観たかった。
とにかく観たかった。
園子温監督の最新映画「恋の罪」のことである。
封切りは11月12日。
こうなったら、この映画を観るためにだけ東京へ行こうと、本気で考えたほどだ。
ところが本当に偶然なのだが、名古屋への出張が決まった。ネットで日本全国の上映館を探したら、名古屋市内でも上映が決まっていた。
それなら出張の際、仕事が終わった夜にタクシーを飛ばしてでも観てやろう、そう考えたのである。
もちろん、夜も仕事が入ったとしたら泣く泣く諦めるしかないのだけれど・・・。
つまり、そこまでしてでも観たかった映画だった。
園子温監督の前作「冷たい熱帯魚」もまた、凄まじい映画だった。
余りの凄さに、暫し言葉を失ったほどである。
「冷たい熱帯魚」を観終え、それでも頭の中で引き摺っていたので、実際に起こった「愛犬家殺人事件」に関する告白手記、山崎永幸「共犯者」まで読んでしまった。
それでも映画「冷たい熱帯魚」は、好き嫌いが極端に分かれると思っている。否定する人は嫌悪感すら抱くだろうし、2度と観る気がしないとまで言い切るかもしれない。
僕は正反対だった。
評価の高かった同じ園子温監督による「愛のむきだし」も悪くはなかったけれど、その何十倍も凄い映画だったと今でも思っている。
そして園子温による最新作映画が「恋の罪」だ。
名古屋で地下鉄に乗り、降りた駅が東山線「今池駅」。
当然、生まれて初めて降り立った駅である。もうすっかり日が暮れていた。
そして、やっと見つけた映画館「名古屋シネマテーク」に辿り着く。ふーっ。
モギリの哲学的風貌男性に「いやあ、やっと見つけました、この映画館。僕、青森から来たんです!」と元気に声を出したら、表情一つ変えず、クールな声で「そうですか」の一言。
なんかさあ。
こっちとしては「ええーーっ! そんな遠くからお見えになったんですかあ。いやあ、映画好きな人間として感謝感激ですねえ。さあさあ、熱い珈琲でも淹れますから、ここはゆっくり映画談議でもご一緒に!」なんて暖かい言葉を期待したんだけどなあ・・・それはないか。すいません。
それにしてもビルの2階にあるかなり古びた映画館である、「名古屋シネマティーク」。
威厳があって、狭い廊下にアート系でマイナーな映画(つまり、心惹かれる凄そうな映画)のポスターが何枚も重なり合うように貼ってある。
客席は50席もあるだろうか。
しかも、一番前の席は座椅子である。座椅子!
中は満員状態。
サラリーマン風や学生、ちょっと尖がった風貌の映画青年たちで埋まっている。
いよいよ映画が始まった。
上映時間は約2時間20分。
久しぶりに主演に抜擢された水野美紀、それから冨樫真、「冷たい熱帯魚」でも素晴らしい演技を魅せた神楽坂恵。この3人が主役を演じている。
映画は、実際に起こった、東京・渋谷区円山町のラブホテル街での「東電ОL殺人事件」を基底にしている。
夫と子どもがいるのにも関わらず、ほかに愛人を作っている女刑事が水野美紀、日中は大学で教べんを執り、夜は円山町で売春行為を繰り返している大学助教授に冨樫真、作家の夫を持ちながら、ささいな事から性の蟻地獄に落ちてゆく主婦に神楽坂恵。
いやあ、凄い。
傑作である。
最初は、なんとなく往年の日活ロマンポルノの香りが漂い、「悪くはないけど、この程度の邦画なら70年代のロマンポルノにいっぱいあったよなあ」程度の感想を抱いていたのだけれど、3人の女性の、貪欲に奔放に淫らに真剣に堕ちてゆくその姿に圧倒され、そのうち声すら出なくなる。
冨樫真が全裸で叫ぶ、「わたしがいるところまで堕ちて来なさいよ!」に激しい衝撃を受け、水野美紀の疲れ切った女刑事が、掛かって来た不倫相手の携帯を耳に当てながら犯罪現場で自慰に耽るシーンに圧倒される。
そして神楽坂恵の、暗い性の蟻地獄にのめり込む過程で見せる、聖女たる微笑みのなんと美しいことか!
映画はミステリー仕立てで進んでゆくのだが、観てゆくうちに、もうそんなことはどうでもよくなってくる。
ラスト30分の圧倒的な映像力!
特に冨樫真の母親役は凄過ぎる!
