ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

法人化後の国立大学の学術論文数の推移とその要因の分析(その2.方法)

2014年03月12日 | 高等教育
今日は、国大協報告書草案の2回目で「方法」です。
 
「方法」の記載は、ブログの読者にとってはあまり面白くない部分だと思います。ただし、論文や報告書は、この「方法」がきちんと書かれていないと、まったく信用されません。僕も論文の査読をした経験があるのですが、査読者が最も重点的に査読をする箇所が「方法」です。「結果」については、著者の主張が正しいのか間違っているのか、追試をしない限り確かめようがありませんからね。「考察」も論理の矛盾や飛躍がある場合は指摘をしますが、そうでない場合は、どのようなことをお考えになったとしても、間違っているとは言えません。
 
今回の報告でも、できるだけ「方法」をきちんと記載し、追試をすれば誰でも同じ結果が出る報告書になるように心がけます。そうすると、一般の読者には「方法」の箇所がずいぶん退屈なものになってしまいますけどね。一般の方は、この箇所は読み飛ばしていただいて結構ですよ。
 
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1.方法

(1)分析に用いたデータの入手方法

1)論文数および相対被引用度

 学術論文データベースであるTHOMSON REUTERS InCites™2013年版(国立大学協会が購入)を使用した。

2)国立大学法人の財務データおよび教員数・学生数データ

 各大学が公表しているホームページより入手した。また、(独)国立大学財務・経営センターが各大学のホームページをもとに集計したデータを用いた。

3)科学研究費補助金関係のデータ

 日本学術振興会ホームページで公開されているデータより入手した。

4)科学技術・学術政策研究所の調査研究報告、および、それに基づく科学技術指標のデータ

 科学技術・学術政策研究所のホームページより入手した。なお、科学技術・学術政策研究所の学術論文の分析は、THOMSON REUTERS Web of Science®のデータにもとづくものである。

5)台湾の科学研究費のデータ

 National Statistics Republic of Chinaホームページより入手した。

6)世界主要国の人口

 United Nationsのホームページの World Population Prospects: The 2012 Revisionより入手した。

 

(2)データの分析方法

1)Microsoft Excel 2013を用いてデータの集計・分析を行なった。

2)統計学的分析については、Microsoft Excel 2013とともに、必要に応じてCollege Analysis ver5.1(福山平成大学)、およびIBM SPSS Statistics version 20を併用した。

(3)今回論文数の分析に用いた学術論文データベースの特徴

 今回論文数の分析に用いた学術論文データベースTHOMSON REUTERS InCites™の特徴として以下の諸点が挙げられる。

1)THOMSON REUTERS Web of Science®のデータベースを元に作成された簡易型研究分析ツールである。

2)各国ごと、各研究機関の、1981-2012の学術論文数および被引用数などのデータが得られる。

3)論文数は整数カウント法によるものであり、したがって各大学の論文数を足し合わせて合計の論文数を算出した場合、その大学間の共著論文が重複してカウントされる。なお、InCites™には、たとえばJapan National Universitiesという大学群のカテゴリーが用意されており、この場合は、このカテゴリーに含まれる大学間の重複論文はカウントされない。なお、科学技術・学術政策研究所における学術論文数に関する調査報告では、THOMSON REUTERS Web of Science ®に基づいて独自に分数カウント法で算出した論文数の分析も行われている。分数カウント法は、たとえば米国と日本の2か国の共著の場合、それぞれに1/2という論文数を割り当てるカウント法である。

4)論文数はWeb of Science ®に登録された学術誌に掲載された論文数であり各大学が産生している実論文数とは必ずしも一致するわけではない。

5)Web of Science®に登録される学術誌は毎年見直しが行われる。この場合、登録が中止になった学術誌の過去の論文データはデータベースに残っており、新規登録された学術誌の過去の論文データは収載されず、登録された年以降の論文データが収載される。

6)InCites™の論文数には、登録学術誌の変更等によるデータベースへの論文収載方法に起因すると推測される経年変動がみられる。本報告では、経年変動を均すためにしばしば3年移動平均値を用いた。なお、論文数の経年の増減の傾向を回帰直線の傾き(SLOPE)で分析する場合には、3年移動平均値ではなく、1年単位の論文数を用いた。

