ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

大学改革の行方(その4)

2012年09月07日 | 高等教育

 前回に引き続いて、鼎談のおおよそのやりとりについて、ブログの読者の皆さんにも、お話していくことにしましょう。鼎談とはいっても、ずいぶんと修正をしましたので、ちょっと不自然な鼎談になっている部分もありますけどね。

 それと、前回のブログから「僕」という言葉を使っていますが、鼎談の原稿では「僕」という言葉で統一してしまったので、ブログの方もなんとなく「僕」という言葉づかいにしてしまいました。

 まず、本間さんの趣旨説明ですが、ブログでご紹介するにはちょっと長いので、一部省略させていただいて、つぎはぎになってしまいますが、ご紹介します。(略)の部分にも、重要なコメントが書かれていますので、詳しくは、大学マネジメント誌を入手されてお読みください。

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本間:本日は、皆様大変お忙しいところお集まりいただきまして、ありがとうございます。18歳人口の急減による高等教育市場の縮小やいわゆる「グローバル人材」など大学に対する人材育成ニーズの高度化、さらには国内外の大学間競争の激化など大学を取り巻く環境が急激にかつ激しく変わっているにもかかわらず、大学側の対応があまりにも遅く、また不十分です。今日は、財務省の神田主計官と前三重大学学長で現在国立大学財務・経営センターの豊田長康理事長にお出でいただき、また旧文部省で高等教育・学術行政を行い、国立・私立大学で実際に大学マネジメントに参画している本間が加わって、文科省が6月に発表した「大学改革実行プラン」を中心に今後の大学改革のあり方などについてそれぞれの立場から率直に意見交換をさせていただきたいと思います。

(略)

 さて、国立大学の法人化が2004年に行われ、当初こそ危機感があり、法人化を契機に本気で改革しようという学長も事務局長もいたわけですけれども、あれから8年を経て、残念ながらそういう危機感や改革の機運もしぼんでいるのが実情です。例えば、法人化の目的の一つに民間企業から人材を理事に登用することによって効率的な経営を導入しようとか、外部委員が半数以上を占める経営協議会の設置、文科大臣任命の監事の配置によって「開かれた」「社会的説明責任を果たせる大学運営」の実現ということがあったはずですが、現状を見ると企業から理事などに登用されても「教育・研究を旨とする大学は、営利追求の企業とは違う」と、経営効率化のための提案を行っても排除されることが多く、経営協議会は事実上学長の「大政翼賛会」のような存在になり下がっています。監事も、大臣ではなく学長が決める慣行が確立し、多くの大学では非常勤化されて「無力化」し、しかも国立大学の学長を退職した方が数多く監事に就任しています。学長OBが監事では、納税者の代表としての活動など期待する方が無理というもので、大学運営に厳しい注文を付けることなどできません。元々、国立大学は、監事が経営だけでなく教育・研究のあり方にまで踏み込んでくるのではないかという警戒感がとても強く、大臣任命の監事が派遣されてきても、情報も事務サポートも与えず、無力化しようと待ち構えていましたから、こんな結果になることは予測されていましたが。

(略)

 高等教育財政ですが、2005年度から始まった国立大学への運営費交付金の1%削減、あるいは付属病院に対する2%の「効率化係数」、さらには今年度から3年間にわたる人件費の7.8%削減などに対する反発は非常に強いものがあります。特に地方の国立大学や、文系で小規模の大学はもう限界だという声が上がっています。これに対して文科省は、国立大学に「選択と集中」を進めるようにと言っていますが、この意味は「不採算、不必要なものを廃止・縮小して、限られた資源を強みのある部分に集中しろ」ということですから、本気でやろうとしたら学内で大きな抵抗を受けます。したがって、部分的な「選択と集中」は行われても交付金削減を乗り越えて「強い」大学として浮上しているような国立大学はまずないと言っていいでしょう。そもそも、「選択と集中」を言う文部省自身が、交付金削減に当たって、どの大学にも同じ削減率を適用するという極めて安易な方法を取っているために、過去130年以上の重点的な国家投資による膨大なインフラの蓄積があり、かつ外部から研究資金獲得が可能な理工系・医療系学部・研究科をもつ東京大学と、人件費が予算の大部分を占め、学問分野として外部資金を集めにくい教員養成大学とでは交付金削減のインパクトは前者で軽く、後者で重いという不均衡が起きています。

(略)

