瀬戸内寂聴さんのエッセー 、「流れる時」・・。 節分の掛け声についての一節より。
オキザリス
渡された子籠に 一杯の豆。そういえば節分だった、と、無理に心を弾ませて、縁側から庭に向かって、声を張った。
「福は内!鬼も内!」
「ええっ?」私より若いスタッフたちが笑い出す。「鬼なんていらない!」
「ここはトランプのアメリカとはちがうのよ、寂庵だもの、だれでも、なんでもこばまない」
「私たちにも撒かせて」娘たちも掌に一杯豆を握り、私の声に合わせた。
「福は内!鬼も内!」若い笑い声がはじけ、魑魅魍魎が嬉々として駆け込んでくる気配がする。
*魑魅魍魎 山・川・森に住むさまざまな ばけもの