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蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

廃墟にブラッサンスは泣かない

2019年02月23日 | 小説
(2019年2月23日)
投稿子が笑い飛ばした縄文の廃墟をK氏は泣いた。忠犬チャビ公は泣けないけれど遠吠えワオーンで代用した。
ユーゴーもマブッフ老人も泣いた。しかしブラッサンスは泣かない。(経緯は前の投稿を読んでください)

Geroges Brassans(1921~1981年)作曲家詩人、社会派の歌手だった。死してすでに38年が経った。
彼の作詞作曲による名曲「オーヴェルニャ人に捧げるChanson pour l'auvergnat」を取り上げる;
♪♪elle est a toi cette chanson, toi l’Auvergnat qui sans facon m’a donne quatre bous de bois quand dans ma vie il faisait froid. Toi qui m’a donne du feu quand les croquntes et les croquants , tous les gens bien attentionnes m’avaient ferme la porte au nez. Ce n’etait rien qu’un feu de bois mais il m’avait chauffe le corp et dans mon ame il brule encore a la manière d’un feu de joie.♪♪(同氏のアルバムから)
訳;この歌をオヴェルニャ人のお前に捧げる。私が寒さにあえいでいた時、お前は少しももったいぶらずに、薪の4本をくれた。女も男も、すべての村人が私を警戒し、開けた戸を私と知るや鼻先をぶつける勢いで閉めていたあの頃に、幾ばくかの火を恵んでくれたのだ。それは一時くゆるだけの火でしかないけれど、体を温めてくれた。今も心で燃えている。
♪♪Toi l’Auvergnat quand tu mourras quand le croqu’mort t’emportera qu’il te conduise a travers le ciel au pere eternel♪♪
訳;お前、オヴェルニャ人よ、死んであの世に向かうとき、死に神が空を渡って神のもとにお前を連れ行くように。
(しんみりと聞かせるメロディが良い。韻を踏んだ詞はさらによい。ぜひネットで聞いてください)

写真:ブラッサンス。一度はステージで聞きたかった。

この第一番に続いて、私が飢えに苦しんでいた時、だれもが私の飢餓を喜んでいた、お前はパンの4切れを恵んだーの第2番が続く。
第3番は憲兵警察(gendarmes)がやってきて私を拘束した時、皆が追い立てられ様の私を愚弄した。お前だけが悲しみの表情で見つめてくれた。
いずれの番も最後は「死に神は空を渡って神様のもとに連れ行くよう」で締めくくられる。

オヴェルニャ人、Auvergneの住民。中央高地(massif-central)中南部を占める。田舎、純朴な気質(と見られている)。日本での東北地方の人と比較できようか。
なぜこの人は飢えのあげくに拘束されたのか。
憲兵警察は国家体制、社会秩序に違反する反逆者を拘束する。日本の公安に近いけれど逮捕許可を受けずに拘束、送検できるなど権限は強い。するとこの本人は国家体制に反する活動を続けていたのか。暖に用いる薪にことかき、食すらも用意できない苦境に陥ったのは、反社会活動で社会、職場から締め出されたからか。そしてある寒い夜、憲兵警察がオートバイの爆音を響かせ村にやってきた。

第二次世界大戦。
フランスは北部ドイツ直接統治地区と中央から南のヴィシー政府に分断された。ヴィシー政権下では大戦前に政権を担っていたFront Polulaire(人民戦線)派の重鎮、闘士の弾圧が起きた。首班を務めたLeon Blumを含め多くがナチスドイツに送られ処刑された者も。作曲が1955年。わずか10年前まではナチスドイツの支配下にあった。フランス独特の司法制度、憲兵警察もこちらでは残っていた。
この弾圧の記憶をブラッサンスが歌にしていると投稿子は疑ってならない。村人の「皆が嘲り笑った」、まさに人民戦線の闘士が被った処遇そのものではないか。
(人民戦線はドイツの進行、そしてユダヤ系市民の弾圧を恐れるあまり、ソ連との同盟を夢みかつ交渉団を派遣した。しかし当時、ソ連はロシアに多額資金を投資し、革命でそれを失ったフランス指導階級の憎悪の的だった。それに世間と軍隊はイギリスとの同盟の維持で固まっていた。戦争直前のフランスの政治、軍隊の分断、大混乱の主因がFrontPopulaireの失政にあると投稿子は見るのだが。フランス人はこの時期の歴史を一向に語らない。戦での負け様、ナチスの下働き三年を含めて、第二次大戦を恥と感じているのか)

レミゼラブルで不遇を嘆いたマブッフ老とイメージが重なる。彼は共和党派に属しルイ16世の死刑に賛成票を投じたregicide=王殺しの一人。暖にも食にも用意が出来ない。稀覯本を一冊二冊と手放し飢えをしのいだ。マブッフを慰める者はいなかった。しかし「私」には薪とパンを恵むオヴェルニャ人がいた。嘲り笑われたけれど泣かなかった。ヴィシー政権の崩壊で出所した。戦後の混乱でそのオヴェルニャ人がどこに住むかは知らない。しかし死に神が空に渡り彼を連れて行くなら、最期が拝める。

写真:死に神は死者を引き連れ空を渡る、こんな信心がヨーロッパに広まっている。ベルイマン監督の第7の封印から。

廃墟にブラッサンスは泣かない 了

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