8)現時点でInCitesで論文数のデータが利用できるわが国の大学は、71国立大学、80私立大学、8公立大学である。

 

(4)分析の対象とした国立大学

 THMSON REUTERS InCites™で論文数のデータが得られる国立大学は71大学あるが、そのうち、総合研究大学院大学( The Graduate University for Advanced Studies)は、18の大学共同利用機関等をキャンパスとする大学院大学であり、他の国立大学や大学院大学と性格が大きく異なることから、今回の主要な分析には含めないことにした。その結果、今回の主要な論文数分析の対象とした国立大学は70大学となった(表1)。

表1.本論文で論文数分析の対象とした国立大学

  1. 01北海道大学   HOKKAIDO UNIV
  2. 03室蘭工業大学 MURORAN INST TECHNOL
  3. 05帯広畜産大学 OBIHIRO UNIV AGR & VET MED
  4. 06旭川医科大学 ASAHIKAWA MED COLL
  5. 07北見工業大学 KITAMI INST TECHNOL
  6. 08弘前大学     HIROSAKI UNIV
  7. 09岩手大学     IWATE UNIV
  8. 10東北大学     TOHOKU UNIV
  9. 12秋田大学     AKITA UNIV
  10. 13山形大学     YAMAGATA UNIV
  11. 14福島大学     FUKUSHIMA UNIV
  12. 15茨城大学     IBARAKI UNIV
  13. 16筑波大学     UNIV TSUKUBA
  14. 18宇都宮大学   UTSUNOMIYA UNIV
  15. 19群馬大学     GUNMA UNIV
  16. 20埼玉大学     SAITAMA UNIV
  17. 21千葉大学     CHIBA UNIV
  18. 22東京大学     UNIV TOKYO
  19. 23東京医科歯科大学     TOKYO MED & DENT UNIV
  20. 25東京学芸大学 TOKYO GAKUGEI UNIV
  21. 26東京農工大学 TOKYO UNIV AGR & TECHNOL
  22. 28東京工業大学 TOKYO INST TECHNOL
  23. 29東京海洋大学 TOKYO UNIV MARINE SCI & TECHNOL
  24. 30お茶の水女子大学     OCHANOMIZU UNIV
  25. 31電気通信大学 UNIV ELECTROCOMMUN
  26. 32一橋大学     HITOTSUBASHI UNIV
  27. 33横浜国立大学 YOKOHAMA NATL UNIV
  28. 34新潟大学     NIIGATA UNIV
  29. 35長岡技術科学大学     NAGAOKA UNIV TECHNOL
  30. 37富山大学     TOYAMA UNIV
  31. 38金沢大学     KANAZAWA UNIV
  32. 39福井大学     UNIV FUKUI
  33. 40山梨大学     UNIV YAMANASHI
  34. 41信州大学     SHINSHU UNIV
  35. 42岐阜大学     GIFU UNIV
  36. 43静岡大学     SHIZUOKA UNIV
  37. 44浜松医科大学 HAMAMATSU UNIV SCH MED
  38. 45名古屋大学   NAGOYA UNIV
  39. 47名古屋工業大学       NAGOYA INST TECHNOL
  40. 48豊橋技術科学大学     TOYOHASHI UNIV TECHNOL
  41. 49三重大学     MIE UNIV
  42. 50滋賀大学     SHIGA UNIV
  43. 51滋賀医科大学 SHIGA UNIV MED SCI
  44. 52京都大学     KYOTO UNIV
  45. 54京都工芸繊維大学     KYOTO INST TECHNOL
  46. 55大阪大学     OSAKA UNIV
  47. 56大阪教育大学 OSAKA UNIV EDUC
  48. 58神戸大学     KOBE UNIV
  49. 60奈良女子大学 NARA WOMENS UNIV
  50. 61和歌山大学   WAKAYAMA UNIV
  51. 62鳥取大学     TOTTORI UNIV
  52. 63島根大学     SHIMANE UNIV
  53. 64岡山大学     OKAYAMA UNIV
  54. 65広島大学     HIROSHIMA UNIV
  55. 66山口大学     YAMAGUCHI UNIV
  56. 67徳島大学     UNIV TOKUSHIMA
  57. 69香川大学     KAGAWA UNIV
  58. 70愛媛大学     EHIME UNIV
  59. 71高知大学     KOCHI UNIV
  60. 73九州大学     KYUSHU UNIV
  61. 74九州工業大学 KYUSHU INST TECHNOL
  62. 75佐賀大学     SAGA UNIV
  63. 76長崎大学     NAGASAKI UNIV
  64. 77熊本大学     KUMAMOTO UNIV
  65. 78大分大学     OITA UNIV
  66. 79宮崎大学     UNIV MIYAZAKI
  67. 80鹿児島大学   KAGOSHIMA UNIV
  68. 82琉球大学     UNIV RYUKYUS
  69. 85北陸先端科学技術大学院大学   JAPAN ADV INST SCI & TECHNOL
  70. 86奈良先端科学技術大学院大学   NARA INST SCI & TECHNOL