 厳しい環境に置かれている地方国立大学は、豊田先生がいつも力説されているように、教育面でも研究面でも総体としてコストパフォーマンスが高く、高等教育機会の提供や地域の課題の解決という面でも地域にとって非常に重要な存在です。にもかかわらず、一律削減によってそういう大学が疲弊しています。一方、大都市圏にあって、外部資金も集めやすい大規模な大学の事情は違っています。実は筑波大学の小林信一先生が全国立大学の寄付金、競争的資金間接経費、財務収益からなる「裁量度の高い予算」を調べたデータが、「大学マネジメント」2011年8月号に論文として出ていますが、トップの東京大学の「裁量度の高い資金」が294億円という巨額に達しているんです。京都大学が205億円、東北大学が170億円をはじめ旧制帝大が上位7校を占め、最下位の名大でも70億円あります。一方、最も少ない大学は2億5千万円しかありませんでした。(いずれも2008年度のデータ)

(略)

 今回、国家戦略会議の圧力のもとに、文科省が6月5日に「大学改革実行プラン」を出してきました。経済同友会も、今年3月26日に「私立大学におけるガバナンス改革」という文書を発表し、改革を進めるために学長の権限強化などを提言しています。政府の行政刷新会議による昨年11月の提言型政策仕分けにおいても、「大学が社会の実情と乖離し、社会のニーズに十分対応できていない」と批判し、「大学数を削減して、予算を集中」「教授会の権限の縮小」といった刺激的な提案が行われています。この数年、一気に国立。私立を問わず大学に対する期待が高まる一方、現状への批判が噴出しているという状況です。この鼎談では、このような状況を踏まえつつ、環境激変下における大学改革の方向性を、それぞれのお立場から、率直に、本音ベースでお話をいただければと思います。

(略)

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 本間さんの趣旨説明の後、順次自己紹介をし、まず、最初に議論したテーマは

「1.現在の大学のあり方についての基本的な認識とは?大学は、激変する環境の下で適切に対応しているか? 」

ということでした。財務省主計官の神田さん、僕、本間さんの順に、ご紹介をしたいと思います。今回のブログでご紹介する神田さんや本間さんのご発言は、豊田がかってに短くさせていただいて要約しました。もし、お二人のご趣旨とそぐわないことがあれば、その責任は僕にあります。

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神田さんの発言の要旨

1.人口減少と少子高齢化⇒基本的なマーケットである青年層の激減

(a)私大の39%が定員割れで赤字

(b)大学数は平成になって490校から708校に激増

(c)収容力が92%⇒大学生は選別された存在でない⇒品質保証困難⇒就職問題

(d)大学は留学生、生涯教育を拡大しない限り、どんどん収縮

2.国際競争の激化の認識の甘さ

(a)留学生の拡大による優秀な頭脳の獲得と日本人学生の活性化に希望

(b)国際ランキングの順位低下⇒日本人で海外の大学を選ぶ学生が増加

(c)論文引用度が低下

(d)国際的にみてわが国の大学は小規模。フランス等でかなり荒っぽい統合。大規模総合大学でないとプレステージを維持できない現実に各国とも対応

3.財政事情

(a)大学予算は、例外的に優遇。運営費交付金を薄切りする一方で、競争的資金を激増し、全体として予算規模増。これはもう続けられない。

(b)日本の財政事情は古今東西最悪で、破綻のリスクが高まる。

(c)選択と集中で勝ち残れる能力があって、その努力をしているところに集中投資しないと、みんなだめになってしまう。

(d)とにかく、破綻しないよう、必死で増税や社会保障合理化等をお願いすると共に、国家公務員の給与1割削減など、非常に厳しい歳出削減をしているところ。

4.こういった危機的状況の認識が、最も賢い方々が集まっているはずの大学に共有されていない。

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次には、僕の発言を省略せずに書いておきましょう。

「豊田:僕は三重大学の学長を、法人化の時から5年間やりました。自分としては地方大学をかなり改革したつもりです。学長になった時、まず運営から経営へという意識改革をしました。経営とは、組織活動を継続させるために、環境の変化に対して自らを変えていくことである、ということを構成員に訴えました。神田さんは、青年層の激減、国際競争の激化、財政事情という3つの環境変化について大学の危機感が薄いことをご指摘になりましたが、当時の僕の部局長を集めて説明したスライドには、克服すべき環境変化として、18歳人口の減少、グローバル化社会での地域における国際競争の激化、文教予算の減少、などをあげております。

