ある医療系大学長のつぼやき

鈴鹿医療科学大学学長、元国立大学財務・経営センター理事長、元三重大学学長の「つぶやき」と「ぼやき」のblog

大学改革の行方(その6)

2012年09月21日 | 高等教育

 それでは、9月19日に東京の学術総合センターで開催された国立大学協会主催のマネジメントセミナーでの僕の話、司会者の方には”刺激的な”と表現されてしまいましたが、その内容をご紹介していきましょう。


 自己紹介の中で、今日のブログと関連するポイントは、2002~04年に三重大学の学長補佐という役職をしており、その時の僕の仕事が「評価プロジェクトグループ」というワーキンググループの委員長として、来るべき法人化の準備として中期目標・計画、年度計画の案を起案したことです。

 今回の講演では、前半は「法人化に際しての三重大学のマネジメント改革」、そして後半は「政治・政策リスクにどう対応するか」という2つに分けました。

 それは、法人化の時の大学マネジメントのお話をしても、聴衆の皆さんの興味と少しずれている面もあるのかな、と思ったからなんです。今、大学の皆さんにもっとも関心があるのは、この6月に出された「大学改革実行プラン」や、国家公務員給与削減が非公務員である国立大学法人職員にも適用されたことや、赤字国債特例法案が国会を通らないために交付金の交付が滞っていることなどの、「政策・政治リスク」についてですよね。

 そうは言っても、今回のテーマが「法人化の原点に返って」ということですので、まずは、法人化の頃の話から始めさせていただくことにしました。

 上のスライドは、法人化を経験した国立大学の皆さんなら、よく御存じの文言ですね。平成14年に調査検討会議が出した、新しい国立大学法人像についての最終報告に掲げられていた文章です。

 これは、国立大学法人の仕組みについて、僕がポイントと思われる点だけをまとめたものです。

 なお、このスライドに僕があげた効率化係数や経営改善係数、そして、国家公務員総人件費改革等については、「法人化」そのものとは直接関係が無く、別個に考えるべきことであるとされています。法人化が始まって後出しじゃんけん的に付加された仕組みで、これらの大学予算の削減は法人化されなくてもなされたはずです。

 でも、予算の削減というのは大学経営やパフォーマンスに大きな影響を与えますし、また、現状では法人化と予算の削減が「セット」になっているとも感じられるので、このスライドに挙げています。

 そもそも、独立行政法人化の主旨は、法人化することによって”効率化”を図る事ですからね。”効率化”とは、イコール予算の削減です。

 原則論としては、”国立大学法人”は”独立行政法人”ではなく、それを規定する法律も異なり、法人化の主な目的は、もう一つ前のスライドにお示しした調査検討会議の3つの事柄なのですが、残念ながら、独立行政法人と同じように、やっぱり効率化(予算削減)のために法人化されたのか、と思えてしまいます。

 ただ、国立大学法人は、独立行政法人に比べて、予算の削減率は緩く、また、独法よりもより大きな裁量が与えられたことは、ほんとうに良かった(不幸中の幸い)と思います。


 さて、このような法人化の前夜、各国立大学では、法人化とはどういうことなのか、よく理解できない状況の中で、手探りでその準備に取りかかっていました。

 三重大学では、法人化の2年前に、その準備を検討する委員会がいくつかつくられ、僕は、三重大学の学長補佐に任命されて、中期目標・計画、年度計画の案の作成を担当することになりました。評価プロジェクトグループというワーキンググループを作り、5つの学部からそれぞれ1名の委員を出していただいて、毎週喧々諤々の議論をして、ミッション・中期目標・計画、年度計画の案を作り上げ、各学部の教授会に出向いていって説明をし、学内での合意を取り付けました。

 ちょうど法人化の始まる2004年に合わせて新学長を就任させることになり、その前年に学内の意向投票と学長選考会議による選考が行われ、豊田が選ばれてしまいました。当時僕は53歳で、異例の若さの学長ということで新聞にも紹介されました。

 その結果、これは全くの偶然ということになりますが、ミッション・目標・計画の起案者が学長と一致することになりました。偶然とは言え、ミッション・目標・計画の起案者が組織のトップと一致するということは、マネジメント上、たいへん重要なポイントです。組織のトップは、自分自身の創ったミッション・目標・計画に結果責任を持たねばなりません。

 法人化のシステムでは中期目標期間が1期6年と定められ、6年ごとに中期目標・計画を定めて、その実績が評価されるということになっていました。

 三重大学では、僕の次の学長からは、必然的に起案者と学長を一致させるために、次の中期目標期間が始まる1年前に学長を交代するシステムとしました。次期中期が始まる1年前には、次の目標・計画案を国に提出しないといけないわけですからね。

 そして、それまでの4年1期で、再選されると2年延長されるという学長の任期の規定を6年1期に変えました。つまり、自分で創った6年間の目標・計画について、6年間途中で交代せずに結果責任をとっていただきますよ、という趣旨です。ちなみに、その結果僕自身の学長の任期は5年ということになりましたけどね。

 そんなことで、聴衆の皆さんに最初にあげさせていただいたマネジメントのポイントは

〇学長は、自ら策定したミッション・目標・計画の実現・達成に結果責任を持つ。

ということでした。

 いくつかの大学では、三重大学と同じように、目標・計画の実現・達成の面で学長のトップマネジメントが機能する制度にされたと思います。でも、このような制度にしていない大学もあります。他人が作った目標・計画をやらされて、それで評価されることになる学長さんは、たいへんお気の毒ですね。

 今日のブログでは、まだ司会者のおっしゃった”刺激的”なところは出てきませんね。もう少し先になります。

(本ブログは豊田の個人的な感想を述べたものであり、豊田の所属する機関の見解ではない。)


 

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