先日の私の「つぼやき」ブログの記事「あまりにも異常な日本の論文数のカーブ」の閲覧数は31,701、訪問者数は19,050で、gooブログに登録されている1,733,353ブログの中で第4位というランキングでした。これだけアクセス数が増えたのは初めての経験で、私自身もびっくりしています。ツイッターで、かなりたくさん拡散していただいたことが、ブログへのアクセス数の急増につながったのではないかと感じています。
通常アクセス数の多いブログはタレントさんたちのブログで、これは1日数十万件から数百万件というオーダーなので、まったく比較になりませんが、学術論文数というたいへん硬いテーマで書いたブログが、こんなに多くの皆さんにアクセスされるとは、ほんとうに驚きました。皆さんの危機感がよほど大きくなっている証拠かもしれません。
さっそくコメントをいただいた皆さんにもお礼申し上げます。ほんとうに、ありがとうございます。どれも、もっともなコメントばかりなので、コメント欄においておくのではなく、今日は本文上で読者の皆さんにご紹介することにしましょう。(コメント数が増えていっていますので、本日は最初の5件にします。)
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脱落者からの意見ですが (アカデミア脱落者)
2012-06-27 23:21:25
>> それなら来年から交付金の額が増えれば解決かというと、そう簡単にいくのでしょうか?
先生には言うまでもないことですが…
技術というものは(研究に限らず)積み重ねによって改善,更新を繰り返していくものですから,日本が過去10年で世界の第一集団から脱落したからといって「予算を増やせばすぐ追いつける」というものではなく,一度失った遅れを取り戻すために持続的・継続的に予算を付け続ける必要がありますね.
しかも,他国だって必死で走り続けているレースですから,今から全力で予算を付けても「いつかは追いつける」などという保証はどこにも無いというか,どちらかというと既にゲームオーバーの可能性の方が高いと思います.
それと,アカデミア脱落者(注:研究者としては脱落していませんが)として感じることは,00年代初頭あたりまでに学術系パーマネント職に付いた世代と,その後の世代の間における極端な格差です.一般企業の就職と同じ構図ですが,年を取って不良資産化した連中をクビにできないシワ寄せによって入り口が絞られまくりました.その代わりにPD職で数年間のスパンで一時的な成果を量産させようとしたのが00年代ですよね.しかし,そんな短期間の雇用ばかりで長期的・持続的な研究成果が出るはずもないですし,そもそもPDを使う側の研究者のプロジェクト・マネージメント能力が低いために,結果的にPD個人の能力に依存した研究になりがちで,PDの経験が何のスキルアップも産まず,win-winどころかlose-loseな雇用体系になってしまっているのが日本の研究現場ですね.
…というような現状を鑑みて,私の知っている大学教員でも「最近は学生が博士を希望しても全力で止める」と公言している人が何人もいます.私の周囲で学位を取った者はかなりの割合で企業に就職しています.特に優秀な人材であれば,日本で学位を取ってから学術系を目指して不幸な人生を送る位なら,最初から米国で学位にチャレンジするべきというのは否定できない事実でしょう.その結果,さらに国間格差が開くという悪循環ですね…
国として競争力を取り戻すためには,既得権を廃止して,若くても能力のある人材を優遇するような制度にしなければならないでしょうね.若手をPD職で雇用するなら,上の世代は「最低でもPD以上の成果を出さない限り雇用する価値が無い」という認識を常識にしなければならないと思います.が,そういう基準でクビにするような制度が実現できるかといえば,制度を決める側の連中がそんな自分の首を締めるような制度を作るわけはないですよね…
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研究費改革を! (布村渉)
2012-06-28 03:29:56
科研費の審査にも問題が有ると思う。自分の例では、「波及効果」の得点だけが低くて不採択になるケースが多い。結局、流行の課題でないと、基礎の基礎をテーマにした研究は理解してもらえない。ところが、流行の課題は、どこでもやっていて大型予算がつく米国、中国は圧倒的に有利だ。研究室も大講座制になって、教授一人が卒論学生の面倒まで見ている現実。大型量スーパーに個人の八百屋が挑んでいるようなもの。また、科研費は実質記名なので、知合いや高名な先生の所は絶対有利なのが現実。今、日本の大学は研究資金の面で悪循環に入っていると思う。
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Unknown (通りすがり)
2012-06-28 09:49:45
原因は2000年頃から始まった若手研究者の減少でしょう。
大学法人化と結びつけるのはちょっと無理があるのでは。1990年代からの長期的な変動や、国際的に共通した論文数の変動傾向を鑑みれば、2000年頃から始まったコンスタントな論文生産者の減少が理由ではないかと。