 その意識改革のもとにPDCAを回す。旧帝大と論文数で戦っても勝てないので、地域社会に役立つことが一番大事であり、地域から世界を目指そうと、三重大学のミッションを「三重から世界へ:地域に根ざし世界に誇れる独自性豊かな教育研究成果を生み出す。~人と自然との調和・共生の中で~」と定義しました。「人と自然の調和・共生の中で」とサブタイトルをつけたのは、三重県は四日市ぜんそくという環境問題を経験し、また、豊かな自然資産と同時に最先端産業も集積している地域であるからです。このミッションの実現のために具体的な目標を設定し、教職員が一丸になり、どんどん改革を進めました。

 教育改革については、当時、経団連が「志と心」、「行動力」、「知力」という3つの力の養成を提言しました。三重大学は「感じる力」、「考える力」、「コミュニケーション力」、それらを総合した「生きる力」の「4つの力」を目標にしました。これは、実質上経団連の教育目標ほとんど合致しています。目標は極力数値化することが必要です。測定できないと、達成したことが分からず、PDCAを回せないからです。そして、この抽象的な4つの力の数値化という困難な作業から始めました。教育心理学の先生が、それを測定する調査票を独自に開発してくれました。普通の講義だけでは4つの力は身に付きませんので、特に、学生が主体的に自学自習する能動的な課題解決型の授業、つまりPBL(problem-based learning及びproject-based learning)を増やしていきました。その結果、果たして、4つの力の評価点数が毎年上がっていきました。三重大学は社会が望んでいる教育を、かなり達成したと思っています。

 それから国際化については、地方大学は、国からの予算もつかないので大きなことはできません。留学生の宿舎も寄付を集めて、節約したりして3億円捻出して建設しました。そして、天津師範大学とのダブル・ディグリー制度を学部間でつくりました。大学院レベルのダブル・ディグリーはよくありますが、学部レベルは非常に珍しいと思いますね。日本語教育コースの学生さんを中国で募集して20人取ります。向こうで2年半、三重大学で2年半、トータル5年で、両方のディグリーを取らせます。あちらの入学式に僕が出向いて行って、向こうの学長と一緒に式辞を述べるのです。ただ一つだけ残念なことに、双方向でやろうということにしたのですがまだ実現していません。

 また、地域との産学官連携を最大限拡大しました。多くの市町村、地域企業、私立大学の鈴鹿医療科学大学と包括連携協定を結び、伊賀市の工業団地にも三重大学伊賀研究拠点を創って、地域密着型の産学官連携に取り組みました。三重県の「みえメディカルバレープロジェクト」の一環として、全県下の医療機関を巻き込んで「みえ治験医療ネットワーク」をつくり、薬だけでなく健康食品の臨床試験を行っています。そして、今年の7月に国からライフイノベーション総合特区に指定され、三重大学に「みえライフイノベーション推進センター」をおいて、大学が地域の中核となって、ライフイノベーションを推進しようとしています。

 実は、皆さんもご存じだと思いますが、平成19年に、科研費の取得額に応じて運営費交付金を配分するという試算が財政制度等審議会の資料に出されるという事件があったんです。その試算によれば多くの地方大学で運営費交付金が半減するということでした。当時の朝日新聞は「競争したら国立大半減?三重など24県で『消失』」と報道しました。どうして「三重など」と名指して報道されるのかよくわかりませんでしたが、そのおかげで、僕は緊急記者会見を開いて、地方大学の存在意義を記者の皆さんに訴えることになりました。そしたら、特にお願いをしていないのにもかかわらず、三重県知事と津市長がさっそく動いてくれて、県議会、市議会での反対決議、そして全国的な反対運動に広がり、近畿知事会と全国知事会の反対決議にまでいったんです。その結果、当時の骨太の方針の原案の、「運営費交付金の『大幅な傾斜配分』」という文言が、急遽『適切な配分』に変更されました。知事や市長が何もお願いしなくても動いてくれたのは、三重大学がミッションを文字通り実行し、改革を進めたことが、評価されたからだと思っています。

 以上のような努力の結果、就職率も向上し、全学部・全研究科で就職希望者の96~97%ときわめて良好となり、今回、三重大学は東海地域で「学生が受験したい大学」の4位にランクインしました。国立大学法人評価の最終結果は86大学のうち14位という結果です。」


この間に、いくつかのやりとりがあるのですが、次に本間さんのお考えを要約形で書いておきましょう。

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本間さんの発言の要旨

1.18歳人口の急減、厳しさが増す財政、国際競争の激化、人材ニーズの高度化、社会的説明責任の強化という大学を取り巻く環境の劇的変化⇒大学の執行部の危機感を持った改革への取り組みは、一部を除いて悲観的、

