ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その3.方法の追加と国際比較1)

2014年03月14日 | 高等教育

さて、国立大学の学術論文数についての報告書草案の3回目ですね。

今日は、「方法」について追加した後、「結果」の項に入ります。結果の最初はわが国の論文数の国際比較についてです。すでに、今までのブログでも、何度かご紹介したデータも含まれます。

また、通常の論文の場合、「結果」の項には、文字通り結果だけを並べ、自分の考えは「考察」の項でまとめて説明をすることが多いのですが、この報告書では、たくさんのデータがあるので、ある程度のところで、自分の考えも順次書いていく方が読者にとってわかりやすいと思います。そのために、その都度書き入れる「考察」については、総まとめの「考察」と区別する目的で、「含意」という言葉を使おうかなと思います。

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(8)科学技術・学術政策研究所の学術論文数のデータとの照合

 科学技術・学術政策研究所ではTHOMSON REUTERS Web of Science®のデータを元に、わが国および世界の学術論文の分析を行なっており、InCites™も同じデータベースをもとに論文数を抽出している。そこで、科学技術・学術政策研究所が発行している科学技術指標20131)のp127に掲載されている主要国における整数カウント法の論文数のデータと、InCites™で計数した同じ主要国における整数カウント法による論文数を照合し、合致度を確認した。

 InCites™で計数した値の方がやや高い値を示す傾向が見られ、その差異率は6.25±4.02 % (mean ± SD)であった。また、論文数の順位が科学技術指標ではドイツが3位、イギリスが4位、イタリアが7位、カナダが8位であるのに対して、InCites™の計数では、イギリスとドイツ、およびイタリアとカナダの順位が入れ替わった(表4)。両者の数値が異なる理由については定かではなく、データベースを計数した時期の違いや、抽出方法の違いなどによるものと想像される。ただし、両者は良好に相関しており(図7)、基本的な部分ではほぼ等価の分析をしていると判断してよいと思われる。

表4.科学技術指標論文数による主要国順位とInCites™論文数順位の比較(2010-12平均値、整数カウント法)

順位

科学技術指標論文数

InCites論文数

1

米国

米国

2

中国

中国

3

ドイツ

イギリス

4

イギリス

ドイツ

5

日本

日本

6

フランス

フランス

7

イタリア

カナダ

8

カナダ

イタリア

9

スペイン

スペイン

10

インド

インド

11

韓国

韓国

12

オーストラリア

オーストラリア

13

ブラジル

ブラジル

14

オランダ

オランダ

15

ロシア

ロシア

16

台湾

台湾

17

スイス

スイス

18

トルコ

トルコ

19

イラン

スウェーデン

20

ポーランド

イラン

21

スウェーデン

ポーランド

22

ベルギー

ベルギー

23

デンマーク

デンマーク

24

オーストリア

オーストリア

25

イスラエル

イスラエル

 

 

 科学技術・学術政策研究所では、InCites™では分析ができない高度な分析も行っている。たとえば、科学技術指標20131)のp126 には、先にも述べた分数カウント法による世界主要国の論文数のデータが掲載されているが、この分析を行なうことはInCites™では不可能である。また、Top10%(Top1%)補正論文数のデータが掲載されているが、この分析もInCites™では不可能である。なお、Top10%(Top1%)補正論文数とは、被引用回数が各年各分野で上位 10%(1%)に入る論文の抽出後、実数で論文数の 1/10(1/100)となるように補正 を加えた論文数を指し、これは注目度の高い論文数を反映すると考えられる。

 本報告では、InCites™による分析のデータに加えて、科学技術・学術政策研究所の分析結果を適宜引用しつつ、説明をしていくこととする。

2.結果

(1)日本の学術論文数の国際比較

1)日本と世界全体の全分野学術論文数の推移の比較

 日本の全分野学術論文数は2000年頃までは、世界全体の増加率よりも大きい増加率で増加していたが、2000年ころより失速し、現在は停滞から減少傾向にある。一方世界全体の学術論文数は2000年頃から急速に増えている(図8)。

 

