硝子戸の外へ。

優しい世界になるようにと、のんびり書き綴っています。

「スロー・バラード」

2020-10-07 20:38:31 | 日記
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 「なんだろう、いきなり」と思ったけど、パチンコには興味があったから、とりあえずついていった。でも、いろいろ話を聞いているうちに、バイトしたお金でパチンコをするというルールを自分の中で守っていたことを知り、面白い奴だなと思って、何回かパチンコについてゆくうちに、友達になった。

 俺は、おこずかいが決まっていたから、そんなに打てなかったが、ひろゆきは、セミプロで、負けた事がなく、タマが出ると、必ずと言っていいほど、「これで打ち」といって、タマをくれた。俺は、「お金かかってるだろ」と聞くと、「一緒にパチンコ来てくれるし、耀司、ええ奴やし」といって、ニヤッとした。

 経験が豊かなひろゆきからいろいろと教わって、パチンコも面白いなと思ったけれど、パチンコ屋には慣れることはなかった。店内はうるさいし、たばこの煙で、かすんでいて、チンピラの人とかもいて、なにを思ったか、突然、「でぇへんやないかっ! 」って怒鳴って、パンチで台のガラスを割った人もいて、危険な感じが少し居心地が悪かったけど、ひろゆきはそういう人がいても平然とタマを打ってて、パンチパーマの人や、怪しそうなおじさんや、スナックのママとも、知り合いで、タマが出ると、俺に「ちょっと代わりに打っといて」と言って、何処かへ行ったかと思うと、缶ジュースを何本か買ってきて、「これ、今、出てるでどうぞ」と言って、愛想よく、大人たちがするのと同じように、ジュースを配っていた。

 そう言う大人びた社交的な面もあれば、したたかなところもあって、あれは、北高のヤンキーが店に入ってきた時、瞬間に隣りのおっちゃんに、「これ、貸したるで、俺の代わりに打っといて、借りは、また出た時でええで」といって、箱のタマを渡すと、

「北高の奴らは、『玉貸せや』って言うてからんでくるで面倒や。そっこーで逃げるぞっ」

と言ったのを合図に、俺たちは全力で裏口へ走った。北高のヤンキーが「おいっ! 逃げんなコラぁ!! 」って言った時には、もう、裏口を出てて、楽勝でぶっちぎってて、「さすがはひろゆき」って感心した。

その時に言った、ひろゆきの名言は、俺の中に今でも印象深く残ってる。