蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造ムルンギン族の親族体系 1

2021年05月21日 | 小説
(2021年5月21日)「親族の基本構造Les structures élémentaires de la parentéレヴィストロース著)の紹介を続けています。今回から「Le système Murnginムルンギン族の親族体系」を何回かで採り上げます。この章は本書通し章番で第12、限定交換の部、最後半に位置します。よって複雑系ながら限定交換となります。
Murngin族について。
オーストラリア北部、Carpentaria湾に臨むArnhemの地に居住(していた)。ネットにて調べるとMurnginそのものでの紹介サイトはない。Yolngu族がより多くヒットし、その居住地区はMurnginのそれと重なる。Yolngu族の居住域はより広い。想像するにMurnginはYolnguの一支族であって、Warner報告から90年を経た現在、族として消滅したかもしれない。
Arnhem地の現在と地図、Yolngu族民の写真をネットから借用し貼り付ける。

Yolngu族は言語で分類される族名。ムルンギンも属していた。

オーストラリア全図とカーペンタリア湾の部分図。ムルンギンは湾西の半島、突端に居住していた。

底本は「Morphology of the Murngin Kinship」W.L.Warner American Anthropologist vol32に収録。学会誌の当ノンブル発行は1930年、レヴィストロースは米国亡命中(1940~45年)に英語圏の民族学誌を渉猟していたので、その時の出会いです。本書「親族...」の初版発行は1947年、Warnerの報告に限定せず関連の濃い民族の報告、民族学者各位の学説の紹介、それらの批判にも論を進めている。
Murngin族の体系は他オーストラリア先住民のいずれとも異なり、一風変わった(aberrant様変わり、理屈外れ,英語ではoff pattern)仕組みを見せている。
<Le système Murngin ressemble au systeme Kariera, parce qu’il possède quatre sections et au systeme Aranda, parce que ces quatre sections sont divisées en huit sous-sections. Mais il diffère de l’un et de l’autre en ce que ces sous sections existent toujours, bien qu’elles no soient pas toujours nommées.>(本書194頁)
訳:ムルンギンの親族体系はカリエラ族のそれと似通う。なぜなら両者とも4のサブセクションを持つから。またアランダ族の体系とも似る、両とも4のセクションが8のサブセクションに分かれるから。しかしそれらいずれとも異なる。なぜならムルンギンのサブセクションは呼称が当てられていないけれど、常に存在しているから。
カリエラ、アランダ族ともにオーストラリア先住民(アボリジニと総称される)。両族はより広範な地に住み、ムルンギン族報告以前から知られていた(と推察する)。報告されたムルンギンの体系を隣部族と比較すると、「似ているけど異なる」当時の民族学者が首をひねった様が窺える。
レヴィストロースが言う「呼称が当てられていないサブセクション」とは写真(195頁)で見るとNgaritサブセクションとBuralangサブは女を交換するendobamie族内婚を形成する。下列のBulain,Balangサブについても内婚集団。8のサブセクションが数えられ、それらが4の内婚集団を作っているが、8サブには呼称が当てられている。4の内婚団には呼称、分類の識別が当てられていないが、確かに機能している実態をレヴィストロースがかく語った。

サブセクション(本書から)

報告者のWarnerは下図を発表した。これは8のサブセクションを4の通婚系にして2の内婚集団にとりまとめた。順当な解釈である。レヴィストロースは<C’est ce que Warner suggère dans son schème théorique du système Murngin , qui trait, à notre avis, l’esprit du système.>Warnerはムルンギン族体系を理論的図式にしたが、これは体系の精神を曲解、裏切り(trahire)しているときっぱりと否定した。

レヴィストロースが否定したWarnerの説明図

以下の2の図を提案する。


左図はWarnerの内婚集団を核にして、通婚を示すイコールがWarnerでは2を4に分け、さらに左右の矢印を加えた。右図、矢印は左図と変わらず、4のイコールがたすきがけに変化させた。
レヴィストロース図の意味するところは;
Warnerの2イコールはたすき掛けの通婚の意義を無視している。水平イコールの通婚が正常で、たすき掛けイコールは予備(オプション)となり、その意義を内包しかつ社会規則の範囲であるとしている。
左右に展開する矢印をレヴィストロースは加えたが、これがMurnginの風変わり体系の極致、子を与えるである。私egoはイコールの規定通りに嫁を迎え、子をなす。私の子等は私のサブセクションに留められない。矢印の流れ通りに別サブセクションに与える。
この動きをWarnerは(おそらく例外的な)養子縁組として理論図から除外した(のだろう)。レヴィストロースはこの矢印流れが、これまで述べてきた親族構造の「基準点」を具現しているとする。
それは近親婚の禁止、優先婚の設定、交換の原理(不等価)理論であり、これらがかくと存在する事を証明する族民知恵であり、究極としのムルンギン体系である。
3の基準点に沿って嫁と子の交換とムルンギン社会の成り立ちを、次回以降追う。

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 1の了(2021年5月21日)


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