蕃神義雄 部族民通信

レヴィストロース著作悲しき熱帯、神話学4部作を紹介している。

親族の基本構造12 社会学からの説明(2)

2021年03月03日 | 小説
(2021年3月3日)社会学からの説明1は族外婚をして「近親婚禁止」の起源とする。その発展として族外婚と略奪婚を絡みあわせ、これをもって「…禁止」起源とする説を取り上げ、その批判をレヴィストロースが展開する。(この説はLubbockが主唱した。著作は1896年ロンドン出版、小筆はこの学者を知らずWikipediaにも探せなかった)
<Lubbock trace le schéma d’une révolution qui aurait consacré le passage d’un mariage de groupe , de caractère endogamique, au mariage exogamique par capture. Les épouses obtenues par ce dernier procédé , en opposition avec les précédentes, auraient seules possédé le statut de biens individuels, fournissant anisi le prototype du marrage individualiste moderne.(23頁)
Lubbockは族内婚の性格を帯びる「集団」結婚から、略奪により配偶者を得る族外婚への道筋を想定した。略奪された妻の地位は、前者(集団結婚での妻)と較べ個人的財産(夫の所有物)として立場が確立している。近代的結婚、夫婦関係のひな形となっている。

結婚形態を集団から個人間、ひいては近代的成人同士の合意にまで「進化」する図式を想定していたと読める。するとここでの「集団」今様、個別の組み合わせを幾組か合同し、式を執り仕切る集団結婚式とは異なり、複数の夫と妻の複数が集団として共有される。ある意味、乱交的カオス結婚の原始かと類推する。妻を独り占めする私有財産化に個人が目覚め、隣村からめぼしい女を盗んでくる。その女は夫の所有物である故に他の誰の妻でもない。ここに個人性をもつ妻が生まれ、近代的細君の原型となったと主張する。
21世紀今となっては荒唐無稽の感を抑えきれない。
本論文の発表は19世紀末、ダーウィン進化論(発表1859年)の衝撃が、社会科学系にも影響を及ぼし「進化論の第二の波」が発生した時期でもある(Wikipedia調べ)。進化論から影響を受けたLubbockらが社会における「進化」をこうした単一方向の発展「カオス原始から美徳文明へ」と図式化したと思われる。(レヴィストロースの批判を通してのLubbock説の背景を類推である、勘違い誤りなどご容赦)


南米に広く生息するアンデスコンドル(挿絵はレヴィストロース著生と調理から)

略奪婚の意をネットで調べると「婚期を逸した女が社会的に成功している中年男を誘惑してかすめ取る」ーとあり(Wikiなど調べ)言葉の移り変わりに驚いた。被害者は糟糠の妻であり、世の中一般は加害者を反道徳と糾弾するが、ある意味肉食女として畏怖、尊敬する。コストパーフォーマンスが卓越する作戦を勝ち取ったからだろう。この場合の肉食とは、地位も名声もある男を食うのだからプレデター(生肉食らい)となる。コンドルは肉食だがスカベンジャー(腐肉食らい)である。スカベンジャーが略奪婚を実行する時には相当な、棺桶手前みたいなヨボ老人をカモにする。しかし実際のところ腐肉略奪婚はマレらしい。理由はよく分かる。

荒唐無稽な社会進化論とその論調の生硬さ、しかしこの推定を是として論を進める。
「…禁止」を社会と結びつけて説明する最初の取り組みがLubbock。それは進化論の影響下にあり、原始状態から人の文化を探る試みだった。自然とは(当時報告され始めたアフリカの)類人猿など番いの状況と見比べ、集団的乱婚とした。乱交集団と「…禁止」の両立はあり得ない。単一方向性とは原始カオスから私有財産、族外婚、個人の確立そして文明状態の「…禁止」に進化する過程である。
レヴィストロースは前の部「自然から文化」で文化への移行の前提に「…禁止」を置いた。Lubbock社会進化論は文化段階に入って「…禁止」が生まれたとする。批判するにあたってまず「…禁止」が先にあって文化が生まれたとすると、自説を誘導するための論陣となり、「口うるさい」外野からの批判は必定である。そこで、
<Toutes ces conceptions peuvent être écartées pour une raison très simple : si elles ne veulent eéablir aucune connection entre exogamie et la prohibition de l’inceste, elles sont étrangère à notre étude ; si , au contraire, elles offrent des solutions applicables, non seulement aux règles d’exogamie mais à cette forme particurière d’exogamie que constitue la prohibition de l’inceste , elles sont intièrement irrécevables.(23頁)
これらの論調についてある一点からの検証が必要である。もし族外婚と「…禁止」との関連に言及しないのであれば、我々の研究(親族の基本構造のこと)とは関係が薄い。その反対で族外婚のみならず略奪婚が「…禁止」を導入する前段階であるとすれば、(その論調は)受け入れられない。
社会進化の重要点である族外婚から「…禁止」への転換力学が明瞭でない点を指摘したと見る。
<Car elles prétendraient une loi générale - la prohibition de l’inceste - de tel ou tel phénomène special , de caractere souvent anecdotique, propre sans doute a certaines societes , mais dont il n’est pas possible d’universaliser l’occurrence. Ce vice methodologique leur sont communs avec la theorie de Durkheim…(同)
その説(略奪婚から…禁止)は一つの一般化されている法則「…禁止」を説明するに、挿話的で特定社会での個別事象をもって当てている。その進め方ではこの「…禁止」の発生を論ずることは出来ない。(個別をもって一般に敷衍する)論理の陥穽はDurkheimにしても踏み迷っている。
返す刀でDurkheimに論難を向けた。ではフランス社会学泰斗Durkheimの説はどのような見地から「…禁止」を説明し、そのどこに不整合が発覚してしまったのか。
<L’hypothèse avancée par Durkheim dans l’important travail qui…(23頁後略)その重要な著作でデュルケイムは近親婚に関して仮説(hypothèse)を広げているが、それには3重の性格(triple caractère)が認められる。
D’abord elle se fond sur l’universation de faits observés dans un groupe de sociétié limité; ensuite , elle fait de la prohibition de l’inceste une conséquence lointaine des règle exogamie. Ces dernières , enfin, sont interprétées en fonction de phénomènes d’un autre ordre. (同)
まずいくつかの(連合している)社会の中での1グループでの観察報告をして一般化(universation)を試みている点、次に「...禁止」は遠い過去の族外婚の 遺構であるとしている点。3点目にこれら2点が別の制度で観測される事象をもって説明している事である。
説や主張の正誤は問わず、説明するところの論理の道筋への批判である。前述したがサルトルへの批判(歴史と弁証法、野生の思考だ9章)で用いた手法であり、レヴィストロース一流の展開である。彼は哲学者なので論理の手順に厳しい、当然であろう。
親族の基本構造12 社会学からの説明(2)の了

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