1.方法
(1)分析に用いたデータの入手方法
1)論文数および相対被引用度
学術論文データベースであるTHOMSON REUTERS InCites™2013年版(国立大学協会が購入)を使用した。
2)国立大学法人の財務データおよび教員数・学生数データ
各大学が公表しているホームページより入手した。また、(独)国立大学財務・経営センターが各大学のホームページをもとに集計したデータを用いた。
3)科学研究費補助金関係のデータ
日本学術振興会ホームページで公開されているデータより入手した。
4)科学技術・学術政策研究所の調査研究報告、および、それに基づく科学技術指標のデータ
科学技術・学術政策研究所のホームページより入手した。なお、科学技術・学術政策研究所の学術論文の分析は、THOMSON REUTERS Web of Science®のデータにもとづくものである。
5)台湾の科学研究費のデータ
National Statistics Republic of Chinaホームページより入手した。
6)世界主要国の人口
United Nationsのホームページの World Population Prospects: The 2012 Revisionより入手した。
(2)データの分析方法
1)Microsoft Excel 2013を用いてデータの集計・分析を行なった。
2)統計学的分析については、Microsoft Excel 2013とともに、必要に応じてCollege Analysis ver5.1(福山平成大学)、およびIBM SPSS Statistics version 20を併用した。
(3)今回論文数の分析に用いた学術論文データベースの特徴
今回論文数の分析に用いた学術論文データベースTHOMSON REUTERS InCites™の特徴として以下の諸点が挙げられる。
1)THOMSON REUTERS Web of Science®のデータベースを元に作成された簡易型研究分析ツールである。
2)各国ごと、各研究機関の、1981-2012の学術論文数および被引用数などのデータが得られる。
3)論文数は整数カウント法によるものであり、したがって各大学の論文数を足し合わせて合計の論文数を算出した場合、その大学間の共著論文が重複してカウントされる。なお、InCites™には、たとえばJapan National Universitiesという大学群のカテゴリーが用意されており、この場合は、このカテゴリーに含まれる大学間の重複論文はカウントされない。なお、科学技術・学術政策研究所における学術論文数に関する調査報告では、THOMSON REUTERS Web of Science ®に基づいて独自に分数カウント法で算出した論文数の分析も行われている。分数カウント法は、たとえば米国と日本の2か国の共著の場合、それぞれに1/2という論文数を割り当てるカウント法である。
4)論文数はWeb of Science ®に登録された学術誌に掲載された論文数であり各大学が産生している実論文数とは必ずしも一致するわけではない。
5)Web of Science®に登録される学術誌は毎年見直しが行われる。この場合、登録が中止になった学術誌の過去の論文データはデータベースに残っており、新規登録された学術誌の過去の論文データは収載されず、登録された年以降の論文データが収載される。
6)InCites™の論文数には、登録学術誌の変更等によるデータベースへの論文収載方法に起因すると推測される経年変動がみられる。本報告では、経年変動を均すためにしばしば3年移動平均値を用いた。なお、論文数の経年の増減の傾向を回帰直線の傾き(SLOPE)で分析する場合には、3年移動平均値ではなく、1年単位の論文数を用いた。
8)現時点でInCites™で論文数のデータが利用できるわが国の大学は、71国立大学、80私立大学、8公立大学である。
(4)分析の対象とした国立大学
THMSON REUTERS InCites™で論文数のデータが得られる国立大学は71大学あるが、そのうち、総合研究大学院大学( The Graduate University for Advanced Studies)は、18の大学共同利用機関等をキャンパスとする大学院大学であり、他の国立大学や大学院大学と性格が大きく異なることから、今回の主要な分析には含めないことにした。その結果、今回の主要な論文数分析の対象とした国立大学は70大学となった(表1)。
表1.本論文で論文数分析の対象とした国立大学
- 01北海道大学 HOKKAIDO UNIV
- 03室蘭工業大学 MURORAN INST TECHNOL
- 05帯広畜産大学 OBIHIRO UNIV AGR & VET MED
- 06旭川医科大学 ASAHIKAWA MED COLL
- 07北見工業大学 KITAMI INST TECHNOL
- 08弘前大学 HIROSAKI UNIV
- 09岩手大学 IWATE UNIV
- 10東北大学 TOHOKU UNIV
- 12秋田大学 AKITA UNIV
- 13山形大学 YAMAGATA UNIV
- 14福島大学 FUKUSHIMA UNIV
- 15茨城大学 IBARAKI UNIV
- 16筑波大学 UNIV TSUKUBA
- 18宇都宮大学 UTSUNOMIYA UNIV
- 19群馬大学 GUNMA UNIV
- 20埼玉大学 SAITAMA UNIV
- 21千葉大学 CHIBA UNIV
- 22東京大学 UNIV TOKYO
- 23東京医科歯科大学 TOKYO MED & DENT UNIV
- 25東京学芸大学 TOKYO GAKUGEI UNIV
- 26東京農工大学 TOKYO UNIV AGR & TECHNOL
- 28東京工業大学 TOKYO INST TECHNOL
- 29東京海洋大学 TOKYO UNIV MARINE SCI & TECHNOL
- 30お茶の水女子大学 OCHANOMIZU UNIV
- 31電気通信大学 UNIV ELECTROCOMMUN
- 32一橋大学 HITOTSUBASHI UNIV
