肯定的映画評論室・新館

一刀両断!コラムで映画を三枚おろし。

『寝ずの番』、観ました。

2006-12-19 21:01:20 | 映画(な行)


 『寝ずの番』、観ました。
上方落語界の重鎮・笑満亭橋鶴は、今まさに臨終のときを迎えようとしていた。
弟子たちが見守る中、師匠に最期の願いを聞く。「そ、そ○が見たい」。師匠の
驚くべき回答に、皆はあっけにとられるが、一番弟子の橋次は弟弟子の橋太に
指示を出す。橋太の嫁の茂子に白羽の矢が立ったのだ……。
 どこを切っても出てくる、出てくるY談&エロ話、まさに、コイツは下ネタ
映画の金太郎アメ(笑)。けどね、コレが男どもの欲望だけ満たす“ピンクな
映画”かと言えば、それとも違う。むしろ、Y談ベース仕立ての“人情喜劇”。
陰気臭い通夜の晩を、明るく楽しく、酒とエロ話でカラッと笑い飛ばそう。
たかが人生、されど人生…、だから気取らず構えず、最後もみんな笑顔で
締めくくろうよ、ってね。まぁ、実際のところ、映画自体はゲラゲラ腹を
抱えて大笑いするほどの一撃はなかったのだけど、この頃、気が滅入ることの
多かったオイラにとって、良い気分転換にはなったかな。うん、少しだけ…、
気分が軽くなりました。
 さて、映画構成は、あの、黒澤明監督『生きる』を思わせる…、(あるいは、
伊丹十三『お葬式』を思わせる…)葬儀の酒談の席で、故人の思い出話に花が
咲き、語られる複数のエピソードによって、生前の彼の人柄と、その周囲との
温かい人間関係が見えてくる。ひとつ、オイラがこの映画で意外だったのは、
物語が“師匠の死”だけに留まらず、その一番弟子の死、更には、師匠の妻の
死へと続く“三部構成”になっていること。恐らく、作り手は“単調”になる
ことを嫌って、このような構成にしたと思うが、ボク個人は特に前半部分の
雰囲気が気に入っていたので、それ以降のパートは蛇足のように感じられた。
実際、2部・3部のエピソードは、1部である“師匠のパート”に組み込めない
ものではないし、その3つを1つにして“長い一夜”にした方がスッキリして
観易いものになったと思うのだが、如何だろうか。
 最後に、これが監督デビュー作となるマキノ雅彦(津川雅彦)は、いろいろ
趣向を凝らし、存分に監督業を楽しんでいるのがよく分かる。しかし、同時に、
観る側からすれば、その“小細工のし過ぎ”が気になるところ。技巧派の投手が
コーナーばっかり狙い過ぎてカウントを悪くして、自らを苦しくしてるみたい。
ホントは、シンプルに撮る方が(こねくり回すより)ずっと難しいんだけどね。




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