60歳からの視覚能力

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右脳の絵

2006-05-30 22:58:36 | 眼と脳の働き

 図のb、cは自閉症児だったナディアが3歳のときに描いた絵で、aは手本となった絵本の絵です。
 ナディアは幼児のとき驚くべき画才を示したのですが、描く絵は普通の幼児と違って自分が好んでみていた絵を手本にした模写です。
 色を使わず、ダイナミックな線画をすごいスピードで描いたといいます。
 一般的には幼児の絵は写実性はなく、まして精神的遅滞があればなおさらで、このような絵が描けるというのは非常に特異な才能です。

 右の図はポンゾの錯視図ですが、二本の横線を比較すると上の線のほうが長く見えます。
 斜めの線が遠近感を感じさせるため、同じ長さの線が、手前にあると感じるほうが短く感じるというものです。
 この錯視は一般的には幼児はあまり感じず、脳が発達してくるにつれて感じるようになるということです。
 原因は分かりませんが遠近法的な見方は、幼児の段階ではみられず、教育や経験によって形成される味方だと思われます。
 高齢者もポンゾ錯視は減少する傾向にあるというのですが、遠近法を高齢者が知らないということは考えられないので、高齢者の場合は視覚能力の衰えということになるのでしょうか。
 
 ナディアの絵は遠近法に従っていないかというと、そうではなく遠近法を使ったきわめて写実的なものだったといいます。
 描いた絵を見ると、ナディアは普通の子供よりはるかに早く遠近法を獲得していたということになるのですが、精神的な遅滞ということと矛盾があるように見えます。
 ナディアの絵は手本のある模写なので、遠近法にのっとった絵であるといっても手本が遠近法であったということで、ナディアが遠近法を理解していたかどうかは分かりません。
 ナディアの絵はモノクロの線画ですから、平面に描かれた手本をそのまま平面的に模写しただけなのかもしれないのです。
 
 もし遠近法の知識があったり、描く対象の実態についての知識があれば、平面に描こうとする段階で迷いが出て、結果として写実的な絵にはならなかったと思われます。

 実際、ナディアはその後の教育によって、言語の遅れを取り戻すにつれ、10歳以降の少女時代からは絵の才能がしぼんでしまい、年齢相応の下手な絵になってしまったそうです。
 幼児時代は左脳の未発達を右脳が代償して、もっぱら右脳を使って絵を描いたのが、教育による言語能力の獲得など左脳の発達につれて、右脳に偏っていたときの才能が失われてしまったというのが普通の解釈です。

 しかし、ナディアの絵は模写であって、それも右脳を使って非常に速いスピードで行われたということですから真の写実性ではなく、一種のなぞりがきのようなものだった可能性があります。
 写実性は手本の絵が実現していたもので、ナディアがものを見て頭の中で、三次元的にイメージしたものを平面にうつしかえたのではないと思われます。