むぎわら日記

日記兼用ブログです。
野山や街かどで見つけたもの、読書記録、模型のことなどを載せております。

『明るい夜に出かけて』佐藤多佳子(新潮文庫)

2022年12月23日 | 読書
ラジオの深夜放送と言えばオールナイトニッポン。
そのリスナーである主人公たちの交流を描く青春ストーリーです。
とは言っても、文芸作品らしく、暗い方向へはみ出したキャラクターたちがよろよろと熱く活動していきます。
主人公は接触恐怖症(特に女性から)を持っている大学休学中の男子です。バイトでコンビニの店員をやっていて、昔、SNSで晒されたことが心の傷となり、他人に触られることが耐えられなくなりました。
そこへ現れた深夜放送のコアなリスナーの女子高生(って言っても美少女ではなくしゃれっ気がないサイコな子)と、ラジオのはがき職人つながりで交流が生まれます。
バイトの先輩の隠れミュージシャンと、昔からの友人の無神経男との四人が精一杯の付き合いの範疇となり、だんだんと変化していくことになります。
かなりマニアックな深夜放送ネタがちりばめられていますが、全然聞かないわたしでもついて行けますから、そこは描き方のうまさで問題なしでした。

「伝染する」
 佐古田はつぶやいた。
「そう言うと、悪いもんもたいだけど」
 俺は言って苦笑し、
「共感」
と言いなおす。瞬時に後悔する。
「ペラいな、この言葉」
「考えたことなかった。わたしが何か作る。他人が、ここから、また何か作る。パクるんじゃなくて、ぜんぜん新しいものを作る」
 佐古田は、独り言のようにつぶやいた。
 影響という言葉が浮かんだけど、こんどは口にせずにとどめた。どんな言葉で表現しても、ペラくなってしまう。たぶん。

ただ、一言だけ、単語だけで、表現されることには限界があるのです。
ラジオのはがき職人や、ニコニコ動画のミュージシャンのようなゆるく熱い創作者たち、一般人とプロのクリエーターの境目にいる多くの人たちにはうける作品だと思います。

コメント
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