
「NHKスペシャル Last Days 坂本龍一 最期の日々」を観た。
本当は、観ようか観るのを止めようか結構悩んだ。重いテーマだし、坂本龍一の死へと至るまでの過酷な闘病生活を、ちゃんと直視できるのか不安があったからだ。
でも勇気を出して観ることに決めた。

去年出版された遺書のような書籍、坂本龍一「ぼくはあと何回、満月を見るだろう」も読んだし、彼の遺作アルバムも聴いたし、それで十分な気がしていた。もう、彼の壮絶な闘病生活を、更に見たいとは思わなかった。あまりにも辛過ぎるからだ。
今回の「NHKスペシャル Last Days 坂本龍一 最期の日々」は、病が発覚してから亡くなるまでの3年間の記録を、遺族側から提供されたという手記やメモや創作ノートやプライベート・フィルムなどを紹介しながら、最期の日々を映してゆく。
覚悟を決めて観る。

癌を宣告され、何度もの長時間に及ぶ手術を重ね、坂本龍一の肉体と精神はどんどん消耗してゆく。
彼が走り書きしたメモ帳が痛々しい。
「死刑宣告だ」・・・「生きるのって面倒臭い」・・・「松前漬けが食べたい」・・・「いま安楽死を選ぶか」・・・などなど、癌の治療薬によって生まれる精神的な妄想や、実際の激痛から逃げ出したい気持ちから発した短い言葉の数々があまりにも切なくて、胸が締め付けられる。
そして、そんなギリギリの精神状態を辛うじて救っているもの、それが音楽だ。彼は書き綴る。「音楽だけが正気を保つ唯一の方法かもしれない」と。

そして番組の後半、同じYMOの仲間である高橋幸宏の死を知った坂本龍一の激しい狼狽にも、心が激しく痛んだ。
個人的に高橋幸宏の音楽もまた大好きで、彼のすべてのアルバムを持っているわけじゃないけれど、DVDも含め、これまでずっと熱心に聴いてきた一ファンとしては、この人の死というのもまたすんごいショックだったので、番組の中でインタビューに答えていた、高橋幸宏夫人の淡々とした哀しみが深く宿る表情に対しても切なくなった。
「NHKスペシャル Last Days 坂本龍一 最期の日々」は、亡くなる直前に撮った、病室で酸素マスクをしてガリガリに瘦せ細った姿を映し出して終わる。
亡くなった日の朝は、冷たい雨が降っていたという・・・。