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蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 10

2019年02月05日 | 小説
(2月5日)
文化形成の要因と過程をパラダイムにまとめ、前回(1月31日投稿)まで3回に分けて解説しました。新大陸は南北に分離されるも神話の展開で共通性は多い。一方、当然ながら、相容れない思想に出会う。特に月の性格は南北でずれる。南の先住民には一連の「月の起源神話」が伝わる。その2例を紹介する;
M392(Kuniba族、転がる首と月の起源、食事作法の起源75頁)
あらすじ:とある娘に夜な夜な若者が訪ねくる。名乗らない、娘は男の頬にgenipa(ゲニパ、先住民が刺青に用いる染料)をこっそり塗りつけた。翌朝、兄の一人のまさに左頬、青く黒い塗り跡を見つけた。近親姦は禁忌、犯した者は居られない。村人に追われ兄は敵部族の領域に踏み込み、首を刈られた。兄弟の一人が気を遣い、足跡をたどり隣村との境界で転がる首を見つけた。抱え上げると、首はひっきりなしに呑み物食べ物を求める。呑んでも食べても切り口から落ちる、胃に溜まらないから渇きと飢えは癒えない。兄弟は首を放り出して村に逃げ帰る、首も転がり追ってくる。どの村人も戸口を閉め、首の求めを拒絶する。独りぼっちの首はもう人に戻れない。何かに変身せむといろいろ候補を挙げる。水、木、風など思い浮かべるが、いずれも人との関わりで人へ恩恵を与えてしまうから、つながりが切れない。「月になるのだ」と決めた。その理由を脇の村人に;
<<Pour se venger de sa soeur qui l’avait denonce, l’homme change en lune l ‘affligea de la menstruation>
訳;密告に復習してやる、月に変身し姉(妹)に月経を課してやるのだ。

月と月経の起源を説明するが1)転がり首の主は禁忌ないし作法で、何らかの違反を犯す2)月に近親姦がからむ(南米広くに伝わる)3)月は人にいかなる利益ももたらさない 4)周期性に関しては無関心-などが読み取れる。

写真:神話伝承のKuniba族の近接地に住むMundurucu族の戦士達(ネットから採取)

M383(Cashinawa族、月の起源 同書76頁)
あらすじ:失敗は出くわした敵部族戦士の奸計にのってしまったため。敵戦士は、
<<Il l’invita a l’accompagner jusqu’a son village afin, pretendit-il, de rendre visite a sa femme qui serait certainement ravie d’accueilleir un hote etranger>「ウチにこないか、案内するから、それに、言いにくいけど、ウチのかみさんはあんたみたいな外部族の人が好み、良い思いができそうだよ」誘う。rendre visiteは訪問する、男が婦人を訪問する狙いは「良い思い」を得るため、この狙い、下心は日本の今も変わらない。展開は「良い思い」について述べないが、これはあったとするが正しい解釈(レヴィストロースはその辺りを一切語らない)。男は首を刈られる。後の筋道は前神話と同じ。月になると決めた理由を<<J’ ai une idee! De mon sang, je ferai l’arc-en-ciel, chemain des ennemis ; de mes yeux, les etoiles ; et de ma tete , la lune. Vos femmes et vos fille saigneront. Pourquoi donc? demanderent les indiennes effrayees. Et la tete repondit : Pour rien>
訳;思いついた、このしたたる血で虹を作ろう、敵が渡って攻め込むように。そして目が星になる、この頭は月になってあんたたちの妻、娘が血を垂らす事になる。聞いた女たちは驚いて「血の垂らしは何のため」頭は「何のためでもない」と答えた。

上記1)~4)の展開はここでも見られる。1)失敗は信じやすさnaivete  2)の近親姦は外部女との姦淫(exogamie)に逆転している。罰を受けるのはそれが成就せねばならぬ、それ故、投稿子は「良い思い」はあったのだと理解している。
3)4)については前引用神話と同じ。
月と月経の起源には闘争、葛藤が始まりにあって、地上で月と果てた男が天上に昇って女に復讐する、血なまぐささと怨念、こうした筋道のみが月の起源として南米に伝わる。

周期性の萌芽と思われる口承も伝わる。M393の最終段;
<<Les Indiens sortirent tous de leurs huttes pour comtempler l’arc-en-cielet, et quand vint la nuit, la pleine lune et les etoiles qui brillaient pour la premire fois. Alors les femme eurent leurs regles, leurs maris coucherent avec elles et elles furent grosses>
訳;住民たちは戸外に出て架かり始めた虹を眺めた。夜が訪れると、満月が初めて天上にのぼり星々も初めて満天に輝いた。そのとき以来、女が規則性(reglesの原義は規則だが複数形で月経の意を持つ)を得て、夫は妻と寝て妻は妊娠する(仕組みができた)

男が犯した罪を女がかぶり肉体の規則性がうまれた。肉体性を家族・社会制度に結びつけ、文化に発展させたのが北米先住民となります。月とヤマアラシと女がその創成に協力した。その意味とは?次回に。

レヴィストロース「食事作法の起源」を読む(続き) 10 の了
(次回2月7日を予定)

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