2015年の自然科学分野のノーベル賞は、昨年に続いての日本人の連続受賞、しかも生理学・医学賞と物理学賞の2部門同時受賞という快挙でした。生理学・医学賞の大村智さん、そして、物理学賞の梶田隆章さん、ほんとうにおめでとうございます。
今回の日本人のノーベル賞受賞については、いくつかの点で話題がありましたね。
まずは、昨年に続いての連続受賞で、しかも2部門同時受賞。最近、日本人の受賞が増えているなと感じていたら、2000年以降の16年間に16人も受賞しています。1901年から数えて自然科学部門の日本人受賞者は21人(外国籍も含む)なのですが、そのうち実に16人が、この16年間に受賞しました。これは、長年デフレ不況に苦しんできた日本人に、大きな自信を与えていますね。
もう一つ、今回受賞したお二人とも、旧帝大のご卒業ではなく、いわゆる地方大学(山梨大学、埼玉大学)のご出身であること。2000年以降の自然科学分野のノーベル賞受賞者のうち旧帝大卒業者が10人、それ以外が6人となっています。政府は、世界的な研究という面においても、地方大学を低く見てはいけないと思います。(政府は現在世界的な研究を行う一部の大学と、そうでない大学に分ける政策をとっています。)
日本人の受賞が相次いでいることについて、2008年のノーベル物理学賞受賞者の益川敏英さんが記者団の質問に応じ、「ノーベル賞は毎年9人か10人なので、毎年1人ぐらいでるのは当たり前」と話したと報じられています。
この、ノーベル賞受賞者の1割は日本人がとって当然という”益川理論”は、何を根拠にそんなことが言えるのでしょうか?2000年以前については日本人受賞者は少なく、”益川理論”を当てはめることができないのは、どうしてなのでしょうか?そして、今後もはたして日本はノーベル賞を1割とり続けることができるのでしょうか?
毎年、ノーベル賞の発表が近づくと、過去の受賞歴や、論文の被引用数(どれだけ他の研究者から論文が引用されるか)などから、受賞者の予想がなされます。それが当たることもあれば、しばしば予想外の研究者が選ばれることもありますね。ノーベル賞の受賞の予想は、不確定要素があってなかなか難しく、一筋縄ではいかない面があります。
でも、論文数や被引用数などがまったくあてにならないかというと、そうとも言えず、トムソン・ロイター社の論文の被引用数などから毎年発表している予想も、ある程度は当たるわけです。
そこで、日本人のノーベル賞受賞者が最近増えていることについて、論文数や被引用数から、何か言えないか、すこしばかり調べてみました。
日本人がノーベル賞をよくとる分野は物理学と化学であり、生理学・医学賞は受賞者が少ないので、まずは2000年以降のノーベル物理学賞・化学賞受賞者と、主要国(米国、中国、英国、ドイツ、フランス、日本、韓国)の物理・化学分野の論文数および被引用数の関係性について調べてみることにしました。
トムソン・ロイター社のInCites™という簡易型の学術文献データベースを用いて、essential scientific indicators22分野のうち「物理学」および「化学」の論文数および被引用数を調べようとしたのですが、ノーベル物理学賞・化学賞受賞者の研究分野と、トムソン・ロイター社22分野の「物理学」「化学」とは、必ずしも一致しないので、少し範囲を広げて、「生物・生化学」「物質科学」「宇宙科学」を加えた5分野で調べることにしました。この5分野以外の研究でノーベル物理学賞・化学賞を受賞している研究者もいると思われ、また、今回選んだ5分野の中に、ノーベル賞と関係のない部分も含まれている可能性があり、必ずしも厳密なものではありませんが、およその傾向はわかるのではないかと考えます。
ノーベル賞という数の決まった賞を受賞できるかどうかは、論文数の絶対値よりも、相対値(シェア)の方が強く影響すると考えられます。また、ノーベル賞は、論文の中でも注目度の高い論文が選ばれるわけですから、注目度を反映する被引用数のシェアについても調べることにしました。シェアの計算は、その年の論文数または被引用数を、同じ年の世界全体の論文数または被引用数で除して%で表しました。
そして、ノーベル賞の受賞の対象となった研究は、たいていは受賞した年から遡って10~30年前くらいの研究が多いので、受賞対象となった研究が行われたおよその時期を推測して、その頃の日本の論文数や被引用数のシェアがどういう状態であったかをみることにしました。