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配分に問題 (卒業生)
2012-06-28 09:55:42
旧帝大から地方大学に転勤になったとたん、研究の内容に変更がないにも関わらす、急激に科研費の採択率が下がるのは周知の事実です。ポストドクの採用にも同じような傾斜があります。研究内容ではなく、その場所によって配分に傾斜があるようでは、地方大学の研究室が研究意欲を失い、必然的に論文数が減少するのは当然です。
自然科学の研究は、何も研究費の多寡でのみその生産性が左右されるものではありませんが、ある程度の研究費がなければアイディアだけでは論文は書けません。科研費の配分の傾斜をなくすことと、事後成果の検証が厳密に行われることが必要でしょう。
大学が法人化されたことによって、ともすればすぐ成果が出やすくまた説明しやすい応用分野への研究が重要視され、基礎科学分野が軽視されます。この傾向は日本の将来の科学技術の発展に大きな禍根を残すことになるのではと危惧します。
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Unknown (MK)
2012-06-28 10:04:24
2000年頃・・・ちょうど団塊ジュニアがドクターに進学する年齢になり、あちこちで大学院が増設され、教員たちはウハウハして・・・そうそんな頃に私も進学したのでした。潜在的若手研究者は増えたはず、そして、あちこちでPDが増えたのに、全く若手育成という視点で若者と接することなく、傭兵のごとく使ってきたのに、論文数は低下。人を育てることができなくなってしまったら、しかも教育機関で!!、未来が真っ暗に見えてしまいます。
まぁ、そんなことを考えないで、おじさんおばさんのことは完全に無視して、今のこれらからの若者のことだけを考えていきたいです。
ちなみに私は地方大学でPD、をしています。1歳と6歳の子供がおり、全力で研究なんてできません。低空飛行でもいいから続けていこう、という気持ちです。今では、教員数削減、地方大学では教授が数名やめたって、助教を雇うことはありません。
でも、後数年、そうしたら、世代交代が始まるのだろうと思います。その時、なにが変化するのか、まったく予想できません。
まとまりないコメント、お許し下さい。
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ほんとうに身につまされる思いで皆さんのコメントを読ませていただきました。私が委員として参加している総合科学技術会議の「基礎研究および人材育成部会」という会議は、まさに、これらのコメントに述べられているような、大学院生やポスドク、若手研究者問題をどうすればよいのか、ということを話し合っています。
前回の会議では、私は、「国立大学の基盤的な運営費交付金は“バラマキ”と位置付けられているので、今後も削減が続くと思われる。余力の小さい地方国立大学はそれに対応するために教員削減計画を立てている。教員のポストを削減する場合、教授のポストが削減されることは少なく、通常は助教のポストから削減されるので、このままの政策が続けば若手研究者の比率はますます減少すると思われる。」というような主旨の発言をしました。
また、もう一つ、文科省科学技術政策研究所の「定点調査委員会」という会議の委員もしています。これは、日本全国の研究現場の研究者や管理者の皆さんから、一定期間、毎年研究に関わるさまざまな質問にお答えいただき、定性的に研究環境や研究トレンドの変化をつかもうとする調査です。日銀の景況判断も、各企業に定性的な質問をして判断していますね。現場の研究者の皆さんの感じていることをモニタリングすることは、論文数として数字で表れるよりも、より早く動向を把握することができるかもしれませんし、定量的なモニタリングのデータと突き合わせることで、より現場に即した正確な分析ができると思われます。
第四次科学技術基本計画に「イノベーション」が謳われたことから、今回の定点調査では、新たにイノベーションも含めた研究開発現場の定性的な調査が行われました。その結果が集計され、近々公表される予定です。その内容の一部を見せていただいたのですが、今回のコメントでいただいたご意見と同様に、ほんとうに研究現場の環境の悪化がひしひしと伝わってくる内容です。これについても、今後のブログで、ご紹介していくことにしましょう。
しばらく前にiPS細胞で有名な山中伸弥教授が、朝のテレビの報道番組に出演されて、「基金」への寄付を視聴者にお願いされました。その理由は、「不安定な定期雇用の身分のままの研究者では、十分に研究に専念していただけないので、常勤の正規雇用の研究者になっていただきたい。そのためにはお金が必要です。」というご主旨でした。山中先生は、日本の中では研究費の面では非常に恵まれた環境にあられると思うのですが、その先生がこんなことをおっしゃるわけですから、他の研究室では推して知るべしですね。
(このブログは豊田個人の感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)
はどうなった?