硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「スロー・バラード」

2020-10-09 20:52:19 | 日記
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 高校時代に出来るつながりは、小学生や中学生の時とは違って、進学の選択によって起こる、環境の変化もあってか、大人に近づいている感じがした。そう思わさせてくれた、もう一人の友達は、友情を通して俺の世界を広げてくれた。

 ユキミは、色白で線の細く、名は体を表すという言葉がぴったりな容姿で、物静かで、スポーツは全くだったが、勉強がすごく出来て、成績は学年の首位をずっとキープしていた。
かといって、威張るわけでもなかったが、俺たちとユキミの間には、「目に見えない城壁」があり、それを知っているのか、意図的に関りを持たないように、しているようにも見えた。

 そんなユキミと個人的に話をしたのは、学園祭の準備で、二人で荷物を倉庫から持ってくることが始まりだった。腕が細いユキミは、重いものを持つとフラフラするから、俺が重い方を担当してやると、すごく恥ずかしそうに、「本当にごめん。ありがとう」と言うと、それから、彼なりに頑張っていた。個人的な事で彼の声を聴いたのは、それが初めてだったが、その時の印象が、城壁を感じていたのは俺の思い込みかもしれないと思わせてくれ、隣の席だった事と、音楽の趣味も似ていたから、休み時間にもちょくちょく話すようになり、勉強が分からない所を、ユキミに聞くと先生よりわかりやすく教えてくれた事に俺は感動して、三年の夏休みには、ユキミに頼み込んで、時間を合わせ、図書館へ通い、ユキミは自分の勉強もそこそこに、理解力の悪い俺に腹も立てず、根気よく勉強を教えてくれた。その代わりに俺は、図書館の帰りや、ユキミが、悩みに悩んで入部したという、書道部の休みの日の帰りに、ラーメンやハンバーガーを奢った。

 ひろゆきとは真逆にいるユキミは、部活以外の交流はなく、行動範囲も狭く、学校と家を行き来する生活だったらしく、学校帰り、寄り道に誘うと「いつもありがとう。こんな時でないと、食べられないから」と、嬉しそうにラーメンを食べていた姿が印象的だったが、俺たちの感覚とは少し違うユキミには、家庭事情もあるんだろうと察して、これ以上プライベートな所には踏み込まないように気を付けていた。

そんな「見えない城壁」を感じさせていたユキミが、俺だけに「壁」を取り払ってくれたのは、卒業式の一週間前の事だった。