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試合は散々だったが、俺は、それよりも、つねあきが、なぜあのカーブを打てたのかが気になっていた。みんなはまぐれだろうと思って気にも留めていなかったが、バックネット裏での素振りと何か関係があるのではと思っていた。そこで、意図的につねあきの隣に座って、皆が意気消沈している帰りのバスの中で、頃合いを観て、その理由をこそっと聞いてみると、つねあきは、小さな声で、「ここだけの話にしといて」と、前置きして、その秘密を話してくれた。
「みんな『あの球打てへんなぁ』って言うとったで、なんでなんかなと思て、研究してみたん。それで、バックネット裏で、球の軌道を観察しとったら、配球にはパターンがあって、決め球が、外角のカーブで、同じ軌道やったから、道具と一緒に持ってきてる「野球入門」の「カーブの打ち方」を、よく読んで、やってみてたんさ。そしたら、タイミングが合ってきたんで、これは意外といけるかなと思て、ギリギリまで練習してたんさ」
「うそっ。そんなんできるの! 」
俺は驚いたが、つねあきは、びっくりするほど冷静に答えた。
「ホームランは出来すぎやけど、磯部小のピッチャーは、自信過剰やったで、僕なんか楽勝と思てくれてた事と、プロの理論と本の力と、三振を取ることにこだわってたみたいやから、投球数が増えて、一回の表の時より、随分甘なっとったからやと思うよ。そんな、条件が重なって、打てたんやと思う。僕の力だけでは、どうにもならんだよ」
俺は、その時、天才っていうのは、つねあきみたいな人の事を言うんだと思った。
つねあきは、その天才ぶりを発揮して、中学卒業後、進学校へ進み、俺が予備校に通い始めた頃、あっさりと京大へ行ってしまった。
「つねあきのホームラン。あれ、気持ちよかったな」
「あっさり三振するかと思てたけど、ほんま、まぐれてすごいわ」
そう、あの真相は、俺しか知らない事だった。
試合は散々だったが、俺は、それよりも、つねあきが、なぜあのカーブを打てたのかが気になっていた。みんなはまぐれだろうと思って気にも留めていなかったが、バックネット裏での素振りと何か関係があるのではと思っていた。そこで、意図的につねあきの隣に座って、皆が意気消沈している帰りのバスの中で、頃合いを観て、その理由をこそっと聞いてみると、つねあきは、小さな声で、「ここだけの話にしといて」と、前置きして、その秘密を話してくれた。
「みんな『あの球打てへんなぁ』って言うとったで、なんでなんかなと思て、研究してみたん。それで、バックネット裏で、球の軌道を観察しとったら、配球にはパターンがあって、決め球が、外角のカーブで、同じ軌道やったから、道具と一緒に持ってきてる「野球入門」の「カーブの打ち方」を、よく読んで、やってみてたんさ。そしたら、タイミングが合ってきたんで、これは意外といけるかなと思て、ギリギリまで練習してたんさ」
「うそっ。そんなんできるの! 」
俺は驚いたが、つねあきは、びっくりするほど冷静に答えた。
「ホームランは出来すぎやけど、磯部小のピッチャーは、自信過剰やったで、僕なんか楽勝と思てくれてた事と、プロの理論と本の力と、三振を取ることにこだわってたみたいやから、投球数が増えて、一回の表の時より、随分甘なっとったからやと思うよ。そんな、条件が重なって、打てたんやと思う。僕の力だけでは、どうにもならんだよ」
俺は、その時、天才っていうのは、つねあきみたいな人の事を言うんだと思った。
つねあきは、その天才ぶりを発揮して、中学卒業後、進学校へ進み、俺が予備校に通い始めた頃、あっさりと京大へ行ってしまった。
「つねあきのホームラン。あれ、気持ちよかったな」
「あっさり三振するかと思てたけど、ほんま、まぐれてすごいわ」
そう、あの真相は、俺しか知らない事だった。