- 33横浜国立大学 YOKOHAMA NATL UNIV
- 34新潟大学 NIIGATA UNIV
- 35長岡技術科学大学 NAGAOKA UNIV TECHNOL
- 37富山大学 TOYAMA UNIV
- 38金沢大学 KANAZAWA UNIV
- 39福井大学 UNIV FUKUI
- 40山梨大学 UNIV YAMANASHI
- 41信州大学 SHINSHU UNIV
- 42岐阜大学 GIFU UNIV
- 43静岡大学 SHIZUOKA UNIV
- 44浜松医科大学 HAMAMATSU UNIV SCH MED
- 45名古屋大学 NAGOYA UNIV
- 47名古屋工業大学 NAGOYA INST TECHNOL
- 48豊橋技術科学大学 TOYOHASHI UNIV TECHNOL
- 49三重大学 MIE UNIV
- 50滋賀大学 SHIGA UNIV
- 51滋賀医科大学 SHIGA UNIV MED SCI
- 52京都大学 KYOTO UNIV
- 54京都工芸繊維大学 KYOTO INST TECHNOL
- 55大阪大学 OSAKA UNIV
- 56大阪教育大学 OSAKA UNIV EDUC
- 58神戸大学 KOBE UNIV
- 60奈良女子大学 NARA WOMENS UNIV
- 61和歌山大学 WAKAYAMA UNIV
- 62鳥取大学 TOTTORI UNIV
- 63島根大学 SHIMANE UNIV
- 64岡山大学 OKAYAMA UNIV
- 65広島大学 HIROSHIMA UNIV
- 66山口大学 YAMAGUCHI UNIV
- 67徳島大学 UNIV TOKUSHIMA
- 69香川大学 KAGAWA UNIV
- 70愛媛大学 EHIME UNIV
- 71高知大学 KOCHI UNIV
- 73九州大学 KYUSHU UNIV
- 74九州工業大学 KYUSHU INST TECHNOL
- 75佐賀大学 SAGA UNIV
- 76長崎大学 NAGASAKI UNIV
- 77熊本大学 KUMAMOTO UNIV
- 78大分大学 OITA UNIV
- 79宮崎大学 UNIV MIYAZAKI
- 80鹿児島大学 KAGOSHIMA UNIV
- 82琉球大学 UNIV RYUKYUS
- 85北陸先端科学技術大学院大学 JAPAN ADV INST SCI & TECHNOL
- 86奈良先端科学技術大学院大学 NARA INST SCI & TECHNOL
(5)国立大学間の共著による重複論文数の推定
InCites™において、Japan National Universitiesという大学群のカテゴリーが設けられている。そこには71国立大学毎の論文数のデータと、Japan National Universities Totalsという71大学を一つの大学群とみなした場合の論文数のデータが得られる。各大学の論文数のデータの合計には71大学間の共著論文が重複して計数されるが、Japan National Universities Totalsでは71大学間の共著論文は重複されずに計数される。そして両者の計数の差は、各大学の論文数を合計した場合に重複して計数される論文数となる。
図1に示すように、Japan National Universitiesの各大学論文数の合計と、Japan National Universities Totalsの論文数との差は、次第に大きくなっている。
また、図2に両者の差を各大学論文数の合計で除して求めた論文重複率の推移を示した。重複率は10年前には約15%であったものが最近では20%を超えており、直線回帰では最近10年間に0.495%の割合で増加している。
このことから、各大学の論文数を合計して大学群の論文数を算出する場合は、最近10年間では重複して計数している論文の割合が10~20%程度ありうることを念頭に置かねばならない。また、大学群の最近10年間の論文数の増減の傾向を検討する場合には、10年間で5%程度の増加は重複論文数の増加が反映されている可能性があることに留意する必要がある。つまり、論文数のカーブが増加傾向を示しても、5%以下の増加であるならば、実際は停滞~減少している可能性がある。
(6)InCites™における論文数の経年変動について
先にも述べたが、InCites™の論文数、つまりWeb of Science®の論文数には経年変動が見られる。図3は、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの全分野論文数を、移動平均値ではなく、1年毎にプロットしたものである。当然のことであるが、図1に示した3年移動平均値のカーブと比較して、1年毎の微細な変動が見られる。
その変動を強調するためにJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSについて、1999年~2012年までの論文数についてスケールを拡大して図4に示した。
図4のカーブでは、2001年に“肩”が見られ、2004年に“陥凹”が見られる。これらの変動が、国立大学群に内在する要因による変動なのか、データベースの論文データ収載方法に起因するものなのかを推測するために、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの論文数の変動を、時系列を考慮して比較した。
図5にJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの経年と論文数の直線回帰式から得られる残差の変動を示した。図4から経年的な論文数の直線回帰が可能であると判断される2004~2012の論文数のデータを用い、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSのそれぞれについて、経年と論文数との直線回帰式から残差を求めた。その残差の予測値に占める割合(%)をプロットしたものが図5である。つまり、この図は、各年の論文数の直線回帰の予測値(平均値に相当)からのずれの程度をプロットしたものである。
JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSとJAPAN TOTALSの残差の変動は非常によく一致している。また、WORLD TOTALSの変動とも、概ね一致している。唯一2005年~06年にかけて、JAPAN: NATL UNIVERSITIESが増加しているのに対して、WORLD TOTALSは減少しているものの、その減少率は緩徐になっており、すべての年について両者に関連性が認められる。また、2001年の“肩”についても、図3を見ていただければ、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、WORLD TOTALSの3者ともに”肩”が存在することがわかるであろう。
この結果から、国立大学群に見られる1年ごとの比較的小さい急激な論文数の変動は、国立大学群に内在する変動というよりも、全世界の論文数の変動に関連した変動であると考えられる。全世界の論文数の1年毎の微細な変動が一斉に生じる要因については、全世界の大学や研究機関の研究機能が同期されて変動しているとは考え難く、データベースに論文を収載する何らかの方法に起因するものと推測する。THOMSON REUTERS Web of Science®に収載される学術誌は、常に見直しがなされており、そのような収載学術誌の見直し等が影響している可能性は否定できない。
また、WORLD TOTALSの残差の変動の割合は概ね-1~+1%であり、それほど大きい値ではないが、論文数の微細な変動を分析する際には注意が必要と思われる。
(7)学術分野
学術分野の分析にはWeb of Science®のEssential Science Indicators: 22 Subject Area(表2)を用いた。
表2.Web of Science® のEssential Science Indicators
- AGRICULTURAL SCIENCES
- BIOLOGY & BIOCHEMISTRY
- CHEMISTRY
- CLINICAL MEDICINE
- COMPUTER SCIENCE
- ECONOMICS & BUSINESS
- ENGINEERING
- ENVIRONMENT/ECOLOGY
- GEOSCIENCES
- IMMUNOLOGY
- MATERIALS SCIENCE
- MATHEMATICS
- MICROBIOLOGY
- MOLECULAR BIOLOGY & GENETICS
- MULTIDISCIPLINARY
- NEUROSCIENCE & BEHAVIOR
- PHARMACOLOGY & TOXICOLOGY
- PHYSICS
- PLANT & ANIMAL SCIENCE
- PSYCHIATRY/PSYCHOLOGY
- SOCIAL SCIENCES, GENERAL
- SPACE SCIENCE
また、日本における各分野の論文数増減の要因分析を単純化するためにEssential Science Indicatorsをさらに括った分類(表3)で、論文数の推移を分析した。ただし、この括り方は本報告書独自のものであり、異論もありうると思われる。
表3.本報告で用いたEssential Science Indicatorsの一部を括った学術分野の分類
- 臨床医学 CLINICAL MEDICINE
- 生命科学系 BIOLOGY & BIOCHEMISTRY
- NEUROSCIENCE & BEHAVIOR
- MOLECULAR BIOLOGY & GENETICS
- IMMUNOLOGY
- MICROBIOLOGY
- PHARMACOLOGY & TOXICOLOGY
- 理工学系 CHEMISTRY
- ENGINEERING
- MATERIALS SCIENCE
- COMPUTER SCIENCE
- PHYSICS
- 農・環境系 PLANT & ANIMAL SCIENCE
- AGRICULTURAL SCIENCES
- ENVIRONMENT/ECOLOGY
- 理学系 GEOSCIENCES
- SPACE SCIENCE
- MATHEMATICS
- 人文社会科学系 PSYCHIATRY/PSYCHOLOGY
- SOCIAL SCIENCES, GENERAL
- ECONOMICS & BUSINESS
- 複合系 MULTIDISCIPLINARY
InCites™においてEssential Science Indicatorsの22の分類それぞれの論文数を合計した数値と、全分野論文数として一括して読みだした論文数とは、必ずしも一致しない。JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSにおいて、各分類の論文数の合計と、全分野論文数の推移を比較したところ(図6)、早期の年代において各分野論文数の合計が、全分野論文数の合計よりも少なく計数されていた。この理由としては、各22分野で計数する場合は、それぞれの分野に現在登録されている学術誌に掲載された論文数を計数するのに対して、全分野論文数を直接計数した場合はWeb of Science®に現在は登録されていないが、過去に登録されていた学術誌の論文数も計数してしまうためではないかと推測する。ただし、2000年頃以降の論文数の分析には、この差異は無視できる程度であると判断する。
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「方法」はだいたいこんな感じかなと思っています。「方法」だけで、けっこうな分量と時間がかかってしまい、異常に長いブログになってしまいましたね。3月17日の卒業式の式辞を書かないといけないし、学内学外の行事や仕事もあるし、IDE大学協会から頼まれている3月中に書かないといけない依頼原稿もあるし・・・。
果たして3月中に報告書がまとまるかどうか・・・。