蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造ムルンギンの親族体系 3

2021年05月26日 | 小説
(2021年5月26日)図の1は本書196ページにある「Murngin婚姻体系」の表を図式化したものです。第一回投稿(5月21日)で掲載した略図(レヴィストロース作表)を「女と子の交換手順」として分解しました。




元の図はこちら


あるサブセクションが女を贈るを起点とします。図ではNgarit a1が規則に正しくBalang b1に女を(嫁として)贈ります、赤の実線。これが①。b1夫と子をなすけれど、その子はb1に留まらない。子はc2に移動します。②赤の破線。この仕組を前回投稿にMurngin体系の特異としました。養子とも書きましたが意味合いは異なる。社会の規則なのでともかく子の全員、例外なしに移動させられる。
以下赤の実線、破線とを追うと、c2が女をb2に、b2は子をa2に、a2は女をb2に、b2は子をc1に、c1は女をd1に、d1は子をa1に。これで1サイクルが終わります。この制度は何を意味するか;

1 系統と同盟の固定(近親婚の禁止)
2 社会制度として婚姻を規制(ここでは交差いとこ婚)
3 女と女の交換ではない、女を貰い子を贈る(交換の不等価)
4 与えなければ受け取れない。女を貰って子を贈る(交換の相互性)

上4点は親族体系の基準点です。親族と交換の基本(別PDF)の第1ページ図を引用。


次なる伝えかけ(メッセージ)として1 子を贈るのはセクション内部(青の破線が分断線)。女を贈るのは分断の線を越して贈る。するとセクションYritchaとDuaは男系で固まる。一方、女系集団も固定する。図2のサイクルから女の移動経路を再現すると;


1 b1女はd2女の母親、 2 d2はb2の母、 3 b2はd1の母、4 d1はb1の母。
5 d1とd2およびb1とb2は祖母孫娘の関係。

図のみではわかりにくいから説明を加えると、b1は子をc2に贈る。c2は男子を残し女子はd2に嫁として贈る。故に、b1の娘がd2の嫁となった。以下、同様。
第3図で女系集団を黄色破線で表した。男系の水平展開に対し、たすき掛けに絡まる女系となる。


親族の基本構造ムルンギンの親族体系 3の了(2021年5月26日)

補遺:社会制度として子を他集団に贈る。どのような手順で子が移動するのだろうか。理論と制度のみを語るレヴィストロースが本書にその実際を語る文はない。
生まれてまもなくか。すると母は子に愛情を注げない。あるいは、移動は名目で実際的生活は生まれたサブセクションに残る。しかしこれでは個がどのサブセクションに帰順するのかに不安が生じる。系統が成り立たない。
2の両極端か折衷案があるのだろうか。息子はイニシエーション(成人式)、娘は初潮を機に移動するかもしれない。第一回目(5月21日)にYolngu語族(Murnginが属する)娘の写真をあげた。横の中年女性が親であろう。

娘の自身の交換価値に気づいているかの自信たっぷりの表情、そして親の満足げな様子、これらからして部族民蕃神は、この二人は貰われ養女と嫁がせ母と感じる次第です。

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