(5)国立大学間の共著による重複論文数の推定

InCites™において、Japan National Universitiesという大学群のカテゴリーが設けられている。そこには71国立大学毎の論文数のデータと、Japan National Universities Totalsという71大学を一つの大学群とみなした場合の論文数のデータが得られる。各大学の論文数のデータの合計には71大学間の共著論文が重複して計数されるが、Japan National Universities Totalsでは71大学間の共著論文は重複されずに計数される。そして両者の計数の差は、各大学の論文数を合計した場合に重複して計数される論文数となる。

図1に示すように、Japan National Universitiesの各大学論文数の合計と、Japan National Universities Totalsの論文数との差は、次第に大きくなっている。

 また、図2に両者の差を各大学論文数の合計で除して求めた論文重複率の推移を示した。重複率は10年前には約15%であったものが最近では20%を超えており、直線回帰では最近10年間に0.495%の割合で増加している。

 このことから、各大学の論文数を合計して大学群の論文数を算出する場合は、最近10年間では重複して計数している論文の割合が10~20%程度ありうることを念頭に置かねばならない。また、大学群の最近10年間の論文数の増減の傾向を検討する場合には、10年間で5%程度の増加は重複論文数の増加が反映されている可能性があることに留意する必要がある。つまり、論文数のカーブが増加傾向を示しても、5%以下の増加であるならば、実際は停滞~減少している可能性がある。

 

(6)InCites™における論文数の経年変動について

 先にも述べたが、InCites™の論文数、つまりWeb of Science®の論文数には経年変動が見られる。図3は、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの全分野論文数を、移動平均値ではなく、1年毎にプロットしたものである。当然のことであるが、図1に示した3年移動平均値のカーブと比較して、1年毎の微細な変動が見られる。

 

その変動を強調するためにJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSについて、1999年~2012年までの論文数についてスケールを拡大して図4に示した。

 図4のカーブでは、2001年に“肩”が見られ、2004年に“陥凹”が見られる。これらの変動が、国立大学群に内在する要因による変動なのか、データベースの論文データ収載方法に起因するものなのかを推測するために、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの論文数の変動を、時系列を考慮して比較した。

図5にJAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSの経年と論文数の直線回帰式から得られる残差の変動を示した。図4から経年的な論文数の直線回帰が可能であると判断される2004~2012の論文数のデータを用い、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、およびWORLD TOTALSのそれぞれについて、経年と論文数との直線回帰式から残差を求めた。その残差の予測値に占める割合(%)をプロットしたものが図5である。つまり、この図は、各年の論文数の直線回帰の予測値(平均値に相当)からのずれの程度をプロットしたものである。

 

JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSとJAPAN TOTALSの残差の変動は非常によく一致している。また、WORLD TOTALSの変動とも、概ね一致している。唯一2005年~06年にかけて、JAPAN: NATL UNIVERSITIESが増加しているのに対して、WORLD TOTALSは減少しているものの、その減少率は緩徐になっており、すべての年について両者に関連性が認められる。また、2001年の“肩”についても、図3を見ていただければ、JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALS、JAPAN TOTALS、WORLD TOTALSの3者ともに”肩”が存在することがわかるであろう。

