硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「スロー・バラード」

2020-10-01 19:28:21 | 日記
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 「俺の場合は、大学を出たら、きっと向こうで就職するし、彼女も向こうで出来るだろうし、よほどのことがない限り、無理と思う。それに、父さんは、母さんの父さんの田んぼを引き継いだ形だったから、こっちの土地には執着がない。だから、減反政策が施行された年に、冷静に『もう、小作の農業では維持費さえ生み出す事も難しくなる。だから耀司は農業にこだわらなくていい』て、言われたから、継がなければならないという縛りはないし、インフラも整備されて、専業農家もいなくなった今、村は、村の人の手で守っていかなければいけないという理由も希薄になったんだから、自分の気持ちに反してまで、留まらなければならないという理由も、俺はないと思う」


 農家を継がないというのは、なんとなくわかってた。ようじが浪人中、家に遊びにいった時、話の流れから、将来どうするかという話になった。その時にようじは、「俺、この町はなんだかダメな気がする。大学目指してるのにもかかわらず、青年団とか消防団の人が勧誘に来たんだけど、話聞いてると、年功序列の組織を維持したいだけっていうのが、透けて見えるし、俺の気持ちを無視して、俺たちの為に将来ここに留まれって言ってるようなものだって、わかってないんだろうな。それで、俺たちの世代の気持ちがつかめると思っているんだろうか」と言ったことがあった。俺は、その時、なんも言わんだけど、なんか寂しい事言うなぁと、思った。

 ようじが話しが途切れると、二人ともしばらく黙ってしまって、気まずくなった。小中学生の頃ならこんな事にはならんだのになと、思てると、ラジオから『後ろ髪ひかれ隊』の歌がながれてきて、ようじが気まずい空気を破ってくれた。