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小川洋子の「言葉の標本」

2012-06-20 | エッセイ

小説の中の言葉たちを「標本にする」試み。小川洋子の小宇宙をビジュアル化した、ファン必携のガイドブック。

 
小川/洋子
1962年、岡山県生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1988年、『揚羽蝶が壊れる時』で第7回海燕新人文学賞を受賞し作家デビュー。1991年、『妊娠カレンダー』で、第104回芥川龍之介賞受賞。2004年、『博士の愛した数式』で第55回読売文学賞、第1回本屋大賞を受賞。同年、『ブラフマンの埋葬』で第32回泉鏡花文学賞を受賞。2006年、『ミーナの行進』で第42回谷崎潤一郎賞を受賞。フランスを中心に世界各国で翻訳された作品が多数
 
 
小川洋子さんの文章は、静かな心を呼び戻すいわゆる心のビタミン剤だと思う。日常のあれこれで疲れて不足した栄養源になるんだと思う。いつも安心して読めるし、劇的なものはなく穏やかな気持ちになる。
改めて、彼女の著作の中から、見たもの感じた言葉をピックアップして「言葉の標本」にしたものを読ませていただくと。ぎゅっとつまった空き箱の中の「標本」たちが、恥ずかしそうに顔を覗かせる。それでも、読んでもらえたことをちょっと誇らしげに、さみしかったよって少し嬉しそうに…。
 
私たちの日常体験での感覚を、小川さんは丁寧に言葉に置き換える。余分な言葉は、省いて。大切な言葉だけをのこして。そして、読み手の目に留まったとき。私たちの心に「ああそうなの。そんなことがあったのだわ」と思わせる。小川さんの小説の断片そのものが、物語であり、日常なのだと思う。
 
 空の高いところを雲が流れていた。黙っていると、葉のこすれる音や、鳥のさえずりや風の通り抜ける気配や、さまざまな音が、聞こえてきたが、それらが混ざり合うとなぜか、深い静けさになるのだった
 
 
 非常に受け入れがたい困難な現実にぶつかったとき人間はほとんど無意識のうちに自分の心の形に合うようにその現実をいろいろ変形させ、どうにかしてその現実を受け入れようとする。もうそこで一つの物語を作っているわけです。そういう意味で言えば、誰でも生きている限りは物語を必要としており、物語に助けられながら、どうにか現実との折り合いをつけているのです。作家は…誰もが日々日常生活の中で作りだしている物語を意識的に言葉で表現しているだけのことだ


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