ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

大学改革の行方(その8)

2012年09月29日 | 高等教育

 国立大学協会のマネジメントセミナー「法人化の原点に返って」で、僕が喋った「マネジメント改革について」の講演の続きです。

 前回のブログでは、大学の顧客とは?というところまで説明しましたね。 こんなことは国立大学では法人化前までは考えませんでしたね。法人化をきっかけに、まさに、国立大学における「運営」から「経営」への意識改革がなされることになります。

 でも、「運営」と「経営」の違いっていうのが、経営学者でもない僕にはよくわからなかったんです。辞書で調べてみても違いがあまりよくわかりませんでした。大辞林の定義を見ると、経営にあって運営にないキーワードとしては「方針」「目的」という言葉と「持続的」という言葉だけですね。それに、英語の辞書でも調べてみたのですが、両者を区別する適切な言葉はなさそうなんですね。経営学の教科書を読んでみても、不思議なことによくわかりません。 

 それで、自分なりの「経営」という言葉の定義をしてみることにしたんです。そして、下のグラフのように「経営」とは「組織活動を永続させるために、環境の変化に対して自らを変えていくこと」と勝手に定義をして、三重大学の職員の皆さんに説明しました。

 自らを変えることとは「組織のミッション達成のために改善・改革のPDCAを回し続けること」と説明しました。

 そして、環境の変化に対して自らを変えられない組織は滅びるという危機感の共有化のために、学長自らが現場に足を運ぶことにしました。

 以下のいくつかのスライドは、私が教授会や過半数代表者に、三重大学の置かれた厳しい環境と、それに対してどういう対応が考えられるかということを説明した時のスライドです。これらのスライドを今から見直しても、それほど間違っていなかったと感じています。

 

 

 

 

 国立大学の「ビジネスモデル」なんてものも描いてみました。交付金をもらいつつも、自己収入をあげて、ビジネスモデルが回るように経営努力をしないといけないということを、過半数代表者の皆さんに説明したんです。


 

 そして、大学構成員の皆さんには、たとえ交付金が削減されて「官」の部分が縮小されても、地域からの協力を得て、さまざまな組織を大学の周りにくっつけて連携することにより、「教育研究を通した地域貢献」機能は、拡大しようと呼びかけました。

 

 この下のスライドは、僕のお気に入りのスライドで、特に事務職員の部屋にべたべたと貼り付けることをお願いしました。そして、毎朝この図を眺めつつ朝礼をして下さいと。

 この図は4つの視点と7つのこころがけに留意して、業務の改善、つまりPDCAを回しつづけ、そして三重大学のミッションを実現しよう、ということを示しています。

 

 実は7つの心がけというのは、民間の経営書を読みあさって、僕の気に入ったキーワードを並べたものなんです。それを英語で表現すると、すべて”C”が頭文字についているんですよ。

 PDCAという言葉を法人化の前に教授会で使ったら、ある教授から、わけのわらかない英語の略号を使わないようにするべきであると、厳しく言われたことを思い出しますね。でも、今ではPDCAという言葉は政府文書にも溢れていますね。

 もう耳にタコができるくらい聞かされているPDCAという言葉。でも、果たして、ほんとうに大学の現場はPDCAをきちんと回しているんでしょうかね?

 理念・目的やミッションが創られても、それが棚の上の飾り物になっている組織は多いのではないかと思います。

 それと同じようにPDCAも、報告書を書く時だけの、形だけのPDCAに終わっている組織がけっこうあるんじゃないかな、と思うんです。

 経営とは実行(execution)なり、という言葉もあるように、この当たり前のことを、徹底して”実行”することが、マネジメントの要であると思います。

 

 法人化で各国立大学には中期目標・計画、そして年度計画の策定、そして、その実績報告書の提出が義務付けられました。したがって、この書類を提出するという点では、大学はPDCAを回していることになります。

 でも、これらの書類を提出する時にだけ、評価担当の事務職員だけで書類をつくっているようでは、ほんとうに組織全体としてPDCAを回していることにななりませんね。

 PDCAは、下の図に示したように、トップから現場のひとり一人まで、すべての部署と階層で回す必要があります。そして、それがミッション実現に向けて整合性のとれたものでないといけません。

 これは、 total quality control (TQC)やtotal quality management (TQM)における方針展開、あるいは目標展開と同じですね。

 三重大学では、執行部が中期目標・計画、年度計画をつくりますが、各部局の年度計画とのすり合わせをし、そして、教員については、教員評価の一環として”PDCA自己申告書”というシートを出していただくことにし、事務職員には目標管理制度を導入して、個々人に毎年PDCAを回していただくことにしました。

 役員の皆さんには実に四半期ごとに、重点目標と実績を学内に公表していただくようにしました。これによって三重大学の改革がどんどん進むことになります。

 実は、個人の目標・計画を公表していただくということは、大変なプレッシャーを与えることなんです。ほんとうは、全教員に公表していただこうと考えたのですが、反対が強く、役員どまりにしました。

 このようにみんなの前で公言して約束することは、”コミットメント”と言いますね。そして、コミットメントすることは、目標を達成し計画を実行していく強力なドライビング・フォースになります。これを”コミットメント効果”と言います。

 ひょっとしたらコミットメント効果は、金銭的なインセンティブよりも、効果的かもしれませんよ。

 次のブログも、この講演の続きです。台風17号が沖縄を直撃し、本州にも近づいていますが、読者の皆さまもお気をつけください。

(このブログは豊田個人の感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

 

 

 

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