この結果から、国立大学群に見られる1年ごとの比較的小さい急激な論文数の変動は、国立大学群に内在する変動というよりも、全世界の論文数の変動に関連した変動であると考えられる。全世界の論文数の1年毎の微細な変動が一斉に生じる要因については、全世界の大学や研究機関の研究機能が同期されて変動しているとは考え難く、データベースに論文を収載する何らかの方法に起因するものと推測する。THOMSON REUTERS Web of Science®に収載される学術誌は、常に見直しがなされており、そのような収載学術誌の見直し等が影響している可能性は否定できない。

また、WORLD TOTALSの残差の変動の割合は概ね-1~+1%であり、それほど大きい値ではないが、論文数の微細な変動を分析する際には注意が必要と思われる。

 

(7)学術分野

学術分野の分析にはWeb of Science®のEssential Science Indicators: 22 Subject Area(表2)を用いた。

 

表2.Web of Science® のEssential Science Indicators

  • AGRICULTURAL SCIENCES
  • BIOLOGY & BIOCHEMISTRY
  • CHEMISTRY
  • CLINICAL MEDICINE
  • COMPUTER SCIENCE
  • ECONOMICS & BUSINESS
  • ENGINEERING
  • ENVIRONMENT/ECOLOGY
  • GEOSCIENCES
  • IMMUNOLOGY
  • MATERIALS SCIENCE
  • MATHEMATICS
  • MICROBIOLOGY
  • MOLECULAR BIOLOGY & GENETICS
  • MULTIDISCIPLINARY
  • NEUROSCIENCE & BEHAVIOR
  • PHARMACOLOGY & TOXICOLOGY
  • PHYSICS
  • PLANT & ANIMAL SCIENCE
  • PSYCHIATRY/PSYCHOLOGY
  • SOCIAL SCIENCES, GENERAL
  • SPACE SCIENCE

また、日本における各分野の論文数増減の要因分析を単純化するためにEssential Science Indicatorsをさらに括った分類(表3)で、論文数の推移を分析した。ただし、この括り方は本報告書独自のものであり、異論もありうると思われる。

表3.本報告で用いたEssential Science Indicatorsの一部を括った学術分野の分類

 

  • 床医学          CLINICAL MEDICINE
  • 生命科学系         BIOLOGY & BIOCHEMISTRY
  •                        NEUROSCIENCE & BEHAVIOR
  •                     MOLECULAR BIOLOGY & GENETICS
  •                     IMMUNOLOGY
  •                     MICROBIOLOGY
  •                     PHARMACOLOGY & TOXICOLOGY
  • 理工学系           CHEMISTRY
  •                     ENGINEERING
  •                     MATERIALS SCIENCE
  •                     COMPUTER SCIENCE
  •                     PHYSICS
  • 農・環境系         PLANT & ANIMAL SCIENCE
  •                     AGRICULTURAL SCIENCES
  •                     ENVIRONMENT/ECOLOGY
  • 理学系             GEOSCIENCES
  •                     SPACE SCIENCE
  •                     MATHEMATICS
  • 人文社会科学系    PSYCHIATRY/PSYCHOLOGY
  •                     SOCIAL SCIENCES, GENERAL
  •                     ECONOMICS & BUSINESS
  • 複合系              MULTIDISCIPLINARY


InCites™においてEssential Science Indicatorsの22の分類それぞれの論文数を合計した数値と、全分野論文数として一括して読みだした論文数とは、必ずしも一致しない。JAPAN: NATL UNIVERSITIES TOTALSにおいて、各分類の論文数の合計と、全分野論文数の推移を比較したところ(図6)、早期の年代において各分野論文数の合計が、全分野論文数の合計よりも少なく計数されていた。この理由としては、各22分野で計数する場合は、それぞれの分野に現在登録されている学術誌に掲載された論文数を計数するのに対して、全分野論文数を直接計数した場合はWeb of Science®に現在は登録されていないが、過去に登録されていた学術誌の論文数も計数してしまうためではないかと推測する。ただし、2000年頃以降の論文数の分析には、この差異は無視できる程度であると判断する。



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「方法」はだいたいこんな感じかなと思っています。「方法」だけで、けっこうな分量と時間がかかってしまい、異常に長いブログになってしまいましたね。3月17日の卒業式の式辞を書かないといけないし、学内学外の行事や仕事もあるし、IDE大学協会から頼まれている3月中に書かないといけない依頼原稿もあるし・・・。

果たして3月中に報告書がまとまるかどうか・・・。

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