『アパートの鍵貸します』(60)(1994.6.19.)
出世のために、アパートの自分の部屋を、会社の上司に密会の場として提供するバクスター(ジャック・レモン)を主人公にしたシニカルなコメディ映画。監督は名人ビリー・ワイルダー。
今回は、この映画が持つ二重構造を新たに発見した。それは、バクスターの部屋から漏れてくる男女の交歓の声を度々聞かされ、あげくにフラン(シャーリー・マクレーン)の自殺未遂を知った隣の医者夫婦が、全てはバクスターの性だと誤解して、彼に罵声を浴びせるシーンでのこと。
これまでは「そこまで言われることはないのに…」とバクスターに同情していたのだが、今回は「そう言われても仕方がないことをこいつはしている」ことに気づいた。つまり、彼が出世のためにしている行為も、甚だ非人間的な醜い行為であって、言い換えれば“上司=実行犯”よりもたちが悪いということなのだ。
というわけで、この映画、よく考えたらひどい話なのだが、ワイルダーはラストでそうした醜さを一気に消して、ハッピーエンドを願う観客の思いをかなえるように作っている。つまり、ワイルダー独特の皮肉を込めた“アメリカ物語”でありながら、ユーモアとペーソスを含んだしゃれた語り口でうまくだましてくれるのだ。だから何度見ても飽きない。これは、同じ噺を何度聞いても飽きない、名人と呼ばれる落語家の語りにも通じるのではないか。
ところで、初めてこの映画を見た中学生の頃、漠然と「サラリーマンにはなりたくないなあ」などと思ったんだよなあ。
ビリー・ワイルダー
ジャック・レモン
シャーリー・マクレーン
『名画投球術』No.13 いい女シリーズ3「かわいい女を観てみたい」シャーリー・マクレーン
https://blog.goo.ne.jp/tanar61/e/761dd43fae724252b8d00b08cd7af6b8
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