 また、主要15か国の比較では(図9)、日本以外の先進国が軒並み増加を示し、また、中国を初めとする新興国が急速に学術論文数を増加させているのとは対照的に、唯一日本だけが停滞~減少を示している。論文数については2001~04年にかけて、日本はアメリカ合衆国に次いで2番目の多さであったが、それ以後、イギリス、ドイツ、中国に追い抜かれ現在5番目となっている。

 2010-12の平均論文数が50以上の国は154か国あるが、2003-05を基点とした増加率で増加率20%未満の国は6か国にとどまっており、そのうち日本は唯一マイナスの国となった(図10)。なお、VENEZUELAについては、ここ数年急激に論文数が減少しており、何らかの政治状況が影響を与えているものと推測する。なお、2010-12の平均論文数が10以上の国185か国に広げた場合、マイナスとなった国として日本以外にERITREAがあるが、政治状況が不透明な国家である。 

 

<含意>

  これらのデータは、日本の学術論文数減少が、政治状況に大きな問題のある国以外には見られない、日本だけに起こった世界的に見て極めて特異な現象であることを示すものと考えられる。

  また、日本の学術論文数が増加から停滞・減少へ転じた時期は2004年頃であり、図4に示した国立大学の学術論文数の推移のカーブでは、ちょうど2004年を境に明確に停滞・減少に転じている。

  バブル崩壊後の長期のデフレ経済、国家財政における巨額の債務超過、急速な高齢化と人口減少という世界的に見て特異な経済・社会状況にある日本で、学術研究分野でも世界的に特異な現象が生じても不思議ではないが、これらの要因はある程度緩徐に影響するものであり、2004年を境に明確な学術論文数の転換が生じたことは、この頃になされた急激な大学への政策転換(2004年の国立大学法人化、あるいは法人化と時期を同じくして大学に対してなされた政策等)が、研究機能に何らかの影響を与えた可能性を否定できないと考える。

 なお、論文数やその増減の国際比較をする場合、国際共著論文の割合や、その増加率にも配慮する必要がある。科学技術・学術政策研究所による科学技術指標2013の資料のデータより、主要国の国際共著率をプロットしたものが図11である。ヨーロッパ諸国の国際共著率は高く、最近では50%を超えている。増加の程度は、2002年にドイツ41.7%、米国25.5%、日本19.8%であったものが、2012年には、ドイツ53.2%、米国35.9%、日本28.1%と、先進各国とも最近10年間に約10%前後増加している。

 

 

 このような国際共著論文の伸びは、広い意味での研究機能の向上を反映していると考えられるが、その研究機関の実質的な論文生産能力の伸びを必ずしも忠実に反映しているとは言えないと思われる。国際共著論文を関係する国に分数で割りあてる分数カウント法の方が、より実質的な論文生産能力を反映する指標であると考えられる。

 そこで、科学技術指標2013の資料に基づき、整数カウント法で計数した主要国の論文数の推移と、分数カウント法で計数した論文数の推移をグラフに表示して比較した(図12)。国際共著率の高い欧米諸国の論文数は整数カウントから分数カウントにすることにより、増加の傾きが緩徐となっているが、国際共著率のあまり変化していない中国の論文数は両者ともに急峻である。また、2000-02年の日本の順位は整数カウント法では5位であるが、分数カウント法では3位に上がっている。一方、日本の論文数のカーブを見ると、2000-02年から2010-12年にかけて整数カウント法では論文数の減少は見られないが、分数カウント法では明らかに減少している。このことは、この10年で日本の実質的な研究機能が低下していることを示唆しているものと考える。

 

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さて、そろそろ18日の卒業式の原稿にとりかからなくっちゃ・・・。

 

 

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1 コメント

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ブロゴスからきました。 (あつ)
2014-03-15 12:40:57
大変面白い考察だと思います。
独立行政法人化したことで、こんなに論文が減ってしまうのは政府もほとんど考えていなかったのではないでしょうか。
でも教授、助教授はパーマネントなのにこれほど
減ってしまう要因はなんなんでしょうか?
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