(a)ある教員養成大学の事務局長「交付金削減累積8%は大学の対応能力を超えている。人も金もきちんと確保して欲しい」

(b)人材育成もまともに行わず、経営の効率化も進まず、事務局は管理部門が肥大化し、人事制度は古色蒼然とした年功序列のままで、しかも教員定数の削減を恐れるあまり、18歳人口が減っているのに、不要不急の教員組織という「贅肉」をそぎ落としてダウンサイズ化=筋肉質化を図ることもせずに、ただ金を増やせと叫んでも説得力なし。

(c)まず、国立大学が痛みを伴う構造改革を行った上で、政府の支援を求めるべき。

2.個別大学の努力だけでは不可能

(a)文科省が、国立大学を全体としてダウンサイジングしつつ、立地条件が良く知的資源を豊富に持つような国立大学を私学化、旧制帝大を大学院大学化、子供数の激減により余剰化している付属学校を半減、といった政策をとる必要

(b)国立大学改革、大学のガバナンス改革などは逃げ切れるものではない。

(c)京大なら毎年800億円ぐらい税金が投入。にもかかわらず、京大の学部教育は「自由の学風」の美名に隠れて実際には無責任な自由放任にすぎない場合も。全学で留学生の受け入れを増やし、京大生の海外留学を増やそうという計画を提案しても、部局自治がある、トップダウンでは京大は動かないといった、世間から見ると理由にもならない理由を挙げて反対。

3.グローバルな高等教育の状況

(a)世界の留学生300万人の6割はアングロサクソン系の大学。英米の大学の授業料は、日本の2から3倍が普通。それでも世界中から優秀な学生を集める。教員や学生の質の低いところには、志の高い優秀な学生は行かない。

(b)日本の留学生数は12万人。人口が我が国の半分の英国に60万人もの留学生が集まる⇒世界の大学教育の事実上の世界標準は英米に

(c)かつてわれわれが手本として仰いだフランスやドイツの大学は目を覆うばかり。両国とも授業料を取らない国立大学で、進学率は6割を超え、高校を卒業すれば、誰でも大学に入れる。しかし授業料を取っていないので、学生数が増えても教員を増やしたり、施設の拡充が不十分。学生の半数中退を大前提にして大学が成立。

(d)日本の国立大学の予算の補助金の割合は5割。英国や米国の州立大学は3割から4割。英国も40年前は授業料無償⇒80年代のサッチャー改革以降、授業料の導入を含む徹底的な効率化と自己財源の確保。留学生や産学協同資金を集めるには、人材育成や先端的研究に力を入れる必要⇒財政自立が大学の教育・研究機能の強化に。

(e)タイムズ他の大学ランキングで英国の大学が上位に名を連ねているのは偶然でない。

(f)米国の大学は、研究大学と呼ばれるスタンフォードやイエール大学でも教育を大事にしているので、卒業生が喜んで寄付⇒エンダウメントという運用資金を確保し、資産運用。日本の国立大学は長い間、国に甘えて自分で稼ぐこともせず、放蕩(放漫経営)をしたから、自分で必死に稼ぐ、無駄遣いをしないというふうにはなかなか変わらない。

(g)中世以来の伝統があり保守的だった大学を、世界の国際標準に持っていった英国にこそ大学改革のモデルを求めるべき。

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皆さん、いかがだったでしょうか?

 三者三様の発言ですが、神田さんと本間さんは、お二人とも大学の危機意識があまりにも低く、激変する環境の中で適切に対応していない、とおっしゃっていますね。この部分はお二人で意気投合という感じですね。本間さんは、元文部科学省の官僚、そして京都大学におられたのですが、歯に衣を着せずに国立大学に対して、ズバズバとおっしゃいます。

 それに対して、僕の発言は、三重大学という地方国立大学で、法人化後の大学改革をいかに進めて成果をあげたかという話に終始しています。お二人の問題意識とは、ちょっとずれている面もあると感じましたが、一般読者の皆さんに全ての大学が体たらくなんだと誤解されてもいけないので、けっしてがんばってこなかったのではなく、一生懸命改革を進めてきた大学もあるんだよということをお分かりいただくために、三重大学のことを書いておきました。もちろん三重大学以外にも、いっしょう懸命やってきた大学はたくさんありますよ。

 最初から、大学、特に国立大学に対して厳しい言葉が飛び交っているこの鼎談、これからどういう展開になるんでしょうね。

(このブログは豊田個人の感想を述べたものであり、豊田が所属する機関の見解ではない。)

 

 

 

コメント (2)
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