げられているのですが、一見異常ともとれるアメリカ政権の行動が矛盾なく分かるようになっています。もっとも、あまりにも矛盾がないところが、ひょっとするとこの本の問題点なのかもしれません。


涼風