田中雄二の「映画の王様」

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『43年後のアイ・ラヴ・ユー』

2020-11-30 07:50:16 | 新作映画を見てみた

 今は独り暮らしの70歳の元演劇評論家クロード(ブルース・ダーン)は、昔の恋人で舞台女優だったリリィ(カロリーヌ・シロル)がアルツハイマーのため介護施設に入ったことを知る。もう一度リリィに会いたいと考えたクロードは、アルツハイマーのフリをして同じ施設に入居するが、リリィの記憶から彼のことは失われていた。

 クロード・ルルーシュの『男と女 人生最良の日々』(19)とは男女の立場が逆のこの映画は、見方によっては、医学的な根拠に欠け、認知症の悲惨さがなく、主人公の動機もいささか不謹慎だとも思える。だが「認知症になっても決して終りではない」「できればこうあってほしい」という希望を描いた一種のファンタジーという見方もできる。確かに、映画にまでつらい現実を見せられてはたまらないという気もするからだ。

 加えて、『ネブラスカ ふたつの心をつなぐ旅』(13)に続いて、ダーンが老いてますます盛んなところを見せる。それこそ70年代からずっと見てきた人だけに、こちらも感慨深いものがあった。

 スペイン人のマーティン・ロセテ監督と脚本のラファ・ルッソは、主人公を演劇評論家と女優にすることで、シェークスピアの「冬物語」を、劇中に巧みに入れ込んでいるが、”成り済ました者”(ゲーリー・クーパー)が主人公のフランク・キャプラの『群衆』(41)が映るのも象徴的に思える。


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