TAMO2ちんのお気持ち

リベラルもすなるお気持ち表明を、激派のおいらもしてみむとてするなり。

読書メモ:『チェチェン やめられない戦争』

2005-12-11 10:36:50 | 読書
『チェチェン やめられない戦争』
(アンナ・ャ潟gコフスカヤ著、三浦みどり訳、NHK出版)

 この本をしばらく読み進めていると、この戦争が極めて異常であることがわかる。というのは、戦争というものは敵の殲滅が目的であるはずなのに、ロシア連邦軍がやっていることはそうじゃないからだ。例えば、山岳ゲリラが街にいるときは攻撃せず、ゲリラが山に帰ってから街を封鎖して「ゲリラ協力者狩」をするからだ。ゲリラ協力者狩の一つは、街の人間を拉致し、糞壷に押し込め、家族に「返して欲しければ金品をよこせ」と言い、それが認められないと殺してしまい、さらにチェチェンの人々の葬式に関する思いを逆手にとって「遺体を引き渡すから、(ヨリ多くの)金品を出せ」と言うのである。野蛮と下品は悪しきロシアの特徴であるが、唯の犯罪行為がここまで日常茶飯事になっているのは珍しいのではないか。

 そして、その理由と構造は第三章で端的に表現される。

----(引用;p258)----
 おかしなことと思う思う人もいるかもしれないが、この戦争は結局のところそれを遂行している者すべてに好都合なものだ。それぞれが自分の持ち場を得ている。契約志願兵《コントラクトニキ》は検問所で十ルーブルから二十ルーブルずつの賄賂を四六時中手に入れている。モスクワやハンカラの本部にいる将軍たちは予算に組まれた「戦争」資金を個人運用する。中間の将校たちは「一時的人質」や、遺体の引き渡しで身代金を稼ぐ。下っ端の将校たちは「蒼「作戦」で略奪する。
 そして全員合わせて(軍人+一部の武装勢力が)違法な石油や武器の取引にかかわっている。
 そのほかにも、職位、褒賞、出世……。
----(引用終わり)----

 本書を読めば、そんなものに留まらない腐臭(ちなみに、小生はアンモニア蒸気という腐臭を吸い込んだことがあるが、その時は意識が遠くなった、それに類する腐臭だ!)が立ち込めている。そして、弱い者に対する合法・非合法の暴力は、想像の範囲をはるかに超えている。

 一章と三章を読めば、剥き出しの暴力でしか事態が解決したためしがないロシアの歴史に思いを馳せるを得ない。少し前まで、ロシア革命批判が日本でも流行したが、そんなものは日本や西欧の基準での判断に過ぎない、ということに改めて気づかされたw。剥き出し。それがロシア。制度的なもの、それがいとも簡単に蹂躙される国における革命は、『国家と革命』(レーニン)的なユートピズムで強烈に照らさなくて、何が変えられるというのか??


 しかし、それだけがロシアか? 決して違う。下品と野蛮のロシアだけがロシアではない。その中には、全てを断ち切り、文字通り自らの命を鰍ッ金として英雄的に決起する民衆もいるのだ。かつてはそれは武装した者が象徴的であった。だが、ボリシェヴィキの武器は何を産んだか? トカチョフ~レーニンに代表される、対ツァーリ的、暴力革命的路線だけがロシアの抵抗か? 違う。他の手段を尽くして抵抗するものたちもいるのだ。それは、将校クラスにも、最下層に押し込められた民衆にもいる。生死の境の老婆を助けるために尽力する連邦軍将校、村民を助けるために尽力する村長。そのような、無名の英雄たちの姿が、二章と三章に描かれている。しかし、彼らはロシアの正史に載ることは決してないであろう。しかし、彼らこそが本当の英雄なのだ。一切の自分のものならざる罪を一身に受け、磔に処されたキリストに比すべき英雄、神の子たち、最も聖なる子たち、それもロシア人なのだ。その精華は、剥き出しの「聖」とでも言うべきだろうか?? しかし、哀しすぎるものである。幸いなるかな 義に飢えかわく人 かれらは飽かされるであろう ・・・・でもいつの日に??

 何もかも剥きだしの国、ロシア。それは、西欧やそれを受容した日本人には信じがたいものである。まさに「謎の謎のそのまた謎」。だが、それは決して優しい関係性ではないし、決して周囲の理解を得られるものではない。深い、深いところでロシアは変わらなければならない。勿論、彼らとて西欧主義に振れることもあるのだ。しかし、結局、ナロードニキにせよ、マルクス主義にせよ、汎スラブ主義(の負の遺産)に依拠してしまった。

 トロツキーという西欧派英雄を産み(それは可能性だ)、排除した(それはロシアの哀しみだ)ロシアはいつ、そのような関係性を変えることが出来るのだろうか? タタールのクビキという恐普Aそして西欧主義と汎スラブ主義の超克、これはロシアの長い課題である。周りに罪なきとは言えないが、『とりあえず無条件で隣人を信頼する』ことなくしては、コストのかかる関係性を続けなくてはならない。この地獄から、ロシアはいつ脱出できるのだろうか?

 我々に出来ることは、無名の英雄たちを支えることくらいだろうか?

コメント (2)
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