また、日本人の受賞者の中で、主として海外で研究された研究者は、カウントから除くことにしました。具体的には南部陽一郎さん、下村脩さん、根岸栄一さんです。白川英樹さんのノーベル賞受賞対象研究はアメリカでなされているようですが、日本での研究も関係していると考えられます。
まずは、物理・化学関連5分野の論文数の推移です。今までに報告した通り、2004年頃から日本だけが減少に転じていますね。
次は、論文数のシェアの推移です。
ここ10年ほどの間に、物理・化学関連5分野について中国、韓国が論文数のシェアを増やし、他の国は米国も含め、すべてシェアを減らしていますが、日本の2002年ころからのシェアの減少は、他の国に比べて非常に急速でドイツに追い抜かれ、韓国にも追いつかれそうになっています。これ以前の時期については、日本は論文数シェアがおよそ10~13%であり、世界第2位という位置で健闘していたことがわかります。
次の図に被引用数のシェアを示します。
被引用数についても、中国と韓国がシェアを増やし、他の国が減らしているのは論文数のシェアと同じような傾向ですが、1980年代の米国の被引用数シェアは40~45%と高いこと、ヨーロッパ諸国はそれほどシェアを減らしていないこと、日本は2002年ころまでは10%前後のシェアでドイツや英国とほぼ同様でしたが、2002年以降に急速にシェアを減らし、中国、ドイツ、英国に抜かれてフランスと同程度となり、韓国に追いつかれそうになっています。
次に、論文数のシェアのグラフに、日本の自然科学ノーベル賞受賞者が、その受賞対象となった研究を行った時期に合わせて名前を貼り付けてみました。日本で研究を行った受賞者だけを貼り付けてあります。欄外に張り付けた受賞者は、トムソン・ロイター社のデータベースが始まった1981年以前に受賞対象研究が行われたことを意味しています。また、参考までに生理学・医学賞を受賞したお2人についてもグラフに貼り付けました。
このグラフをみると、ノーベル物理学賞・化学賞の受賞者は、日本の論文数シェアが10~13%、被引用数シェアが10%前後の時期に、受賞の対象となった研究をしていることがわかります。論文データベースが始まる1981年までの状況は今回の検討では不明ですが、グラフのカーブから、70年代はある程度の論文数シェアに達していたと思われますが、それ以前になると第二次世界大戦後の廃墟の中から、欧米諸国に追いつけ追い越せを掛け声に高度経済成長の段階にあった日本の状況を考えると、しばらく前の韓国や中国と同様に、日本の論文数シェアは、かなり低かったものと想像されます。
2000年以降のノーベル物理学賞・化学賞受賞は82人(物理学賞42人、化学賞40人)、うち日本で研究を行った日本人が10~11人(物理学賞7人、化学賞4人)ですので、論文数や被引用数のシェアに近い確率で、ノーベル賞をもらっていることがわかります。
この、論文数や被引用数のシェアに近い確率でノーベル賞を受賞できるということが正しいならば、この先10年間くらいは、過去の遺産で日本はノーベル賞を”益川理論”どおりに10人に1人くらいの確率で獲得できるかもしれませんが、それ以降になると、日本がノーベル賞をとれる確率はかなり小さくなると予想されます。また、今回初めて中国の研究者がノーベル生理学・医学賞を受賞されましたが、10年後には中国の研究者がノーベル賞を受賞するケースも増えてくるものと想像され、韓国の研究者についても、ノーベル賞受賞者が出てもおかしくない状況であると思われます。そして、今回取り上げなかった国々(インドなど)のシェアの拡大も予想され、日本の論文数および被引用数のシェアがいっそう縮小することが考えられます。
日本政府が現在の科学技術政策、あるいは大学への公的資金削減政策を継続するならば、10年後以降には、日本のノーベル賞受賞が相当難しくなる、つまり”益川理論”は適用できなくなるというのが僕の予想です。
これは英語論文ばかりなのでしょうか?
日中韓は、できれば母国語(日本人なら日本語、中国人なら中国語)による
シェアをのぞいたデータが見たいです、
つまり中国は人口も多いしおそらく研究者の数も良いでしょうから
インターナショナルに支持される研究論文数で見たいという意味です
本画面の貴重な資料、グラフの印刷をご承諾いただければ幸甚です。
重要となるTTT曲線の均一核生成モデルでの方程式の解析をMathCADで行い、熱力学と速度論の関数接合論による結果と理論式と比べn=2~3あたりが精度的にもよいとしたところなんかがとても参考になりましたね。
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