「キネマ旬報」の「恋の罪」特集を読んでいたら、やっぱりというか、海外でもその評価は真っ二つだったらしい。
大絶賛と、真逆の低評価。それはそれでよく分かる気がする。
セックスシーンも超過激だし、猟奇殺人を扱っている事もあって残酷なシーンが多い。なので、女性は嫌悪感を持つ人が多いかもしれない。
上映中、一人の観客は途中で席を立ちました。はい。
でも、僕は傑作だと思う。
今年観た、かなりの数の邦画の中で、ダントツのベストワン。
今、最も旬な監督、それが園子温だと思う。
「恋の罪」。
ほんと、凄い映画である。
完全にノックダウン。
未だに後遺症に苛まれる。
とにかく観たかった。
園子温監督の最新映画「恋の罪」のことである。
封切りは11月12日。
こうなったら、この映画を観るためにだけ東京へ行こうと、本気で考えたほどだ。
ところが本当に偶然なのだが、名古屋への出張が決まった。ネットで日本全国の上映館を探したら、名古屋市内でも上映が決まっていた。
それなら出張の際、仕事が終わった夜にタクシーを飛ばしてでも観てやろう、そう考えたのである。
もちろん、夜も仕事が入ったとしたら泣く泣く諦めるしかないのだけれど・・・。
つまり、そこまでしてでも観たかった映画だった。
園子温監督の前作「冷たい熱帯魚」もまた、凄まじい映画だった。
余りの凄さに、暫し言葉を失ったほどである。
「冷たい熱帯魚」を観終え、それでも頭の中で引き摺っていたので、実際に起こった「愛犬家殺人事件」に関する告白手記、山崎永幸「共犯者」まで読んでしまった。
それでも映画「冷たい熱帯魚」は、好き嫌いが極端に分かれると思っている。否定する人は嫌悪感すら抱くだろうし、2度と観る気がしないとまで言い切るかもしれない。
僕は正反対だった。
評価の高かった同じ園子温監督による「愛のむきだし」も悪くはなかったけれど、その何十倍も凄い映画だったと今でも思っている。
そして園子温による最新作映画が「恋の罪」だ。
名古屋で地下鉄に乗り、降りた駅が東山線「今池駅」。
当然、生まれて初めて降り立った駅である。もうすっかり日が暮れていた。
そして、やっと見つけた映画館「名古屋シネマテーク」に辿り着く。ふーっ。
モギリの哲学的風貌男性に「いやあ、やっと見つけました、この映画館。僕、青森から来たんです!」と元気に声を出したら、表情一つ変えず、クールな声で「そうですか」の一言。
なんかさあ。
こっちとしては「ええーーっ! そんな遠くからお見えになったんですかあ。いやあ、映画好きな人間として感謝感激ですねえ。さあさあ、熱い珈琲でも淹れますから、ここはゆっくり映画談議でもご一緒に!」なんて暖かい言葉を期待したんだけどなあ・・・それはないか。すいません。
それにしてもビルの2階にあるかなり古びた映画館である、「名古屋シネマティーク」。
威厳があって、狭い廊下にアート系でマイナーな映画(つまり、心惹かれる凄そうな映画)のポスターが何枚も重なり合うように貼ってある。
客席は50席もあるだろうか。
しかも、一番前の席は座椅子である。座椅子!
中は満員状態。
サラリーマン風や学生、ちょっと尖がった風貌の映画青年たちで埋まっている。
いよいよ映画が始まった。
上映時間は約2時間20分。
久しぶりに主演に抜擢された水野美紀、それから冨樫真、「冷たい熱帯魚」でも素晴らしい演技を魅せた神楽坂恵。この3人が主役を演じている。
映画は、実際に起こった、東京・渋谷区円山町のラブホテル街での「東電ОL殺人事件」を基底にしている。
夫と子どもがいるのにも関わらず、ほかに愛人を作っている女刑事が水野美紀、日中は大学で教べんを執り、夜は円山町で売春行為を繰り返している大学助教授に冨樫真、作家の夫を持ちながら、ささいな事から性の蟻地獄に落ちてゆく主婦に神楽坂恵。
いやあ、凄い。
傑作である。
最初は、なんとなく往年の日活ロマンポルノの香りが漂い、「悪くはないけど、この程度の邦画なら70年代のロマンポルノにいっぱいあったよなあ」程度の感想を抱いていたのだけれど、3人の女性の、貪欲に奔放に淫らに真剣に堕ちてゆくその姿に圧倒され、そのうち声すら出なくなる。
冨樫真が全裸で叫ぶ、「わたしがいるところまで堕ちて来なさいよ!」に激しい衝撃を受け、水野美紀の疲れ切った女刑事が、掛かって来た不倫相手の携帯を耳に当てながら犯罪現場で自慰に耽るシーンに圧倒される。
そして神楽坂恵の、暗い性の蟻地獄にのめり込む過程で見せる、聖女たる微笑みのなんと美しいことか!
映画はミステリー仕立てで進んでゆくのだが、観てゆくうちに、もうそんなことはどうでもよくなってくる。
ラスト30分の圧倒的な映像力!
特に冨樫真の母親役は凄過ぎる!
「キネマ旬報」の「恋の罪」特集を読んでいたら、やっぱりというか、海外でもその評価は真っ二つだったらしい。
大絶賛と、真逆の低評価。それはそれでよく分かる気がする。
セックスシーンも超過激だし、猟奇殺人を扱っている事もあって残酷なシーンが多い。なので、女性は嫌悪感を持つ人が多いかもしれない。
上映中、一人の観客は途中で席を立ちました。はい。
でも、僕は傑作だと思う。
今年観た、かなりの数の邦画の中で、ダントツのベストワン。
今、最も旬な監督、それが園子温だと思う。
「恋の罪」。
ほんと、凄い映画である。
完全にノックダウン。
未だに後遺症に苛まれる。