『サラリーマン球団社長』(清武英利著、文藝春秋)
志のある人は組織を変えることが出来る。だが、それを継ぐ者がいなければ、元の木阿弥である。阪神タイガースのことだ。タイガースを立て直した球団社長の野崎勝義の奥様が最後に強烈なコメントを発している。今は健気なカープのファンとのこと。
「タイガースは、選手がタニマチやファンにチヤホヤされて、監督もビシッと指導できんもの。カープは監督も選手も一生懸命で、甲子園の高校野球を見てるみたいやから、気持ちがいい」(p318)
カープは、地域経済の規模の小ささと、広島県人の熱しやすく冷めやすい気性のため、常勝球団になることがなかなか叶わなかった。それでも、松田オーナー一族の優しさに支えられ、ケチではあるが暖かく、知恵を巡らせて生き残ってきた。その上で、この本の一人の主人公である鈴木清明が、若かりし頃の松田元に請われてカープに転籍し、元々の経理の修業を積んでいたのでそこからはじめ、緒方らの野球留学の付添でマネージャー兼料理人兼通訳として渡米、カープアカデミーの責任者としてドミニカへ行き、そして、地元密着、広島出身者をターゲットとしたファンの掘り起こしなどをこなし、カープを貧乏球団でなくしていった。今現在は不調だが、カープは強い球団になった。
野崎勝義は前任者が消耗しつくして球団を去った後釜としてタイガースのフロントに入る。本書から分かるのは、球団社長と雖も年俸一千万ほどであること。阪神グループにおけるタイガースの位置づけが分かるorz 利益の大半が球団に残らず、電鉄に吸い上げられる仕組み。自由獲得枠があった時、どうせ巨人やホークスに取られるからと金を鰍ッない。球団OBを軸とした派閥に支配される球団。一言で言ってぬるま湯。当時の久万オーナーに問題意識がなかったわけではなく、だからこそ、ひたすら堅い電鉄の中にあって、アグレッシブに仕事を取る必要のあった阪神旅行社の、しかも海外ビジネスを展開する野崎という人物を呼んだのだろう。だが、タイガースはぬるま湯で、外様を監督にするような球団ではなかった。そこに風穴を空けて野村、星野を監督にしたのは志があったからだろう。久万も日和見だが、一定は変える努力をした。野村、星野という外部の人材は、タイガースの問題点を客観的に指摘し、オーナー自身が変わるべきことを示した。久万はそれを聞き入れた。結果、金の鰍ゥる大型補強を実施するなどして、2003年と2005年の優勝である。その裏で、日本最初のBOS(Baseball Operating System)を構築していた。これも野崎の慧眼であった。前近代的なタイガースとNPBを変える革命児であった。だが、球団のエートスはそれを許さず、失意の中キーマンである吉村浩はBOSに興味を持っていた日本ハムの大社オーナーに誘われて去っていった。吉村の活躍で、日本ハムは実質日本で最初にBOSを構築し、理解のあるオーナーとスタッフの下、それは改良されて維持されている。システムを作るより、システムを維持するほうが難しいのは、サラリーマンなら誰でも思い当たるフシがあるだろう。周囲の理解と協力、そして維持するための膨大な労力がないと維持できない。
本書は、FAの駆け引き、合併問題における様々な歴史的証言、著者がかつて巨人の球団代表だったことから巨人側の視点、球界の改革についても描かれていて野球ファンには興味が尽きない。
また、阪神が今何故、再び低迷気味かも分かる。組織がキチンと機能していないのではないかと思わざるを得ない。それは、いくつかのセ・リーグ球団にも思い当たるフシがあるけど。パ・リーグのファイターズ、ホークス、イーグルスは先進的だと思う。
志のある人は組織を変えることが出来る。だが、それを継ぐ者がいなければ、元の木阿弥である。阪神タイガースのことだ。タイガースを立て直した球団社長の野崎勝義の奥様が最後に強烈なコメントを発している。今は健気なカープのファンとのこと。
「タイガースは、選手がタニマチやファンにチヤホヤされて、監督もビシッと指導できんもの。カープは監督も選手も一生懸命で、甲子園の高校野球を見てるみたいやから、気持ちがいい」(p318)
カープは、地域経済の規模の小ささと、広島県人の熱しやすく冷めやすい気性のため、常勝球団になることがなかなか叶わなかった。それでも、松田オーナー一族の優しさに支えられ、ケチではあるが暖かく、知恵を巡らせて生き残ってきた。その上で、この本の一人の主人公である鈴木清明が、若かりし頃の松田元に請われてカープに転籍し、元々の経理の修業を積んでいたのでそこからはじめ、緒方らの野球留学の付添でマネージャー兼料理人兼通訳として渡米、カープアカデミーの責任者としてドミニカへ行き、そして、地元密着、広島出身者をターゲットとしたファンの掘り起こしなどをこなし、カープを貧乏球団でなくしていった。今現在は不調だが、カープは強い球団になった。
野崎勝義は前任者が消耗しつくして球団を去った後釜としてタイガースのフロントに入る。本書から分かるのは、球団社長と雖も年俸一千万ほどであること。阪神グループにおけるタイガースの位置づけが分かるorz 利益の大半が球団に残らず、電鉄に吸い上げられる仕組み。自由獲得枠があった時、どうせ巨人やホークスに取られるからと金を鰍ッない。球団OBを軸とした派閥に支配される球団。一言で言ってぬるま湯。当時の久万オーナーに問題意識がなかったわけではなく、だからこそ、ひたすら堅い電鉄の中にあって、アグレッシブに仕事を取る必要のあった阪神旅行社の、しかも海外ビジネスを展開する野崎という人物を呼んだのだろう。だが、タイガースはぬるま湯で、外様を監督にするような球団ではなかった。そこに風穴を空けて野村、星野を監督にしたのは志があったからだろう。久万も日和見だが、一定は変える努力をした。野村、星野という外部の人材は、タイガースの問題点を客観的に指摘し、オーナー自身が変わるべきことを示した。久万はそれを聞き入れた。結果、金の鰍ゥる大型補強を実施するなどして、2003年と2005年の優勝である。その裏で、日本最初のBOS(Baseball Operating System)を構築していた。これも野崎の慧眼であった。前近代的なタイガースとNPBを変える革命児であった。だが、球団のエートスはそれを許さず、失意の中キーマンである吉村浩はBOSに興味を持っていた日本ハムの大社オーナーに誘われて去っていった。吉村の活躍で、日本ハムは実質日本で最初にBOSを構築し、理解のあるオーナーとスタッフの下、それは改良されて維持されている。システムを作るより、システムを維持するほうが難しいのは、サラリーマンなら誰でも思い当たるフシがあるだろう。周囲の理解と協力、そして維持するための膨大な労力がないと維持できない。
本書は、FAの駆け引き、合併問題における様々な歴史的証言、著者がかつて巨人の球団代表だったことから巨人側の視点、球界の改革についても描かれていて野球ファンには興味が尽きない。
また、阪神が今何故、再び低迷気味かも分かる。組織がキチンと機能していないのではないかと思わざるを得ない。それは、いくつかのセ・リーグ球団にも思い当たるフシがあるけど。パ・リーグのファイターズ、ホークス、イーグルスは先進的だと思う。